なぜ今OKRが注目されているのか
B2B企業の経営企画やマネジメント層の方々から、「目標管理制度を見直したい」という声が増えています。従来のKPIやMBOでは達成度の測定にとどまり、組織全体が一つの方向に向かって挑戦する文化を作りにくいという課題があるためです。
OKR(Objectives and Key Results)は、GoogleやIntelをはじめとする世界的企業が採用し、組織の成長を加速させてきた目標管理手法です。2025年の統計によると、83%の企業がOKRから恩恵を得ており、54%が3ヶ月以内に測定可能な効果を確認しています。LinkedIn、Twitter、Uber、Microsoft、GitLabなどの大手IT企業も導入していることが知られています。
この記事では、B2Bデジタルプロダクト企業におけるOKRの導入・運用方法を、設定から振り返りまでの具体的なステップとともに解説します。
この記事のポイント:
- OKRは大きな目標(Objectives)と定量的な指標(Key Results)を組み合わせた目標管理手法
- KPIやMBOとの違いは、達成率60-70%を目指すチャレンジング性と全社共有にある
- 設定は会社→部署→個人のツリー構造で行い、週1回以上の振り返りが推奨される
- 失敗の主な原因は保守的な目標設定、全社共有の欠如、フィードバック不足
- 日本企業でもMercari、花王、Chatworkなどが成功事例として知られている
OKRの基礎知識
(1) OKRとは何か:ObjectivesとKey Resultsの関係
OKRは「Objectives and Key Results」の略で、大きな目標(Objectives)を立て、それを達成するための定量的な指標(Key Results)を設定する目標管理手法です。
Objectives(目標) は、重要で具体的、行動志向、理想的には刺激的なものです。組織・チーム・個人が達成したい大きな方向性を示します。例えば「市場でのブランド認知度を飛躍的に向上させる」といった、ワクワクする目標を設定します。
Key Results(主要な結果) は、目標達成をベンチマークし監視する指標で、具体的、期限付き、測定可能で検証可能なものです。野心的だが現実的な水準を目指し、通常3個ほど設定します。例えば「3ヶ月以内にWebサイト訪問者数を月間10万から20万に増やす」「ブランド検索数を50%増加させる」といった指標です。
Googleの公式ガイドでは、Objectivesは「重要で、具体的、行動志向、理想的には刺激的なもの」、Key Resultsは「具体的、期限付き、野心的だが現実的、測定可能で検証可能なもの」と定義されています。
(2) OKRの起源(Intel・Google)と導入企業
OKRは1970年代にIntelのAndrew Groveが普及させた手法です。1979年、IntelはOKRを活用した「Operation Crush」という事業戦略で、約2,000名の従業員の半数を動員し、市場で競合を完全に打ち負かした成功事例があります。Andrew Groveは1983年に著書「High Output Management」でOKRを文書化しました。
1999年には、Kleiner PerkinsのJohn DoerrがGoogleにOKRを導入しました。Googleは3ヶ月管理サイクルでOKRを運用し、70%達成で成功とみなす基準を設けています。この柔軟で挑戦的な目標設定が、Googleの急成長の原動力になったと言われています。
日本企業では、Mercari(2015年、日本のOKR先駆け)、花王(2021年度からグループ全体で導入)、Chatwork(人事評価基準に導入)などが成功事例として知られています。
OKRとKPI・MBOの違い
(1) 目的と達成率の違い
OKRとKPIは、どちらも目標管理に使われますが、目的と達成率の基準が大きく異なります。
OKR:
- 目的: 企業全体で目標を共有し、一丸となって成長すること
- 達成率: 60-70%が目安(チャレンジングな「ムーンショット」目標を設定)
- 全従業員のOKRを公表: 組織の透明性と連携を促進
KPI:
- 目的: 目標の達成度合いを測るプロセス管理
- 達成率: 100%を目指す(着実な業務遂行が前提)
- プロセスの関係者にしか共有されない: 限定的な共有範囲
OKRは「60-70%達成で成功」というGoogleの基準に象徴されるように、野心的で挑戦的な目標を掲げることで、組織の潜在能力を引き出すことを重視します。一方、KPIは確実なプロセス管理と100%達成を目指す点で、役割が異なります。
(2) 共有範囲と評価頻度の違い
OKRとKPI・MBOでは、共有範囲と評価頻度も異なります。
OKR:
- 共有範囲: 全従業員のOKRが公開され、組織全体で目標を共有
- 評価頻度: 一般的に四半期に一度の評価、週に1回以上の振り返りが推奨
KPI:
- 共有範囲: プロセスの関係者にのみ共有
- 評価頻度: 設定期間やプロセスの長さで異なる
MBO(Management By Objectives):
- 達成率: 100%を目指す点でKPIに近い
- 評価への直結度: 人事評価と直接連動することが多い
OKRは全社で目標を共有することで、各チーム・個人が企業の方向性を理解し、自分の役割を明確にできる点が特徴です。
(3) OKRとKPIの併用方法
OKRとKPIは併用可能です。OKRのKey Resultsがどの程度達成できているかを確認するためにKPIを設定する方法が考えられます。
併用例:
- Objective: 顧客満足度を飛躍的に向上させる
- Key Result 1: NPS(Net Promoter Score)を30から50に向上させる
- KPI: 月次のNPS測定値、顧客サポート対応時間、問い合わせ解決率
このように、OKRで大きな方向性を設定し、KPIで日々のプロセスを管理することで、挑戦的な目標と着実な業務遂行の両立が可能になります。
OKR設定と運用の具体的ステップ
(1) 会社→部署→個人のツリー構造で設定
OKRは、会社→部署(チーム)→個人の順番でツリー状に設定します。Asanaの2025年版ガイドでは、以下の6つのステップが推奨されています。
ステップ1: 会社全体のOKRを設定
- 企業レベルのObjectivesは3-5個に絞り、明確性とインパクトを維持
- 経営陣が企業のミッション・ビジョンに基づいて設定
ステップ2: 部署・チームのOKRを設定
- 会社全体のOKRに連動し、各部署がどう貢献するかを明確化
- 部署のリーダーとメンバーが協力して設定
ステップ3: 個人のOKRを設定
- チームのOKRに貢献する個人の役割を明確化
- 各メンバーが自分のOKRを主体的に設定
ステップ4: 全社でOKRを共有
- 全従業員のOKRを公開し、透明性を確保
- 組織全体の方向性と各自の役割を理解できるようにする
ステップ5: 週1回以上の振り返りを実施
- 進捗状況・達成具合を確認し、必要に応じて軌道修正
- 直属上司からのフィードバックを頻繁に行う
ステップ6: 四半期ごとに評価・次の四半期の設定
- 達成率を評価し、成功・失敗の要因を分析
- 次の四半期のOKRを設定し、継続的な改善を図る
(2) Key Resultsは3個、達成率60-70%を目安に
Key Resultsは3個ほど設定し、達成率は60-70%を目安にします。100%達成ではなく、チャレンジングな目標設定が推奨されます。
Key Results設定のポイント:
- 具体的・測定可能: 数値で明確に測定できる指標を設定
- 期限付き: 四半期など、明確な期限を設ける
- 野心的だが現実的: 明らかに達成不可能な目標はメンバーの意欲を削ぐため、適切な難易度を設定
達成率60-70%の理由:
- 100%達成できる目標は保守的すぎる可能性がある
- チャレンジングな目標を掲げることで、組織の潜在能力を引き出せる
- Googleは70%達成で成功とみなす基準を設けている
ただし、OKRの達成率60-70%は一般的な目安であり、企業・チームにより適切な水準が異なる可能性があります。自社に合った目標設定が重要です。
(3) 週1回以上の振り返りとフィードバック
OKRでは、週1回以上の振り返りが推奨されます。フィードバック頻度が高いほど、目標達成への貢献度が向上することが分かっています。
