シリーズA資金調達と調達後の成長を実現するために
シリーズA資金調達で成功するには、投資ラウンドの理解と調達プロセスの準備だけでなく、調達後の成長目標達成に向けたMA/SFA導入と部門間連携の組織整備を同時に進めることが不可欠です。
2025年上半期の日本スタートアップ資金調達総額は3,399億円(デット除く)で、前年同期比4%増とほぼ横ばいの水準を維持しています。投資ラウンド別シェアでは、シリーズAが19%を占めており、スタートアップの本格展開を支える重要なフェーズとして位置付けられています。しかし、調達後に成長が停滞する企業の多くは、マーケティング・営業組織の体制整備を後回しにしている傾向があります。資金を調達できても、それを成果に変える仕組みがなければ、投資家の期待する成長目標を達成することは困難です。
この記事で分かること
- シリーズAの定義と調達額相場、投資ラウンド全体での位置づけ
- VC・CVC・金融機関の違いと資金調達プロセスの全体像
- 調達後の成長目標達成に向けたマーケティング・営業組織の整備方法
- 投資家が評価するマーケティングKPI(LTV/CAC比、CPA、商談化率)とROI測定の仕組み
- シリーズA後の組織整備チェックリストとマーケ・営業体制比較表
シリーズAとは何か|投資ラウンド全体での位置づけ
シリーズAとは、初期段階のスタートアップが事業検証を終えて本格展開する際に実施する資金調達のフェーズです。プロトタイプ完成・市場適合性確認後に実施されることが多く、PMF(プロダクトマーケットフィット) の達成が前提条件とされます。PMF(プロダクトマーケットフィット) とは、製品やサービスが市場の需要に適合し、顧客から支持されている状態を指します。
2024年度のスタートアップ全体の平均調達額は3.1億円、中央値は7,760万円で、2023年の平均値2.5億円・中央値5,000万円から上昇しています。ただし、調達額の幅は大きく、企業の事業規模・成長計画により数億円から十数億円まで幅があるため、自社に合った調達額設定が重要です。
2025年上半期の投資ラウンド別シェアでは、シード17%、シリーズA 19%、シリーズB 26%、シリーズC 25%、シリーズD以降13%となっており、シリーズAはシード期を経て本格成長に向かう重要な段階として位置付けられています。
シリーズAの定義と調達額の相場
シリーズAは、事業検証(プロトタイプ検証、初期顧客獲得)を終えた後に、本格的な事業展開を行うための資金調達フェーズです。シード期で製品開発と市場適合性の確認を行った後、シリーズAで販路拡大・組織拡大・マーケティング強化などに資金を投入します。
2024年度のスタートアップ全体の平均調達額は3.1億円、中央値は7,760万円です。中央値が平均値より低いことから、少額調達と大型調達の二極化が見られます。調達額は業種や事業モデルにより大きく異なるため、自社の事業規模・成長計画に応じた調達額設定が必要です。例えば、ハードウェア開発を伴う事業では設備投資が必要となり、調達額が大きくなる傾向があります。
投資ラウンドごとの違いとシリーズAのタイミング
投資ラウンドは、シード→シリーズA→シリーズB→シリーズC→シリーズD以降と段階的に進みます。2025年上半期の投資ラウンド別シェアでは、シリーズAが19%を占めており、スタートアップの成長過程で重要な位置を占めています。シリーズBは26%、シリーズCは25%と、成長段階に応じて資金調達が行われる構造です。
シリーズA調達のタイミングとして、PMF達成が前提条件となります。具体的には、初期顧客が獲得でき、製品やサービスが市場に受け入れられていることを示す必要があります。PMF未達成の状態でシリーズA調達を試みても、投資家からの評価を得ることは困難です。シード期で市場適合性を確認し、事業の再現性を示すデータを揃えた上で、シリーズA調達に臨むことが推奨されます。
シリーズA資金調達の方法とプロセス
シリーズA資金調達の方法には、VC(ベンチャーキャピタル)、CVC(コーポレートVC)、金融機関からの融資など、複数の選択肢があります。それぞれに特徴があり、自社の成長戦略に応じた選択が重要です。資金調達プロセスは、ピッチ資料作成、投資家リストアップ、面談、デューデリジェンス、契約締結という流れで進みます。
