既存顧客からの売上が伸びず、LTVが向上しませんか?
BtoB SaaS企業のカスタマーサクセス責任者やマーケティングマネージャーの多くが、CS×マーケ連携やLTV向上に課題を抱えています。「カスタマーサクセスとマーケティングの役割分担が不明確」「既存顧客へのアプローチがうまくいかない」「解約率が下がらない」といった問題は尽きません。
この記事では、カスタマーサクセスとマーケティングの連携方法とLTV最大化の戦略を、具体的なユースケースとともに解説します。
この記事のポイント:
- 新規獲得コストは既存顧客維持の5倍(1:5の法則)のため、既存顧客向け施策が重要
- マーケティングは新規獲得(潜在層・見込み客)、カスタマーサクセスは既存顧客の成功支援を担当
- CSとマーケの連携には月1回の共同ミーティングや顧客データの相互共有が効果的
- カスタマージャーニーを設計し、オンボーディング完了からアップセルまでの各ポイントで必要なアクションを定める
- SaaSビジネスではLTV/CACが3以上であることが望ましい
1. カスタマーサクセスとマーケティング連携が重要な理由
(1) 新規獲得コストは既存顧客維持の5倍(1:5の法則)
新規顧客獲得コスト(CAC: Customer Acquisition Cost)は、既存顧客の維持コストの5倍と言われています(1:5の法則)。
1:5の法則が示すこと:
- 新規顧客獲得には広告費・営業コスト・マーケティング費用がかかる
- 既存顧客は既に製品・サービスを利用しており、追加提案(アップセル・クロスセル)のハードルが低い
- 既存顧客からのLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)最大化が効率的
このため、カスタマーサクセスとマーケティングが連携し、既存顧客向けのマーケティング(カスタマーマーケティング)を強化することが重要です。
(2) SaaSビジネスにおけるLTV最大化の重要性
SaaSビジネスでは、サブスクリプション型の継続課金モデルのため、LTV最大化が事業成長の鍵となります。
LTV最大化の重要性:
- 解約率(チャーンレート)1%の違いが、5年後に1年分の収益差になる
- LTV/CAC比率が3以上であることが、健全なSaaSビジネスの目安
- 既存顧客のアップセル・クロスセルにより、LTVを向上させる
カスタマーサクセスとマーケティングが連携することで、解約防止とアップセル促進の両面からLTVを最大化できます。
2. カスタマーサクセスとマーケティングの違いと関係性
(1) マーケティング:新規獲得(潜在層・見込み客)
マーケティング部門の主な役割は、新規顧客の獲得です。
マーケティングの主な業務:
- リード獲得(潜在顧客の集客)
- リードナーチャリング(見込み客の育成)
- コンテンツマーケティング・広告運用
- ブランド認知度向上
対象顧客: 潜在層(まだ製品・サービスを知らない層)・見込み客(関心を示している層)
(2) カスタマーサクセス:既存顧客の成功支援
カスタマーサクセス部門の主な役割は、既存顧客が製品・サービスを通じて成功を実現できるよう、能動的に支援することです。
カスタマーサクセスの主な業務:
- オンボーディング(初期導入支援)
- 定期的なヘルスチェック・利用状況モニタリング
- 解約防止(チャーンプリベンション)
- アップセル・クロスセル提案
- コミュニティ運営・ユーザー会開催
対象顧客: 既存顧客(製品・サービスを既に利用している層)
(3) THE MODELにおける両者の位置づけ
「THE MODEL」とは、Salesforceが提唱した分業型営業モデルで、以下の4部門で構成されます。
THE MODELの4部門:
- マーケティング:リード獲得(見込み顧客の集客)
- インサイドセールス:リードナーチャリング・商談創出
- フィールドセールス:商談・クロージング(受注)
- カスタマーサクセス:既存顧客の成功支援・アップセル
連携の課題: マーケティングはプロセスの初期、カスタマーサクセスは最後に位置するため、意図的に連携の場を設けないと接点がなくなりやすいという課題があります。
このため、月1回の共同ミーティングや顧客データの相互共有など、部門間連携の仕組みを構築することが重要です。
3. CS×マーケ連携の具体的ユースケース
(1) オンボーディング改善:CSデータをマーケに共有
カスタマーサクセスが収集したオンボーディング(初期導入)時のデータをマーケティングに共有することで、見込み客への情報提供を改善できます。
具体的な連携方法:
- CSが顧客のオンボーディングで頻繁に受ける質問を整理
- マーケティングがその質問を元にFAQコンテンツ・ウェビナーを作成
- 見込み客に対して事前に情報提供し、導入後のスムーズなオンボーディングを支援
効果:
- 新規顧客のオンボーディング完了率向上
