SaaS指標9.6%しか運用できない理由と定着法

著者: B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部公開日: 2026/1/1511分で読めます

「記事は出してるのに商談につながらない」を解決する。
御社を理解して書くから、刺さる。この記事はMediaSprintで作成しました。

MediaSprintについて詳しく見る →

SaaS指標を「見るだけ」で終わらせない運用体制の重要性

SaaS指標は定義と計算式を理解するだけでなく、MA/SFAデータ連携で指標を可視化し、マーケ・IS・CS部門横断で改善アクションにつなげる運用体制を構築することで、事業成長に直結する意思決定ができます。これが本記事の結論です。

国内SaaS市場は2023年度実績1兆4,182億円、2028年度予測2兆6,425億円(年平均成長率約16%超)と急成長を続けています。しかし、SaaS事業における成功指標の体系化完了率はわずか9.6%にとどまるという調査結果もあります(SaaS事業責任者550名を対象とした調査。自己申告ベースのため回答バイアスの可能性あり)。

つまり、多くの企業がSaaS指標を導入しても「見るだけ」で終わり、事業改善に活かせていない現状があります。本記事では、指標の定義と計算式の理解から、運用定着までの実践的なアプローチを解説します。

この記事で分かること

  • SaaS主要指標の定義と計算式
  • 成長性・効率性・継続性の3軸での指標分類
  • MA/SFAデータ連携で指標を可視化する方法
  • 部門横断で改善アクションにつなげる運用体制の構築

SaaS指標の基本と主要カテゴリ

SaaS指標は、事業の健全性を多角的に評価するためのKPIです。大きく「成長性」「効率性」「継続性」の3つの観点で分類すると、自社の課題に合った指標を優先しやすくなります。

MRR(Monthly Recurring Revenue) とは、月次経常収益のことで、各顧客の月額課金額の合計です。予測可能な安定収益を示す基本指標です。

ARR(Annual Recurring Revenue) は、年間経常収益を指し、MRR×12で算出されます。SaaS企業の事業規模を示す主要指標として投資家やアナリストが重視します。

CAC(Customer Acquisition Cost) は、顧客獲得コストです。マーケティング・営業費用総額÷新規顧客数で算出します。

LTV(Lifetime Value) は、顧客生涯価値で、1顧客から得られる総収益を指します。LTV:CAC≥3:1が健全な目安とされることがありますが、業界や事業モデルにより適正値は異なります。

NRR(Net Revenue Retention) は、既存顧客収益維持率です。100%を超えていれば、アップセルが解約を上回っている状態を示します。

チャーンレート(Churn Rate) は、解約率のことで、期間内の解約顧客数÷期首顧客数×100で算出します。この低減がSaaS事業成長の鍵となります。

成長性を測る指標:MRR・ARR

MRRとARRは、SaaS事業の成長性を測る最も基本的な指標です。

日本上場SaaS企業のARRトップはSansanの173.6億円(2025年時点)、次いでサイボウズ157.4億円、ラクス145.9億円と続いています。また、日本上場SaaS企業のARR成長率業界平均は32.6%(中央値30.8%)です。

ただし、このARR成長率32.6%は上場企業の平均であり、スタートアップや非上場企業に同じ基準を当てはめることは適切ではありません。自社のフェーズに合った成長目標を設定することが重要です。

MRRは月次で変動を追跡できるため、新規獲得・解約・アップセルの影響を細かく分析する際に有効です。ARRは年間での事業規模を示すため、資金調達や中長期計画の策定で使われることが多いです。

効率性を測る指標:CAC・LTV・ユニットエコノミクス

CAC(顧客獲得コスト)とLTV(顧客生涯価値)の比率は、マーケティング・営業投資の効率性を測る重要な指標です。

LTV:CAC≥3:1が健全な目安として知られていますが、これは一般的な参考値であり、業界や事業モデル、成長フェーズによって適正値は大きく異なります。スタートアップの急成長期にはCACが高くなる傾向があり、成熟期には効率化が求められるなど、状況に応じた判断が必要です。

CACは「マーケティング費用+営業費用」÷「新規顧客数」で算出します。LTVは「平均月額単価×粗利率÷月次チャーンレート」で計算するのが一般的です。

ユニットエコノミクスが健全かどうかは、CACの回収期間でも判断できます。回収期間が短いほど、次の投資に早く回せるため、成長スピードを上げやすくなります。

継続性を測る指標:NRR・チャーンレート

NRR(既存顧客収益維持率)とチャーンレート(解約率)は、顧客維持の健全性を測る指標です。

Vertical SaaS(業界特化型)のNRR平均は115%超と高い顧客定着率を示しています。これは、業界特化により顧客のスイッチングコストが高く、アップセル機会も多いためと考えられます。

