カスタマーサクセスの成果をどう測ればいいか分からない...
「カスタマーサクセス(CS)組織の成果を定量的に評価する必要があるが、適切なKGI設定方法が分からない」「経営層への報告で、CS活動の価値をどう説明すればいいか悩んでいる」
こうした課題を抱えるB2B SaaS企業のCS担当者・マネージャーは少なくありません。カスタマーサクセスは「顧客の成功」を支援する活動ですが、その成果を測る指標が曖昧だと、組織の貢献度を示すことが難しくなります。
この記事では、カスタマーサクセスの代表的なKGI、ビジネスモデル・企業ステージ別の選定基準、測定・改善方法を解説します。
この記事のポイント:
- カスタマーサクセスのKGIは多くの場合、LTV(顧客生涯価値)またはMRR/ARR(経常収益)を設定するのが定石
- KGIから逆算してKPIを設定する「トップダウンアプローチ」が効果的
- チャーンレート(解約率)はKGI達成に直結する最重要KPIの一つ
- 指標は「先行・一致・遅行」に分類して管理すると、改善アクションにつなげやすい
カスタマーサクセスにおけるKGI設定の重要性
カスタマーサクセス組織のKGI(経営目標達成指標)を適切に設定することには、以下のような意義があります:
1. 組織の貢献度を可視化できる
- CS活動が売上・利益にどう貢献しているかを経営層に説明できる
- 「顧客満足」という抽象的な成果を定量化できる
2. チームの方向性が明確になる
- メンバー全員が同じゴールに向かって活動できる
- 優先すべきアクションが明確になる
3. 改善サイクルを回せる
- 目標と実績のギャップを把握できる
- データに基づいた改善策を立案できる
4. リソース配分の根拠になる
- CS組織への投資判断の根拠を示せる
- 人員増強や施策実施の説得材料になる
KGIを設定しないまま活動していると、「何となく頑張っている」状態になり、組織の価値を証明することが困難になります。
KGIとKPIの基礎知識
(1) KGI(経営目標達成指標)とは
KGI(Key Goal Indicator)は、最終的なゴールを定量的に示す指標です。
KGIの特徴:
- 経営目標に直結する「結果指標」
- 一定期間後に測定する「遅行指標」
- 数値として明確に定義できる
カスタマーサクセスのKGI例:
- LTV(顧客生涯価値): 1顧客が契約期間中にもたらす総収益
- MRR/ARR: 月次・年次の経常収益
- NRR(売上継続率): 既存顧客からの収益維持・成長率
- チャーンレート(解約率): 一定期間内の解約顧客の割合
(2) KPI(重要業績評価指標)との違い
KPI(Key Performance Indicator)は、KGI達成のためのプロセス指標です。
| 項目 | KGI | KPI |
|---|---|---|
| 役割 | 最終ゴール | 中間指標 |
| 測定タイミング | 期末(遅行) | 随時(先行・一致) |
| 例 | LTV、NRR、チャーンレート | オンボーディング完了率、顧客対話数、NPS |
カスタマーサクセスのKPI例:
- オンボーディング完了率(先行指標)
- 顧客対話数、MTG実施回数(一致指標)
- NPS(ネットプロモータースコア)
- 機能利用率、ログイン頻度
- サポートチケット対応時間
(3) KGIからKPIへのトップダウンアプローチ
KGI/KPI設定で効果的なのは、「トップダウンアプローチ」です。
トップダウンアプローチの手順:
- KGIを設定する: 最終ゴール(例:年間LTV 20%向上)
- KGIを分解する: LTV = ARPU × 契約期間、契約期間 = 1 ÷ チャーンレート
- 影響要因を特定する: チャーンレートを下げるには?→ オンボーディング完了率向上、顧客満足度向上
- KPIを設定する: オンボーディング完了率 80%以上、NPS 40以上
- アクションを決める: オンボーディングプログラムの改善、定期的なヘルスチェック実施
このように、KGIから逆算してKPIを設定することで、各KPIがKGI達成に貢献する構造を明確にできます。
カスタマーサクセスの代表的なKGI
(1) LTV(顧客生涯価値)
定義: 1顧客が契約期間を通じてもたらす総収益
計算式:
LTV = ARPU(顧客あたり平均収益) × 平均契約期間
または
LTV = ARPU ÷ チャーンレート
SaaS企業でLTVをKGIにする理由:
- カスタマーサクセスの活動が直接影響する指標
- 契約継続・アップセル・クロスセルの成果を包括的に評価
- 経営判断(CAC回収期間、投資判断)に直結
目標設定の目安:
- LTV / CAC(顧客獲得コスト) ≧ 3 が健全なビジネスの目安と言われています
(2) MRR/ARR(月次・年次経常収益)
定義:
- MRR: 月次経常収益(Monthly Recurring Revenue)
- ARR: 年次経常収益(Annual Recurring Revenue)= MRR × 12
計算式:
MRR = 顧客数 × 顧客あたり平均月額料金
MRR/ARRの内訳:
- New MRR: 新規顧客からの収益
- Expansion MRR: 既存顧客のアップセル・クロスセルによる増収
- Contraction MRR: 既存顧客のダウングレードによる減収
- Churn MRR: 解約による減収
カスタマーサクセスが関与する領域:
- Expansion MRRの増加
- Contraction MRR / Churn MRRの減少
(3) NRR(売上継続率)
定義: 既存顧客からの収益が、一定期間後にどれだけ維持・成長しているかを示す指標
計算式:
NRR = (期初MRR + Expansion - Contraction - Churn) ÷ 期初MRR × 100%
NRRの解釈:
- NRR 100%以上: 既存顧客からの収益が成長している(解約分をアップセルで補填)
- NRR 100%未満: 既存顧客からの収益が減少している
目標設定の目安:
- 優良SaaS企業のNRRは120%以上と言われています
- 100%を下回る場合は、チャーン抑制が最優先課題
(4) チャーンレート(解約率)
定義: 一定期間内に解約した顧客(または収益)の割合
計算式:
顧客チャーンレート = 解約顧客数 ÷ 期初顧客数 × 100%
収益チャーンレート = 解約MRR ÷ 期初MRR × 100%
業界平均:
- SaaS業界のチャーンレート平均は約3〜10%
- BtoBでは約6.3%が平均と言われています
注意点:
- 顧客数ベースと収益ベースで数値が異なる場合がある
- 大口顧客の解約は収益チャーンに大きく影響
- 自社の成長フェーズや顧客セグメントにより適正値は異なる
KGI選定の基準と設定プロセス
(1) ビジネスモデル別の適切なKGI
ビジネスモデルによって、優先すべきKGIは異なります:
サブスクリプション型(SaaS):
- 第一優先: NRR、チャーンレート
- 第二優先: LTV、MRR/ARR
- 理由: 継続収益が事業の基盤であり、解約防止・アップセルが重要
トランザクション型(従量課金):
- 第一優先: 利用量、GMV(総取引額)
- 第二優先: アクティブユーザー数、リピート率
- 理由: 利用促進が収益に直結
ハイブリッド型(基本料金+従量課金):
- 第一優先: NRR(基本料金+従量の合計で計算)
- 第二優先: 機能利用率、アップセル率
- 理由: 基本契約の継続と利用拡大の両方が重要
(2) 企業ステージ別のKGI優先順位
企業の成長ステージによっても、優先すべきKGIは変わります:
スタートアップ(PMF探索期):
- 優先KGI: チャーンレート、NPS
- 理由: プロダクトが顧客に受け入れられているかの検証が最優先
- 目安: チャーンレート10%以下を目指す
成長期(スケール期):
- 優先KGI: NRR、Expansion MRR
- 理由: 既存顧客からの収益成長がスケーラビリティの鍵
- 目安: NRR 110%以上、Expansion MRR比率向上
成熟期(効率化期):
- 優先KGI: LTV、LTV/CAC
- 理由: 投資効率の最適化、収益性の向上
- 目安: LTV/CAC 3以上、オペレーション効率化
(3) SMART基準でのKGI設定
KGI設定時は、SMART基準を意識すると適切な目標設定ができます:
- S(Specific / 明確性): 「チャーンレートを下げる」ではなく「月次チャーンレートを5%以下にする」
- M(Measurable / 計量性): 数値で測定可能な指標にする
- A(Achievable / 達成可能性): 現実的にチャレンジできる目標値
- R(Relevant / 関連性): 事業目標・経営戦略と整合している
- T(Time-bound / 適時性): 期限を明確にする(例:今期末までに)
KGI設定の例:
- △ 曖昧: 「顧客満足度を高める」
- ○ SMART: 「2024年度末までに月次チャーンレートを8%から5%に改善する」
KGI達成のための測定・改善方法
(1) 先行・一致・遅行指標の分類と管理
KGI達成に向けて、指標を3つに分類して管理すると効果的です:
先行指標(Leading Indicators):
- 将来の結果を予測できる指標
- 例: オンボーディング完了率、ヘルススコア、機能利用率
- 特徴: 早期に問題を検知し、対策を打てる
一致指標(Coincident Indicators):
- 現在の活動状況を示す指標
- 例: 顧客対話数、MTG実施回数、サポートチケット数
- 特徴: 活動量をモニタリングできる
遅行指標(Lagging Indicators):
- 過去の結果を示す指標
- 例: チャーンレート、NRR、NPS
- 特徴: KGIの多くはここに該当
管理のポイント:
- 先行指標を重視することで、遅行指標(KGI)の悪化を事前に防げる
- 一致指標で活動量を担保しつつ、遅行指標で成果を評価
(2) 測定ツールと可視化方法
KGI/KPIを継続的に測定するためのツール例:
CRM/CSプラットフォーム:
- Salesforce(Service Cloud)
- HubSpot(Service Hub)
- Gainsight、Totango(CS専門ツール)
- CustomerSuccess、Onboarding(国産ツール)
データ可視化:
- ダッシュボードツール(Tableau、Looker、Google Data Studio)
- スプレッドシート(Google Sheets、Excel)
可視化のポイント:
- KGI/KPIを一覧できるダッシュボードを構築
- 週次・月次で定期的にレビュー
- 経営層向けと現場向けで粒度を分ける
(3) KGI改善のための具体的アクション
KGI別の改善アクション例:
チャーンレート改善:
- オンボーディングプログラムの強化(最初の90日が重要)
- 解約予兆のある顧客への早期介入(ヘルススコア活用)
- 解約理由の分析とプロダクトフィードバック
NRR向上:
- アップセル・クロスセル機会の特定(利用状況分析)
- 契約更新時の拡大提案
- 成功事例の横展開(類似顧客への提案)
LTV向上:
- チャーンレート改善(契約期間延長)
- ARPU向上(アップセル)
- 顧客セグメント別のアプローチ最適化
まとめ:ビジネスモデル別のKGI設定ポイント
カスタマーサクセスのKGI設定では、ビジネスモデルと企業ステージに応じた適切な指標選定が重要です。
KGI設定チェックリスト:
✅ KGIは経営目標と整合しているか? ✅ SMART基準を満たしているか? ✅ KGIからKPIへの分解ができているか? ✅ 先行・一致・遅行指標をバランスよく設定しているか? ✅ 測定・可視化の仕組みがあるか? ✅ 定期的なレビュー体制があるか?
ビジネスモデル別の推奨KGI:
| ビジネスモデル | 第一優先KGI | 第二優先KGI |
|---|---|---|
| SaaS(サブスク) | NRR、チャーンレート | LTV、MRR |
| 従量課金 | 利用量、GMV | アクティブ率 |
| ハイブリッド | NRR | 機能利用率 |
次のアクション:
- 自社のビジネスモデルと成長ステージを確認する
- 現在のKGI/KPI設定状況を棚卸しする
- KGIを1〜2つに絞り、SMART基準で再定義する
- KGIから逆算してKPIを設定する
- 測定・可視化の仕組みを構築する
- 四半期ごとにレビュー・改善する
※この記事の情報は2024年時点のものです。業界平均値や目安は参考値であり、自社の状況に応じた目標設定が重要です。
よくある質問:
Q: カスタマーサクセスのKGIとして何を設定すべきですか? A: SaaS企業ではLTV(顧客生涯価値)またはMRR(月次経常収益)を設定するのが定石です。既存顧客の収益成長を重視する場合はNRR、解約防止を重視する場合はチャーンレートをKGIにする企業も多いです。
Q: チャーンレートの適正な目標値は何%ですか? A: SaaS業界の平均は約3〜10%、BtoBでは約6.3%が目安と言われています。ただし、自社の成長フェーズや顧客セグメントにより適正値は異なるため、業界平均はあくまで参考値としてください。
Q: KGIとKPIはどう使い分けますか? A: KGIは最終ゴール(LTV、NRR、チャーンレート等)、KPIはKGI達成のためのプロセス指標(オンボーディング完了率、顧客対話数、NPS等)です。KGIから逆算してKPIを設定する「トップダウンアプローチ」が効果的です。
Q: KGI/KPIはどのくらいの頻度で見直すべきですか? A: 四半期ごとに進捗確認を行い、年1回は目標値・指標自体の見直しを行うことが推奨されます。事業環境の変化に応じて柔軟に調整することが重要です。
