営業組織拡大の課題と本記事の目的
営業組織を拡大するための具体的なステップを理解し、属人化を防ぎながら持続的な成長を実現するために必要なのは、戦略・人材育成だけでなく、MA/SFA実装と営業BPRを一体的に進めることです。
多くのBtoB企業が営業組織の拡大を目指しています。調査によると、新規顧客獲得を重視する企業は69.6%に達する一方で、目標達成率は約40%にとどまるという結果があります(達成率の定義は企業ごとに異なる可能性がある点に注意が必要です)。さらに、営業人手不足により80.1%が「売上の停滞・伸び悩み」を、78.7%が「新規顧客開拓の後回し」を実感しているという調査結果もあります。
このギャップはなぜ生まれるのでしょうか。本記事では、営業組織拡大を阻む構造的な課題を明らかにし、「戦略・人材・実装」の3軸で拡大を成功に導くアプローチを解説します。
この記事で分かること
- 営業組織拡大が難しい理由(属人化・ツール未活用・採用難の3重苦)
- 戦略軸としてのKPI設計と目標管理の方法
- 人材軸としての採用難時代の育成・スキル体系化アプローチ
- 実装軸としてのMA/SFA導入と営業BPRの一体的推進
- 自社の拡大準備度を診断する3軸チェックリスト
営業組織拡大が難しい理由:属人化・ツール未活用・採用難の3重苦
営業組織拡大を阻む最大の要因は、属人化・ツール未活用・採用難という3つの課題が相互に影響し合い、悪循環を生み出していることです。
BtoB中小企業の新規開拓では、「既存顧客や知人からの紹介」が60.7%と突出しているという調査結果があります(2025年10月調査、全国BtoB中小企業営業管理職300名対象。サンプル規模が限定的なため一般化には注意が必要です)。紹介営業自体は有効な手法ですが、問題はそれに依存する企業の体制にあります。
紹介を主力とする企業に限定すると、KPI未設定が59.0%、営業ツール活用が「ほぼ手動」という回答が61.5%(全体平均42.0%より約20ポイント高い)に達するという調査結果があります(民間調査で自己申告ベースのため、実態との乖離可能性あり)。
この数字が示すのは、戦略・人材に注力しても、MA/SFA実装を疎かにすると属人化が解消されないという失敗パターンです。営業プロセスが可視化されず、成果が個人の能力や人脈に依存する状態では、組織としての再現性が生まれません。
さらに、採用市場の厳しさがこの課題を一層深刻にしています。営業人員増員で課題を感じる中小企業経営層の49.0%が「採用が困難」、40.5%が「給与・人件費の高騰で採用枠を広げられない」と回答しています。
紹介依存と手動営業がもたらす再現性の欠如
紹介依存と手動営業の組み合わせは、営業組織の再現性を著しく低下させます。
紹介営業は、既存の信頼関係をベースにした効果的なリード獲得手法です。しかし、紹介依存60.7%という高い割合と、KPI未設定59.0%、手動営業61.5%という状況が組み合わさると、営業成果が特定の個人に依存する構造が固定化されます。
具体的には、以下のような問題が発生します。
- 紹介元との関係性が特定の営業担当者に紐づき、退職時に顧客基盤が失われるリスク
- KPIが設定されていないため、どの活動が成果に寄与しているか分析できない
- 手動での営業活動が中心のため、ノウハウが暗黙知にとどまり、組織に蓄積されない
この状態で人員を増やしても、新規メンバーは既存メンバーの人脈を引き継げず、一から関係構築を始めることになります。これが営業組織拡大の大きな障壁となっています。
人材採用の困難と人件費高騰の現実
営業人材の確保は、多くの企業にとって深刻な課題となっています。
前述のとおり、中小企業経営層の49.0%が「採用が困難」、40.5%が「給与・人件費の高騰で採用枠を広げられない」と回答しています。人海戦術による営業組織拡大は、現実的に困難な状況にあるといえます。
さらに、20代の68.2%が「転職・起業のステップ」としてキャリアを志向しているという調査結果もあります(自己申告ベースの調査で、実態との乖離可能性あり)。若手人材を採用できたとしても、長期的な定着を前提とした組織設計はリスクが高いことを示唆しています。
このような環境では、採用数を増やすことよりも、既存人材の生産性を高め、組織としての再現性を確保するアプローチが重要になります。
戦略軸:営業組織拡大の土台となるKPI設計と目標管理
営業組織拡大の第一歩は、明確なKPI設計と目標管理体制の構築です。KPIなくして拡大の進捗を測ることはできません。
KPI(Key Performance Indicator) とは、重要業績評価指標のことで、営業組織の目標達成度を測定するための数値指標(例: 商談化率、受注率)を指します。
