なぜインサイドセールス採用は難しいのか
インサイドセールス採用の成功は、スキル要件の明確化だけでなく、MA/SFA運用体制と連動した組織設計・育成計画まで含めて設計することで実現する——本記事ではこの結論を詳しく解説します。
インサイドセールス(IS) とは、非対面でリードへのアプローチ・商談創出を行う営業職種です。マーケティングとフィールドセールスの橋渡し役を担い、BtoB企業の営業プロセスにおいて重要な役割を果たしています。
HubSpot「日本の営業に関する意識・実態調査 2024」によると、日本の営業現場におけるインサイドセールス導入率は41.7%(2024年調査時点)で、2020年から約5ポイント増加しています。リクルート調査では「新しい営業職(IS・FS・CS)」の求人数は2018年比で2.62倍に増加、インサイドセールス単独でも求人倍率は2018年比1.71倍に増加しています。
さらに、SaaS企業の採用・人事担当者調査(2025年1月公表)によると、営業職の中で採用に最も力を入れている職種はインサイドセールス(32.4%)で、フィールドセールス(26.1%)を上回る結果となっています。
しかし、需要が高まる一方で、多くの企業がIS人材の採用に苦戦しています。その背景には、採用ミスマッチや早期離職の問題があります。スキル要件の明確化だけでなく、MA/SFA運用体制と連動した組織設計・育成計画まで含めて設計しなければ、採用後に成果が出ないまま離職してしまうケースが多いのが実態です。
本記事では、SaaS・IT企業でIS組織を立ち上げ・拡大中の営業責任者・IS責任者の方に向けて、IS採用の成功法則を解説します。なお、本記事で紹介する調査データはSaaS企業向けのものが多いため、他業界では傾向が異なる可能性がある点にご留意ください。
この記事で分かること
- インサイドセールス人材に求められるスキルと適性
- 採用要件定義の具体的な進め方とチェックリスト
- 経験者採用と未経験者採用の判断基準(比較表付き)
- 選考プロセスの設計と定着支援のポイント
インサイドセールス人材に求められるスキルと適性
IS人材に求められるスキルは、大きく「ヒューマンスキル」と「デジタルスキル」の2つに分類されます。一般的に、IS採用ではヒューマンスキル(コミュニケーション・傾聴・粘り強さ)の比重が高い傾向にあると言われています。
SQL(Sales Qualified Lead) とは、インサイドセールスが商談化可能と判断し、フィールドセールスに引き渡す見込み顧客を指します。ISの主要なミッションは、このSQLを安定的に創出することにあります。
ヒューマンスキル:傾聴力・仮説構築力
「高いコミュニケーション力=IS適性」という考え方は誤りです。ISに求められるのは、非対面でのヒアリング能力と仮説構築力です。
電話やオンライン商談という限られた接点の中で、顧客の課題を正確に把握し、適切な提案につなげる必要があります。そのためには、一方的に話すスキルではなく、相手の発言から背景や真のニーズを読み取る傾聴力が重要です。
また、限られた情報から顧客の状況を推測し、「おそらくこういった課題を抱えているのではないか」という仮説を立てて検証するスキルも求められます。この仮説構築力がなければ、単なるスクリプト読み上げになってしまい、商談化率は上がりません。
デジタルスキル:CRM/MAツール活用
ISは日々の活動をCRM/MAツールに記録し、データに基づいた営業活動を行う必要があります。そのため、CRM/MAツールへの抵抗感のなさは、経験者・未経験者を問わず必須要件に入れやすい項目です。
デジタルスキル標準とは、経産省・IPAが定めた、ビジネスパーソンに求められるデジタルリテラシーの基準です。ISに求められるのは高度なプログラミングスキルではなく、ツールを使いこなして業務を効率化できるレベルのデジタルリテラシーです。
具体的には、以下のようなスキルが求められます。
- CRMへの活動記録・商談情報の入力
- MAツールでのリードスコアリング・ステータス確認
- ダッシュボードを活用したKPIモニタリング
- オンライン会議ツールの操作
採用要件定義の進め方|成果を出す企業の共通点
採用成果の高い企業に共通する特徴は「要件定義の明確さ」です。TalentX調査によると、採用成果の高い企業の特徴として「要件定義が明確」と回答した企業が55.5%で最多となっています。「複数の採用手法を組み合わせている」37.0%、「経営層の関与が強い」37.0%が続きます。
採用要件定義とは、採用する人材に求めるスキル・経験・行動特性を明文化したものです。Must(必須)とWant(歓迎)に分けて整理するのが一般的です。
役割定義からKPI設定へ
採用要件定義は「役割定義(ミッション)→KPI→要件カテゴリ(Must/Want)」の順で設計すると整理しやすくなります。
まず、ISのミッションを明確にします。「マーケティングリードからSQLを創出する」「既存顧客へのアップセル・クロスセル機会を創出する」など、役割を具体的に定義します。
次に、入社6か月後に達成してほしいKPIを先に定義します。「月間商談数◯件」「商談化率◯%」などの目標を設定することで、求めるスキル・経験の水準が明確になります。
最後に、KPIを達成するために必要なスキル・経験をMust(必須)とWant(歓迎)に分けて整理します。
【チェックリスト】インサイドセールス採用要件定義チェックリスト
- ISのミッション(役割定義)を明文化している
- 入社6か月後の目標KPIを設定している
- Must要件(必須)とWant要件(歓迎)を分けて整理している
- ヒューマンスキル(傾聴力・仮説構築力・粘り強さ)の評価基準を定めている