資金調達方法の選択肢|VC・CVC・金融機関の特徴
VC(ベンチャーキャピタル)は、高成長を期待し株式で投資を行います。資金提供だけでなく、事業戦略のアドバイスや人材紹介などの事業支援を受けられることが多いです。VCは投資先企業の成長を重視し、IPOやM&Aによるエグジットを目指します。
CVC(コーポレートVC)は、事業会社が運営するベンチャーキャピタルで、事業シナジーを重視します。親会社の事業領域と関連性の高いスタートアップに投資し、技術提携や販路提供などの支援を行うケースが一般的です。CVCは財務リターンだけでなく、戦略的な事業連携を目的とする点が特徴です。
金融機関からの融資やデット調達は、返済義務がある点でVCやCVCとは異なります。株式の希薄化を避けたい場合や、安定的なキャッシュフローがある事業に適しています。ただし、返済負担を考慮する必要があるため、事業計画との整合性を慎重に検討することが重要です。
自社の成長戦略、事業シナジーの有無、株式希薄化の許容度などを総合的に判断し、最適な調達方法を選択することが推奨されます。
資金調達プロセスの全体像
資金調達プロセスは、以下の流れで進みます。
ピッチ資料作成: 事業概要、市場規模、競合優位性、財務計画、調達資金の使途などをまとめたピッチ資料(デッキ)を作成します。投資家に事業の魅力を伝えるための重要な資料です。
投資家リストアップ: 自社の事業領域や成長段階に適した投資家をリストアップし、優先順位を付けます。過去の投資実績や投資方針を確認し、相性の良い投資家を選定します。
面談・ピッチング: 投資家との面談で、ピッチ資料を用いて事業説明を行います。質疑応答を通じて、投資家の関心度合いを確認します。
デューデリジェンス: 投資家が本格的に投資を検討する段階で、財務・法務・事業のデューデリジェンスが行われます。財務諸表、契約書、知的財産権などの確認が行われます。
契約締結: デューデリジェンスを経て、投資契約書の交渉・締結を行います。バリュエーション、株式の割合、投資家の権利などが決定されます。
調達期間は企業により異なるため、具体的な期間の断定は避けますが、一般的には数ヶ月から半年程度を要するケースが多いとされます。投資契約条項の詳細については、専門家(弁護士、会計士)への相談が推奨されます。
シリーズA調達後に必要なマーケティング・営業組織の整備
シリーズA資金調達さえ成功すれば自動的に事業が成長するという考え方は誤りです。調達後の成長目標(ARR倍増、新規顧客獲得数増加等)達成には、マーケティング・営業組織の体制整備が不可欠です。MA/SFA導入、KPI設定、部門間連携の運用体制を整えることで、調達した資金を成果に変えることができます。
【比較表】シリーズA前後のマーケティング・営業体制比較
| 項目 | シリーズA前(シード期) | シリーズA後(本格展開期) |
|---|---|---|
| 組織体制 | 少人数(1-3名)で兼務 | 専任チーム(5-10名以上) |
| MA/SFA | 未導入またはExcel管理 | MA/SFA導入、データ一元管理 |
| KPI設定 | 定性的な目標 | 定量KPI(リード獲得数、CPA、商談化率、受注率) |
| リード管理 | 手動フォロー、リスト管理 | スコアリング、自動ナーチャリング |
| 部門間連携 | 非公式な情報共有 | SLA設定、週次レビュー、共通KPI |
| 予算配分 | 少額(広告費月数万円程度) | 本格投資(広告費月数十万円〜数百万円) |
| 施策 | 試行錯誤中心 | データドリブンなPDCA |
【チェックリスト】シリーズA後の組織整備チェックリスト
- MA/SFAツール選定: 自社の事業規模・業務プロセスに適したMA/SFAツールを選定した
- データ整備: リードデータ、顧客データを整理し、MA/SFAに移行した
- リードスコアリング設定: 属性スコア・行動スコアの配点を設計し、MQL基準を設定した
- KPI設計: 新規リード獲得数、CPA、商談化率、受注率などの定量KPIを設定した
- CPA目標設定: 業種・単価に応じたCPA目標を設定した(目安: 5,000〜15,000円)
- 商談化率目標設定: 広告経由リードの商談化率目標を設定した(推奨: 15%)
