目標管理制度を導入・見直ししたいけれど、MBOとOKRどちらを選べばいいか分からない...
「MBOは古い?」「OKRを導入すれば成果が出る?」...目標管理手法の選定に悩んでいる人事・経営企画担当者は多いのではないでしょうか。Googleやメルカリなどの成功事例が注目される一方で、「自社に本当に合うのか」「どう導入すればいいのか」が分からないという声も聞かれます。
この記事では、MBOとOKRの違いを6つのポイントで比較し、企業規模・フェーズ別の選定基準や導入事例までを解説します。
この記事のポイント:
- MBOは個人評価・報酬連動が目的、OKRは企業全体の目標達成が目的
- MBOは年次設定で100%達成を目指し、OKRは四半期設定で60-70%達成を目指す
- OKRを使用する企業の83%が効果を報告、54%が3ヶ月以内に効果を実感
- どちらを選ぶかは企業規模・成長フェーズ・組織文化によって異なる
- MBOとOKRの併用も可能(評価はMBO、組織目標はOKR)
1. MBOとOKRが注目される背景
目標管理手法の見直しが求められている背景には、ビジネス環境の変化があります。
事業環境の変化スピード: 従来の年次計画では対応しきれないほど、市場や競合の動きが速くなっています。四半期単位で目標を見直せるOKRが注目される一因です。
従業員のエンゲージメント重視: 人材獲得競争が激化する中、従業員のモチベーションや組織への帰属意識を高めることが重要になっています。目標管理手法が従業員体験に与える影響が注目されています。
目標管理ツールの進化: OKRソフトウェア市場は2023年の11.5億ドルから2030年には29.8億ドルに成長すると予測されており(CAGR 14.6%)、AIを活用した進捗自動追跡や予測分析が可能になっています。
グローバル企業の成功事例: GoogleやIntelなどグローバル企業でのOKR成功事例が注目を集め、日本企業でも導入を検討するケースが増えています。
2. MBOとOKRの定義と特徴比較
(1) MBOの定義と基本的な仕組み
MBO(Management by Objectives / 目標管理)は、1950年代に経営学者のピーター・ドラッカーが提唱した目標管理手法です。
MBOの基本的な仕組み:
- 上司と部下が話し合いながら個人の目標を設定
- 目標達成度を評価し、報酬や昇進に反映
- 一般的に半年〜1年の期間で設定
- 100%達成を目指す現実的な目標設定
MBOは「従業員の業績を評価し、人事評価につなげる」ことが主な目的です。多くの日本企業で採用されており、評価制度との連動がしやすい特徴があります。
(2) OKRの定義と基本的な仕組み
OKR(Objectives and Key Results / 目標と主要な結果)は、1970年代にIntelのアンディ・グローブがMBOを発展させて開発した目標管理フレームワークです。
OKRの構成:
- Objectives(目標): 定性的で野心的な目標(例:「顧客に愛されるプロダクトになる」)
- Key Results(主要な結果): 目標達成を測定する定量的な指標(例:「NPS +20pt向上」「解約率3%以下」)
OKRの基本的な仕組み:
- 1ヶ月〜四半期単位の短いサイクルで設定・振り返り
- 企業・チーム・個人の目標を全社で公開し透明性を確保
- 60-70%達成を目指すストレッチ(野心的)目標を設定
- 原則として報酬とは非連動
OKRは「企業全体での生産性向上」「組織の一体感醸成」が主な目的です。
(3) 6つの違い(目的・期間・達成基準・情報共有・報酬連動・目標設定)
MBOとOKRの主要な違いを整理します:
| 項目 | MBO | OKR |
|---|---|---|
| 目的 | 個人評価・報酬連動 | 企業全体の目標達成 |
| 期間 | 半年〜1年 | 1ヶ月〜四半期 |
| 達成基準 | 100%達成を目指す | 60-70%達成を目指す |
| 情報共有 | 上司と部下間で非公開 | 全社で公開(透明性) |
| 報酬連動 | 連動する | 原則非連動 |
| 目標設定アプローチ | トップダウン中心 | ボトムアップ・双方向 |
この違いを理解した上で、自社の状況に合わせて選択することが重要です。