- デジタルスキル(CRM/MAツール活用)の評価基準を定めている
- 経験者採用か未経験者採用かの方針を決めている
- MA/SFA運用体制との整合性を確認している
- 育成計画・オンボーディング体制を整備している
- 評価基準を選考担当者間で共有している
- 経営層と採用方針の合意を取っている
- 採用チャネル(媒体・エージェント等)を選定している
- 採用スケジュールを設定している
経験者採用と未経験者採用の判断基準
経験者採用と未経験者採用のどちらが適しているかは、組織のフェーズや商材によって異なります。「営業経験者なら誰でもISができる」「テレアポ経験があれば採用OK」という安易な判断で採用すると、MA/SFAツールを活用できない人材を採用してしまい、結果として商談化率が上がらず離職も増えるという失敗パターンに陥ります。
SaaS企業の調査によると、業界未経験者の中途採用を強化している企業は約9割にのぼり、「業界未経験者におすすめのポジション」としてISが41.0%で最多となっています。また、SaaS企業の2025年中途採用計画では「メンバー採用を積極的に予定している」企業が43.9%、「メンバー・リーダー・マネジャー層の双方を積極採用予定」が34.4%となっています。
ポテンシャル採用とは、現時点のスキルや経験よりも、成長可能性や学習意欲を重視して採用する手法です。未経験者のポテンシャル採用は有効な選択肢ですが、CRM/MAツールへの抵抗感のなさは必須要件として設定すべきです。
【比較表】IS人材タイプ別(経験者/未経験者)採用判断マトリクス
| 項目 | 経験者採用 | 未経験者採用(ポテンシャル採用) |
|---|---|---|
| 適した組織フェーズ | IS組織の立ち上げ期、即戦力が必要な場合 | IS組織の拡大期、育成体制が整っている場合 |
| 立ち上がり期間 | 比較的短い(数週間〜) | 比較的長い(数か月〜) |
| 育成コスト | 低い | 高い |
| 採用難易度 | 高い(市場での競争が激しい) | 比較的低い(母集団が広い) |
| 想定KPI水準 | 早期から高い水準を期待可能 | 段階的な成長を前提に設定 |
| リスク | 前職の手法への固執、カルチャーフィット | 育成に時間がかかる、定着しない可能性 |
| 重視すべき評価ポイント | 実績・商材理解・ツール活用経験 | 学習意欲・素直さ・デジタルリテラシー |
「営業経験者なら誰でもISができる」という誤解
「営業経験者なら誰でもISができる」という考え方は誤りです。フィールドセールスの経験があっても、非対面での商談創出スキルが身についているとは限りません。
組織のフェーズや商材によって求める人材像は異なります。立ち上げ期であれば即戦力の経験者が必要ですが、拡大期であれば育成前提のポテンシャル採用の方が母集団を広げやすく、組織カルチャーへのフィットも期待できます。
重要なのは、自社の状況に合った採用方針を明確にし、それに基づいた要件定義を行うことです。
選考プロセスの設計と定着支援
採用の成功は、選考プロセスの設計と採用後の定着支援まで含めて考える必要があります。TalentX調査では、採用成果の高い企業の特徴として「複数の採用手法を組み合わせている」37.0%、「経営層の関与が強い」37.0%が挙げられています。
選考プロセスでは、書類選考・面接だけでなく、ロールプレイングや適性検査などを組み合わせることで、要件に合致した人材を見極めやすくなります。特にISの場合、電話でのコミュニケーションスキルを確認するために、面接中に簡単なロールプレイングを実施する企業も多いです。
MA/SFA運用体制と連動した育成計画
採用だけでなく、定着・オンボーディングまで設計することが重要です。特にMA/SFA運用体制と連動した育成計画を整備することで、採用した人材が早期に成果を出せる環境を構築できます。
ツールを活用できない人材を採用してしまうと、データ入力が形骸化し、PDCAが回らず、結果として商談化率が上がらないという悪循環に陥ります。採用段階でツール活用スキルを確認するとともに、入社後のオンボーディングでもツール活用のトレーニングを組み込むことが推奨されます。
具体的には、以下のような育成計画を検討してください。
- 入社初週:会社・商材理解、CRM/MAツールの操作研修
- 入社2-4週:先輩ISの架電同席・ロールプレイング
- 入社1-2か月:OJTで実際の架電を開始(メンターがフォロー)
- 入社3-6か月:独り立ち、KPIの達成状況をモニタリング
まとめ|インサイドセールス採用成功のポイント
本記事では、インサイドセールス採用の成功法則について、要件定義から定着支援まで解説しました。
ポイントの整理
- IS採用の需要は高まっており、SaaS企業では営業職で最も採用に力を入れている職種がIS(32.4%)
- IS人材に求められるスキルは「ヒューマンスキル(傾聴力・仮説構築力)」と「デジタルスキル(CRM/MA活用)」
- 採用成果の高い企業の特徴は「要件定義の明確さ」(55.5%)
- 経験者採用と未経験者採用は、組織フェーズや育成体制によって使い分ける
- 「営業経験者なら誰でもISができる」という安易な判断は失敗のもと
- 選考プロセスだけでなく、MA/SFA運用体制と連動した育成計画まで設計することが重要
インサイドセールス採用の成功は、スキル要件の明確化だけでなく、MA/SFA運用体制と連動した組織設計・育成計画まで含めて設計することで実現します。本記事のチェックリストを活用して、自社に合ったIS人材の採用要件を定義し、選考・定着まで見据えた採用戦略を設計してください。
IS組織の立ち上げ・拡大に課題を感じている場合は、採用だけでなく組織設計・育成計画まで含めた外部支援の活用も選択肢の一つです。