一方、MRR成長率はHorizontal SaaS(汎用型)がVertical SaaSの1.7倍ですが、チャーンレートはHorizontalが2.0ポイント高いという調査結果もあります。Horizontal SaaSは市場が大きく成長しやすい反面、競合も多く解約されやすい傾向があります。

チャーンレートについては「5%未満が健全」という目安が語られることがありますが、業界や事業モデルにより適正値は異なります。自社の過去データとの比較や、同業種の傾向を参考にしながら目標を設定することが重要です。

SaaS主要指標の定義・計算式・活用シーン

主要なSaaS指標の定義、計算式、活用シーンを一覧表にまとめました。実務で参照しやすい形式で整理しています。

【比較表】SaaS主要指標一覧表(定義・計算式・活用シーン)

指標名 定義 計算式 活用シーン
MRR 月次経常収益 各顧客の月額課金額の合計 月次の成長トレンド把握、新規・解約・アップセルの分析
ARR 年間経常収益 MRR × 12 事業規模の把握、資金調達、中長期計画策定
CAC 顧客獲得コスト (マーケティング費用 + 営業費用) ÷ 新規顧客数 マーケティング投資効率の評価、チャネル別効率比較
LTV 顧客生涯価値 平均月額単価 × 粗利率 ÷ 月次チャーンレート 顧客セグメント別の価値評価、投資判断
LTV:CAC比率 投資回収効率 LTV ÷ CAC マーケティング・営業投資の健全性評価
NRR 既存顧客収益維持率 (期首MRR + アップセル - ダウングレード - 解約) ÷ 期首MRR × 100 既存顧客からの収益成長力評価、CS施策効果測定
チャーンレート 解約率 期間内解約顧客数 ÷ 期首顧客数 × 100 顧客維持施策の効果測定、解約要因分析
PSR 株価売上高倍率 時価総額 ÷ 年間売上高 バリュエーション評価、同業比較

参考として、日本上場SaaS企業のPSR平均は3.8倍、FMARCOS平均は5.9倍(2025年11月末時点)というデータがあります。ただし、PSR倍率は市況や金利環境により大きく変動するため、固定的な基準として使用することは避けてください。

指標を事業改善に活かすMA/SFAデータ連携

指標を「見るだけ」で終わらせず、改善アクションにつなげるには、MA/SFAとのデータ連携が欠かせません。

**よくある失敗パターンとして、SaaS指標の定義と計算式を覚えるだけで満足し、実際のデータ連携や部門間での共有・改善サイクルを構築しないケースがあります。**この場合、指標が「見るだけ」で終わり、事業改善に活かせません。先述の通り、SaaS事業における成功指標の体系化完了率は9.6%にとどまっており、運用定着の難しさが浮き彫りになっています。

指標を事業改善に活かすには、以下のステップが有効です。

  1. データソースの統合: MA(マーケティングオートメーション)とSFA(営業支援システム)のデータを連携し、リード獲得から商談、受注、継続利用までの一気通貫のデータ基盤を構築する

  2. ダッシュボードの構築: MRR、CAC、LTV、NRR、チャーンレートなどの主要指標をリアルタイムで可視化するダッシュボードを構築する

  3. アラート設定: チャーンレートの急上昇やNRRの低下など、異常値を検知したら即座に対応できるアラート設定を行う

  4. 週次レビューの定例化: ダッシュボードを見ながら週次で振り返りを行い、改善アクションを決定・実行する

マーケ・IS・CS部門横断での指標活用

SaaS指標を事業成長に直結させるには、マーケティング・インサイドセールス(IS)・カスタマーサクセス(CS)の部門横断での活用が重要です。

各部門の役割と重視すべき指標は以下のように整理できます。

  • マーケティング: CAC最適化、リード品質向上、チャネル別効率の分析
  • インサイドセールス: 商談化率、パイプライン進捗、CAC回収期間の意識
  • カスタマーサクセス: NRR向上、チャーンレート低減、アップセル・クロスセル推進

部門間でKPI定義を揃えることが連携の第一歩です。たとえば「MQL(マーケティング有望リード)」や「SQL(営業有望リード)」の定義が部門間で異なると、引き渡しがスムーズにいかず、ファネル全体の効率が落ちます。

