事業責任者の役割を理解しないと組織成果が上がらない理由
事業責任者の役割で成功するには、事業責任者の役割は戦略立案だけでなく、マーケティング・IS・CS組織との連携設計とKPI管理の仕組みを構築し、事業成果を再現可能な形で創出することであり、経営視点と実装力の両立が成功の鍵です。
事業責任者とは、経営戦略に基づいて特定の事業部門の成果と経営に責任を持つ人物です。経営の代行者として位置づけられます。
事業責任者に就任しても、役割が曖昧なまま業務を進めてしまうと、期待される成果を出すことが難しくなります。EVeM調査(管理職1,000名対象、2025年4月)によると、管理職の約6割が「業務が増えた」と感じており、64%が「業務が多い」と実感しています。また、88.4%の管理職が「協力や支援の不足」を感じており、「メンバー」(43.2%)、「上司」(34.0%)からの支援を求めているという調査結果もあります。
このような状況の中で、事業責任者は単なるプレイヤーの延長ではなく、組織の仕組みを設計し、部門間連携を構築する役割を担う必要があります。優秀なプレイヤーのまま自ら動き続け、組織の仕組みづくりやマーケ・IS連携の設計を後回しにすると、属人的な事業運営から抜け出せなくなるという失敗パターンに陥りがちです。
この記事で分かること
- 事業責任者の定義と、部長・課長との責任範囲・権限の違い
- 事業責任者に求められるスキルと能力
- マーケティング・IS・CS組織との連携設計とKPI階層設計の方法
- 事業責任者として役割を果たせているかを確認するセルフチェックリスト
- 経営視点と実装力を両立させるためのポイント
事業責任者の定義と部長・課長との違い
事業責任者と部長・課長の最大の違いは、P/L責任の有無にあります。事業責任者は事業全体の損益に責任を持ち、経営会議に参画する立場です。
P/L責任とは、損益計算書(Profit and Loss)の売上・利益に対する責任を指します。事業部長は事業単位でP/L責任を持つのが一般的です。
Workday調査(従業員1,000人以上517社対象、2025年5月)によると、CEO直下に専任CHROを置いている企業は日本的大企業(JTC)で7%、ワールドクラス企業では64%という結果が出ています。CHROとは、Chief Human Resources Officerの略で、人事部門の最高責任者として経営に参画する役職です。この調査結果は、経営層としての事業責任者の位置づけがグローバルでは重要視されていることを示しています。
なお、企業ごとに役職名や権限範囲は異なるため、以下の比較表は一般的な傾向として参考にしてください。
【比較表】事業責任者と部長・課長の役割比較表
| 項目 | 事業責任者(事業部長) | 部長 | 課長 |
|---|---|---|---|
| 責任範囲 | 事業全体のP/L責任 | 部門の業務目標達成 | 課の業務目標達成 |
| 権限 | 予算策定・人員配置・事業戦略決定 | 部門内の業務配分・目標設定 | 課内の業務配分・進捗管理 |
| 経営会議への参画 | 参画する(経営代行者として) | 招集される場合あり | 通常は参画しない |
| 部門間連携 | 複数部門(マーケ・IS・CS等)の連携設計 | 他部門との調整・連携 | 部門内での連携 |
| KPI設計 | 事業全体のKPI階層設計 | 部門KPIの設定・管理 | 課のKPI達成 |
| 組織設計 | 事業部全体の組織デザイン | 部門内の体制整備 | チーム編成 |
| 報告先 | 経営陣(CEO/COO等) | 事業責任者または役員 | 部長 |
| 意思決定 | 事業戦略レベルの意思決定 | 部門運営レベルの意思決定 | 業務遂行レベルの意思決定 |
事業責任者は「小さな会社の社長」として事業経営を担う
事業責任者は「小さな会社の社長」として事業経営を担う立場です。経営代行者としてP/L責任を持ち、経営会議に参画する役割を担います。
事業責任者の仕事は、主に5つの領域で整理できます。
- 業績拡大: 売上・利益目標の達成に向けた事業推進
- 変革推進: 市場変化への対応、新規事業開発、事業モデルの進化
- 組織デザイン: マーケ・IS・CS等の部門体制設計と人材配置
- リスク管理: 事業リスクの特定・対策・モニタリング
- 経営代行: 経営陣への報告、経営会議での意思決定参画
経営スピード向上のために本社から事業部への権限移譲が進んでおり、事業責任者が「事業経営者」として機能することが期待されるようになっています。
事業責任者に求められるスキル・能力
事業責任者には、戦略立案力と組織マネジメント力の両立が求められます。どちらか一方だけでは、事業成果を再現可能な形で創出することは困難です。
EVeM調査(2025年)によると、管理職のやりがい要因は「責任・権限の範囲」(60.6%)、「業務の多様性」(43.0%)、「メンバーの成長」(40.1%)が上位を占めています。この結果は、プレイヤー思考からの脱却と、組織を動かす力の重要性を示唆しています。
よくある失敗パターンとして、事業責任者になっても「優秀なプレイヤー」のまま自ら動き続け、組織の仕組みづくりやマーケ・IS連携の設計を後回しにしてしまうケースがあります。この考え方では属人的な事業運営から抜け出せず、持続的な成果を出すことができません。
ドラッカーは「前の仕事をもっとうまくやろうと思ったら失敗する」と述べていますが、これは事業責任者への昇進においても当てはまります。課長・部長の延長線上で事業責任者の仕事をしようとすると、役割の本質を見失いがちです。
