営業工数が削減できない組織に共通する課題
意外かもしれませんが、営業工数削減は、便利ツールの導入や個別施策ではなく、営業プロセス全体の設計から実装まで一貫して行うことで、持続的な成果につながります。
営業メンバーの長時間残業が常態化し、ツールを導入しても使いこなせない——このような課題を抱える企業は少なくありません。帝国データバンク調査(2025年1月)によると、金融・保険業の63.7%が正社員不足を感じており、少子高齢化による労働人口減少が営業工数効率化の経営課題となっています。
また、IPA「DX動向2025」によると、DX(デジタルトランスフォーメーション) 成果指標として「業務効率化・工数削減」が定量的指標の中で最多となっています。DXとは、デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセスを変革し、競争優位性を確立する取り組みを指します。
この記事で分かること
- 営業工数が削減できない組織に共通する構造的課題
- 工数削減の優先度を判断する視点と具体的な施策
- CRM/SFA活用や受発注業務自動化の導入事例
- 営業プロセス全体設計から始める工数削減のアプローチ
- 取り組み優先度を確認できるチェックリスト
ツール導入しても工数が減らない理由
よくある失敗パターンとして、便利ツールを複数導入したり部分的な業務効率化を試みるものの、営業プロセス全体の設計ができておらず一時的な改善に終わるケースがあります。MA/SFAを導入しても活用しきれず、結局手作業が減らない状態が続くのです。
SFA(Sales Force Automation) とは、営業活動の自動化・効率化を支援するシステムです。商談管理、活動記録、売上予測などの機能を提供します。一方、CRM(Customer Relationship Management) は、顧客関係管理システムであり、顧客情報の一元管理、履歴管理、コミュニケーション支援を行います。
これらのツールを導入しても成果が出ない理由は、ツール導入だけでは解決しない構造的な問題があるからです。営業プロセス全体を見直さずに個別ツールを導入しても、データが分断されたり、入力の手間が増えたりして、かえって工数が増加することもあります。
営業工数削減の基本アプローチと効果が出る領域
営業工数削減で効果が出やすい領域は、移動時間、情報共有、事務作業、受発注業務の4つです。これらの領域では、定型業務の自動化やデジタル化により、大幅な工数削減が期待できます。
BtoB ECとは、企業間電子商取引を指し、受発注業務をオンライン化してFAX・電話対応を削減するシステムです。BtoB EC化率は43.1%(2025年8月調査、前年比+3.1pt)に達しており、受発注業務のデジタル化が進んでいます(経済産業省推計値として引用されているデータであり、原典確認を推奨します)。
工数削減の優先度を判断する視点
どの業務から工数削減に取り組むべきか判断するには、「削減効果が大きい業務」と「着手しやすい業務」の2軸で優先度を評価することが有効です。
優先度判断のポイント
- 発生頻度が高く、定型化しやすい業務を優先する
- 属人化している業務より、標準化されている業務から着手する
- 既存システムとの連携が容易な領域を選ぶ
- 効果測定がしやすい業務から始める
定型業務(見積書作成、請求書処理、受発注対応など)から優先的に自動化することで、営業担当者のコア業務である商談・顧客対応に時間を再配分できます。
営業工数削減の具体的な施策と導入事例
営業工数削減には複数のアプローチがあり、自社の課題に合った施策を選択することが重要です。以下の比較表で、主なアプローチの特徴を整理します。
【比較表】営業工数削減アプローチ比較表
| アプローチ | 対象業務 | 期待効果 | 導入の難易度 | 適した企業規模 |
|---|---|---|---|---|
| CRM/SFA活用 | 商談管理・活動記録 | 情報共有効率化、入力工数削減 | 中 | 全規模 |
| 請求書処理自動化 | 経理・バックオフィス | 処理時間削減、ミス削減 | 低〜中 | 中規模以上 |
| BtoB EC導入 | 受発注業務 | FAX・電話対応削減 | 中〜高 | 受発注量が多い企業 |
| オンライン商談導入 | 営業活動 | 移動時間削減 | 低 | 全規模 |
| MA連携 | リード管理・育成 | 見込み客対応自動化 | 中〜高 | マーケティング体制のある企業 |
CRM/SFA活用による営業活動の効率化
CRM/SFA活用により、営業活動の工数削減と成果向上を同時に実現できる可能性があります。
