マルチタッチアトリビューションが求められる背景
実はマルチタッチアトリビューションは、モデル選定だけでなく、MA/SFAとのデータ連携設計と社内の運用ルール整備を含めて構築することで初めて成果につながります。
複数チャネルでリードを獲得している企業では、「どのタッチポイントが商談化に貢献しているのか」「どの施策に予算を配分すべきか」という課題を抱えていることが多いです。Global Informationのレポートによると、グローバルのMTA市場は2025〜2030年にかけて年平均二桁成長で拡大すると予測されており、マーケティング効果測定への関心が高まっています。
マルチタッチアトリビューション(MTA) とは、1つのコンバージョンに至るまでの複数タッチポイントに貢献度を分配して評価するアトリビューション手法です。
この記事で分かること
- マルチタッチアトリビューションとシングルタッチの違い
- 主要なアトリビューションモデルの種類と特徴
- 自社に適したモデルの選び方
- MA/SFAとのデータ連携と運用ルール整備のポイント
マルチタッチアトリビューションとシングルタッチの違い
マルチタッチアトリビューションは複数の接点に貢献度を分配するのに対し、シングルタッチアトリビューションは1つの接点に100%の貢献度を割り当てる評価手法です。
シングルタッチには主にファーストタッチ(最初の接点に100%を付与)とラストタッチ(最後の接点に100%を付与)の2種類があります。どちらも設定がシンプルで理解しやすいというメリットがある一方、中間の接点を評価できないという大きな限界があります。
シングルタッチアトリビューションの限界
シングルタッチアトリビューション(ファーストタッチ/ラストタッチ)は、1つの接点に100%の貢献度を割り当てるため、中間の接点を評価できません。
「ラストタッチで十分」という考え方は誤りです。BtoBの購買プロセスでは、認知から商談化まで複数のナーチャリング接点を経ることが一般的です。ラストタッチだけを評価すると、中間の育成接点(ウェビナー、ホワイトペーパー、メールナーチャリングなど)の貢献が見えなくなり、結果として上流チャネルへの投資が削られがちです。
主要なアトリビューションモデルの種類と特徴
マルチタッチアトリビューションには複数のモデルがあり、それぞれ貢献度の配分方法が異なります。代表的なモデルを比較表で整理します。
【比較表】アトリビューションモデル比較表
| モデル名 | 配分方法 | 特徴 | 適したケース |
|---|---|---|---|
| 線形(リニア) | すべてのタッチポイントに均等配分(例:4接点なら各25%) | シンプルで理解しやすい | 初期導入、どの接点も同程度に重要と考える場合 |
| U字型(ポジションベース) | 最初と最後に各40%、中間に20%を均等配分 | 認知獲得とコンバージョン直前を重視 | 認知と商談化の両方を評価したい場合 |
| 減衰(タイムディケイ) | コンバージョンに近い接点ほど高く配分 | 直近の接点を重視 | セールスサイクルが短い場合 |
| W字型 | 最初・中間のリード化・最後に高く配分 | リード化の接点も評価 | リード化ポイントが明確な場合 |
| データドリブン | AI・機械学習で実データから推定 | 精度が高い(データ量依存) | 十分なデータ蓄積がある場合 |
線形(リニア)モデルは、カスタマージャーニー上のすべてのタッチポイントに均等にクレジットを配分するMTAモデルです。例えば4つのタッチポイントがあれば、各接点に25%ずつ配分します。
U字型(ポジションベース)モデルは、最初と最後のタッチポイントを重視し、中間の接点には薄く配分するMTAモデルです。具体的には、最初と最後のタッチポイントに各40%、残り20%を中間のタッチポイントに均等配分します。
データドリブンアトリビューションとは
データドリブンアトリビューションは、AI・機械学習を用いて実データから各タッチポイントの貢献度を統計的に推定するモデルです。
「高度なモデルほど良い」という考え方は誤りです。データドリブンモデルはデータ量が十分にある場合に精度を発揮しますが、コンバージョン数が少ない段階では線形モデルの方が安定した結果を得られることがあります。導入には十分なデータ蓄積が前提条件となります。
自社に適したモデルの選び方
モデル選定は、自社のセールスサイクルやデータ蓄積量に応じて判断することが重要です。