営業部門全体の課題として、「新規顧客獲得難(35.8%)」「営業人材採用・育成進まず(32.0%)」「営業生産性低(29.0%)」が3年連続でトップに挙げられています。これらの課題に対処するためには、まず現状を数値で把握し、改善の方向性を定める必要があります。
また、新規顧客開拓を重視するBtoB企業のうち、課題トップは「営業スキル・ノウハウ不足(36.3%)」「競合差別化(33.3%)」となっています。スキルやノウハウの不足を解消するためにも、何が成果につながる行動なのかをKPIで可視化することが重要です。
営業組織拡大準備チェックリスト:3軸診断で現状を把握する
営業組織拡大に着手する前に、自社の準備度を診断することが重要です。以下のチェックリストで、戦略・人材・実装の3軸から現状を確認してください。
【チェックリスト】営業組織拡大準備チェックリスト(3軸診断)
- 営業目標(売上・件数)が明確に数値化されている
- 商談化率・受注率などの主要KPIが設定されている
- KPIの達成状況を定期的にレビューする仕組みがある
- 営業プロセス(リード獲得〜受注)が文書化されている
- 目標達成に必要な人員数が試算されている
- 営業担当者の役割分担が明確になっている
- 新人向けのオンボーディングプログラムがある
- 営業スキルの評価基準が定義されている
- 定期的な研修・勉強会が実施されている
- 成功事例のナレッジ共有の仕組みがある
- 顧客情報を一元管理するツール(CRM等)がある
- リード情報の管理・スコアリングができている
- 商談の進捗状況がリアルタイムで可視化されている
- 営業・マーケティング間でデータ連携ができている
- ツール導入後の運用ルールが決まっている
上記のチェック項目のうち、各軸で半数以上にチェックが入らない場合は、その軸の強化を優先することをお勧めします。
人材軸:採用難時代の営業人材育成とスキル体系化
採用が困難な現実を踏まえると、既存人材の育成と分業化による生産性向上が営業組織拡大の現実的なアプローチです。
前述のとおり、中小企業経営層の49.0%が採用困難を、40.5%が人件費高騰を課題として挙げています。また、20代の68.2%が転職・起業のステップとしてキャリアを志向しているため、採用できたとしても長期定着を前提とした計画はリスクを伴います。
このような環境では、採用数に頼らず、一人あたりの生産性を高め、組織としてのスキルを体系化することが重要です。営業スキル・ノウハウ不足(36.3%)という課題に対しても、体系的な育成プログラムとナレッジ共有の仕組みが有効な対策となります。
THE MODEL型分業による個人依存の軽減
THE MODEL(分業レベニューモデル) とは、営業プロセスを分業化し、各ステージに専門チームを配置するモデルです。マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスの4段階に分けることが一般的です。
この分業モデルを導入することで、以下のメリットが得られます。
- 各ステージに専門性を持たせ、育成を効率化できる
- 特定の個人に依存しない体制を構築できる
- ステージごとのKPIが明確になり、ボトルネックを特定しやすくなる
ただし、分業化を進める際は、ステージ間の情報連携が重要です。SFA(Sales Force Automation) を活用して商談情報を一元管理し、引き継ぎ時の情報ロスを防ぐ必要があります。分業化とSFA連携をセットで進めることで、個人依存の軽減と組織としての再現性確保を両立できます。
実装軸:MA/SFA導入と営業BPRを一体的に進める方法
営業組織拡大の成否を分けるのは、MA/SFA導入と営業BPR(Business Process Reengineering: 業務プロセス改革)を一体的に進められるかどうかです。ツール導入だけでは成果は出ません。
MA(Marketing Automation) とは、マーケティング活動を自動化するツールで、リード管理や育成を効率化し、営業との連携を強化します。SFA(Sales Force Automation) は営業支援システムで、商談管理やKPI分析を効率化し、営業活動の可視化を実現します。CRM(Customer Relationship Management) は顧客関係管理システムで、顧客情報を一元管理し、営業・マーケティング活動を効率化します。
CRM導入率は2024年度で37.2%(前年36.2%から1.0ポイント上昇)という調査結果があります。導入企業は増えているものの、多くの企業ではまだ導入に至っていない、または導入しても十分に活用できていない状況が推測されます。