ある導入事例では、BtoB広告・マーケティング業(従業員50-100名規模)の企業が、1人あたり工数30.0%削減、売上39.6%アップを達成しています(2025年事例)。ただし、これはツールベンダーの自社事例であり、独立検証はされていません。導入条件により再現性に差が出る可能性がある点に留意が必要です。
CRM/SFA導入で効果を出すためのポイントは、導入前に現状の営業プロセスを整理し、どの業務をシステム化するか明確にすることです。
受発注業務・請求書処理の自動化
バックオフィス業務の自動化は、営業担当者の工数削減に直接貢献します。
ある請求書処理システム導入企業では、全国150事業所から月6,000枚の請求書処理時間を半減(月300時間→150時間、年3,600時間削減)を達成しています。
また、BtoB EC導入企業では、FAX対応90%削減、作業時間3割圧縮を達成し、取引先4.6倍、売上110%増を実現しています(2025年事例)。
これらの事例は、定型的なバックオフィス業務の自動化が、営業部門の工数削減にも効果をもたらすことを示しています。ただし、効果は導入企業の規模・業種・既存プロセスにより異なります。
営業プロセス全体設計から始める工数削減
部分最適ではなく、営業プロセス全体を設計することが、持続的な工数削減の鍵です。ツール導入前に、まず自社の営業プロセスを可視化し、ボトルネックを特定することから始めましょう。
営業プロセス全体設計の流れ
- 現状分析:現在の営業プロセスを可視化し、工数がかかっている業務を特定
- ボトルネック特定:どの業務が非効率か、なぜ工数がかかっているかを分析
- 施策設計:削減すべき業務と、その解決策(自動化・簡素化・外注化など)を決定
- ツール選定:施策に合ったツールを選定(ツールありきで選ばない)
- 運用設計:導入後の運用ルールとKPIを設定
このように、ツール選定は施策設計の後に行うことが重要です。
工数削減を定着させる運用設計のポイント
工数削減の施策を導入しても、運用設計が不十分だと定着せず、元の非効率な状態に戻ってしまいます。
定着のためのポイント
- スモールスタートで定着率を高めてから拡大する
- 導入前にKPIを設定し、効果測定を継続的に行う
- 現場の声を取り入れ、運用ルールを柔軟に調整する
- 管理者だけでなく現場担当者への教育・サポートを充実させる
ツールを導入すれば自動的に工数削減できるという誤解がありますが、実際には定着・運用設計が不可欠です。
営業工数削減に取り組む際のチェックリスト
自社で営業工数削減に取り組む際の準備状況を確認するためのチェックリストを用意しました。
【チェックリスト】営業工数削減 取り組み優先度チェックリスト
- 現在の営業プロセスを可視化している
- 工数がかかっている業務を特定している
- 削減対象業務の優先順位をつけている
- 定型業務と非定型業務を区別している
- 現場担当者の課題・要望をヒアリングしている
- 既存システム(CRM/SFA/MA等)の利用状況を把握している
- データ連携の現状と課題を整理している
- 導入予算の目安を設定している
- 導入後の効果測定KPIを定義している
- 運用担当者・責任者をアサインしている
- スモールスタートの対象範囲を決めている
- 導入スケジュールの概要を策定している
- 現場への教育・サポート体制を検討している
- 経営層の理解・承認を得ている
- ベンダー・ツールの比較検討を行っている
上記のチェック項目のうち、半数以上が未達の場合は、ツール選定の前に現状分析と要件整理から始めることを推奨します。
まとめ|営業工数削減を持続的な成果につなげるために
本記事では、営業工数削減の進め方について、プロセス設計からツール活用まで解説しました。
本記事の要点
- ツール導入だけでは工数削減は実現しない——営業プロセス全体の設計が必要
- 定型業務(請求書処理、受発注対応など)から優先的に自動化する
- CRM/SFA活用や請求書処理自動化で工数削減を達成した事例がある(ただし効果は企業により異なる)
- 導入前にKPIを設定し、スモールスタートで定着率を高める
- チェックリストで自社の準備状況を確認し、不足点を補ってから着手する
営業工数削減を成功させるための次のステップは、まず現状の営業プロセスを可視化し、工数がかかっている業務を特定することです。上記のチェックリストを活用して、自社の取り組み優先度を確認してみてください。
営業工数削減は、便利ツールの導入や個別施策ではなく、営業プロセス全体の設計から実装まで一貫して行うことで、持続的な成果につながります。