3. MBOとOKRのメリット・デメリット
(1) MBOのメリット・デメリット
MBOのメリット:
- 評価基準が明確で、従業員が納得しやすい
- 報酬・昇進との連動により、目標達成へのインセンティブが働く
- 多くの日本企業で実績があり、運用ノウハウが蓄積されている
- 人事評価システムとの連携が容易
MBOのデメリット:
- 報酬連動のため、従業員が低めの「達成可能な目標」を設定しがち
- 年次設定のため、環境変化への対応が遅れる
- 個人目標が中心で、組織全体の一体感が生まれにくい
- 上司と部下間で目標が非公開のため、部門間の連携が取りにくい
(2) OKRのメリット・デメリット
OKRのメリット:
- チャレンジングで野心的な目標を設定しやすい(報酬非連動のため)
- 全社で目標が公開されるため、組織の一体感・透明性が高まる
- 短いサイクルで振り返りを行い、環境変化に柔軟に対応できる
- 企業・チーム・個人の目標が連動し、アライメントが取れる
OKRのデメリット:
- 報酬と非連動のため、評価基準が不明確と感じる従業員がいる可能性
- 頻繁な目標見直しが運用負担になる場合がある
- 導入・定着までに一定の時間と労力がかかる
- 65%の企業でOKRが会社目標と直接リンクしていないという課題も報告されている
(3) 目標達成率の考え方(100% vs 60-70%)
MBOとOKRで目標達成率の考え方が大きく異なります:
MBO: 100%達成を目指す
- 現実的に達成可能な目標を設定
- 達成度が報酬に反映されるため、保守的な目標になりがち
- 未達成は「失敗」として評価される
OKR: 60-70%達成が適切
- ストレッチ(野心的)目標を設定
- 100%達成できたら「目標設定が低かった」と判断
- 未達成でも挑戦したことが評価される文化が前提
OKRでは「達成率60-70%で成功」という考え方を組織全体に浸透させることが重要です。この文化醸成なしにOKRを導入すると、混乱が生じる可能性があります。
4. 企業規模・フェーズ別の選定基準
(1) スタートアップ・成長期企業に向いている手法
OKRが向いているケース:
- 事業環境の変化が激しく、四半期単位での目標見直しが必要
- 組織の一体感・ミッション浸透を重視している
- チャレンジングな目標設定で高い成長を目指している
- 評価制度がまだ整備途上で、柔軟に設計できる
スタートアップや成長期企業では、OKRのアジリティ(俊敏性)が活きやすい傾向があります。
(2) 安定期企業・大企業に向いている手法
MBOが向いているケース:
- 評価・報酬制度が確立しており、急な変更が難しい
- 従業員が評価基準の明確さを重視している
- 管理職のマネジメントスキルにばらつきがある
- 人事制度全体との整合性を重視している
安定期企業や大企業では、既存の評価制度との整合性を考慮し、MBOを継続するケースも多いです。
(3) 組織文化(トップダウン/ボトムアップ)による適性
トップダウン文化の組織:
- MBOとの相性が良い(経営層が目標を決定し、下に展開)
- OKRを導入する場合、ボトムアップの目標設定に慣れるまで時間がかかる
ボトムアップ文化の組織:
- OKRとの相性が良い(現場の意見を取り入れながら目標設定)
- 従業員の主体性を重視する文化と親和性が高い
組織文化を無視して導入すると、形骸化するリスクがあります。文化変革を伴う場合は、段階的な導入が推奨されます。
5. MBOとOKRの併用パターンと導入事例
(1) MBOとOKRの併用方法
MBOとOKRは二者択一ではなく、併用も可能です:
併用パターンの例:
- 評価はMBO、組織目標はOKR: 個人の評価・報酬決定にはMBOを使い、組織全体の方向性共有にはOKRを使う
- 部門によって使い分け: 営業部門はMBO(目標達成度が明確)、開発部門はOKR(挑戦的な目標設定)
- OKRのKey ResultsをMBOに反映: OKRの一部をMBOの目標として設定し、評価に連動させる
併用することで、両方のメリットを活かせる可能性がありますが、運用が複雑になるデメリットもあります。
(2) OKR導入企業の事例(Google・メルカリ・花王等)
