営業の優先度設定が属人化する問題と本記事の目的
結論から言えば、営業の優先度設定は個人の経験や勘に依存させず、MA/SFAのスコアリング機能とルール設計によって仕組み化することで、組織として再現性のある成果を生み出せます。
BtoB企業の商談化率調査によると、商談化率が高い企業のうち66.1%がリードの優先順位付けを実施している一方、約3割は未実施という結果が報告されています(2025年8月実施調査。サンプル構成の詳細は非公開のため一般化には注意が必要です)。また、新規開拓を紹介に依存するBtoB中小企業の40.7%が、見込み客への継続的なアプローチを「特に行っていない」と回答しており、優先度設定の仕組みが整っていない企業が少なくありません。
この記事で分かること
- 営業の優先度設定における基本フレームワークとその限界
- 属性情報と行動情報を組み合わせた優先度判断の基準設計
- MA/SFAを活用した優先度設定の仕組み化方法
- 組織への定着と運用ルールの設計ポイント
- すぐに使えるスコアリングシートとチェックリスト
この記事では、従業員50-300名規模のBtoB企業の営業責任者・営業マネージャーを対象に、属人的な優先度設定から脱却し、データに基づく再現性のある仕組みを構築する方法を解説します。
優先度設定の基本フレームワークと限界
営業の優先度設定には、いくつかの基本的なフレームワークが存在します。しかし、フレームワークを学ぶだけでは、組織としての優先度設定は機能しません。
アイゼンハワーマトリクスとは、緊急度と重要度の2軸でタスクを4象限に分類し、優先順位を決定するフレームワークです。「重要かつ緊急」を最優先、「重要だが緊急でない」を計画的に実行、「緊急だが重要でない」を委任、「緊急でも重要でもない」を削除するという考え方です。
リードスコアリングとは、見込み客の属性や行動に基づいて購買可能性を数値化し、営業優先度を決定する手法です。MA/SFAの機能として提供されることが多く、組織的な優先度設定の基盤となります。
BtoB企業の営業実態調査2025によると、営業課題の上位は「営業スキル不足」36.3%、「差別化」33.3%、「営業リスト精度」21.5%となっています。営業リスト精度の課題は、優先度設定の仕組みが整っていないことと密接に関係していると考えられます。
よくある失敗:フレームワークを学んでも属人化する
「アイゼンハワーマトリクスなどのフレームワークを学べば優先度設定ができるようになる」という考え方は誤りです。 フレームワークを知っていても、個人の判断に任せたままでは担当者ごとにバラつきが生じ、組織として優先度設定が機能しません。
この失敗パターンが発生する背景には、以下のような要因があります。
- 「重要度」「緊急度」の判断基準が担当者ごとに異なる
- 同じ顧客に対して、担当者によって優先度の判断が変わる
- 過去の成功体験や個人的な好みが判断に影響する
- 組織としての判断基準が明文化されていない
フレームワークは思考の枠組みを提供するものであり、それだけでは組織としての再現性は生まれません。フレームワークに加えて、データに基づく判断基準の設計と、MA/SFAによる仕組み化の両輪が必要です。
優先度判断の基準設計|属性情報と行動情報
優先度判断の基準は、大きく「属性情報」と「行動情報」の2つに分類できます。調査によると、企業・属性情報を重視する企業が約6割、行動情報を重視する企業が約3割という結果が報告されています。効果的な優先度設定には、両方の情報を組み合わせることが重要です。
HVC(High Value Customer) とは、収益性と成長ポテンシャルが高い高価値顧客です。営業リソースを優先的に配分すべき対象として位置づけられます。
インテントデータとは、見込み客がWeb上で示す購買意向を示すデータです。検索行動やコンテンツ閲覧履歴などから推定され、行動情報の一種として活用されます。
MQL(Marketing Qualified Lead) とは、マーケティング活動を通じて一定の基準を満たした見込み客です。営業部門への引き渡し対象として、優先度設定の起点となります。
BtoB購買プロセス白書2025によると、営業担当者との初回面談前に85%の購買担当者が購買先候補を絞り込んでいるという結果が報告されています。この数字が示すように、見込み客は営業担当者と接触する前から情報収集を行っており、早期に優先顧客を特定してアプローチすることが重要です。
【管理シート】顧客優先度スコアリングシート
顧客名,業種,従業員規模,役職,資料DL数,Webアクセス回数,セミナー参加,属性スコア,行動スコア,総合スコア,優先度
株式会社A,製造業,100-300名,部長,3,15,1,30,40,70,A
株式会社B,IT,50-100名,課長,1,5,0,20,15,35,C
株式会社C,商社,300-500名,役員,2,20,2,35,50,85,S
株式会社D,金融,100-300名,部長,2,10,1,30,30,60,B
株式会社E,製造業,50-100名,担当者,0,3,0,15,5,20,D
計算列の定義:
- 属性スコア = 業種スコア(10-15) + 従業員規模スコア(5-15) + 役職スコア(5-15)
- 行動スコア = 資料DL数×5 + Webアクセス回数×2 + セミナー参加×10
