カスタマーサクセスのKGI設定ガイド:指標選定から測定まで

著者: B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部公開日: 2025/12/8

カスタマーサクセスの成果をどう測ればいいか分からない...

「カスタマーサクセス(CS)組織の成果を定量的に評価する必要があるが、適切なKGI設定方法が分からない」「経営層への報告で、CS活動の価値をどう説明すればいいか悩んでいる」

こうした課題を抱えるB2B SaaS企業のCS担当者・マネージャーは少なくありません。カスタマーサクセスは「顧客の成功」を支援する活動ですが、その成果を測る指標が曖昧だと、組織の貢献度を示すことが難しくなります。

この記事では、カスタマーサクセスの代表的なKGI、ビジネスモデル・企業ステージ別の選定基準、測定・改善方法を解説します。

この記事のポイント:

  • カスタマーサクセスのKGIは多くの場合、LTV(顧客生涯価値)またはMRR/ARR(経常収益)を設定するのが定石
  • KGIから逆算してKPIを設定する「トップダウンアプローチ」が効果的
  • チャーンレート(解約率)はKGI達成に直結する最重要KPIの一つ
  • 指標は「先行・一致・遅行」に分類して管理すると、改善アクションにつなげやすい

カスタマーサクセスにおけるKGI設定の重要性

カスタマーサクセス組織のKGI(経営目標達成指標)を適切に設定することには、以下のような意義があります:

1. 組織の貢献度を可視化できる

  • CS活動が売上・利益にどう貢献しているかを経営層に説明できる
  • 「顧客満足」という抽象的な成果を定量化できる

2. チームの方向性が明確になる

  • メンバー全員が同じゴールに向かって活動できる
  • 優先すべきアクションが明確になる

3. 改善サイクルを回せる

  • 目標と実績のギャップを把握できる
  • データに基づいた改善策を立案できる

4. リソース配分の根拠になる

  • CS組織への投資判断の根拠を示せる
  • 人員増強や施策実施の説得材料になる

KGIを設定しないまま活動していると、「何となく頑張っている」状態になり、組織の価値を証明することが困難になります。

KGIとKPIの基礎知識

(1) KGI(経営目標達成指標)とは

KGI(Key Goal Indicator)は、最終的なゴールを定量的に示す指標です。

KGIの特徴:

  • 経営目標に直結する「結果指標」
  • 一定期間後に測定する「遅行指標」
  • 数値として明確に定義できる

カスタマーサクセスのKGI例:

  • LTV(顧客生涯価値): 1顧客が契約期間中にもたらす総収益
  • MRR/ARR: 月次・年次の経常収益
  • NRR(売上継続率): 既存顧客からの収益維持・成長率
  • チャーンレート(解約率): 一定期間内の解約顧客の割合

(2) KPI(重要業績評価指標)との違い

KPI(Key Performance Indicator)は、KGI達成のためのプロセス指標です。

項目 KGI KPI
役割 最終ゴール 中間指標
測定タイミング 期末(遅行) 随時(先行・一致)
LTV、NRR、チャーンレート オンボーディング完了率、顧客対話数、NPS

カスタマーサクセスのKPI例:

  • オンボーディング完了率(先行指標)
  • 顧客対話数、MTG実施回数(一致指標)
  • NPS(ネットプロモータースコア)
  • 機能利用率、ログイン頻度
  • サポートチケット対応時間

(3) KGIからKPIへのトップダウンアプローチ

KGI/KPI設定で効果的なのは、「トップダウンアプローチ」です。

トップダウンアプローチの手順:

  1. KGIを設定する: 最終ゴール(例:年間LTV 20%向上)
  2. KGIを分解する: LTV = ARPU × 契約期間、契約期間 = 1 ÷ チャーンレート
  3. 影響要因を特定する: チャーンレートを下げるには?→ オンボーディング完了率向上、顧客満足度向上
  4. KPIを設定する: オンボーディング完了率 80%以上、NPS 40以上
  5. アクションを決める: オンボーディングプログラムの改善、定期的なヘルスチェック実施

このように、KGIから逆算してKPIを設定することで、各KPIがKGI達成に貢献する構造を明確にできます。

カスタマーサクセスの代表的なKGI

(1) LTV(顧客生涯価値)

定義: 1顧客が契約期間を通じてもたらす総収益

計算式:

LTV = ARPU(顧客あたり平均収益) × 平均契約期間
または
LTV = ARPU ÷ チャーンレート

SaaS企業でLTVをKGIにする理由:

  • カスタマーサクセスの活動が直接影響する指標
  • 契約継続・アップセル・クロスセルの成果を包括的に評価
  • 経営判断(CAC回収期間、投資判断)に直結

目標設定の目安:

  • LTV / CAC(顧客獲得コスト) ≧ 3 が健全なビジネスの目安と言われています

(2) MRR/ARR(月次・年次経常収益)

定義:

  • MRR: 月次経常収益(Monthly Recurring Revenue)
  • ARR: 年次経常収益(Annual Recurring Revenue)= MRR × 12