- 部門間SLA合意: マーケティング・営業間でリード引き渡しのSLA(24時間以内に初回コンタクト等)を設定した
- 共通KPI設定: マーケティング・営業で共通のKPI(MQL-SQL移行率、SQL受注率)を設定した
- 週次レビュー体制: マーケティング・営業間で週次レビューミーティングを設定した
- ナーチャリング設計: MQL育成のためのメール配信、コンテンツ提供のシナリオを設計した
- ダッシュボード構築: KPI進捗を可視化するダッシュボードを構築した
- 予算配分: マーケティング・営業の予算配分を決定し、広告費・人件費・ツール費を確保した
- 担当者アサイン: マーケティング担当者、インサイドセールス担当者を専任でアサインした
- トレーニング実施: MA/SFAツールの使い方、KPIの見方をチーム全体でトレーニングした
- 定期見直し体制: KPI、スコアリング基準、SLAを四半期ごとに見直す体制を構築した
BtoB企業がマーケティング施策で重視するKPIは、1位が新規リード獲得数(32.1%)、2位が受注率(11.1%)、同率3位がウェブサイト訪問件数・コンバージョン率(各7.9%)です(2025年調査、複数回答ベースのため自己申告バイアスの可能性あり)。投資家は新規リード獲得数よりも受注率など質を重視する傾向があり、リードの質を示す商談化率15%達成が評価ポイントとなります。
MA/SFA導入と部門間連携の重要性
MA/SFA導入により、リード管理の効率化とデータの可視化が実現します。リードの行動履歴を自動的に記録し、スコアリングによりMQL(Marketing Qualified Lead)を判定することで、営業が優先的にフォローすべきリードを明確化できます。手作業でのリスト管理やExcel集計から脱却し、マーケティング・営業間でリアルタイムにデータを共有することで、組織全体の営業効率が向上します。
マーケティング・営業間のKPI統一も重要です。BtoB企業が重視するKPI(新規リード獲得数32.1%、受注率11.1%等)を参考に、自社のKPI設計を行います。マーケティングは「MQL獲得数」「MQL-SQL移行率」、営業は「SQL受注率」「受注単価」といった共通KPIを設定し、週次レビューで進捗を確認することで、部門間の連携が強化されます。
リード獲得単価と商談化率の目標設定
CPA(Cost Per Acquisition) とは、リード1件あたりの獲得単価です。広告費をリード獲得数で割った値で、BtoB企業では5,000〜15,000円が相場とされます。BtoB企業の目標CPAは、5,000〜10,000円未満が21.8%で最多、次点が10,000〜15,000円未満で15.3%です(2025年調査、n=326)。ただし、業種や単価により目標値は異なるため、自社検証が必要です。
商談化率とは、獲得したリードのうち、実際に商談に進んだリードの割合です。BtoB広告では15%が目標値とされます。広告経由リードの商談化率は11〜20%がボリュームゾーンで、目標値として15%が推奨されています(2025年調査、n=330、広告経由リード特化のデータで全チャネル平均ではない点に注意)。5%未満の場合はターゲティングやLP(ランディングページ)見直しが必要です。
CPAと商談化率は、マーケティングROIを測定する上で重要な指標です。CPA目標を設定し、商談化率15%を達成することで、投資家に対してマーケティング効率の高さを示すことができます。
投資家が評価するマーケティング指標とROI測定の仕組み
投資家がマーケティング効率を評価する際に重視する指標として、LTV/CAC比、CPA、商談化率があります。これらの指標を測定し、継続的に改善することで、調達後の成長目標達成に向けた道筋を示すことができます。
リード受注率向上策として、コンテンツ見直し(50.5%)、営業情報提供(34.7%)、高受注チャネル強化(34.2%)が実施されています(2025年調査)。マーケティング・営業が連携し、リードの質を高める施策を継続的に実行することが重要です。
