ARRとは?年間経常収益の計算方法・MRRとの違い・SaaS経営指標を解説

著者: B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部公開日: 2025/12/18

ARR(年間経常収益)とは?SaaSビジネスの最重要指標

SaaSビジネスの収益をどう測定すればいいか悩んでいませんか?「売上高だけで経営判断していいのか」「投資家にどの指標を報告すればいいのか」「成長性をどう示せばいいのか」——こうした課題を抱えるB2B SaaS企業の経営企画・財務担当者は少なくありません。

ARR(Annual Recurring Revenue/年間経常収益)は、SaaSビジネスの成長性・収益性を測る最重要指標です。この記事では、ARRの基本定義から、計算方法、MRRとの違い、投資家による企業価値評価への活用まで実務視点で解説します。

この記事のポイント:

  • ARRは継続的に得られる年間売上であり、一時的な収益を除外する
  • 基本計算式はARR = MRR × 12、詳細にはNew/Expansion/Downgrade/Churn MRRを考慮
  • BtoB向けの年間契約型SaaSではARRを重視、BtoC向けの短期契約型ではMRRを重視
  • ARRは資金調達時のバリュエーション(企業価値評価)に用いられる重要指標
  • 日本のトップSaaS企業は20-30%以上の成長率を維持、成長維持率93%で米国を上回る

ARR(年間経常収益)とは?SaaSビジネスの最重要指標

(1) ARR(Annual Recurring Revenue)の定義

ARR(Annual Recurring Revenue)は、年間経常収益を意味し、サブスクリプションビジネスから継続的に得られる年間売上を指します。

ARRの特徴:

  • 継続的に得られる収益のみを対象
  • 一時的な売上(初期費用、更新費用、コンサルティング費等)は除外
  • 年単位での成長性・収益性を測定

(出典: Magic Moment「ARR とは?計算手法や重要性、具体的な活用法まで徹底解説」)

ARRは、SaaSなどサブスクリプションビジネスにおいて欠かせない指標であり、多くの企業がARRをKPIに設定しています。

(2) サブスクリプションビジネスでのARRの役割

サブスクリプションビジネス(定期購読型ビジネスモデル)では、継続的な収益が事業の核となります。ARRは以下の役割を果たします:

継続的な収益性の可視化:

  • 顧客との長期的な関係から得られる収益を把握
  • 事業の安定性を示す指標

成長性の測定:

  • 前年比でどれだけ増加したかを定期的にモニタリング
  • 成長戦略の効果を数値で確認

事業の健全性判断:

  • 解約率や契約更新率と組み合わせて、事業の持続可能性を評価

(出典: カオナビ「ARRとは?【SaaSビジネスの重要KPI】MRRとの違い、計算方法」)

(3) 一時的な売上を除外する理由

ARRの計算では、初期費用や更新費用などの一時的な売上を除外します。

除外する理由:

  • 継続的な収益の純粋性を保つため
  • 一時的な売上を含めると、ARRの変動が大きくなり、成長性を正確に測定できない
  • 投資家による企業価値評価では、継続的な収益が重視される

除外する項目の例:

  • 初期費用(導入費用、設定費用)
  • 更新費用(契約更新時の手数料)
  • コンサルティング費用
  • カスタマイズ費用

(出典: Magic Moment「ARR とは?計算手法や重要性、具体的な活用法まで徹底解説」)

ARRは継続的な収益のみを対象とすることで、事業の真の成長性を示す指標となります。

ARRの計算方法:基本式と詳細式

ARRの計算には、基本式と詳細式の2つのアプローチがあります。

(1) 基本計算式:ARR = MRR × 12

最もシンプルな計算式は、月次経常収益(MRR)を12倍する方法です。

基本式:

ARR = MRR × 12

例:

  • 月次経常収益(MRR)が500万円の場合
  • ARR = 500万円 × 12 = 6,000万円

(出典: ferret One「ARRとは?SaaSビジネスの重要指標となる要因と計算方法」)

