大企業向け営業はどう進めればいい?エンプラセールスの基本を知りたい...
「大企業との取引を増やしたいが、中小企業向けの営業とは勝手が違う」「意思決定者が多く、商談がなかなか進まない」——こうした悩みを抱える営業担当者やマネージャーは少なくありません。
エンタープライズセールス(エンプラセールス)とは、大企業や官公庁などの大規模組織をターゲットにした営業手法です。中小企業向けのSMBセールスとは、商談サイクルや意思決定プロセス、必要なスキルが大きく異なります。
この記事では、エンタープライズセールスの定義からSMBセールスとの違い、必要なスキル、4つのプロセス、成功のための実践手法まで詳しく解説します。
この記事のポイント:
- エンタープライズセールスは大企業向け、高額・長期の営業手法
- SMBセールスとは商談サイクル・意思決定者・取引規模が大きく異なる
- 4つのプロセス(企業特定・拡張・関係構築・展開)で進める
- ABM(挟み撃ち)戦略やアカウントプランニングが成功の鍵
- 1件の受注がSMBチーム40〜50人の1年分の売上を超えることも
1. エンタープライズセールスの重要性
エンタープライズセールスは、B2B企業にとって売上を大きく伸ばすための重要な営業戦略です。1件あたりの取引規模が大きく、成功すればビジネスに大きなインパクトをもたらします。
(1) スタートアップでエンプラセールスに力を入れる企業が増加
近年、スタートアップ企業においてエンタープライズセールスに注力する動きが活発化しています。その背景には、以下のような理由があります:
- 売上インパクトの大きさ: 大企業との取引は1件で大きな売上が見込める
- 長期的な関係構築: 一度取引が始まれば継続的な収益が期待できる
- 市場での信頼獲得: 大企業との取引実績がブランド価値を向上させる
(2) 1件の受注がもたらす大きなインパクト(SMBチーム40-50人の1年分売上を超える)
エンタープライズセールスの魅力は、その取引規模の大きさにあります。業界関係者の発言によると、エンプラセールス1件の受注額がSMBセールスチーム40〜50人の1年間の売上を超えることもあると言われています。
例(イメージ):
- SMBセールス1人の年間売上: 1,000万円
- SMBチーム50人の年間売上: 5億円
- エンプラセールス1件: 5億円以上の取引も
もちろん、すべてのエンプラ案件がこの規模というわけではありませんが、成功時のリターンが非常に大きいことは確かです。
2. エンタープライズセールスの基礎知識
エンタープライズセールスを理解するためには、その定義と、他の営業手法との違いを把握することが重要です。
(1) エンタープライズセールスの定義
エンタープライズセールス(エンプラセールス)とは、大企業や官公庁などの大規模組織をターゲットにした営業手法です。
主な特徴:
- 対象企業: 大企業、官公庁、グローバル企業など
- 取引規模: 高額(年間契約で数千万円〜数億円規模も)
- 商談期間: 長期(数ヶ月〜1年以上)
- 意思決定者: 複数の部署・役職が関与
- 契約形態: 全社導入、部門導入など複雑
(2) SMBセールスとの違い(商談サイクル・意思決定者・取引規模)
エンタープライズセールスとSMB(中小企業向け)セールスは、多くの点で異なります。
| 項目 | エンタープライズセールス | SMBセールス |
|---|---|---|
| 対象企業 | 大企業・官公庁 | 中小企業 |
| 取引規模 | 高額(数千万円〜) | 比較的小額(数十万円〜) |
| 商談期間 | 長期(数ヶ月〜1年以上) | 短期(数週間〜数ヶ月) |
| 意思決定者 | 複数(経営層・部門長・現場) | 少数(経営者・担当者) |
| 営業手法 | アカウントベース | ファネル型 |
このような違いから、SMBセールスで成功した手法がそのままエンプラセールスに通用するとは限りません。
(3) The Model型営業との違い(拡大型 vs フロー型)
「The Model」とは、マーケティング→インサイドセールス→フィールドセールス→カスタマーサクセスの分業型営業プロセスを指します。
The Model型(フロー型):
- 認知拡大→リード絞り込み→商談創出という流れ
- 多数のリードから成約に至るものを選別
- SMBセールスに適した手法
エンタープライズセールス(拡大型):