また、高額取引(高価格帯)では平均関与人数18.3人、54%が検討から契約まで半年以上かかるという調査結果があります。複数の意思決定者と長期間にわたる商談を管理するには、ツールによる情報一元管理が必須です。
MA/SFA導入ロードマップ:営業BPRと連動した実装ステップ
MA/SFA導入を成功させるには、営業プロセスの見直し(BPR)と連動させることが重要です。以下のロードマップを参考に、段階的に進めてください。
【フロー図】MA/SFA導入ロードマップ
flowchart TD
A[Phase 1: 現状分析] --> B[Phase 2: 要件定義]
B --> C[Phase 3: ツール選定]
C --> D[Phase 4: BPR実施]
D --> E[Phase 5: 導入・運用]
E --> F[Phase 6: 定着・改善]
A1[営業プロセスの可視化] --> A
A2[課題・ボトルネック特定] --> A
A3[現行ツール棚卸し] --> A
B1[必要機能の洗い出し] --> B
B2[KPI設計] --> B
B3[データ連携要件] --> B
C1[候補ツール比較] --> C
C2[トライアル実施] --> C
C3[コスト・サポート評価] --> C
D1[営業プロセス再設計] --> D
D2[役割分担の見直し] --> D
D3[ルール・運用フロー策定] --> D
E1[初期設定・データ移行] --> E
E2[担当者トレーニング] --> E
E3[並行運用期間] --> E
F1[利用状況モニタリング] --> F
F2[定期レビュー] --> F
F3[継続的改善] --> F
各フェーズのポイント
- Phase 1(現状分析): 営業プロセスを可視化し、属人化しているポイントやボトルネックを特定します。
- Phase 2(要件定義): 解決すべき課題に基づき、必要な機能とKPIを定義します。
- Phase 3(ツール選定): 複数のツールを比較検討し、トライアルで使用感を確認します。
- Phase 4(BPR実施): ツール導入に合わせて営業プロセスを再設計します。これを疎かにすると、ツールが形骸化するリスクがあります。
- Phase 5(導入・運用): 段階的に導入し、担当者へのトレーニングを実施します。
- Phase 6(定着・改善): 利用状況をモニタリングし、継続的に改善を行います。
SSOT構築によるデータ一元管理の実現
SSOT(Single Source of Truth) とは、データの一元管理により「唯一の正しい情報源」を確立することです。営業・マーケティング間の情報分断を解消し、組織全体でデータを活用するために重要な概念です。
前述のとおり、紹介主力企業では営業ツール活用が「ほぼ手動」という回答が61.5%に達しています。手動での情報管理では、データの重複や不整合が発生しやすく、組織としての意思決定に支障をきたします。
MA/SFA/CRMを連携させ、以下のデータを一元管理することで、SSOTを実現できます。
- リード情報(流入経路、行動履歴、スコアリング)
- 商談情報(進捗状況、金額、担当者)
- 顧客情報(企業属性、過去の取引履歴、コンタクト履歴)
データが一元化されることで、営業・マーケティング部門横断でのKPI設計や、ターゲティング精度の向上が可能になります。
まとめ:営業組織拡大を成功させる「戦略・人材・実装」の統合
営業組織拡大を成功させるには、戦略・人材・実装の3軸を統合的に進めることが重要です。
新規顧客獲得を重視する企業は69.6%に達する一方で、目標達成率は約40%にとどまるという調査結果は、多くの企業が拡大に苦戦している現実を示しています。このギャップを埋めるためには、戦略立案や人材育成だけでなく、MA/SFA実装と営業BPRを一体的に進めることが必要です。
本記事で解説した内容を振り返ると、以下のポイントが重要です。
- 課題認識: 属人化・ツール未活用・採用難の3重苦が拡大を阻んでいる
- 戦略軸: KPI設計と目標管理で拡大の進捗を可視化する
- 人材軸: 採用難時代には分業化と既存人材の育成で対応する
- 実装軸: MA/SFA導入と営業BPRを一体的に進め、SSOTを構築する
まずは本記事で紹介した3軸診断チェックリストを活用し、自社の現状を把握することから始めてください。弱点が明確になれば、優先的に取り組むべき領域が見えてきます。
営業組織の拡大には、戦略・人材育成だけでなく、MA/SFA実装と営業BPRを一体的に進めることで、属人化を防ぎながら持続的な成長を実現できます。