この基本式は、MRRが安定している場合に有効です。

(2) 詳細計算式:前月MRR +(New MRR + Expansion MRR − Churn MRR − Downgrade MRR)× 12

より正確な計算では、4種類のMRR(New、Expansion、Downgrade、Churn)を考慮します。

詳細式:

ARR = [前月MRR + (New MRR + Expansion MRR − Churn MRR − Downgrade MRR)] × 12

(出典: ferret One「ARRとは?SaaSビジネスの重要指標となる要因と計算方法」)

この詳細式は、月ごとのMRR変動を反映するため、より実態に即したARRを算出できます。

(3) 4種類のMRR:New、Expansion、Downgrade、Churn

MRRは以下の4種類に分類されます:

New MRR(新規MRR):

  • 当月に獲得した新規顧客からの月間収益
  • 例:新規契約5件、月額10万円/件 → New MRR = 50万円

Expansion MRR(拡大MRR):

  • 既存顧客のプランアップグレードやオプション追加で得られた月間収益
  • 例:10件のアップグレード、追加収益5万円/件 → Expansion MRR = 50万円

Downgrade MRR(縮小MRR):

  • 既存顧客のプランダウングレードやオプション解約で減少した月間収益
  • 例:3件のダウングレード、減少収益3万円/件 → Downgrade MRR = 9万円

Churn MRR(解約MRR):

  • 解約顧客から得ていた月間収益
  • 例:解約5件、月額10万円/件 → Churn MRR = 50万円

(出典: ferret One「ARRとは?SaaSビジネスの重要指標となる要因と計算方法」)

これら4種類のMRRを把握することで、ARRの増減要因を詳細に分析できます。

(4) 計算時の注意点:初期費用・更新費用の除外

計算対象に含むもの:

  • 月額・年額のサブスクリプション収益
  • 継続的に発生する追加オプション費用

計算対象から除外するもの:

  • 初期費用(導入費用、設定費用)
  • 更新費用(契約更新時の手数料)
  • コンサルティング費用
  • カスタマイズ費用

(出典: NTTコムオンライン Mixpanel「MRR・ARRとは?計算方法やSaaSでの重要性、改善する方法を解説」)

一時的な売上を含めるとARRの純粋性が損なわれるため、計算対象を明確に定義する必要があります。

ARRとMRRの違い:年単位と月単位の経常収益

ARRとMRRは、どちらも経常収益を測る指標ですが、測定単位と活用シーンが異なります。

(1) ARRとMRRの基本的な違い

ARR(Annual Recurring Revenue):

  • 年単位の経常収益
  • 長期的な成長性を測定
  • 年間契約が一般的なBtoB向けSaaSで多用

MRR(Monthly Recurring Revenue):

  • 月単位の経常収益
  • 短期的な変動を測定
  • 月額契約が一般的なBtoC向けSaaSで多用

(出典: NTTコムオンライン Mixpanel「MRR・ARRとは?計算方法やSaaSでの重要性、改善する方法を解説」)

(2) BtoB向けSaaS(年間契約)はARR重視

BtoB向けSaaSでは、年間契約が一般的であり、ARRを重視する傾向があります。

理由:

  • 年間契約のため、年単位での収益見通しが立てやすい
  • 投資家は年単位の成長性を重視
  • 資金調達時のバリュエーションでARRが用いられる

代表的なBtoB SaaS企業の例:

  • Sansan、freee、ラクス等(ARR100億円超え企業)

(出典: All Star SaaS「ココが凄いよ!日本のSaaS【1】:SaaS上場企業の成長維持率の高さと、ARR 100億円超えの成長戦略のヒント」)

(3) BtoC向けSaaS(短期契約)はMRR重視

BtoC向けSaaSでは、月額契約が一般的であり、MRRを重視する傾向があります。

理由:

  • 月額契約のため、月単位での収益変動を追う必要がある
  • 解約率が高く、短期的な変動を捉えることが重要
  • 月ごとの施策効果を測定しやすい

代表的なBtoC SaaSの例:

  • 動画配信サービス、音楽配信サービス等(月額課金型)

(出典: NTTコムオンライン Mixpanel「MRR・ARRとは?計算方法やSaaSでの重要性、改善する方法を解説」)

