シリーズA調達後の成長戦略が失敗する典型的なパターン
先に答えを言うと、シリーズA調達後の成長は、資金の使途計画だけでなく、MA/SFA導入を含む業務基盤整備と組織拡大を同時に進める実装戦略で実現します。
シリーズA調達を成功させた後、多くのスタートアップ経営者が直面する課題があります。それは、調達資金をどのように使うべきか、採用・ツール導入・マーケティングのどれから手を付けるべきかという優先順位の判断です。2024年全体のシリーズAを含むスタートアップ資金調達額は、1社あたり平均3.1億円、中央値7,760万円とされています(経団連「スタートアップ躍進ビジョン レビューブック2025」。ただし、これは全スタートアップ平均でシリーズA単独の相場とは異なる可能性があります)。この規模の資金を調達できたとしても、使い方を誤ると、次のラウンド(シリーズB)で苦労することになります。
典型的な失敗パターンは、資金調達後に採用だけを進め、MA/SFAなどのツール導入や業務BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)が追いつかないケースです。採用した人材が使うツールや業務プロセスが整備されていないと、属人化・非効率が拡大し、組織が拡大しても成果が出ません。結果として、シリーズBでの資金調達が困難になり、成長が鈍化するリスクがあります。
この記事では、シリーズA調達後の成長戦略を明確にし、調達資金の使途優先順位、MA/SFA導入を含む業務基盤整備、組織拡大の同時進行方法を解説します。
この記事で分かること
- シリーズA調達後の成長戦略が失敗する典型的なパターン
- シリーズAの基礎知識と調達額の相場
- 調達資金の使途優先順位設計(フェーズ別マトリクス)
- MA/SFA導入と組織拡大を同時に進める実装方法
- シリーズA調達後の実装チェックリスト
シリーズAとは|調達額相場とPMF達成の前提条件
シリーズAとは、シードラウンド後の成長フェーズで、市場でのtraction(実績)を示し、スケールアップのための資金を調達する段階です。調達額の相場と、PMF(プロダクトマーケットフィット)達成の重要性を理解することで、調達後の成長戦略を立てやすくなります。
シリーズAの定義とシードラウンドとの違い
シリーズAとは、シードラウンド(アイデア・プロトタイプ検証段階)後の成長フェーズで、市場でのtraction(ユーザー獲得・収益化の実績)を示し、スケールアップのための資金を調達する段階です。シードラウンドが「アイデアの検証」を目的とするのに対し、シリーズAは「実績を基にしたスケールアップ」を目的とします。
PMF(プロダクトマーケットフィット) とは、顧客の課題を満足させる製品を提供し、それが適切な市場に受け入れられている状態です。シリーズA調達の前提条件として、PMF達成が重視されます。VC(ベンチャーキャピタル) は、PMFを達成したスタートアップに対して、成長加速のための資金を提供します。
VCが重視する指標としては、ARR(Annual Recurring Revenue)(年間経常収益。SaaSビジネスで重視される指標で、サブスクリプション収益の年間合計額)、ユーザー数の成長率、顧客獲得コスト(CAC)などがあります。
シリーズA調達額の相場と最近の傾向
2024年全体のシリーズAを含むスタートアップ資金調達額は、1社あたり平均3.1億円、中央値7,760万円です(経団連「スタートアップ躍進ビジョン レビューブック2025」)。2023年は平均2.5億円、中央値5,000万円でしたので、調達額は増加傾向にあります(経団連調査)。ただし、これらの数値は全スタートアップ平均(シリーズA含む)であり、シリーズA単独の相場とは異なる可能性がある点に注意が必要です。
2025年上半期の全体資金調達総額は3,399億円(前年比+4%、デット除く)、調達社数1,377社となっています(INITIAL「Japan Startup Finance 2025H1」)。この数値は速報値のため、最終集計で数値が変動する可能性があります。
成功事例として、2025年1月にインフォボックス(BtoB営業データプラットフォーム)がシリーズAで16.5億円を調達(累計23.5億円)しています。BtoB SaaS分野では、成長実績のある企業で大型調達が実現するケースが見られます。
シリーズA調達後の成長戦略の全体像|採用・ツール・マーケティングの同時進行