戦略立案力と組織マネジメント力の両立
事業責任者には、戦略を立てるだけでなく、組織を動かして成果を出す仕組みづくりが求められます。
事業推進経験が豊富でも、組織づくり経験が不足している事業責任者は少なくありません。戦略立案は得意でも、それを実行するための組織設計やKPI管理、部門間連携の構築に課題を抱えるケースが多く見られます。
事業責任者に必要なスキルは以下の通りです。
戦略立案力
- 市場分析・競合分析に基づく事業戦略の策定
- 中長期的なビジョンの設定と実行計画への落とし込み
- リソース配分の最適化
組織マネジメント力
- 部門横断の連携設計
- KPI階層設計と目標管理
- 人材育成・配置・評価
- 変革を推進するリーダーシップ
事業責任者に求められる部門連携とKPI設計
事業責任者にとって、マーケティング・IS・CS組織との連携設計とKPI階層設計は、事業成果を再現可能にするための重要な役割です。
商談化率とは、獲得したリード(見込み顧客)のうち、商談に進んだ割合を示すKPI指標です。ferret One調査(BtoBマーケ担当者330名対象、2025年)によると、BtoB広告経由リードの商談化率は11〜20%がボリュームゾーンで、商談化率15%前後を目標値とするのが妥当とされています(ただし、業界・商材・価格帯により大きく変動するため、参考値として扱ってください)。
一方、BtoB企業のリード獲得課題として「データ分析や効果測定が不十分」が22.4%(2024年17.0%から+5.4ポイント増加)と回答している調査結果(2025年調査)もあります。データ分析・効果測定が不十分な状態では、施策の改善が困難になり、持続的な成果創出は難しくなります。
KPI階層設計とは、売上目標から逆算して必要受注件数→必要商談数→必要リード数と階層的にKPIを設計する手法です。事業責任者は、この階層構造を設計し、各部門のKPIが整合するように連携を構築する役割を担います。
マーケティング・IS・CS組織との連携設計
事業責任者が部門間連携を設計する際のポイントは、各部門のKPI整合性を取ることです。
マーケティング部門がリード数をKPIとし、IS部門が商談数をKPIとし、営業部門が受注数をKPIとする場合、これらのKPIが連動していなければ、部門間で目標の不整合が生じます。
事業責任者は、以下の点に注意して連携を設計する必要があります。
- KPIの連動性: マーケ→IS→営業→CSまでのKPIが階層的に連動しているか
- データ連携: 各部門のデータがリアルタイムで共有される仕組みがあるか
- 情報共有: 定例会議やダッシュボードを通じた情報共有が機能しているか
- 引き継ぎルール: 部門間の引き継ぎ基準(MQL/SQL定義など)が明確か
事業責任者の役割を果たすためのセルフチェック
事業責任者として役割を果たせているかを確認するために、以下のチェックリストを活用してください。チェックが付かない項目が、改善すべき優先課題です。
【チェックリスト】事業責任者の役割セルフチェックリスト
- 自分がP/L責任を持つ範囲を明確に認識している
- 経営会議で事業状況を報告し、意思決定に参画している
- 事業戦略を中長期的な視点で策定している
- 売上目標から逆算したKPI階層設計を行っている
- マーケティング部門との連携ルールを設計している
- IS(インサイドセールス)部門との連携ルールを設計している
- CS(カスタマーサクセス)部門との連携ルールを設計している
- 各部門のKPIが連動するように設計している
- データ連携・情報共有の仕組みを構築している
- 定例会議でKPIをモニタリングしている
- 組織設計(人員配置・体制)を主導している
- メンバーの育成計画を持っている
- 自らプレイヤーとして動く時間を適切にコントロールしている
- 仕組みづくりに時間を投資している
- 事業リスクを特定し、対策を講じている
- 変革や改善を継続的に推進している
まとめ|事業責任者は経営視点と実装力で組織成果を創出する
事業責任者の役割は、戦略を立てるだけでなく、それを実行する組織の仕組みを設計し、持続的な成果を創出することにあります。
本記事のポイントを整理すると、以下の通りです。
- 事業責任者と部長・課長の違い: 事業責任者はP/L責任を持ち、経営代行者として事業全体の成果に責任を持つ
- 求められるスキル: 戦略立案力と組織マネジメント力の両立が必要
- 失敗パターン: 優秀なプレイヤーのまま仕組みづくりを後回しにすると、属人的運営から抜け出せない
- 部門連携とKPI設計: マーケ・IS・CS組織との連携設計とKPI階層設計が事業成果の再現性を高める
- セルフチェック: チェックリストで現状を確認し、不足している項目を優先課題として取り組む
事業責任者として成果を出すためには、まずセルフチェックリストで現状を確認し、不足している項目を特定することから始めてください。特に部門連携設計やKPI管理の仕組みが未整備の場合は、そこから着手することで属人的な運営から脱却しやすくなります。
必要に応じて、専門家の支援を活用することも有効な選択肢です。
事業責任者の役割は戦略立案だけでなく、マーケティング・IS・CS組織との連携設計とKPI管理の仕組みを構築し、事業成果を再現可能な形で創出することであり、経営視点と実装力の両立が成功の鍵です。
