スタートアップで「1人目マーケター」が重要視される背景
実は、1人目マーケターの成否は、戦略立案力よりも「仕組みを作り切る実行力」で決まります。スタートアップでマーケティング担当として入社した方、あるいは1人目マーケターを採用しようとしている創業者の方にとって、「何から始めるべきか」という問いは切実です。
2025年上半期の日本スタートアップの資金調達総額は3,399億円(デット除く、前年比4%増)、調達社数は1,377社に達しています。また、同期間のIPOは15件、M&Aは97件と、出口戦略の多様化も進んでいます。このような成長市場において、マーケティング基盤を整備できる人材の重要性は高まる一方です。
この記事で分かること
- 1人目マーケターに求められる役割とスキルセット
- 入社後90日で構築すべき基盤とその優先順位
- 成功・失敗パターンから学ぶ実践的なポイント
- 創業者が1人目マーケターを採用する際の判断基準
1人目マーケターの役割と求められるスキル・マインドセット
1人目マーケターは、大企業のマーケティング担当とは根本的に異なる役割を担います。大企業では専門領域ごとに分業化されていますが、スタートアップでは戦略立案から実行、効果検証まで一人でカバーする必要があります。
よくある誤解として、「1人目マーケターは広告運用のプロであるべきだ」という考えがあります。しかし実際には、広告運用は業務の一部に過ぎません。プロダクト理解、セールスとの連携、データ基盤の構築など、マーケティング全体を設計・実行する力が求められます。
MA(Marketing Automation) とは、マーケティング活動を自動化するツールで、リード育成やメール配信を効率化します。SFA(Sales Force Automation) は、営業活動を支援・管理するシステムで、商談管理や顧客情報の一元化を実現します。1人目マーケターは、これらのツールを選定・設定し、営業チームと連携する仕組みを構築する役割を担います。
また、CAC(Customer Acquisition Cost) は顧客獲得コスト、LTV(Life Time Value) は顧客生涯価値を指し、これらの指標を設計・計測できることも重要なスキルです。
1人目マーケターの業務範囲
1人目マーケターが担当する業務は多岐にわたります。主な領域として、リード獲得(広告、SEO、コンテンツマーケティング)、リード育成(メールナーチャリング、ウェビナー)、営業連携(リードの引き渡し、フィードバック収集)が挙げられます。
MQL(Marketing Qualified Lead) とは、マーケティング部門が商談化の見込みありと判定したリードを指します。1人目マーケターは、MQLの定義を営業チームと合意し、リードの質を担保する仕組みを作る必要があります。
成功する1人目マーケターの特徴
成功する1人目マーケターには共通する特徴があります。それは、「完璧を求めず、まず動く」姿勢と「データで判断する」習慣です。
大企業でのマーケティング経験があれば成功できるという誤解がありますが、アーリーステージのスタートアップでは、リソースが限られた中で優先順位をつけ、自ら手を動かす適応力が求められます。戦略を語るだけでなく、仕組みを作り切る実行力こそが成否を分けます。
1人目マーケターが最初の90日で構築すべき基盤
1人目マーケターが最初に取り組むべきは、広告運用やコンテンツ制作といった「施策」ではありません。まず構築すべきは、データ計測環境とリード管理の基盤です。この順序を間違えると、施策を実行しても効果検証ができず、成果が見えない状態に陥ります。
よくある失敗パターンとして、1人目マーケターが広告運用やコンテンツ制作といった施策から始めてしまい、データ計測環境やリード管理基盤が未整備のまま成果が見えない状態に陥るケースがあります。このアプローチでは、どの施策が効いているのか判断できず、投資判断を誤るリスクが高まります。
【チェックリスト】1人目マーケター最初の90日チェックリスト
- GA4の設定と主要ページのトラッキング確認
- Google Tag Managerの導入とコンバージョン計測設定
- SFAツールの選定と初期設定完了
- リードステータスの定義(新規/対応中/商談化/失注など)
- 営業チームとのMQL定義の合意
- リード情報の入力ルール策定
- MAツールの選定と導入
- ウェルカムメールの設定
- リードスコアリングの初期設計
- 週次レポートのフォーマット作成
- 主要KPIの定義(リード数、MQL数、商談化率など)
- 経営陣への報告フロー確立
- 90日時点のKPIレビュー実施
- 次の90日の優先施策決定
初月:データ計測環境とSFAの設定
最初の30日で取り組むべきは、データ計測環境の構築とSFAの設定です。
GA4(Google Analytics 4)とGTM(Google Tag Manager)を導入し、Webサイトの主要なアクションを計測できる状態を作ります。問い合わせフォーム送信、資料ダウンロード、デモ申し込みなど、ビジネス上重要なコンバージョンを定義し、計測設定を行います。
SFAについては、無料プランから始められるツールも多く存在します。初期段階では高機能なツールを選ぶ必要はなく、リード情報を一元管理し、営業チームと共有できる状態を作ることが優先です。