定期的な部門横断ミーティングで、指標の推移と改善アクションを共有し、全社でPDCAを回す体制を構築することが成功の鍵です。

SaaS指標運用を定着させる実践チェックリスト

指標運用を定着させるには、仕組み化と継続的な改善が欠かせません。以下のチェックリストで自社の現状を確認し、優先的に取り組むべき課題を特定してください。

【チェックリスト】SaaS指標運用チェックリスト

  • 追跡すべき主要指標(MRR、ARR、CAC、LTV、NRR、チャーンレート)が定義されている
  • 各指標の計算式と算出方法が文書化されている
  • 指標の定義が全社で統一されている(部門間で解釈のズレがない)
  • MA/SFAのデータが連携されている
  • リード獲得から受注・継続までの一気通貫のデータ追跡ができている
  • 主要指標をリアルタイムで確認できるダッシュボードがある
  • 異常値を検知するアラート設定がされている
  • 週次で指標レビューを行う定例会議がある
  • レビュー結果に基づく改善アクションが実行されている
  • マーケ・IS・CS間でMQL/SQLの定義が共有されている
  • 部門間でKPI進捗を共有する仕組みがある
  • 部門横断の改善施策を検討・実行する場がある
  • 指標の目標値が設定されている(フェーズに合った現実的な目標)
  • 目標と実績の差異分析が定期的に行われている
  • 指標運用の担当者・責任者が明確になっている

上記のチェック項目のうち、10個以上に対応できていれば、指標運用の基盤は整っていると言えます。5個未満の場合は、まずデータ連携とダッシュボード構築から着手することをお勧めします。

まとめ|SaaS指標を事業成長に直結させるために

本記事では、SaaS指標の定義と計算式から、運用定着までのアプローチを解説しました。

日本SaaS市場は2026年138億米ドル、2035年381億米ドルへ成長が予測されており(CAGR13.5%)、SaaS事業の重要性は今後も高まり続けます。この成長市場で競争力を維持・強化するには、指標を正しく理解し、事業改善に活かす体制が不可欠です。

重要なポイントを整理すると:

  1. SaaS指標は「成長性」「効率性」「継続性」の3軸で分類して把握する
  2. 定義と計算式を理解するだけでなく、MA/SFAデータ連携で可視化する
  3. マーケ・IS・CS部門横断で改善アクションにつなげる運用体制を構築する
  4. 週次レビューで継続的にPDCAを回す

繰り返しになりますが、SaaS指標は定義と計算式を理解するだけでなく、MA/SFAデータ連携で指標を可視化し、マーケ・IS・CS部門横断で改善アクションにつなげる運用体制を構築することで、事業成長に直結する意思決定ができます。

次のアクションとして:

  • 本記事のチェックリストで自社の現状を確認する
  • 優先的に取り組むべき課題を特定する
  • まずはダッシュボード構築と週次レビューの定例化から始める

指標を「見るだけ」で終わらせず、事業成長のエンジンとして活用してください。

「記事は出してるのに商談につながらない」を解決する。
御社を理解して書くから、刺さる。この記事はMediaSprintで作成しました。

MediaSprintについて詳しく見る →

この記事の内容を自社で実践したい方へ

リード獲得〜商談化の課題を診断し、設計から実装まで支援します。
戦略だけで終わらず、作って納品。まずは30分の無料相談から。

よくある質問

Q1SaaSで最も重要な指標は何ですか?

A1事業フェーズにより重視すべき指標は異なります。シード期はMRR成長率で事業の牽引力を確認し、グロース期はLTV:CAC比率とNRRで投資効率と顧客維持を評価し、成熟期はチャーンレートと収益性を重視する傾向があります。自社のフェーズに合った指標を優先することが重要です。

Q2LTV:CAC比率はどのくらいが適切ですか?

A2一般的にLTV:CAC≥3:1が健全な目安とされていますが、業界・事業モデル・成長フェーズにより適正値は異なります。スタートアップの急成長期にはCACが高くなりがちで、成熟期には効率化が求められるなど、状況に応じた判断が必要です。自社の過去データや同業種の傾向を参考に目標を設定してください。

Q3チャーンレートは何%未満が健全ですか?

A3一概には言えません。Horizontal SaaS(汎用型)とVertical SaaS(業界特化型)でも傾向が大きく異なり、Vertical SaaSのNRR平均は115%超と高い顧客定着率を示す一方、Horizontal SaaSはチャーンレートが2.0ポイント高い傾向があります。業界特性を踏まえた目標設定が必要です。

Q4SaaS指標を導入したが活用できていない場合どうすればよいですか?

A4SaaS事業における成功指標の体系化完了率は9.6%と低く、運用定着が共通の課題です。まずはMA/SFA連携でダッシュボードを構築し、主要指標をリアルタイムで可視化することから始めてください。その上で、週次レビューを定例化し、マーケ・IS・CS部門横断で改善アクションを決定・実行するサイクルを回す体制を整えることが有効です。

B

B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部

「B2Bデジタルプロダクト実践ガイド」は、デシセンス株式会社が運営する情報メディアです。B2Bデジタルプロダクト企業のマーケティング・営業・カスタマーサクセス・開発・経営に関する実践的な情報を、SaaS、AIプロダクト、ITサービス企業の実務担当者に向けて分かりやすく解説しています。