Engagement Studioで成果を出すために押さえるべき全体像
Engagement Studioで成果を出すために最も重要なのは、シナリオの設定方法を理解するだけでなく、SFA連携やスコアリングとの組み合わせ、効果測定方法まで見据えた全体設計です。
Account Engagement(旧Pardot)を導入したものの、Engagement Studioを使って「どのようなシナリオを作れば商談化につながるのか」「設定はしたが成果が出ている実感がない」という課題を抱えている企業は少なくありません。
日本のMA市場は成長を続けており、矢野経済研究所の調査によると、2020年約543億円、2021年約600億円、2026年予測約865億円と推移しています(民間推計値のため調査会社間で差異あり)。一方、日本のBtoB企業のMA導入率は約30%(2024年時点、民間調査ベースの推計値)とされており、ツールを導入しても十分に活用できていない企業が多いのが現状です。
この記事で分かること
- Engagement Studioの構成要素(トリガー・アクション・ルール)の役割と使い分け
- シナリオ作成の基本手順と成果を出すための設計ポイント
- SFA連携を見据えた商談化への接続方法
- 効果測定と改善サイクルの回し方
- 実践的なシナリオ設計チェックリスト
Engagement Studioの基本:構成要素と役割
Engagement Studioとは、Account Engagement(旧Pardot)の中核機能であり、リード行動に応じたメール配信・スコアリングなどを視覚的に自動化するシナリオ作成ツールです。このセクションでは、Engagement Studioを構成する3つの要素について解説します。
Engagement Studioのシナリオは、主に「トリガー」「アクション」「ルール」の3つの要素で構成されています。それぞれの役割を理解することが、効果的なシナリオ設計の第一歩です。
トリガー(Trigger) は、Engagement Studioでシナリオの開始条件を設定する要素です。フォーム送信、リスト追加、メールクリックなど、リードの行動を起点にシナリオを自動起動させます。
アクション(Action) は、Engagement Studioで実行する具体的なタスクです。メール送信、リスト追加、スコア付与、Salesforceへの同期などを自動化できます。
ルール(Rule) は、Engagement Studioで条件分岐の判定を行う要素です。スコア閾値到達、ページ訪問などをIf/Then形式で分岐させることで、リードの状態に応じた対応が可能になります。
【比較表】Engagement Studio構成要素比較表(アクション・ルール・トリガー)
| 要素 | 役割 | 設定例 | 使用タイミング |
|---|---|---|---|
| トリガー(Trigger) | シナリオの開始条件を設定 | フォーム送信完了、リスト追加、メールリンククリック | シナリオ起動の起点 |
| アクション(Action) | 具体的なタスクを実行 | メール送信、リスト追加/削除、スコア調整、Salesforce同期 | リードへの働きかけ |
| ルール(Rule) | 条件に基づく分岐判定 | スコアが100以上か、特定ページを訪問したか、メールを開封したか | 行動・属性による振り分け |
| 待機ステップ | 次のアクションまでの時間を設定 | 1日待機、3日待機、1週間待機 | 適切な間隔でのアプローチ |
| 終了ステップ | シナリオの終了条件を設定 | 商談化、オプトアウト、目標達成 | シナリオからの離脱判定 |
ドリッププログラムとの違い
従来のドリッププログラムとEngagement Studioには明確な違いがあります。
ドリッププログラムは、時間ベースで連続的にメールを配信する機能です。「登録から3日後に1通目、7日後に2通目」というように、あらかじめ決められたスケジュールに沿ってメールを送信します。
一方、Engagement Studioは、リードの行動に応じて分岐・条件分岐が可能なシナリオ作成ツールです。「メールをクリックしたリードにはAのコンテンツを、クリックしなかったリードにはBのコンテンツを」というように、リードの反応に合わせた柔軟な対応ができます。