2ヶ月目:リード育成の仕組み化
2ヶ月目は、MAを導入し、リード育成の仕組みを整備します。
MA導入だけでは成果は出ません。設定・運用ルールの整備が成否を分けます。まずはシンプルな施策から始め、効果を検証しながら改善していくアプローチが有効です。
具体的には、ウェルカムメール(資料ダウンロード後の自動送信)、ステップメール(定期的な情報提供)、スコアリング(行動に応じたリードの優先度付け)を順次導入します。
3ヶ月目:KPI検証とレビュー
3ヶ月目は、90日間の取り組みを振り返り、KPIを検証します。
CAC(顧客獲得コスト) とLTV(顧客生涯価値) のバランスを確認し、マーケティング投資の効率性を評価します。リードからMQLへの転換率、MQLから商談への転換率など、ファネル全体を可視化し、ボトルネックを特定します。
この段階で、次の90日に向けた優先施策を決定します。データに基づいた判断ができる状態を作ることが、最初の90日の最大の成果です。
1人目マーケターの成功事例と失敗パターン
1人目マーケターの成功と失敗を分けるのは、施策の巧拙よりも、仕組みを作れるかどうかです。ここでは、参考になる事例と、避けるべき失敗パターンを紹介します。
成功事例:仕組み構築から成果につなげたケース
ある1人目マーケターの事例では、CRM構築とBIダッシュボードによる可視化に注力した結果、CVR150%向上、年間3,000万円の売上増加、返信率200%アップという成果が報告されています。この事例は個別の状況に依存するため一般化には注意が必要ですが、「仕組みを先に作る」アプローチの有効性を示しています。
また、別のBtoBメディアの事例では、登録者数を3,000名から52,000名に、オウンドメディアを0から月間40万PVに成長させた実績があります。これも施策の前に計測・分析基盤を整備したことが成功要因として挙げられています。
よくある失敗パターンと回避策
スタートアップの失敗要因に関する調査(グローバルデータ)によると、資金不足(38%)、市場ニーズの欠如(35%)、社内問題(14%)が上位を占めています。
マーケターの視点では、「市場ニーズの欠如」は事前の検証で回避できる可能性があります。また、「資金不足」についても、効率的なマーケティング投資により燃焼率を抑えることで、リスクを軽減できます。
施策先行型の失敗を避けるためには、以下の点を意識することが重要です:
- 施策実行前に計測環境を整備する
- 仮説を立ててから施策を実行し、検証サイクルを回す
- 経営陣と期待値をすり合わせ、短期的な成果を求めすぎない
創業者が1人目マーケターを採用する際のポイント
創業者の立場から見ると、1人目マーケターの採用は会社の成長を左右する重要な意思決定です。採用基準と入社後の期待値設定が成功の鍵を握ります。
2024年のIPO資金調達額は1,741億円で、2027年度目標は1,800億円とされています。出口を見据えた成長を実現するためには、マーケティング基盤の整備が不可欠です。
ABM(Account Based Marketing) とは、特定の企業アカウントをターゲットに絞り込んで行うマーケティング手法です。BtoBスタートアップでは、このようなターゲティング手法を理解し、実践できる人材が求められます。
採用時に見るべきスキルと経験
1人目マーケターを採用する際に見るべきポイントは、専門スキルよりも「仕組みを作り切る力」です。
具体的には、以下の経験・スキルが参考になります:
- MA/SFAの設定・運用経験
- データ分析に基づく意思決定の実績
- 営業チームとの連携経験
- 限られたリソースでの成果創出経験
近年では、ARR(年間経常収益)の成長に貢献した経験を持つ人材の市場価値が高まっているとされています。ただし、年収相場は求人サイトベースの情報が多く、実態とは乖離がある可能性があります。
入社後90日の期待値設定
1人目マーケターを採用した後、最初の90日で何を期待するかを明確にすることが重要です。
前述の90日チェックリストを参考に、以下のような期待値を設定することが考えられます:
- 初月:データ計測環境とSFAの設定完了
- 2ヶ月目:MAの導入とリード育成フローの整備
- 3ヶ月目:KPIレビューと次期優先施策の提案
過度な成果を短期間で求めると、施策先行型の失敗に陥るリスクがあります。仕組みを作る期間として、最初の90日を位置づけることが重要です。
まとめ:1人目マーケターとして成果を出すために必要なこと
スタートアップの1人目マーケターとして成果を出すためには、施策の実行よりも先に、データ計測とリード管理の基盤を構築することが重要です。
本記事のポイントをまとめると:
- 1人目マーケターは大企業のマーケターとは異なり、全領域をカバーする実行力が求められる
- 最初の90日は、施策ではなく仕組み作りに注力する
- データに基づいた判断ができる環境を整えることが、長期的な成果につながる
- 創業者は、採用時のスキル評価と入社後の期待値設定を適切に行う
1人目マーケターの成否は、戦略立案力よりも「仕組みを作り切る実行力」で決まります。本記事で紹介した90日チェックリストを参考に、まずはデータ計測環境とSFAの設定から着手してみてください。
