シード期の営業は創業者自身が担うべき理由
最も重要なのは、シード期の営業は創業者自身が担い、顧客開発と営業プロセスの型化を同時に進めることで、シリーズA以降のスケールに備えた営業基盤を構築できる。
創業者営業とは、創業者・CEOが自ら営業活動を行い、顧客開発とプロダクト改善を同時に進めるスタイルです。
2023年版中小企業白書によると、従業員20人未満規模の企業で「営業・販売活動の主要担当が経営者」である割合は約5割強に達しています。また、令和3年度の経済産業省調査では、従業員10名未満のスタートアップでCEOが主要な営業担当と回答した割合は約60%、20名以上では約30%台まで低下するという結果が報告されています。
これらのデータは、シード期においては創業者が営業の中心を担うことが一般的であることを示しています。
この記事で分かること
- シード期に創業者が営業を担うべき理由とメリット
- 営業活動とPMF(プロダクトマーケットフィット)の関係
- 創業者営業から組織営業への移行タイミング
- シード期の営業プロセスを型化する方法
- シリーズA以降を見据えた営業基盤の構築ポイント
シード期の営業活動とPMFの関係
シード期における営業の目的は、売上最大化ではなく顧客開発です。
PMF(プロダクトマーケットフィット) とは、提供するプロダクトが市場のニーズに適合し、持続的に売れる状態になることを指します。シード期はこのPMFを達成するための重要なフェーズであり、営業活動はその手段として位置づけられます。
スタートアップ実態調査(2023年度)によると、創業5年未満企業の約6割が年商1億円未満で、成長を阻害する要因として「販路開拓・マーケティング」が約5割と最上位に挙げられています。
多くのスタートアップが販路開拓に課題を抱える中、シード期に創業者自身が営業を行うことで、顧客の生の声を直接聞き、プロダクトの改善に活かすことができます。
シード期に追うべき指標と追わなくてよい指標
シード期は母数が少ないため、精緻なKPI管理よりも「明確な差が出るか」を見る程度で十分です。
CAC(顧客獲得コスト) とは、1社の顧客を獲得するためにかかる営業・マーケティングコストの合計です。
LTV(顧客生涯価値) とは、1顧客から取引期間全体で得られる収益の総額です。
シード期に追うべき指標:
- 顧客との商談数・ヒアリング数
- 顧客からのフィードバック内容
- 受注パターン(どの業種・規模・課題で受注しやすいか)
- リピート・紹介の有無
シード期は追わなくてよい指標:
- 精緻なLTV/CAC比率(母数が少なすぎて統計的に意味がない)
- 厳密なリードタイム管理
- 詳細なファネル分析
シリーズA以降はLTV/CAC比率を重視することになりますが、シード期は「顧客課題の理解」と「再現性のある受注パターンの発見」を優先することが重要です。
創業者営業のメリットと具体的な進め方
創業者が営業を行う最大のメリットは、顧客理解の深さとプロダクト改善への直結です。
リクルート中小企業の営業実態調査によると、経営者が同行する商談は、担当者のみの商談に比べ成約率が約1.3〜1.5倍高い傾向があるとされています(ただし、業種横断かつサンプル数が限定的であり、一般傾向レベルの理解が妥当です)。
【比較表】成長ステージ別営業体制比較表
| ステージ | 営業体制 | 主な担当 | 優先KPI | ツール活用 |
|---|---|---|---|---|
| シード期 | 創業者営業 | CEO/創業者 | 顧客理解・受注パターン発見 | スプレッドシート中心 |
| シリーズA前後 | 創業者+Biz担当 | CEO+Biz担当1-3名 | 再現性のある売上 | SFA導入検討 |
| シリーズA後 | 専任営業チーム | 営業マネージャー+メンバー | MRR/ARR成長率 | SFA/CRM本格活用 |
| シリーズB以降 | 分業体制 | IS/FS/CS分業 | LTV/CAC・効率性 | MA/SFA/CRM連携 |
顧客開発とプロダクト改善の両立
よくある失敗パターンは、シード期から営業専任者を採用し、創業者が営業現場から離れてしまうケースです。この考え方は誤りです。
創業者が営業現場から離れると、以下の問題が発生します。
- 顧客理解が浅くなる: 営業担当者からの二次情報に頼ることになり、顧客の本当の課題を把握しにくくなる
- フィードバックループが機能しなくなる: プロダクト改善のための顧客フィードバックが適切に開発チームに伝わらない
