SIer営業とは|市場規模と業界概要
先に答えを言うと、SIer営業で成果を出すには、顧客課題のヒアリング力とエンジニアとの連携力が不可欠であり、長期案件を管理するためのSFA/CRM活用スキルを身につけることで、御用聞き営業から脱却し提案型営業に進化できます。
SIer(システムインテグレーター) とは、顧客の業務課題に対し、システムの企画・設計・開発・導入・運用を一括して請け負うIT企業の総称です。日本の情報サービス産業(SIerを含む)の売上は約18.1兆円(2022年度)にのぼり、システム開発型が主要な構成要素となっています。
システム開発業の特徴として、従業員数と売上高の相関係数が0.979と非常に高いという分析があります(分析手法の妥当性は未検証)。これは「人月×単価」が売上のコアであることを示唆しており、SIer営業は単に製品を売るのではなく、エンジニアリソースと顧客課題をマッチングさせる役割を担っています。
近年、SIer営業には「御用聞き」から「課題仮説を持った提案型営業」への転換が求められています。本記事では、SIer営業の業務プロセス、必要なスキル、SaaS営業との違い、そして案件管理の実践方法について解説します。
この記事で分かること
- SIer営業の仕事内容と業務プロセスの全体像
- SIer営業に必要なスキルと自己診断チェックリスト
- SIer営業とSaaS営業の違い(商材特性・評価軸・年収)
- 属人営業からの脱却とSFA/CRM活用のポイント
SIer営業の仕事内容と業務プロセス
SIer営業の業務は、アカウントプランニングから受注後のフォローまで、長期にわたるプロセスを一気通貫で管理することが特徴です。
アカウント営業とは、特定の顧客企業(アカウント)を担当し、長期的な関係構築と継続的な売上拡大を目指す営業スタイルです。SIer営業の多くはこのアカウント営業の形態をとり、担当企業との関係を数年単位で深めていきます。
大規模案件では「顧客の政治・意思決定構造のマネジメント」と「社内リソース調整」が営業の主要業務となります。単に製品を説明するだけでなく、顧客組織内のキーパーソンを把握し、社内のエンジニアやプロジェクトマネージャーと連携して提案を組み立てる能力が求められます。
アカウントプランニングから提案までの流れ
提案前のプロセスは、大きく以下のステップで進みます。
- アカウントプランニング: 担当顧客の事業戦略・IT投資計画を把握し、提案機会を特定する
- 課題ヒアリング: 顧客の業務課題や要望を深く理解する
- ソリューション構想: エンジニアと連携し、課題解決に向けたシステム構成を検討する
- RFI/RFP対応: 顧客からの情報提供依頼や提案依頼に応じて提案書を作成する
- プレゼンテーション・交渉: 提案内容を説明し、条件交渉を行う
RFP/RFIについて説明します。RFP(提案依頼書) は発注側がベンダーに具体的な提案を求める文書であり、RFI(情報提供依頼書) は情報収集段階で発行する文書です。RFP対応では、顧客の要件を正確に理解し、自社の強みを活かした提案を行うことが重要です。
受注後のプロジェクト進行とフォロー
SIer営業の仕事は受注で終わりではありません。プロジェクト進行中も顧客との関係を維持し、追加要件への対応や次の案件につなげる活動を継続します。
SIerでは「単発売り切り」ではなく「アカウント収益最大化」がKPIになりやすい傾向があります。稼働後の追加提案・周辺システムへの展開が重要視されており、長期的な視点でアカウントを育てる姿勢が求められます。
PoC(Proof of Concept) とは、概念検証のことです。本格導入前に小規模で実証実験を行い、技術的な実現可能性や効果を検証するプロセスです。大規模案件では、PoCを経て本格導入に進むケースが多く、営業はPoC提案から関与することがあります。
SIer営業に必要なスキル
SIer営業で成果を出すために必要なスキルは、技術理解力、顧客課題のヒアリング力、そしてエンジニアとの連携力の3つに大別されます。
ある事例では、大規模SIer営業として2つの大企業グループを担当し、部下1名とともに年間約15億円を受注・売上したという現場レポートがあります(個別の事例であり、業界平均ではありません)。このような大規模案件を担当するには、高度な調整力と顧客との信頼関係構築が不可欠です。
【チェックリスト】SIer営業スキル自己診断チェックリスト
- 自社が扱う技術領域(クラウド、AI、データ基盤等)の概要を自分の言葉で説明できる
- 顧客の業界動向や経営課題について情報収集し、仮説を持って商談に臨んでいる
- 顧客の意思決定構造(キーパーソン、決裁フロー)を把握している
- エンジニアやPMと協力して提案内容を組み立てることができる
- RFP/RFIの内容を正確に理解し、要件に沿った提案書を作成できる
- 案件情報をSFA/CRMに適切に入力し、チームで共有している
- 受注後も顧客との関係を維持し、追加提案や周辺展開を行っている
- 商談の進捗や課題を上司やチームに適切に報告・相談できる
- 競合他社の動向や強み・弱みを把握している
- 長期案件のパイプライン管理(確度・金額・時期)ができている
技術理解力とヒアリング力
SIer営業に必要な基本スキルとして、まず技術理解力が挙げられます。
よくある誤解として、「技術内容はすべてSE任せでよい」という考え方は誤りです。 近年は生成AIやデータ基盤について「何ができて、どの業務に効くか」を自分の言葉で説明できるレベルが求められています。技術の詳細はエンジニアに任せるとしても、顧客の業務課題と技術を結びつける役割は営業が担う必要があります。