以下の観点で検討することをおすすめします。
- セールスサイクルの長さ: サイクルが長くタッチポイントが多い場合は、中間接点も評価できるU字型やW字型が適しています
- タッチポイントの数: 接点が少ない場合は線形モデルでも十分な分析が可能です
- データ蓄積量: コンバージョン数が十分にある場合はデータドリブンモデルの精度が期待できます
- 分析の目的: 認知施策を評価したいか、商談化直前の施策を評価したいかで適したモデルが変わります
初期導入では線形モデルなど「どの接点もそれなりに重要」と考えるモデルから始め、データ蓄積後にU字型やデータドリブンへ移行するステップが現実的です。
MA/SFAとのデータ連携と運用ルール整備
MTA導入で成果を出すためには、ツール選定だけでなくデータ連携設計と運用ルール整備が不可欠です。
「アトリビューションツールを導入すれば自動的に最適な予算配分がわかる」という考え方は誤りです。データ連携や運用ルールを整備せずにツール設定だけで終わらせてしまうと、結局データが活用されないまま放置されるケースが多く見られます。
BtoBでMTAを導入する企業の標準的な連携範囲は、MA(Marketo、HubSpot等)、SFA/CRM(Salesforce等)、オンライン広告、オフライン施策のイベントデータです。これらを1つのデータ基盤に統合することが導入の基本ラインとなります。
【チェックリスト】マルチタッチアトリビューション導入前チェックリスト
- 評価対象とするコンバージョンポイントを定義している
- MAとSFA/CRMのリード・商談データが連携されている
- オンライン広告のクリック・コンバージョンデータを取得できる
- オフライン施策(展示会・セミナー等)の参加データを記録している
- 個人IDと企業IDの紐付けルールが整備されている
- UTMパラメータなどの流入元トラッキングが統一されている
- タッチポイントの定義(何を1タッチとするか)が決まっている
- アトリビューション結果の活用方法(レポート、予算配分)が決まっている
- 運用担当者とレビュー頻度が決まっている
- 営業部門へのフィードバックループが設計されている
- データ品質のチェック基準が設定されている
- プライバシーポリシー・Cookie同意取得の対応が完了している
導入時によくある課題と対策
MTA導入でつまずきやすいポイントと対策を整理します。
課題1: オフライン接点の記録漏れ
展示会やセミナーなどのオフライン施策は、参加者データがMAに反映されていないことがあります。名刺情報を速やかにMAに登録し、参加イベントをタッチポイントとして記録するフローを整備することが重要です。
課題2: MA/CRMのID統合不足
MAとCRMで同一人物が別レコードとして存在すると、正確なタッチポイント追跡ができません。名寄せルールを定め、定期的にデータクレンジングを実施する運用が必要です。
課題3: 個人から企業への紐付け
BtoBでは複数人が関わる購買委員会のため、個人単位のタッチを企業単位の案件にどう結びつけるかが課題となります。アカウント単位でのタッチポイント集計ルールを設計することで対応できます。
営業からのフィードバックを取り込み、スコアリングやアトリビューションの精度を継続的に改善するPDCAを回すことが成功の鍵となります。
まとめ|アトリビューション導入から運用定着までのポイント
マルチタッチアトリビューションは、カスタマージャーニー全体の施策効果を可視化し、マーケティング予算配分の最適化を支援する手法です。
本記事のポイントをまとめます。
- シングルタッチ(ファーストタッチ/ラストタッチ)は中間の育成接点を評価できない限界がある
- MTAには線形、U字型、減衰、W字型、データドリブンなど複数のモデルがある
- 初期導入では線形モデルから始め、データ蓄積後に高度なモデルへ移行するステップが現実的
- BtoBでの標準的な連携範囲は、MA+SFA/CRM+オンライン広告+オフライン施策のイベントデータ
- ツール導入だけでなく、運用ルール整備と営業へのフィードバックループが成果を分ける
マルチタッチアトリビューションは、モデル選定だけでなく、MA/SFAとのデータ連携設計と社内の運用ルール整備を含めて構築することで初めて成果につながります。まずは自社のタッチポイントを整理し、データ連携の現状を棚卸しすることから始めてみてください。
