人事向けSaaS営業で商談化率が上がらない理由
人事部門向けSaaS営業のプロセスを可視化・仕組み化し、MA/SFAを活用して再現性のある商談化を実現するために必要なのは、人事部門特有の複合的な意思決定構造(人事・総務・経営・現場)を理解し、MA/SFAを活用したリードナーチャリングと商談化プロセスを設計することです。
HR SaaSとは、人事・労務・タレントマネジメント・採用管理などの人事業務をクラウド経由で提供するサービス群を指します。日本のHRテック市場規模は2021年の426億円から2025年予測で1,710億円へ約4倍に拡大する見込みです(前年比成長率124.6%)。市場が急成長している一方で、「人事部門にアプローチしても商談化しない」「リード獲得はできているが育成が属人的」という課題を抱える企業が多いのが実情です。
SaaS導入による効果について人事部門では「効果あり」が80%を超えており、全体平均75.3%より高い傾向にあります。つまり、人事部門はSaaS導入に対してポジティブな姿勢を持っているにもかかわらず、営業側がうまくアプローチできていないケースが多いのです。
この記事で分かること
- HR SaaS市場の現状と営業機会の捉え方
- 人事部門特有の複合的な意思決定構造
- 単発アプローチが失敗する理由と改善策
- MA/SFAを活用した営業プロセス設計の具体的手法
- 人事向けSaaS営業のセルフチェックリスト
HR SaaS市場の現状と人事部門向け営業機会
HR SaaS市場は、法改正対応ニーズと企業のDX推進を背景に拡大傾向にあります。営業機会を最大化するためには、市場全体の動向を把握したうえで、ターゲットを適切に絞り込むことが重要です。
日本のHRテック市場は前年比成長率124.6%という高い伸びを示しており、タレントマネジメントシステムの市場も堅調です。タレントマネジメントシステムとは、従業員のスキル・経験・パフォーマンスを一元管理し、人材配置や育成を最適化するツールを指します。国内タレントマネジメント市場は2022年の290億円から2026年には447億円へ、年10%前後で拡大すると予測されています。
会社員1,243名を対象とした調査では、SaaS全体の利用率は約7割(70.1%)である一方、人事・労務・勤怠管理系SaaSの利用は16.8%にとどまっています。この数字は、HR SaaS市場にはまだ開拓余地があることを示しています。
人事評価・タレントマネジメントSaaSの利用シェアを見ると、上位サービスがシェアを占めている状況があります(600名対象、2025年11月調査。ただし自社調査ベースでありサンプル数は限定的です)。このことから、新規参入には差別化戦略が必要であることがわかります。
既存導入企業と未導入企業へのアプローチの違い
人事部門へのアプローチは、既存導入企業と未導入企業で訴求ポイントを変える必要があります。
1社あたりのSaaS利用数は10個以下が67%、21〜30個が10.5%となっており、大企業ほど利用SaaS数が多い傾向があります。
既存導入企業へのアプローチ:UIやサポート品質を理由とした「2周目のリプレイス需要」が立ち上がりつつあります。「今のSaaSのどこに不満があるか」を深掘るスクリプト設計が有効です。また、労務→勤怠→タレントマネジメントといった横展開営業がしやすい構造を活かすことも重要です。
未導入企業へのアプローチ:紙やエクセルからの置き換えを訴求します。法改正対応(電子帳簿保存法、人的資本開示など)を理由に、中小企業まで導入対象が拡大しています。
ターゲット企業規模としては、中堅企業(300〜999名)を主ターゲットに、中堅予備軍(100〜299名)をセカンダリとする設計が合理的と言われています。
人事部門向けSaaS営業の特徴と意思決定構造
人事部門向けSaaS営業の最大の特徴は、意思決定に関わる部門が複数存在することです。人事責任者だけでなく、総務、経営層、現場管理職など、複合的な意思決定構造を理解したアプローチが求められます。
MQL(Marketing Qualified Lead) とは、マーケティング活動で獲得し一定条件を満たした見込み顧客のことで、営業へパスする前段階のリードを指します。SAL(Sales Accepted Lead) とは、インサイドセールスが受け取り、商談化可能と判断したリードを指します。
人事部門の意思決定者には、それぞれ異なる関心事があります。
- 人事責任者:業務効率化、法改正対応、従業員データの一元管理
- 総務部門:コスト、他システムとの連携、導入の手間
- 経営層:ROI、人的資本経営への貢献、長期的なコスト
- 現場管理職:操作性、部下の育成・評価への活用
これらの異なる関心事に対応するためには、ステークホルダーごとに訴求内容を変える必要があります。
【比較表】人事部門向けSaaS営業|施策別効果比較表
| 営業施策 | ターゲット | 主な訴求ポイント | 商談化までの目安 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| ホワイトペーパー | 情報収集層 | 課題の顕在化 | 長い | ナーチャリング必須 |
| ウェビナー | 比較検討層 | 機能・事例紹介 | 中程度 | フォロー体制が重要 |
| 個別デモ | 導入検討層 | 操作性・カスタマイズ性 | 短い | 意思決定者の参加が鍵 |
| インサイドセールス | MQL | ニーズの深掘り | 中程度 | スクリプト設計が重要 |
| 既存顧客紹介 | 信頼醸成層 | 導入効果の実績 | 短い | 紹介元との関係構築 |