- 特定の大企業に対して深く入り込む
- 1社内での取引規模を拡大
- アカウントプランニングに基づく戦略的アプローチ
The Modelとエンプラセールスは対立するものではなく、組み合わせて活用することも可能です。
3. エンプラセールスに必要なスキルと資質
エンタープライズセールスで成功するためには、SMBセールスとは異なるスキルと資質が求められます。
(1) 戦略的思考とアカウントプランニング能力
エンプラセールスでは、場当たり的なアプローチではなく、戦略的に計画を立てて実行する能力が必要です。
アカウントプランニングとは:
- 担当企業(アカウント)の売上を最大化するための戦略策定
- 企業の組織図、意思決定者、課題、予算を把握
- 短期・中期・長期の目標設定と行動計画
大企業は組織が複雑であるため、「誰に」「いつ」「どのように」アプローチするかを計画的に設計することが重要です。
(2) 持続性と長期的関係構築力
エンプラセールスでは、商談が成立するまで数ヶ月〜1年以上かかることが一般的です。
必要な資質:
- 短期的な成果に焦らない忍耐力
- 定期的な情報提供・価値提供を継続する持続性
- 信頼関係を築くためのコミュニケーション能力
「焦って催促せず余裕を持つこと」が重要と言われており、性急なアプローチは逆効果になることがあります。
(3) 大企業の組織・論理・ガバナンスの理解
テクニックよりも重要なのが、大企業の組織・論理・ガバナンスを理解することです。
理解すべきポイント:
- 意思決定プロセス(誰が決裁権を持つか)
- 契約プロセス(法務、調達、情報システム部門の関与)
- 予算サイクル(年度予算、補正予算のタイミング)
- ガバナンス(セキュリティ要件、コンプライアンス)
大企業には「大手のプライド」があり、中小企業向けの営業手法をそのまま適用すると反発を招くことがあります。
4. エンプラセールスの4つのプロセス
エンタープライズセールスは、一般的に以下の4つのプロセスで進められます。
(1) 企業特定(ターゲット大企業の選定)
最初のステップは、ターゲットとする大企業を特定することです。
選定基準の例:
- 顧客の潜在需要の大きさ
- ニーズの緊急度
- 取引による自社のメリット(売上、実績、ブランド向上)
- 自社製品・サービスとの適合性
すべての大企業を狙うのではなく、優先順位をつけてリソースを集中することが重要です。
(2) 拡張(複数の接点・関係者の開拓)
大企業との取引を成立させるには、複数の接点を持つことが必要です。
具体的なアプローチ:
- 最初は一人でも良いので、先方企業とコネクトを持つ
- その接点から、他の部署・関係者に紹介を得る
- 複数の「チャンピオン」(社内支持者)を作る
大企業では複数の部署・ステークホルダーが契約に関与するため、一人の担当者だけでは進まないことが多いです。
(3) 関係構築(キーマンとの信頼関係)
接点を持った関係者との信頼関係を深めていきます。
関係構築のポイント:
- 定期的な情報提供(業界動向、成功事例など)
- 相手の課題・ニーズに寄り添う姿勢
- 短期的な売り込みではなく、長期的な価値提供
- 約束を守り、対応スピードを維持
信頼を得られれば、その担当者が社内で推進役(チャンピオン)となってくれる可能性があります。
(4) 展開(契約締結と継続的な拡大)
契約締結に向けた具体的な提案・交渉を行い、成約後も継続的に取引を拡大します。
展開のポイント:
- POC(概念実証)やパイロット導入からスタート
- 成功実績を基に全社展開を提案
- 導入後のサポートでカスタマーサクセスを実現
- 他部署への横展開やアップセルを狙う
一度取引が始まれば、継続的な関係の中で取引規模を拡大していくことが可能です。
5. 成功のための実践手法
エンタープライズセールスを成功させるための実践的な手法を紹介します。
(1) ABM(挟み撃ち)戦略(トップダウン+ボトムアップ)
ABM(Account Based Marketing)は、特定の大企業をターゲットにしたマーケティング手法です。エンプラセールスでは、トップダウンとボトムアップの「挟み撃ち」戦略が有効とされています。
トップダウンアプローチ:
- 経営層・役員へのアプローチ
- 経営課題に対するソリューション提案
- トップからの指示で全社導入を狙う
ボトムアップアプローチ:
- 現場担当者との関係構築
- 実務課題の解決から信頼を獲得