- PMF達成が遅れる: 顧客ニーズとプロダクトのギャップを埋める速度が低下する
シード期は創業者自身が顧客と直接対話し、「なぜ買うのか」「なぜ買わないのか」を深く理解することが、プロダクトの成功に直結します。
シード期の営業プロセスを型化する方法
創業者営業であっても、営業活動を属人化させず記録・型化することで、シリーズA以降のスケールに備えることができます。
【チェックリスト】シード期営業体制構築チェックリスト
- ターゲット顧客の仮説(業種・規模・課題)を設定している
- 商談記録を残す仕組みを構築している
- 顧客からのフィードバックを開発チームと共有する仕組みがある
- 受注・失注の理由を記録している
- 受注しやすい顧客パターンを言語化できている
- 商談の流れ(初回ヒアリング→提案→クロージング)を標準化している
- 提案資料のテンプレートを作成している
- 見積り・契約書のテンプレートを用意している
- 問い合わせフォームで業種・規模・課題を必須入力にしている
- 週次で商談状況を振り返る習慣がある
- 創業者が直接参加する商談の基準を設定している
- 顧客の声をプロダクトロードマップに反映する仕組みがある
- リピート・紹介を促進する仕組みを検討している
- 専任営業採用の判断基準を明確にしている
シンプルなツール活用で営業情報を蓄積する
シード期は高額なツール導入よりも、まず記録の習慣化が重要です。
シード期に適したツール活用:
- スプレッドシート: 商談管理、顧客リスト、フィードバック記録
- カレンダー共有: 商談スケジュール管理
- ドキュメントツール: 商談議事録、提案資料
- チャットツール: 社内での顧客情報共有
SFAへの移行タイミングの目安:
- 商談数が増え、スプレッドシートでの管理が限界に達したとき
- 専任のBiz担当が増え、情報共有の必要性が高まったとき
- シリーズA調達後、営業組織のスケールを本格化するとき
創業者営業から専任採用への移行タイミング
創業者営業から組織営業への移行は、事業の成長段階に応じて判断する必要があります。
ARR(年間経常収益) とは、サブスクリプションモデルで1年間に得られる経常的な収益です。
前述の経済産業省調査によると、従業員10名未満のスタートアップでCEOが主要な営業担当と回答した割合は約60%ですが、20名以上では約30%台まで低下します。これは、事業規模の拡大に伴い、営業体制も組織化されていくことを示しています。
移行タイミングの判断基準:
- 受注パターンが明確になっている: どの顧客に、どのように売れるかが再現可能になっている
- 創業者の時間がボトルネックになっている: 営業に時間を取られ、他の重要業務が滞っている
- 一定の売上規模に達している: 専任営業の人件費を賄える収益がある
シード〜シリーズA前後は創業者がキーディールに関与しつつ、Biz担当を増員していく体制が一般的です。
最初の営業採用で失敗しないために
シード〜シリーズA期の営業採用では、以下の点に注意が必要です。
- いきなり分業しない: インサイド営業/フィールド営業/CSを分けず、Biz担当として全工程を担当できる人材を採用する
- 創業者の営業スタイルを伝承する: 創業者がどのように顧客を開拓してきたかを共有し、型として伝える
- 顧客開発のマインドセットを持つ人材を選ぶ: 単なる「売れる営業」ではなく、顧客課題を深掘りできる人材を優先する
- 少人数でスタートする: 最初から大量採用せず、Biz担当1-3名で回す構造が現実的
まとめ:シード期に構築すべき営業基盤
本記事では、シード期スタートアップの営業体制構築について解説しました。
重要なポイントを振り返ります。
- 創業者が営業を担う: 従業員10名未満のスタートアップでは約60%がCEOが主要な営業担当
- 売上より顧客理解を優先: シード期のKPIは受注パターンの発見と顧客フィードバックの収集
- 営業現場から離れない: 創業者が営業現場から離れるとフィードバックループが機能しなくなる
- 記録・型化を怠らない: シリーズA以降のスケールに備えて営業プロセスを型化する
- 移行は段階的に: 専任営業採用は受注パターンが明確になってから
シード期の営業は創業者自身が担い、顧客開発と営業プロセスの型化を同時に進めることで、シリーズA以降のスケールに備えた営業基盤を構築できます。チェックリストを活用して、自社の営業体制を点検してみてください。