- CSチームの問い合わせ対応負荷軽減
- 顧客満足度向上
(2) 解約防止:ヘルススコアに基づくリテンション施策
カスタマーサクセスが管理するヘルススコア(顧客の利用状況や満足度を数値化した指標)をマーケティングと共有し、解約リスクのある顧客へのリテンション施策を実施します。
具体的な連携方法:
- CSがヘルススコアが低下している顧客リストをマーケに共有
- マーケティングがターゲット顧客向けにパーソナライズドメールやウェビナー案内を配信
- CSがフォローアップし、利用促進・課題解決を支援
効果:
- 解約率(チャーンレート)の低下
- 顧客のエンゲージメント向上
- プロアクティブな(予防的な)CS活動の実現
(3) アップセル促進:利用状況に応じた提案
カスタマーサクセスが把握している顧客の利用状況をマーケティングと共有し、適切なタイミングでアップセル・クロスセル提案を行います。
具体的な連携方法:
- CSが利用状況を分析し、上位プランへの移行候補をリストアップ
- マーケティングがアップセル提案のコンテンツ(新機能紹介・導入事例)を作成
- CSが個別に顧客へ提案し、アップセルを促進
効果:
- アップセル率の向上
- LTV(顧客生涯価値)の最大化
- 顧客の成功体験を踏まえた自然な提案
(4) 事例創出:成功事例をマーケティングコンテンツ化
カスタマーサクセスが支援した成功事例を、マーケティングコンテンツとして活用します。
具体的な連携方法:
- CSが顧客の成功事例をヒアリング・整理
- マーケティングが事例記事・ウェビナー・営業資料として制作
- 見込み客への信頼性向上、既存顧客への成功パターン共有に活用
効果:
- 新規顧客獲得の促進(信頼性向上)
- 既存顧客のロイヤルティ向上(成功パターンの共有)
- 事例掲載顧客とのエンゲージメント強化
4. 効果的な連携体制とKPI設計
(1) 月1回の共同ミーティング設置
カスタマーサクセスとマーケティングの連携を強化するため、月1回の共同ミーティングを設置するのが推奨されます。
共同ミーティングのアジェンダ例:
- 前月の主要KPIレビュー(解約率、アップセル率、LTV等)
- 顧客からのフィードバック・課題の共有
- 次月の連携施策の計画
- 成功事例・失敗事例の振り返り
この定例ミーティングにより、部門間の情報共有と連携が習慣化されます。
(2) 顧客データの相互共有(CRM・ヘルススコア)
CRM(Customer Relationship Management)ツールを活用し、顧客データをカスタマーサクセスとマーケティングで相互共有します。
共有すべきデータ:
- 顧客の利用状況(ログイン頻度・機能利用状況)
- ヘルススコア(解約リスクの指標)
- 過去のコミュニケーション履歴(問い合わせ・提案内容)
- アップセル・クロスセル機会の可視化
注意点: 個人情報保護やセキュリティポリシーへの配慮が必要です。データ共有の範囲と権限を明確にし、社内ルールを整備しましょう。
(3) CS側KPI:解約率、オンボーディング完了率、NPS、アップセル率
カスタマーサクセス部門の主要KPIは以下の通りです。
CS側の主要KPI:
- 解約率(チャーンレート): 一定期間に解約した顧客の割合
- オンボーディング完了率: 初期導入支援を完了した顧客の割合
- NPS(Net Promoter Score): 顧客推奨度。顧客ロイヤルティを測定する指標
- ヘルススコア: 顧客の利用状況や満足度を数値化した指標
- アップセル率: 上位プランへの移行やオプション追加の割合
これらのKPIをマーケティング部門と共有し、連携施策の効果を評価します。
(4) マーケ側KPI:カスタマーマーケティング経由の売上、エンゲージメント率
マーケティング部門は、カスタマーマーケティング(既存顧客向けマーケティング)のKPIも設定します。
マーケ側の追加KPI:
- カスタマーマーケティング経由の売上: 既存顧客向け施策からのアップセル・クロスセル売上
- エンゲージメント率: 既存顧客向けコンテンツの開封率・クリック率
- コミュニティ参加率: ユーザー会・コミュニティへの参加顧客の割合
- 事例創出数: 成功事例として公開できた顧客数
これらのKPIにより、既存顧客向け施策の効果を可視化します。
5. カスタマーマーケティングによるLTV最大化戦略
(1) カスタマージャーニー設計(オンボーディング完了→継続利用→アップセル)
カスタマージャーニーを設計し、オンボーディング完了からサービス利用継続、アップセルまでの各ポイントで必要なアクションを定めます。
カスタマージャーニーの例:
ステージ1: オンボーディング(導入〜1ヶ月)
- CSアクション:初期設定支援、利用方法レクチャー
- マーケアクション:FAQ・チュートリアル動画の提供
- KPI:オンボーディング完了率