- 現場からの要望として上申してもらう
両方のアプローチを組み合わせることで、組織内での支持を広げやすくなります。
(2) アカウントプランニングの策定と実行
アカウントプランは、担当企業の売上を最大化するための戦略ドキュメントです。
アカウントプランに含める内容:
- 企業概要(事業内容、組織構造、経営課題)
- 関係者マップ(意思決定者、影響者、チャンピオン候補)
- 現状の取引状況と今後の目標
- アクションプラン(誰に・いつ・何をするか)
- 競合状況と差別化ポイント
定期的にプランを見直し、進捗を確認しながら実行することが重要です。
(3) 営業戦略マトリクス(購買関係者×セールスフェーズ)の活用
エンプラセールスでは、複数の購買関係者と複数のセールスフェーズが存在するため、マトリクス形式で進捗を管理する方法が有効です。
マトリクスの構造:
- 縦軸: 購買関係者(経営層、事業部門長、現場担当者、IT部門など)
- 横軸: セールスフェーズ(認知、興味、検討、評価、決定)
各関係者がどのフェーズにいるかを可視化し、次のアクションを計画します。
(4) 徹底した事前準備とコネクト構築
大企業へのアプローチでは、事前準備が成否を分けると言われています。
事前準備のポイント:
- 企業のIR情報、プレスリリース、決算資料を確認
- 経営課題・事業戦略を把握
- 業界動向と競合状況を理解
- アプローチする担当者の経歴・関心事を調査
一度失敗すると再チャレンジが難しいため、最初のアプローチは慎重に準備することが重要です。
6. 大企業営業の難しさと大きな魅力
エンタープライズセールスには、難しさとリスクがある一方で、成功時の大きな魅力もあります。
(1) 3つの難しさ(接点の作りづらさ、長期化、大手のプライド)
エンタープライズセールスが難しい理由として、以下の3つが挙げられます:
1. 接点の作りづらさ
- 大企業は多くの営業からアプローチを受けているため、門戸が狭い
- 代表電話からのアプローチでは担当者に繋がりにくい
2. 意思決定・検討期間の長さ
- 複数の部署・役職が関与するため、意思決定に時間がかかる
- 予算サイクルに合わせる必要があり、タイミングを逃すと1年待ちになることも
3. 大手のプライド
- 中小企業向けの営業手法が通用しない
- 「御社に売りたい」という姿勢よりも「御社の課題を解決したい」という姿勢が求められる
(2) 一度失敗すると再チャレンジが困難なリスク
エンプラセールスでは、最初のアプローチで失敗すると、その企業への再アプローチが困難になるリスクがあります。
失敗のパターン:
- 準備不足でニーズを外した提案をしてしまった
- 担当者の信頼を損ねる対応をしてしまった
- 競合に先を越されてしまった
そのため、最初のアプローチは慎重に準備し、焦らず進めることが重要です。
(3) 成功時の大きなリターンと新規事業創出の可能性
一方で、エンプラセールスが成功したときのリターンは非常に大きいです。
成功時のメリット:
- 高額な取引による売上インパクト
- 長期的な継続取引による安定収益
- 大企業との取引実績によるブランド向上
- 他の大企業へのリファレンス(導入事例)として活用
- 大企業との協業から新規事業が生まれる可能性
エンタープライズセールスは、営業担当者のキャリアにとっても大きな成長機会となります。
まとめ:エンプラセールスは戦略的アプローチで成功を目指す
エンタープライズセールスは、SMBセールスとは異なる戦略的なアプローチが求められる営業手法です。商談サイクルは長く、意思決定者も複数にわたりますが、成功時のリターンは非常に大きいです。
エンプラセールス成功のポイント(再掲):
- 4つのプロセス(企業特定・拡張・関係構築・展開)を意識する
- ABM(挟み撃ち)戦略でトップダウンとボトムアップを両立
- アカウントプランニングで戦略的に計画・実行
- 大企業の組織・論理・ガバナンスを理解する
- 焦らず、長期的な関係構築を心がける
次のアクション:
- ターゲットとする大企業を3〜5社選定する
- 各企業のアカウントプランを策定する
- 関係者マップを作成し、最初の接点を特定する
- 徹底した事前準備を行い、最初のアプローチを実施
- 定期的にプランを見直し、進捗を確認する
※エンタープライズセールスのプロセスは企業規模・業界・組織文化により異なります。本記事の内容は一般的な指針として参考にしてください。