計算式:

MRR = 顧客数 × 顧客あたり平均月額料金

MRR/ARRの内訳:

  • New MRR: 新規顧客からの収益
  • Expansion MRR: 既存顧客のアップセル・クロスセルによる増収
  • Contraction MRR: 既存顧客のダウングレードによる減収
  • Churn MRR: 解約による減収

カスタマーサクセスが関与する領域:

  • Expansion MRRの増加
  • Contraction MRR / Churn MRRの減少

(3) NRR(売上継続率)

定義: 既存顧客からの収益が、一定期間後にどれだけ維持・成長しているかを示す指標

計算式:

NRR = (期初MRR + Expansion - Contraction - Churn) ÷ 期初MRR × 100%

NRRの解釈:

  • NRR 100%以上: 既存顧客からの収益が成長している(解約分をアップセルで補填)
  • NRR 100%未満: 既存顧客からの収益が減少している

目標設定の目安:

  • 優良SaaS企業のNRRは120%以上と言われています
  • 100%を下回る場合は、チャーン抑制が最優先課題

(4) チャーンレート(解約率)

定義: 一定期間内に解約した顧客(または収益)の割合

計算式:

顧客チャーンレート = 解約顧客数 ÷ 期初顧客数 × 100%
収益チャーンレート = 解約MRR ÷ 期初MRR × 100%

業界平均:

  • SaaS業界のチャーンレート平均は約3〜10%
  • BtoBでは約6.3%が平均と言われています

注意点:

  • 顧客数ベースと収益ベースで数値が異なる場合がある
  • 大口顧客の解約は収益チャーンに大きく影響
  • 自社の成長フェーズや顧客セグメントにより適正値は異なる

KGI選定の基準と設定プロセス

(1) ビジネスモデル別の適切なKGI

ビジネスモデルによって、優先すべきKGIは異なります:

サブスクリプション型(SaaS):

  • 第一優先: NRR、チャーンレート
  • 第二優先: LTV、MRR/ARR
  • 理由: 継続収益が事業の基盤であり、解約防止・アップセルが重要

トランザクション型(従量課金):

  • 第一優先: 利用量、GMV(総取引額)
  • 第二優先: アクティブユーザー数、リピート率
  • 理由: 利用促進が収益に直結

ハイブリッド型(基本料金+従量課金):

  • 第一優先: NRR(基本料金+従量の合計で計算)
  • 第二優先: 機能利用率、アップセル率
  • 理由: 基本契約の継続と利用拡大の両方が重要

(2) 企業ステージ別のKGI優先順位

企業の成長ステージによっても、優先すべきKGIは変わります:

スタートアップ(PMF探索期):

  • 優先KGI: チャーンレート、NPS
  • 理由: プロダクトが顧客に受け入れられているかの検証が最優先
  • 目安: チャーンレート10%以下を目指す

成長期(スケール期):

  • 優先KGI: NRR、Expansion MRR
  • 理由: 既存顧客からの収益成長がスケーラビリティの鍵
  • 目安: NRR 110%以上、Expansion MRR比率向上

成熟期(効率化期):

  • 優先KGI: LTV、LTV/CAC
  • 理由: 投資効率の最適化、収益性の向上
  • 目安: LTV/CAC 3以上、オペレーション効率化

(3) SMART基準でのKGI設定

KGI設定時は、SMART基準を意識すると適切な目標設定ができます:

  • S(Specific / 明確性): 「チャーンレートを下げる」ではなく「月次チャーンレートを5%以下にする」
  • M(Measurable / 計量性): 数値で測定可能な指標にする
  • A(Achievable / 達成可能性): 現実的にチャレンジできる目標値
  • R(Relevant / 関連性): 事業目標・経営戦略と整合している
  • T(Time-bound / 適時性): 期限を明確にする(例:今期末までに)

KGI設定の例:

  • △ 曖昧: 「顧客満足度を高める」
  • ○ SMART: 「2024年度末までに月次チャーンレートを8%から5%に改善する」

KGI達成のための測定・改善方法

(1) 先行・一致・遅行指標の分類と管理

KGI達成に向けて、指標を3つに分類して管理すると効果的です:

先行指標(Leading Indicators):

  • 将来の結果を予測できる指標
  • 例: オンボーディング完了率、ヘルススコア、機能利用率
  • 特徴: 早期に問題を検知し、対策を打てる

一致指標(Coincident Indicators):

  • 現在の活動状況を示す指標
  • 例: 顧客対話数、MTG実施回数、サポートチケット数
  • 特徴: 活動量をモニタリングできる

遅行指標(Lagging Indicators):

  • 過去の結果を示す指標
  • 例: チャーンレート、NRR、NPS
  • 特徴: KGIの多くはここに該当

管理のポイント:

  • 先行指標を重視することで、遅行指標(KGI)の悪化を事前に防げる
  • 一致指標で活動量を担保しつつ、遅行指標で成果を評価

(2) 測定ツールと可視化方法

KGI/KPIを継続的に測定するためのツール例:

CRM/CSプラットフォーム:

  • Salesforce(Service Cloud)
  • HubSpot(Service Hub)
  • Gainsight、Totango(CS専門ツール)
  • CustomerSuccess、Onboarding(国産ツール)

データ可視化:

  • ダッシュボードツール(Tableau、Looker、Google Data Studio)
  • スプレッドシート(Google Sheets、Excel)

可視化のポイント:

  • KGI/KPIを一覧できるダッシュボードを構築
  • 週次・月次で定期的にレビュー
  • 経営層向けと現場向けで粒度を分ける

(3) KGI改善のための具体的アクション

KGI別の改善アクション例:

チャーンレート改善:

  • オンボーディングプログラムの強化(最初の90日が重要)
  • 解約予兆のある顧客への早期介入(ヘルススコア活用)
  • 解約理由の分析とプロダクトフィードバック

NRR向上:

  • アップセル・クロスセル機会の特定(利用状況分析)
  • 契約更新時の拡大提案
  • 成功事例の横展開(類似顧客への提案)

LTV向上:

  • チャーンレート改善(契約期間延長)
  • ARPU向上(アップセル)
  • 顧客セグメント別のアプローチ最適化

まとめ:ビジネスモデル別のKGI設定ポイント

カスタマーサクセスのKGI設定では、ビジネスモデルと企業ステージに応じた適切な指標選定が重要です。

KGI設定チェックリスト:

✅ KGIは経営目標と整合しているか? ✅ SMART基準を満たしているか? ✅ KGIからKPIへの分解ができているか? ✅ 先行・一致・遅行指標をバランスよく設定しているか? ✅ 測定・可視化の仕組みがあるか? ✅ 定期的なレビュー体制があるか?

ビジネスモデル別の推奨KGI:

ビジネスモデル 第一優先KGI 第二優先KGI
SaaS(サブスク) NRR、チャーンレート LTV、MRR
従量課金 利用量、GMV アクティブ率
ハイブリッド NRR 機能利用率

次のアクション:

  1. 自社のビジネスモデルと成長ステージを確認する
  2. 現在のKGI/KPI設定状況を棚卸しする
  3. KGIを1〜2つに絞り、SMART基準で再定義する
  4. KGIから逆算してKPIを設定する
  5. 測定・可視化の仕組みを構築する
  6. 四半期ごとにレビュー・改善する

※この記事の情報は2024年時点のものです。業界平均値や目安は参考値であり、自社の状況に応じた目標設定が重要です。

よくある質問:

Q: カスタマーサクセスのKGIとして何を設定すべきですか? A: SaaS企業ではLTV(顧客生涯価値)またはMRR(月次経常収益)を設定するのが定石です。既存顧客の収益成長を重視する場合はNRR、解約防止を重視する場合はチャーンレートをKGIにする企業も多いです。

Q: チャーンレートの適正な目標値は何%ですか? A: SaaS業界の平均は約3〜10%、BtoBでは約6.3%が目安と言われています。ただし、自社の成長フェーズや顧客セグメントにより適正値は異なるため、業界平均はあくまで参考値としてください。

Q: KGIとKPIはどう使い分けますか? A: KGIは最終ゴール(LTV、NRR、チャーンレート等)、KPIはKGI達成のためのプロセス指標(オンボーディング完了率、顧客対話数、NPS等)です。KGIから逆算してKPIを設定する「トップダウンアプローチ」が効果的です。

Q: KGI/KPIはどのくらいの頻度で見直すべきですか? A: 四半期ごとに進捗確認を行い、年1回は目標値・指標自体の見直しを行うことが推奨されます。事業環境の変化に応じて柔軟に調整することが重要です。

よくある質問

Q1カスタマーサクセスのKGIとして何を設定すべきですか?

A1SaaS企業ではLTV(顧客生涯価値)またはMRR(月次経常収益)を設定するのが定石です。既存顧客の収益成長を重視する場合はNRR、解約防止を重視する場合はチャーンレートをKGIにする企業も多いです。

Q2チャーンレートの適正な目標値は何%ですか?

A2SaaS業界の平均は約3〜10%、BtoBでは約6.3%が目安と言われています。ただし、自社の成長フェーズや顧客セグメントにより適正値は異なるため、業界平均はあくまで参考値としてください。

Q3KGIとKPIはどう使い分けますか?

A3KGIは最終ゴール(LTV、NRR、チャーンレート等)、KPIはKGI達成のためのプロセス指標(オンボーディング完了率、顧客対話数、NPS等)です。KGIから逆算してKPIを設定する「トップダウンアプローチ」が効果的です。

Q4KGI/KPIはどのくらいの頻度で見直すべきですか?

A4四半期ごとに進捗確認を行い、年1回は目標値・指標自体の見直しを行うことが推奨されます。事業環境の変化に応じて柔軟に調整することが重要です。

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B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部

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