シリーズA調達後の成長戦略は、採用・ツール導入・マーケティングを同時に進めることが重要です。採用だけを進めても成果が出ないという失敗パターンを避け、MA/SFA導入を含む業務基盤整備と組織拡大を同時に進める実装戦略が成功のカギとなります。
なぜ採用だけでは成果が出ないのか
資金調達後に採用だけを進めても、成果が出にくい理由があります。採用した人材が使うツール(MA/SFA)や業務プロセスが整備されていないと、属人化・非効率が拡大し、組織が拡大しても成果が出ません。たとえば、営業担当者を10名採用しても、顧客管理システムが整備されていなければ、各担当者が独自のExcelで管理することになり、部門間の情報共有ができず、営業効率が低下します。
この失敗パターンに陥ると、次のラウンド(シリーズB)での資金調達が困難になります。投資家は、組織が拡大しても成果が出ていない企業に対して、追加投資を躊躇するためです。
MA/SFA導入と組織拡大の同時進行が成功のカギ
MA/SFAとは、マーケティングオートメーション(MA)と営業支援システム(SFA)のことです。BtoB企業がリード管理・商談管理を効率化するツールです。MA/SFAを導入することで、リード管理・商談管理を効率化でき、KPI(Key Performance Indicator)(重要業績評価指標。マーケティング・営業活動の成果を測定する指標)を可視化して部門間連携を強化できます。
業界相場として、シリーズA調達後は、資金の40-60%をマーケティング・営業組織整備(MA/SFA導入、KPI設定、部門間連携)に投下することが推奨されています(民間レポート由来。公的統計ではなく、企業規模によりばらつきが大きい点に注意が必要です)。
成功事例では、部門間連携(共通KPI設定、週次レビュー)でリスクを低減し、ARR倍増を達成しているケースが報告されています。MA/SFAを導入し、マーケティング部門と営業部門が共通のKPI(CPA:顧客獲得コスト、商談化率、受注率など)を設定することで、組織全体の成果を可視化し、改善サイクルを回すことができます。
シリーズA調達資金の使途優先順位設計|フェーズ別マトリクス
調達資金の使途優先順位は、フェーズ別に設計することが重要です。調達直後0-3ヶ月、成長フェーズ3-12ヶ月、スケールフェーズ12ヶ月以降で、資金配分の重点が異なります。
【比較表】資金使途の優先順位マトリクス(フェーズ別)
| フェーズ | 期間 | 最優先事項 | 資金配分の目安 | 主な施策 |
|---|---|---|---|---|
| 調達直後 | 0-3ヶ月 | MA/SFA導入とKPI設定 | ツール導入20-30%、KPI設計10% | MA/SFAツール選定・導入、リード管理・商談管理のKPI設定(CPA、商談化率、受注率)、SLA(Service Level Agreement)設定で部門間連携強化 |
| 成長フェーズ | 3-12ヶ月 | マーケティング投資とパートナー拡大 | マーケティング30-40%、パートナー開発10-20% | コンテンツマーケティング、広告投資、パートナー開発、ABM(アカウントベースドマーケティング)導入、PDCAサイクル確立 |
| スケールフェーズ | 12ヶ月以降 | 採用とグローバル展開 | 採用20-30%、グローバル展開10-20% | 営業・マーケティング人材の増員、グローバル市場でのPoC(概念実証)実施、市場適合性検証 |
調達直後の優先事項|MA/SFA導入とKPI設定
調達直後0-3ヶ月は、MA/SFA導入とKPI設定を最優先にします。リード管理効率化のKPI(新規リード獲得数、CPA、商談化率、受注率)を設定し、SLA(Service Level Agreement:部門間の合意事項。例: マーケティングが獲得したリードを営業が24時間以内にフォローアップする、など)を設定することで、部門間連携を強化できます。
MA/SFAツールを導入することで、リード管理・商談管理を効率化でき、組織拡大後も属人化を防ぐことができます。ツール選定時は、自社の業務フローに合ったものを選ぶことが重要です。
成長フェーズの資金配分|マーケティング投資とパートナー拡大
成長フェーズ3-12ヶ月は、マーケティング投資やパートナー拡大に資金を振り向けます。コンテンツマーケティング、広告投資、パートナー開発を推進し、新規リード獲得を加速させます。この段階では、PDCAサイクルを回す戦略が推奨されます。
マーケティング施策の効果を測定し、効果の高い施策に集中投資することで、ROI(投資対効果)を最大化できます。ただし、資金配分は企業規模や業種により異なるため、自社の状況に合わせた優先順位設計が必要です。