- 総合スコア = 属性スコア + 行動スコア
- 優先度 = S(80点以上)/ A(60-79点)/ B(40-59点)/ C(20-39点)/ D(19点以下)
スコアの配点は自社の商材や顧客特性に合わせて調整してください。重要なのは、属性情報と行動情報の両方を数値化し、担当者によらず一貫した優先度判断ができる仕組みを作ることです。
MA/SFAを活用した優先度設定の仕組み化
MA/SFAのスコアリング機能を活用することで、優先度設定を属人的な判断から仕組み化されたプロセスに転換できます。特に、高価格帯の取引では複雑な優先度判断が求められるため、システムによる支援が重要です。
BtoB購買プロセス白書2025によると、高価格帯取引では平均関与人数が18.3人に達し、検討から契約まで54%が半年以上を要するという結果が報告されています。このような複雑な案件では、複数の意思決定者の行動を追跡し、適切なタイミングでアプローチする必要があります。
また、BtoB営業の実態調査2025では、マネージャーの28.7%が受注確率を高めるために「関係構築・顧客課題特定」の営業初期段階を最優先プロセスと考えているという結果が示されています。初期段階での優先度設定が、その後の商談化に大きく影響するためです。
MA/SFAを活用した優先度設定の仕組み化には、以下のステップが有効です。
スコアリングルールの設計
- 属性情報(業種、企業規模、役職など)に対するスコア配点を定義
- 行動情報(Web閲覧、資料DL、セミナー参加など)に対するスコア配点を定義
- スコアの減衰ルール(一定期間行動がない場合のスコア減少)を設定
閾値と対応ルールの設定
- 優先度ランク(S/A/B/C/D)ごとの対応方針を明確化
- 高優先度リードへの対応期限を設定
- 営業担当者への自動アラート・通知の設定
レビューと改善の仕組み
- スコアリングルールの定期的な見直し(四半期ごとなど)
- 実際の商談化率とスコアの相関分析
- フィードバックに基づくルールの調整
特定のMA/SFAツールを推奨するものではありませんが、多くのツールでスコアリング機能が提供されています。重要なのは、ツールの機能を活用して、組織として一貫した優先度設定の仕組みを構築することです。
営業優先度設定の定着と運用ルール
優先度設定の仕組みを構築しても、組織に定着させなければ効果は限定的です。前述の調査で示されたように、商談化率が高いBtoB企業のうち66.1%がリードの優先順位付けを実施しています。この差は、仕組みの有無だけでなく、運用の定着度合いによって生まれると考えられます。
組織への定着に向けて、以下の運用ルールを設計することをお勧めします。
対応期限の設定
- 優先度Sリードは即日または翌営業日までに初回コンタクト
- 優先度Aリードは一定期間内に初回コンタクト
- 対応期限を超過した場合のエスカレーションルール
レビュー頻度の設定
- 週次でスコア上位リードの対応状況を確認
- 月次でスコアリングルールの効果を検証
- 四半期でルール全体の見直しを実施
役割分担の明確化
- スコアリングルールの設計・管理:マーケティング部門
- 日常の対応:営業担当者
- モニタリング・改善:営業マネージャー
【チェックリスト】営業優先度設定チェックリスト
- 優先度判断の基準(属性情報・行動情報)が明文化されている
- スコアリングの配点ルールが設計されている
- 優先度ランク(S/A/B/Cなど)の定義が明確である
- 各優先度ランクに対する対応方針が決まっている
- 高優先度リードへの対応期限が設定されている
- 対応期限超過時のエスカレーションルールがある
- MA/SFAでスコアリング機能が設定されている
- 営業担当者へのアラート・通知が自動化されている
- スコアリングルールの定期レビュー頻度が決まっている
- 商談化率とスコアの相関分析を行う仕組みがある
- マーケティング部門と営業部門の役割分担が明確である
- 新規担当者へのルール説明・教育体制がある
- スコアリングシートまたは管理ツールが整備されている
- 優先度設定の効果測定指標(KPI)が設定されている
- 改善提案を収集・反映するフィードバックの仕組みがある
まとめ:仕組み化で再現性のある成果を生み出す
本記事では、営業の優先度設定を属人的な判断から仕組み化されたプロセスに転換する方法を解説しました。
本記事の要点
- 商談化率が高いBtoB企業のうち66.1%がリードの優先順位付けを実施
- アイゼンハワーマトリクスなどのフレームワークだけでは、組織としての優先度設定は機能しない
- 属性情報(約6割が重視)と行動情報(約3割が重視)の両方を組み合わせることが効果的
- 85%の購買担当者が初回面談前に購買先候補を絞り込んでおり、早期のアプローチが重要
- 高価格帯取引では関与人数18.3人、54%が半年以上を要するため、システムによる支援が有効
本記事で紹介したスコアリングシートとチェックリストを活用し、自社の優先度設定を見直してください。
営業の優先度設定は個人の経験や勘に依存させず、MA/SFAのスコアリング機能とルール設計によって仕組み化することで、組織として再現性のある成果を生み出せます。まずは現状の優先度設定プロセスを可視化し、改善のポイントを特定することから始めてみてください。