ステージ2: 継続利用(2〜6ヶ月)
- CSアクション:定期的なヘルスチェック、利用促進
- マーケアクション:ベストプラクティス共有、ウェビナー案内
- KPI:ヘルススコア、エンゲージメント率
ステージ3: アップセル(6ヶ月〜)
- CSアクション:利用状況分析、上位プラン提案
- マーケアクション:新機能紹介、導入事例共有
- KPI:アップセル率、LTV
このカスタマージャーニーに基づき、CS×マーケ連携の施策を計画・実行します。
(2) コミュニティ運営とロイヤルティ向上
カスタマーマーケティングの一環として、ユーザーコミュニティを運営し、顧客同士の交流やナレッジ共有を促進します。
コミュニティ運営のメリット:
- 顧客同士の成功事例共有により、利用促進・課題解決が進む
- ロイヤルティ向上により、解約率が低下する
- コミュニティ参加顧客からのフィードバックが製品改善に活用できる
- アンバサダー(熱心なファン)の育成
具体的な運営方法:
- オンラインコミュニティ(Slackグループ、専用フォーラム等)の開設
- 定期的なユーザー会・ミートアップの開催
- 顧客の成功事例をコミュニティ内で共有
(3) LTV/CAC比率3以上の実現(解約率1%改善で5年後1年分の収益差)
SaaSビジネスでは、LTV/CAC比率が3以上であることが望ましいとされています。
LTV/CAC比率とは:
- LTV:顧客生涯価値(一顧客から得られる累計利益)
- CAC:顧客獲得コスト(一顧客を獲得するのにかかる費用)
- LTV/CAC比率 = LTV ÷ CAC
目安:
- 3以上:健全なSaaSビジネス
- 2〜3:改善の余地あり
- 2未満:持続可能性に課題
解約率1%改善の影響: 解約率(チャーンレート)1%の違いが、5年後に1年分の収益差になると言われています。カスタマーサクセスとマーケティングが連携し、解約防止とアップセル促進により、LTV/CAC比率を改善することが重要です。
(4) 2024-2025年トレンド:AI活用のヘルススコア予測
2024-2025年のトレンドとして、AIを活用したヘルススコア予測やチャーンリスク検知が進んでいます。
AI活用の例:
- 顧客の利用データから解約リスクを予測
- アップセル機会の自動抽出
- パーソナライズドなコミュニケーション内容の自動生成
- 次のアクション提案(AIによるレコメンド)
これらのAI機能により、カスタマーサクセスとマーケティングの連携がさらに効率化されると期待されています。
6. まとめ:連携成功のポイントと注意点
(1) 経営層のコミットメント獲得
カスタマーサクセスとマーケティングの連携には、経営層のコミットメントが不可欠です。
経営層の支援が必要な理由:
- 部門間連携には、組織横断的な調整・予算配分が必要
- KPI設計や評価制度の見直しが伴う場合がある
- 経営層の支援がないと、連携の取り組みが形骸化しやすい
CS×マーケ連携の重要性と期待される効果を経営層に説明し、支援を得ることが成功の鍵となります。
(2) 部門間の摩擦を防ぐ役割分担の明確化
カスタマーサクセスとマーケティングは、対象顧客や視点が異なるため、連携時に摩擦が生じやすい側面があります。
摩擦の原因:
- マーケティング:顧客セグメント(集団)に対応
- カスタマーサクセス:個別顧客(1社1社)に対応
- 視点の違いにより、優先順位や施策内容で意見が対立しやすい
対策:
- 役割分担を明確化し、責任範囲を事前に合意する
- 共同ミーティングで率直に意見交換し、相互理解を深める
- 共通のKPI(LTV、解約率等)を設定し、目標を共有する
(3) 新規獲得とのバランスを保つ
カスタマーマーケティングに過度に注力すると、新規獲得が疎かになるリスクがあります。
バランスの取り方:
- マーケティング予算・リソースを新規獲得とカスタマーマーケティングに適切に配分
- 事業フェーズに応じて優先順位を調整(成長期は新規獲得重視、成熟期はLTV最大化重視)
- 新規獲得とカスタマーマーケティングの両方でKPIを設定し、モニタリングする
次のアクション:
- カスタマーサクセスとマーケティングで月1回の共同ミーティングを設置する
- CRMツールを導入し、顧客データ(ヘルススコア等)を相互共有する
- カスタマージャーニーを設計し、オンボーディング完了→継続利用→アップセルの各ステージで必要なアクションを定める
- 経営層にCS×マーケ連携の重要性を説明し、支援を得る
- 役割分担を明確化し、部門間の摩擦を防ぐ
カスタマーサクセスとマーケティングの連携により、既存顧客からのLTV最大化と解約率低下が期待できます。まずは共同ミーティングの設置から始め、段階的に連携を深めていきましょう。
※この記事は2024-2025年時点の情報です。組織体制やKPIは企業の状況により異なるため、自社に合わせた調整が推奨されます。