振り返りとフィードバックのポイント:
- 週1回以上の振り返り: 進捗状況を確認し、課題を早期に発見
- 直属上司からのフィードバック: 週1回以上のフィードバックは、月1回未満と比較して目標達成への貢献に2.5倍の差がある
- 軌道修正: 進捗が遅れている場合、リソース配分や優先順位を見直す
- 成功・失敗の共有: チーム全体で成功事例・失敗事例を共有し、学習する
定期的なフィードバックは、OKR運用の成否を分ける重要な要素です。
よくある失敗パターンと対策
(1) 保守的な目標設定と全社共有の欠如
OKR運用失敗の主な原因として、以下の2つが挙げられます。
保守的な目標設定:
- 問題: チャレンジングな「ムーンショット」目標ではなく、保守的な目標を設定してしまう
- 原因: パフォーマンス評価への悪影響を恐れるため
- 対策: OKRは人事評価と直接連動させない。評価は別軸で設計し、挑戦的な目標を掲げやすい環境を作る
全社共有の欠如:
- 問題: 経営陣だけがトップダウンで決定し、全従業員と共有しない
- 原因: 情報の透明性が低い組織文化
- 対策: 全従業員のOKRを公開し、組織全体で目標を共有する。各自が企業の方向性と自分の役割を理解できるようにする
Resilyのレポートによると、全社共有の欠如は、社員が企業の方向性や自分の役割を理解できず、OKRの効果が失われる主な原因となっています。
(2) 不適切な目標難易度とフィードバック不足
その他の失敗パターンとして、目標難易度とフィードバック頻度の問題があります。
不適切な目標難易度:
- 問題: 明らかに達成不可能なKey Resultの値、または簡単すぎる目標を設定
- 原因: 目標設定の経験不足、組織の現状把握不足
- 対策: 適切な難易度(60-70%達成率)を目指し、過去のデータや市場動向を参考にする。初回は試験的に設定し、次の四半期で調整
フィードバック不足:
- 問題: 週1回以上の振り返りを実施しない、直属上司からのフィードバックが少ない
- 原因: 忙しさによる振り返り時間の不足、フィードバック文化の欠如
- 対策: 振り返りを定例ミーティングに組み込む。直属上司が週1回以上フィードバックする仕組みを作る
魅力的でないObjectives:
- 問題: 社員がワクワクしない目標は単なるタスクになり、仕事の意欲が低下
- 対策: Objectivesは刺激的で行動志向なものにする。チームメンバーの意見を取り入れ、共感を得られる目標を設定
ミッションの欠如:
- 問題: 明確な企業ミッションがないと、各組織・個人のOKRが異なる方向を向く
- 対策: 企業のミッション・ビジョンを明確にし、OKR設定の基盤とする
まとめ:OKR導入を成功させるポイント
OKRは、B2Bデジタルプロダクト企業が組織全体で挑戦的な目標に向かって成長するための強力な手法です。KPIやMBOとは異なり、60-70%の達成率を目指すチャレンジング性と、全社共有による透明性が特徴です。
OKR導入成功のポイント:
- 会社→部署→個人のツリー構造で設定し、組織全体の連携を確保
- Key Resultsは3個ほど、達成率60-70%を目安に設定
- 週1回以上の振り返りと、直属上司からの頻繁なフィードバックを実施
- OKRは人事評価と直接連動させず、挑戦的な目標を掲げやすい環境を作る
- 全従業員のOKRを公開し、透明性を確保
次のアクション:
- 企業のミッション・ビジョンを明確にする
- 小規模チームで試験導入し、運用ノウハウを蓄積する
- 会社全体のOKRを3-5個設定し、部署・個人に展開
- 週1回以上の振り返りを定例ミーティングに組み込む
- 四半期ごとに評価し、継続的に改善する
OKRの導入には時間がかかりますが、Intel、Google、Mercari、花王などの成功事例が示すように、適切に運用すれば組織の成長を大きく加速できます。自社に合った目標設定と振り返りのサイクルを確立し、OKRを活用してください。
※この記事は2025年11月時点の情報です。OKRツールの仕様・機能、成功事例の詳細は更新される可能性があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。