ヒアリング力も重要です。顧客が表面的に語る「やりたいこと」の背景にある「解決したい課題」を引き出し、言語化する能力が求められます。課題仮説を持って商談に臨み、顧客との対話を通じて仮説を検証・修正していくアプローチが主流化しています。
社内調整力とエンジニア連携力
SIer営業は「調整役」にとどまるのではなく、「課題解決の主役」になることが求められます。
顧客課題の言語化と、それを解決するための社内リソース(エンジニア、PM、コンサルタント等)のデザインを担う役割です。提案段階からエンジニアを巻き込み、技術的な実現可能性を確認しながら提案を組み立てることで、顧客の期待に応えられる提案が可能になります。
SIer営業とSaaS営業の違い
SIer営業とSaaS営業は、商材特性の違いから営業スタイルや評価軸が大きく異なります。どちらが優れているということではなく、自身の適性やキャリア志向に合わせて選択することが重要です。
【比較表】SIer営業とSaaS営業の比較表
| 項目 | SIer営業 | SaaS営業 |
|---|---|---|
| 商材特性 | カスタム開発・長期プロジェクト | 標準プロダクト・月額課金 |
| 営業サイクル | 数ヶ月〜数年 | 数週間〜数ヶ月 |
| 単価 | 数百万〜数十億円 | 数万〜数百万円/年 |
| 主なKPI | 受注金額・アカウント収益 | ARR・MRR・解約率 |
| 営業スタイル | アカウント営業・提案型 | インサイドセールス併用 |
| 顧客との関係 | 長期的・深い関与 | 継続的だが接点は限定的 |
| 技術理解 | 広範なシステム知識が必要 | 自社プロダクトの深い理解 |
商材特性と営業スタイルの違い
SIer営業はカスタム開発・長期プロジェクト型の商材を扱います。顧客の要件に合わせてシステムを設計・開発するため、営業サイクルは数ヶ月から数年に及ぶことも珍しくありません。一方、SaaS営業は標準化されたプロダクトを月額課金で提供するモデルであり、営業サイクルは比較的短い傾向があります。
営業スタイルも異なります。SIer営業は特定のアカウントを深く担当するアカウント営業が主流です。SaaS営業ではインサイドセールスとフィールドセールスの分業や、カスタマーサクセスとの連携が重視される傾向があります。
評価軸と年収の違い
SIer営業の主なKPIは受注金額やアカウント収益です。ARR(Annual Recurring Revenue) とは、年間経常収益のことで、SaaSビジネスで重視される、サブスクリプションによる年間の定期収入を指します。SaaS営業ではこのARRやMRR(月間経常収益)、解約率などがKPIとなります。
転職市場データによると、SIer/SES営業の年収は平均500〜650万円台、SaaS営業は平均600〜800万円台とされています(民間転職サイトの推計値であり、公的統計ではありません)。この差は商材特性や評価軸の違いに加え、SaaS企業にはスタートアップや外資系が多く含まれることも影響していると考えられます。
SIer営業の課題と案件管理の実践
多くのSIer・IT販社では「技術者依存・属人営業」が続いており、商談情報が個人に閉じることが課題になっているという指摘があります(定性調査ベースであり、サンプル数は限定的)。
案件情報を属人的に管理し、チームでの情報共有や引き継ぎに支障をきたすケースは失敗パターンの典型です。 担当者の異動や退職で案件情報が失われたり、チーム内で重複した活動が発生したりするリスクがあります。
属人営業の課題と情報共有の重要性
属人営業がもたらす具体的なリスクとして、以下が挙げられます。
- 情報の断絶: 担当者変更時に顧客との関係性や過去の経緯が引き継がれない
- 機会損失: 他の営業が持つ情報やノウハウが共有されず、提案の質が上がらない
- 進捗管理の困難: 案件の状況が見えず、組織としての売上予測が立てにくい
- ナレッジの蓄積不足: 成功・失敗事例が共有されず、組織的な学習が進まない
長期案件が多いSIer営業では、これらの課題がより顕著になります。案件期間が長いほど、途中での担当変更リスクや情報共有の重要性が高まるためです。
SFA/CRMを活用した案件管理のポイント
属人営業から脱却するためには、SFA/CRMを活用した案件管理の仕組み化が有効です。
- 案件情報の一元管理: 顧客情報、商談履歴、提案内容をSFA/CRMに集約し、チームで共有できる状態にする
- パイプライン可視化: 案件の確度・金額・時期を可視化し、組織としての売上予測精度を高める
- 活動の記録: 商談メモや顧客とのやり取りを記録し、担当変更時の引き継ぎをスムーズにする
- 定期的なレビュー: 案件の進捗をチームでレビューし、課題の早期発見と対策を行う
特定のツールを推奨することは避けますが、SFA/CRMの導入だけでなく、入力ルールの整備と定着、活用文化の醸成が成功の鍵となります。
まとめ|SIer営業で成果を出すために
本記事では、SIer営業の仕事内容、必要なスキル、SaaS営業との違い、そして案件管理の実践について解説しました。
ポイントの整理
- SIer営業は、アカウントプランニングから受注後フォローまでの長期プロセスを管理する
- 技術理解力、ヒアリング力、エンジニア連携力の3つが成果を出すための基本スキル
- SaaS営業とは商材特性・営業スタイル・評価軸が異なり、自身の適性に合わせた選択が重要
- 属人営業からの脱却には、SFA/CRMを活用した案件管理の仕組み化が有効
SIer営業で成果を出すには、顧客課題のヒアリング力とエンジニアとの連携力が不可欠であり、長期案件を管理するためのSFA/CRM活用スキルを身につけることで、御用聞き営業から脱却し提案型営業に進化できます。
案件管理や営業体制の構築に課題がある場合は、SFA/CRMの設定・運用に精通した専門家への相談も有効な選択肢です。