この違いにより、Engagement Studioではより個別化されたリードナーチャリングが実現できます。リードの興味関心や検討段階に合わせたコンテンツ提供が可能になり、画一的なメール配信よりも高い効果が期待できます。
シナリオ作成の基本手順と設計のポイント
Engagement Studioで成果を出すシナリオを作成するには、単にツールの操作方法を覚えるだけでなく、全体の設計思想を理解することが重要です。ここでは基本手順と設計時のポイントを解説します。
シナリオ作成の基本手順は以下の通りです。
- 目的の明確化: 何を達成するためのシナリオか(資料請求後のフォローアップ、セミナー参加者へのナーチャリングなど)
- 対象リストの定義: どのリードを対象にするか(セグメントの設定)
- シナリオの設計: トリガー、アクション、ルールの組み合わせを決定
- コンテンツの準備: 配信するメールテンプレートやランディングページの作成
- テストと公開: 小規模なテスト配信を行い、問題がなければ本番公開
スコアリングは、リードの行動(メール開封、ページ閲覧など)に応じて点数を付与し、商談化可能性を数値化する仕組みです。Engagement Studioのシナリオ設計では、このスコアリングと連動させることで、商談化につながりやすいリードを効率的に営業へパスできるようになります。
設計時のポイントとして、シンプルな分岐から始め、効果測定しながら段階的に拡張することをお勧めします。「複雑なほど効果的」という考え方は誤りで、まずは基本的なシナリオで成果を確認してから拡張していくアプローチが推奨されています。
【チェックリスト】Engagement Studioシナリオ設計チェックリスト
- シナリオの目的が明確に定義されているか
- 対象となるリードセグメントが適切に設定されているか
- 開始トリガーの条件が明確に設定されているか
- 配信するメールコンテンツが準備できているか
- メールの配信間隔が適切か(過度に頻繁でないか)
- 分岐条件(ルール)が論理的に設計されているか
- スコアリングとの連動が考慮されているか
- 高スコアリードを営業にパスする条件が設定されているか
- Salesforce CRMとのデータ同期が設定されているか
- シナリオの終了条件が明確に設定されているか
- オプトアウトしたリードの除外設定がされているか
- テスト配信の実施計画があるか
- KPI(開封率、クリック率、商談化率など)の測定方法が決まっているか
- シナリオ公開後のレビュー・改善サイクルが計画されているか
- 担当者のアサインと運用体制が整っているか
メール自動配信だけでは成果が出ない理由
Engagement Studioを「メール自動配信ツール」としてのみ捉え、シナリオ単体で設計してしまうと成果につながりません。これはよくある失敗パターンです。
SFA側の営業フローとの接続を考慮しないまま運用した結果、リードは育成されても商談化につながらない状態になるケースが多く見られます。具体的には以下のような問題が発生します。
- メールは送っているが、営業がフォローすべきタイミングが分からない
- リードのスコアや行動履歴が営業と共有されていない
- 商談化したかどうかの情報がマーケティングにフィードバックされない
Engagement Studioで成果を出すためには、シナリオ設計の段階から「育成されたリードをいつ、どのような条件で営業にパスするか」「商談化後の情報をどうマーケティングにフィードバックするか」という、SFA連携を見据えた設計が不可欠です。
SFA連携を見据えたシナリオ設計と商談化への接続
Engagement Studioの真価は、Salesforce CRMとの連携により発揮されます。単なるメール配信自動化ではなく、商談化を加速させる仕組みとして設計することが重要です。
Account Engagement(旧Pardot)はSalesforce製品であるため、Salesforce CRMとのネイティブ連携が可能です。この連携により、リードの行動履歴や営業活動がリアルタイムで同期され、商談・受注までのトラッキングが実現できます。
導入事例として、コニカミノルタジャパンはPardotとSalesforce連携でマーケティング・インサイドセールスを強化し、案件創出が大きく向上したと報告されています(ベンダー公表の成功事例)。
また、あるSaaS企業の事例では、スコアリングで高スコアリードのみを営業にパスした結果、商談化率が15%から38%に向上し、受注件数は前年比140%を達成したとされています(特定企業の事例であり、業界平均ではないことに注意が必要です)。