| 展示会・イベント | 認知獲得層 | ブランド認知 | 長い | リード精査が必要 |
| リターゲティング広告 | 離脱層 | 再想起 | 中程度 | 頻度のコントロール |
※商談化までの目安は一般的な傾向であり、企業規模や業種によって異なります。
単発アプローチが失敗する理由と営業効率低下の構造
人事部門へのSaaS営業で、単発のテレアポやメール送信を繰り返すだけのアプローチでは成果が出にくい傾向があります。これは「数を打てば当たる」という考え方の典型的な失敗パターンです。
リードスコアリングとは、リードの属性や行動に基づいてスコアを付与し、営業優先度を判定する手法です。リードスコアリングを行わずに手当たり次第にアプローチすると、商談化率が低下し、営業効率が悪化します。
よくある失敗パターン:リードを獲得してすぐにテレアポ、反応がなければ次のリストへ…という単発アプローチの繰り返し。リードナーチャリングや意思決定者の特定をせずに「数を打てば当たる」というアプローチに終始してしまうと、結果として商談化率が低く、営業リソースを無駄にしてしまいます。
人事SaaSは「未開拓市場が多い」と誤解しがちですが、実際は既存ベンダーが明確で、多くの企業ですでに何らかのツールが導入されています。また、SaaS導入数を増やすほど良いと考えがちですが、中小企業では「統合・集約」が進行しており、オールインワン訴求が有効なケースもあります。
単発アプローチが失敗する根本的な理由は、人事部門の複合的な意思決定構造を無視していることにあります。人事責任者が興味を示しても、総務や経営層の承認が必要なケースが多く、一度の接触で商談化することは稀です。
MA/SFAを活用した人事向けSaaS営業プロセス設計
MA/SFAを活用した営業プロセス設計により、属人的な営業から再現性のある仕組みへ転換できます。リード獲得からスコアリング、MQL判定、インサイドセールス、SAL、商談化までのプロセスを可視化・標準化することが重要です。
人事部門向け特有のスコアリング項目としては、以下が挙げられます。
- 属性スコア:役職(人事責任者・経営層は高スコア)、従業員数、業種
- 行動スコア:資料DL、ウェビナー参加、価格ページ閲覧、複数回訪問
- ニーズスコア:既存ツールの有無、法改正対応ニーズ、導入時期
スコアが一定以上に達したリードをMQLとしてインサイドセールスに引き渡し、ヒアリングを経てSALと判定できれば商談化、というプロセスを設計します。
【チェックリスト】人事部門向けSaaS営業プロセス設計チェックリスト
- ターゲット企業の定義(従業員規模・業種・既存ツール状況)が明確になっている
- 人事部門の意思決定者(人事責任者・総務・経営層・現場)を特定している
- 各意思決定者向けの訴求ポイントを整理している
- リード獲得チャネル(ホワイトペーパー・ウェビナー・展示会等)を設計している
- リードスコアリングの基準(属性・行動・ニーズ)を定義している
- MQL判定の基準を設定している
- インサイドセールスのヒアリングスクリプトを用意している
- 「今のSaaSのどこに不満があるか」を深掘る質問を設計している
- SAL判定の基準を設定している
- ナーチャリングシナリオ(メール・コンテンツ配信)を設計している
- 法改正対応(電子帳簿保存法・人的資本開示等)のコンテンツを用意している
- MA/SFAツールでリードステータスを管理できる体制を構築している
- 商談化後のフォロープロセスを定義している
- 横展開営業(労務→勤怠→タレントマネジメント等)の設計をしている
- 営業プロセスのKPI(MQL数・SAL数・商談化率等)を設定している
リードナーチャリングシナリオの設計ポイント
リードナーチャリングでは、人事部門の関心事に合わせたコンテンツを段階的に提供することが重要です。
コンテンツ設計の観点
- 法改正対応(電子帳簿保存法、人的資本開示など)の解説コンテンツ
- 業務効率化の事例紹介
- タレントマネジメントの活用方法
- 導入企業のインタビュー記事
行動トリガーの設定
- メール開封・クリック
- ホワイトペーパーDL
- 価格ページ閲覧
- ウェビナー参加
- 問い合わせフォーム入力
これらの行動をトラッキングし、スコアリングに反映させることで、商談化タイミングを見極めることができます。
まとめ|再現性のある商談化プロセスで人事向けSaaS営業を仕組み化する
本記事では、人事向けSaaS営業における課題と、MA/SFAを活用したプロセス設計について解説しました。
ポイントの振り返り:
- HR SaaS市場は拡大傾向にあり、法改正対応ニーズを背景に中小企業まで導入対象が広がっている
- 人事部門の意思決定構造は複合的(人事・総務・経営・現場)であり、単一の担当者へのアプローチだけでは商談化しにくい
- 単発のテレアポやメール送信を繰り返す「数を打てば当たる」アプローチでは成果が出ない
- MA/SFAを活用したリードスコアリングとナーチャリングで、営業プロセスを仕組み化することが重要
- チェックリストを活用して、自社の営業プロセスを点検・改善する
段階的な改善アプローチも有効です。すべてを一度に実装するのではなく、まずはリードスコアリングの導入から始め、徐々にナーチャリングシナリオを拡充していく方法もあります。
改めて結論を述べます。人事向けSaaS営業の成功は、人事部門特有の複合的な意思決定構造(人事・総務・経営・現場)を理解し、MA/SFAを活用したリードナーチャリングと商談化プロセスを設計することで再現性を持たせることができます。本記事で紹介したチェックリストを活用し、自社の営業プロセスを見直してみてください。