CPA高騰対策として、SNS強化(55.9%)、SEO(52.4%)、CRM(47.6%)を計画する企業が多く、広告依存は2025年16.1%で前年比-10pt減少しています(2025年調査)。広告費だけに頼らず、自社メディア・SNS・SEOの組み合わせによる多角化戦略が、持続的な成長を支える鍵となります。
LTV/CAC比とマーケティングROIの測定
LTV/CAC比とは、顧客生涯価値(LTV)を顧客獲得コスト(CAC)で割った比率です。投資家がマーケティング効率を評価する際の重要指標とされます。LTVは、1顧客が生涯にわたって企業にもたらす利益の総額です。CACは、1顧客を獲得するためにかかったマーケティング・営業コストの総額です。
LTV/CAC比の計算方法は、以下の通りです。
LTV/CAC比 = 顧客生涯価値(LTV) ÷ 顧客獲得コスト(CAC)
一般的に、LTV/CAC比が3:1以上であれば健全とされますが、業種により異なるため、自社検証が推奨されます。SaaS企業では3:1以上が目安とされるケースが多い一方、ハードウェア販売では異なる基準が適用されることがあります。投資家は、LTV/CAC比を通じて、マーケティング投資が持続的な利益を生み出しているかを評価します。
マーケティングROIを測定するためには、LTV/CAC比だけでなく、CPA、商談化率、受注率などの指標を組み合わせて分析することが重要です。これらの指標をダッシュボードで可視化し、週次・月次でレビューすることで、PDCAサイクルを回し、継続的な改善を実現できます。
CPA高騰対策と多角化戦略
CPA高騰対策として、SNS強化(55.9%)、SEO(52.4%)、CRM(47.6%)を計画する企業が多く、広告依存は2025年16.1%で前年比-10pt減少しています(2025年調査)。広告費の高騰により、広告のみに依存するマーケティング戦略はROIが低下する傾向があります。
多角化戦略として、以下の施策が有効です。
SNS強化: LinkedIn、Twitter(X)などのSNSでの情報発信を強化し、自社の認知度を高めます。BtoB企業では、LinkedInでの専門的なコンテンツ発信が効果的とされます。
SEO: 自社メディアやブログでのSEO対策を強化し、オーガニック検索からのリード獲得を増やします。長期的には、広告費を抑えながらリードを獲得できる仕組みを構築できます。
CRM: 既存顧客との関係強化により、アップセル・クロスセルを推進します。新規顧客獲得コストに比べ、既存顧客からの売上拡大はコスト効率が高いとされます。
広告費だけに頼らず、自社メディア・SNS・SEOの組み合わせにより、持続的なリード獲得基盤を構築することが、シリーズA調達後の成長を支える鍵となります。
まとめ|シリーズA調達後の成長を実現するために
シリーズA資金調達の基礎として、シリーズAの定義(事業検証終了後の本格展開資金)、調達額相場(平均3.1億円、中央値7,760万円)、調達方法(VC・CVC・金融機関)、調達プロセス(ピッチ資料作成、面談、デューデリジェンス、契約締結)を理解することが重要です。
しかし、調達後の成長目標達成には、マーケティング・営業組織の体制整備が不可欠です。MA/SFA導入によるリード管理の効率化、KPI設定(新規リード獲得数、CPA、商談化率、受注率)、部門間連携(SLA設定、週次レビュー、共通KPI)を通じて、調達した資金を成果に変える仕組みを構築します。
投資家が評価するマーケティング指標として、LTV/CAC比、CPA、商談化率があります。これらの指標を測定し、継続的に改善することで、投資家の期待する成長目標を達成できます。CPA高騰対策として、広告依存から脱却し、SNS・SEO・CRMへの多角化戦略を推進することが推奨されます。
シリーズA資金調達の成功は、投資ラウンドの理解と調達プロセスの準備だけでなく、調達後の成長目標達成に向けたMA/SFA導入と部門間連携の組織整備を同時に進めることで実現します。
次のアクションとして、本記事のチェックリストを使ってシリーズA後の組織整備状況を確認し、MA/SFA設定、KPI設計、部門間SLA設定を進めることが推奨されます。自社でのリソース不足や専門知識不足を感じる場合、外部の専門家への相談を検討してください。MA/SFA設定からフルスクラッチ開発まで一気通貫で実装・納品する支援を受けることで、定義から実行までスムーズに進めることが可能です。