(4) ARR = MRR × 12の関係性

ARRとMRRは、基本的には以下の関係性があります:

ARR = MRR × 12

ただし、この関係性が成り立つのは、MRRが安定している場合です。月ごとにMRRが大きく変動する場合は、詳細計算式を用いる必要があります。

実務上の使い分け:

  • 月次での進捗確認にはMRRを使用
  • 年次での成長性評価にはARRを使用
  • 投資家への報告ではARRを使用(資金調達時)

ARRの重要性:投資家・経営者の共通言語

ARRは、SaaSビジネスにおいて投資家・経営者の共通言語として機能しています。

(1) 継続的な収益性と成長性の可視化

ARRは、継続的な収益性と成長性を一つの数値で可視化できます。

継続的な収益性:

  • 顧客との長期的な関係から得られる収益を把握
  • 事業の安定性を示す

成長性:

  • 前年比でどれだけ増加したかを定期的にモニタリング
  • 成長戦略の効果を数値で確認

(出典: Magic Moment「ARR とは?計算手法や重要性、具体的な活用法まで徹底解説」)

ARRは、継続的な収益の見通しを示しますが、実際の収益は解約率や契約更新率により変動する点に注意が必要です。

(2) 資金調達時のバリュエーション(企業価値評価)

ARRは、資金調達時の企業価値評価(バリュエーション)に用いられる重要指標です。

バリュエーションにおけるARRの役割:

  • ARRの規模と成長率により、企業価値の倍率が決定される
  • 2024年時点で、SaaS企業のバリュエーションにおけるARR倍率が注目されている

(出典: ScaleXP「2024 ARR and revenue valuation multiples for SaaS companies」)

例:

  • ARR 10億円、成長率30%の企業:企業価値 = ARR × 8〜12倍 = 80〜120億円(仮定)
  • ARR 100億円、成長率20%の企業:企業価値 = ARR × 5〜8倍 = 500〜800億円(仮定)

※倍率は成長率、収益性、市場環境により変動します。

ARRの成長率と規模は、資金調達額や企業価値に大きく影響します。

(3) 事業の健全性判断とKPI設定

ARRは、事業の健全性を判断するKPI(重要業績評価指標)として広く利用されています。

KPIとしてのARR:

  • 経営者が成長戦略の進捗を確認
  • 部署ごとの目標設定(営業部:New ARR目標、カスタマーサクセス部:Churn ARR削減目標)
  • 投資家への定期報告

(出典: カオナビ「ARRとは?【SaaSビジネスの重要KPI】MRRとの違い、計算方法」)

ARRは単なる数値ではなく、事業戦略と連動したKPIとして機能します。

(4) 2024年のトレンド:ARRの重要性増大

2024年時点で、ARRの重要性はさらに増しています。

トレンド:

  • SaaSビジネスの評価指標としてARRが標準化
  • 投資家・経営者の共通言語として定着
  • 日本のSaaS企業も米国同様にARRを重視

(出典: ScaleXP「2024 ARR and revenue valuation multiples for SaaS companies」)

ARRは、SaaSビジネスにおける最重要指標としての地位を確立しています。

ARR向上施策と成長率の目安

ARRを向上させるには、New ARR増加、Expansion ARR増加、Churn ARR削減の3つのアプローチがあります。

(1) New ARR増加:新規顧客獲得

施策:

  • マーケティング施策の強化(リード獲得、コンバージョン率向上)
  • 営業チームの拡大・生産性向上
  • フリートライアルの最適化(コンバージョン率向上)

目標設定例:

  • New ARRを前年比150%にする
  • 月間新規契約件数を20件にする

New ARR増加は、短期的にARRを大きく伸ばす最も直接的な方法です。

(2) Expansion ARR増加:アップセル・クロスセル

施策:

  • 既存顧客へのアップセル(上位プランへの移行)
  • クロスセル(追加オプション・機能の販売)
  • カスタマーサクセスによる利用促進

目標設定例:

  • Expansion ARRを前年比120%にする
  • 既存顧客の20%を上位プランに移行させる

Expansion ARRは、既存顧客からの収益を最大化する方法であり、獲得コストが低いため収益性が高いです。

(3) Churn ARR削減:カスタマーサクセス、解約率改善

施策:

  • カスタマーサクセス体制の強化(オンボーディング、定期フォロー)
  • 解約理由の分析と改善
  • プロダクトの機能改善(顧客ニーズへの対応)

目標設定例:

  • Churn ARRを前年比80%に削減
  • 解約率を年間10%以下に抑える

Churn ARR削減は、長期的にARRを安定させるために不可欠です。

(4) 成長率の目安:日本のトップSaaS企業は20-30%以上、成長維持率93%

日本のトップSaaS企業は、高い成長率を維持しています。

日本のトップSaaS企業5社の成長データ:

  • 成長維持率: 93%(米国82%を上回る)
  • ARR100億円超え企業でも20-30%の成長率を維持
  • ラクス: 5期連続30%以上のARR成長率

(出典: All Star SaaS「ココが凄いよ!日本のSaaS【1】:SaaS上場企業の成長維持率の高さと、ARR 100億円超えの成長戦略のヒント」)

成長率の目安:

  • スタートアップ期(ARR 1億円未満): 100%以上が理想
  • 成長期(ARR 1〜10億円): 50〜100%
  • 拡大期(ARR 10〜100億円): 30〜50%
  • 成熟期(ARR 100億円以上): 20〜30%

※事業規模が大きくなるほど成長率は鈍化する傾向があります。

まとめ:ARRで測るSaaSビジネスの成長

ARR(Annual Recurring Revenue/年間経常収益)は、サブスクリプションビジネスから継続的に得られる年間売上を示す指標であり、SaaSビジネスの成長性・収益性を測る最重要指標です。

基本計算式はARR = MRR × 12ですが、より正確には、New MRR、Expansion MRR、Downgrade MRR、Churn MRRを考慮した詳細計算式を用います。BtoB向けの年間契約型SaaSではARRを重視し、BtoC向けの短期契約型SaaSではMRRを重視する傾向があります。

次のアクション:

  • 自社のARRを計算する(基本式または詳細式)
  • 4種類のMRR(New、Expansion、Downgrade、Churn)を把握する
  • ARRの成長率を前年比で測定する
  • New ARR増加、Expansion ARR増加、Churn ARR削減の施策を設計する
  • 投資家・経営層への報告資料にARRを含める

ARRは、投資家・経営者の共通言語として機能し、資金調達時のバリュエーションや事業の健全性判断に用いられます。自社の成長戦略と連動させ、ARRをKPIとして活用してください。

よくある質問

Q1ARRの理想的な成長率はどのくらいですか?

A1日本のトップSaaS企業は20-30%以上の成長率を維持しており(ARR100億円超えでも)、成長維持率は日本93%、米国82%となっています。事業規模が大きくなるほど成長率は鈍化する傾向があり、スタートアップ期は100%以上、成長期は50〜100%、拡大期は30〜50%、成熟期は20〜30%が目安とされています。

Q2ARRはどのように計算すればいいですか?

A2基本式はARR = MRR × 12です。より正確には、前月MRR +(New MRR + Expansion MRR − Churn MRR − Downgrade MRR)× 12で算出します。一時的な売上(初期費用、更新費用、コンサルティング費等)は除外し、継続的に得られる収益のみを対象とすることが重要です。

Q3ARRとMRRはどう使い分けますか?

A3BtoB向けの年間契約型SaaSではARRを重視し、BtoC向けの短期契約型SaaSではMRRを重視する傾向があります。ARRは長期的な成長性を測定するのに適しており、投資家への報告や資金調達時に用いられます。MRRは短期的な変動を捉えるのに適しており、月次での進捗確認に用いられます。

Q4ARRは資金調達でどう使われますか?

A4ARRは投資家による企業価値評価(バリュエーション)の重要指標です。ARRの規模と成長率により評価倍率が変動し、資金調達額や企業価値に大きく影響します。2024年時点で、SaaS企業のバリュエーションにおけるARR倍率が注目されており、ARRの成長率が高いほど高い評価倍率が適用される傾向があります。

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B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部

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