これらの事例が示すように、Engagement StudioとSFA連携を適切に設計することで、商談化率の改善が期待できます。
スコアリングとグレーディングの活用
営業が対応すべきリードを絞り込むために、スコアリングとグレーディングの両方を活用することが効果的です。
スコアリングは、リードの行動(メール開封、ページ閲覧、資料ダウンロードなど)に応じて点数を付与し、リードの興味関心度合いを数値化するものです。行動が活発なリードほどスコアが高くなります。
一方、グレーディングは、リードの属性(業種、企業規模、役職など)に基づいて、自社のターゲットへの適合度を評価するものです。理想的な顧客プロファイルに近いリードほどグレードが高くなります。
この2つを組み合わせることで、「興味関心が高く(スコア)」かつ「ターゲットとして適している(グレード)」リードを優先的に営業へパスできます。これにより、営業リソースを効率的に活用しながら、商談化率の向上が期待できます。
効果測定と改善サイクルの回し方
Engagement Studioを導入しただけでは成果は出ません。効果測定と継続的な改善サイクルを回すことで、シナリオの精度を高めていくことが重要です。
「Engagement Studioを設定すれば自動で成果が出る」という考え方は誤りです。導入前のKPI設定と定期的な改善サイクルが必須となります。
導入事例として、日本経済新聞社はEngagement Studioで資料送付を自動化し、手動で1日20件程度だった作業が一瞬で完了するようになり、リード獲得数が大きく向上したと報告されています(ベンダー公表の成功事例)。このような成果を出すためには、導入前のベースラインを把握し、改善の効果を測定できる状態にしておくことが重要です。
効果測定と改善のポイントは以下の通りです。
- ベースラインの把握: 導入前のKPI(MQL数、商談転換率、メール開封率など)を記録
- 定期的なレビュー: 月次でシナリオのパフォーマンスを確認
- 低パフォーマンスシナリオの特定: 目標を下回るシナリオを洗い出し
- 改善または停止の判断: 改善余地があれば修正、なければ停止・再設計
- 成功パターンの横展開: 効果の高いシナリオの要素を他シナリオに適用
測定すべきKPIと改善のタイミング
Engagement Studioの効果を測定するために、以下のKPIを追跡することをお勧めします。
主要KPI
- MQL数(Marketing Qualified Lead:マーケティングが認定したリード数)
- 商談転換率(MQLから商談に至った割合)
- 営業へのパス数とその後の商談化率
メール指標
- メール開封率
- メールクリック率
- コンバージョン率(特定アクションの完了率)
改善を検討すべきタイミング
- メール開封率が業界平均を大きく下回る場合
- クリック率が極端に低い場合
- 商談転換率が目標を下回る状態が続く場合
- シナリオ開始から一定期間経過後(3-6ヶ月が目安)
月次でこれらの指標をレビューし、低パフォーマンスのシナリオは停止・再設計することで、全体の効率を高めていくことができます。
まとめ:Engagement Studioで商談化を加速させるために
本記事では、Engagement Studioの基本から実践的な活用方法まで解説しました。
Engagement Studioでリードナーチャリングの成果を出すには、シナリオの設定方法を理解するだけでなく、SFA連携やスコアリングとの組み合わせ、効果測定方法まで見据えた全体設計が重要です。
ポイントを整理すると以下の通りです。
- 構成要素の理解: トリガー・アクション・ルールの役割を把握し、適切に組み合わせる
- SFA連携の設計: シナリオ単体ではなく、Salesforce CRMとの連携を前提に設計する
- スコアリングの活用: 高スコアリードを営業にパスし、効率的な商談化を実現する
- 効果測定の実施: KPIを設定し、定期的なレビューと改善サイクルを回す
- 段階的な拡張: シンプルなシナリオから始め、効果を確認しながら拡張する
本記事で紹介したチェックリストを活用しながら、自社のEngagement Studio活用度を確認し、改善に取り組んでみてください。シナリオの設定方法を理解するだけでなく、SFA連携やスコアリングとの組み合わせ、効果測定方法まで見据えた全体設計こそが、商談化を加速させる鍵となります。