Google: OKRの最も有名な導入企業です。四半期ごとに全社員がOKRを設定・公開し、透明性の高い目標管理を実践しています。
メルカリ: 国内企業でのOKR導入事例として知られています。組織の急成長期にOKRを導入し、全社の方向性を共有する仕組みを構築しています。
花王: 大企業でのOKR導入事例として注目されています。部門ごとに導入を進め、段階的に展開しています。
freee: SaaS企業でのOKR導入事例です。四半期ごとのサイクルで全社のOKRを設定し、組織の一体感を重視した運用を行っています。
※各社の詳細な運用方法は変更される可能性があります。最新情報は各社公式情報をご確認ください。
(3) 導入時の注意点とOKRコーチの役割
導入時の注意点:
- いきなり全社導入せず、一部チームで試験導入し効果を検証する
- 「OKRは報酬と非連動」という意図を全社に丁寧に説明する
- 経営層がコミットし、自らOKRを公開することで本気度を示す
- 定期的な振り返りの場(チェックイン)を設け、形骸化を防ぐ
OKRコーチ/OKRチャンピオンの役割: OKRを使用する企業の80%以上が「OKRコーチ」や「OKRチャンピオン」といった専任の役割を設置しています。
- OKRの設定・運用に関するガイダンス提供
- 部門間のアライメント(目標整合性)の確認
- 定期的なチェックインのファシリテーション
- 経営層へのOKR進捗報告
専任の役割を設置することで、OKRの定着率が高まります。
6. まとめ:自社に適した目標管理手法の選び方
MBOとOKRは、それぞれ異なる目的・特徴を持つ目標管理手法です。どちらを選ぶかは、自社の状況に応じて判断する必要があります。
MBOが向いている企業:
- 評価・報酬との連動を重視している
- 従業員が評価基準の明確さを求めている
- 既存の人事制度との整合性を重視している
- 安定した事業環境で、年次計画で十分対応できる
OKRが向いている企業:
- 組織の一体感・ミッション浸透を重視している
- チャレンジングな目標設定で高い成長を目指している
- 事業環境の変化が激しく、柔軟な目標見直しが必要
- 透明性の高い組織文化を目指している
次のアクション:
- 自社の現状(評価制度、組織文化、成長フェーズ)を整理する
- MBOとOKRのメリット・デメリットを経営層・人事部門で共有する
- 導入を検討する場合は、一部チームで試験導入を行う
- OKR導入の場合は、OKRコーチ/チャンピオンの役割を検討する
OKRを使用する企業の83%が効果を報告しており、54%が3ヶ月以内に測定可能な効果を実感しているというデータもあります。一方で、65%の企業でOKRが会社目標と直接リンクしていないという課題も報告されています。導入する場合は、アライメント(目標整合性)の確保を意識することが重要です。
よくある質問:
Q: 自社にはMBOとOKRどちらが適していますか? A: 評価・報酬との連動を重視するならMBO、チャレンジングな目標設定・組織の一体感を重視するならOKRが向いています。企業規模・成長フェーズ・組織文化も考慮して判断してください。どちらか一方に決める必要はなく、併用も選択肢の一つです。
Q: MBOからOKRへの移行方法は? A: いきなり全社導入せず、一部チームで試験導入し効果を検証することをお勧めします。OKRコーチを設置し、「OKRは報酬と非連動」という意図を全社に丁寧に説明することが重要です。段階的に展開し、成功事例を社内で共有しながら定着させていきます。
Q: OKRと人事評価は連動させるべきですか? A: 原則として非連動が推奨されています。連動させると、低めの目標設定になりがちで、OKRの「ストレッチ目標」という特徴が活かせなくなります。ただし、一部企業ではKey Resultsの一部を評価に反映するケースもあり、完全に切り離すか部分的に連動させるかは企業の判断によります。
Q: 目標管理ツールはどう選べばよいですか? A: OKRならOKR専用ツール(進捗自動追跡・AI分析機能付き)、MBOなら人事評価システムとの連携が重要です。企業規模・予算・既存システムとの統合性を考慮して選定してください。OKRソフトウェア市場ではAI統合が進んでおり、予測分析やガイダンス機能を提供するツールも登場しています。