MA/SFA導入を含む業務基盤整備と組織拡大の実装方法
MA/SFA導入を含む業務基盤整備と組織拡大を同時に進める具体的な実装方法を解説します。以下のチェックリストを活用して、抜け漏れなく実装を進めてください。
【チェックリスト】シリーズA調達後の実装チェックリスト
- 資金使途の優先順位計画を策定(フェーズ別マトリクスを参考に)
- MA/SFAツールの選定(自社の業務フローに合ったツールを選ぶ)
- MA/SFAツールの初期設定(リード管理、商談管理のフロー設計)
- KPI設定(CPA、商談化率、受注率など)
- SLA設定(部門間の合意事項を明文化)
- マーケティング部門と営業部門の共通KPI設定
- 週次レビュー会議の設定
- リード管理フローの標準化
- 商談管理フローの標準化
- 採用計画の策定(営業・マーケティング人材)
- 採用した人材が使うツール・業務プロセスの事前整備
- 業務BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の実施
- 属人化を防ぐための業務標準化
- マーケティング投資計画の策定(コンテンツマーケティング、広告投資)
- パートナー開発計画の策定
- PDCAサイクルの確立(週次でKPI測定・改善)
- グローバル展開の検討(該当する場合、PoCを実施)
- 投資家への定期報告体制の構築
- シリーズBに向けた成長目標の設定
MA/SFA導入の具体的なステップ
MA/SFA導入の具体的なステップは以下の通りです。
- ツール選定: 自社の業務フローに合ったツールを選びます。主要なツールとしては、HubSpot、Salesforce、Marketo、Pardotなどがありますが、自社の規模や予算、機能要件に応じて選定します。
- 初期設定: リード管理、商談管理のフロー設計を行います。どの段階でリードをマーケティングから営業に引き渡すか、商談のステージ管理をどうするかを設計します。
- KPI設定: CPA(顧客獲得コスト)、商談化率、受注率などのKPIを設定します。これらの指標を定期的に測定し、改善サイクルを回します。
- 部門間連携: マーケティング部門と営業部門で共通KPIを設定し、週次レビュー会議で進捗を確認します。SLAを設定し、リード引き渡しのタイミングや対応時間を明確にします。
これらのステップを着実に実施することで、MA/SFA導入の効果を最大化できます。
組織拡大と業務BPRを同時に進める方法
組織拡大と業務BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を同時に進める方法を説明します。採用と並行してツール導入・業務BPRを進めることで、採用した人材が使うツールや業務プロセスを事前に整備できます。
具体的には、採用計画を策定する際に、新入社員が使用するツール(MA/SFA、顧客管理システム、プロジェクト管理ツールなど)を事前に導入し、業務フローを標準化しておきます。これにより、新入社員が入社後すぐに業務に取り組める環境を整えることができます。
業務標準化により、属人化・非効率を防ぎ、組織拡大後もスケールできる体制を構築できます。
まとめ|シリーズA調達後の成長はMA/SFA導入と組織拡大の同時進行で実現する
シリーズA調達後の成長は、資金の使途計画だけでなく、MA/SFA導入を含む業務基盤整備と組織拡大を同時に進める実装戦略で実現します。
本記事の要点を整理します。
- 典型的な失敗パターンを避ける: 資金調達後に採用だけを進め、MA/SFAなどのツール導入や業務BPRが追いつかないと、組織が拡大しても成果が出ず、シリーズBで苦労します。
- 調達資金の使途優先順位を設計: 調達直後0-3ヶ月はMA/SFA導入とKPI設定を最優先にし、成長フェーズ3-12ヶ月はマーケティング投資とパートナー拡大に資金を振り向けます。
- MA/SFA導入と組織拡大を同時に進める: リード管理・商談管理を効率化し、KPIを可視化して部門間連携を強化することで、組織拡大後もスケールできる体制を構築できます。
- 業務BPRで属人化を防ぐ: 採用した人材が使うツールや業務プロセスを事前に整備し、業務標準化により属人化・非効率を防ぎます。
次のアクションとして、本記事で提供した「シリーズA調達後の実装チェックリスト」を活用して自己診断を行い、「資金使途の優先順位マトリクス」を参考に計画を策定してください。MA/SFA導入を検討し、業務基盤整備と組織拡大を同時に進めることで、シリーズBに向けた成長を加速させることができます。
