ABM導入で成果が出ない企業の共通課題
結論から言えば、ABMの成功は、概念理解だけでなく、MA/SFA連携によるターゲットアカウント管理とアプローチ自動化まで実装を完了させることで実現します。
ABM実施における主な課題として、社内のリソース不足(51.7%)、マーケティング施策に関するノウハウ不足(48.3%)、企業ブランドの認知力不足(44.9%)が報告されています。多くの企業がABMを導入しても成果が出ない原因は、ターゲットアカウント選定だけで満足し、MA/SFA設定や自動化実装を後回しにしていることにあります。
ABM(アカウントベースドマーケティング) とは、自社にとって重要な特定企業(アカウント)を事前に選定し、営業とマーケティングが連携して個社単位でパーソナライズされたアプローチを行うBtoBマーケティング戦略です。日本のBtoB企業におけるABMの認知度は42.0%で、認知している企業の70.6%が既に導入しています。
しかし、導入企業の多くがリソース不足やノウハウ不足に直面し、期待した成果を得られていません。本記事では、ABMの基本理解だけでなく、MA/SFA連携での実装からカスタムツール開発まで完了させて成果を出す実践ガイドを提供します。
この記事で分かること
- ABMとリードベースドマーケティングの違いと使い分け
- ABM導入による具体的なメリットとROI(成功事例データ)
- 自社がABMに向いているかを判断する基準
- ターゲットアカウント選定からMA/SFA実装まで完了させる具体的手順
- ABM導入・実装チェックリストと即座に使える比較表
ABMとは|リードベースドマーケティングとの違い
ABMとリードベースドマーケティングは、対象とアプローチが根本的に異なります。ABMは企業(アカウント)単位で狙いを絞る「銛型マーケティング」、リードベースドマーケティングは個人(リード)単位で広く網をかける「網型マーケティング」と表現されます。
リードベースドマーケティングとは、個人(リード)単位で広く見込み客を集め、量を重視するマーケティング手法です。ABMとは対照的にSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング) で市場全体を均質化し、マス向けのアプローチを行います。
以下の比較表で、両者の違いを整理します。
【比較表】リードベースドマーケティングvsABM比較表
| 比較軸 | リードベースドマーケティング | ABM(アカウントベースドマーケティング) |
|---|---|---|
| 対象 | 個人(リード)単位 | 企業(アカウント)単位 |
| 目的 | 見込み客の量を確保 | 重要アカウントへの質の高いアプローチ |
| アプローチ方法 | 広く網をかける(網型) | 狙いを絞って深く刺す(銛型) |
| マーケティング手法 | STPで市場全体を均質化、マス向けコンテンツ | 個社単位でパーソナライズ、カスタマイズコンテンツ |
| 営業との連携 | 商談化後に営業に引き渡し | 営業とマーケティングが最初から連携 |
| 効果測定指標 | リード獲得数、リード単価、商談化率 | アカウントエンゲージメント、案件単価、受注率 |
| 適用ビジネスモデル | 顧客数が多く単価が低い大量営業型 | 顧客数が限定的で単価が高いエンタープライズ営業 |
| 購買プロセス | シンプル、意思決定者が少ない | 複雑、複数の意思決定者が関与 |
ABMの基本概念と特徴
ABMの別称として銛型マーケティングがあります。狙いを絞って深く刺すように、特定のターゲットアカウントに精度高くアプローチする手法で、数より精度を重視します。
ABMの特徴は、営業とマーケティングが最初から共通のアカウントに対して同じ目標を持って協働する点です。リードベースドマーケティングでは、マーケティングがリードを獲得してから営業に引き渡すという分業体制ですが、ABMでは企画段階から両部門が連携します。
リードベースドマーケティングとの違い
リードベースドマーケティングは、個人単位で広く見込み客を集め、量を重視します。STPで市場全体を均質化し、マス向けのコンテンツで多くのリードを獲得することを目指します。
一方、ABMは企業単位で特定アカウントに特化し、質を重視します。個社単位でパーソナライズされたコンテンツを提供し、深い関係構築を図ります。
重要なのは、「リードベースドマーケティングよりABMの方が優れている」という単純比較は不適切だということです。顧客数が多く単価が低い大量営業型のビジネスモデルではリードベースドが適しており、ビジネスモデルに応じた選択が必要です。
ABM導入のメリット|ROI向上・効率化・ターゲット特化
ABMを導入した企業の76.4%が成果を実感しており、具体的には「ブランド価値・信頼性獲得」54.4%、「案件単価・受注金額の上昇」51.5%、「複数部署や関連会社の開拓」51.5%が報告されています(民間調査のため、調査対象企業の業界・規模によるバイアス可能性があり、自己申告ベースの成果データのため客観性に一定の限界があります)。
また、ABM導入により成約率が30%増加する傾向が報告されています(年度不明で一般的な傾向として報告されているが、具体的な調査データの詳細(サンプル数、業界、企業規模等)は不明です)。
成功事例として、以下のような成果が報告されています。
ヤフーのABM導入事例では、BtoB顧客化率が7倍に上昇しました(年度不明の個別企業事例。業界・企業規模により成果は大きく異なる可能性があり、一般化には注意が必要です)。村田製作所のABM導入事例では、受注率が約5倍、売上は前年の約2倍に増加しました。
SAPジャパンのABM導入事例では、4万社のターゲットを2,000社まで削減して効率化を実現しました。ターゲットを絞り込むことで、リソースを重要アカウントに集中投下でき、結果として高いROIを達成しています。
これらの成功事例の数値は個別企業の実績であり、業界全体の平均値ではないことに注意が必要です。ABM導入の成果は、営業とマーケティングの連携体制、データ基盤整備、ターゲット選定の精度により大きく変動します。
ABMに向いている企業・向いていない企業
ABMに向いている企業の特徴は、顧客が限定的で複雑な購買プロセスを持つBtoB企業、特にBtoBエンタープライズ営業(企業向けの大型案件・高額案件を対象とした営業活動)を行っている企業です。
具体的には、以下のような企業がABMに適しています。
- 案件単価が高く、購買プロセスに複数の意思決定者が関与する業界(製造業、ITソリューション、大型設備等)
- 顧客数が限定的で、既存顧客との関係深耕が売上拡大の鍵となる企業
- 営業サイクルが長く、商談から受注まで時間がかかる企業
村田製作所のような製造業では、ABMでターゲットを絞ることが極めて効果的です。購買プロセスが複雑で意思決定者が多い大型案件では、パーソナライズされたアプローチが成果を左右します。
一方、ABMに向いていない企業の特徴は、以下のとおりです。
- 顧客数が多く単価が低い大量営業型のビジネスモデル
- 購買プロセスがシンプルで、意思決定者が少ない企業
- 消費財など、個人向け商材を扱う企業
重要なのは、「ABMは大企業専用のマーケティング手法」という認識は誤りだということです。日本では中堅・SaaS企業を中心に近年導入が進んでおり、企業規模よりも営業スタイル(BtoBエンタープライズ営業かどうか)が適性の判断基準となります。
ABM導入手順とMA/SFA実装|ターゲット選定から自動化まで
よくある誤解として、ABMの概念を理解してターゲットアカウントを選定すれば自動的に成果が出るという考え方があります。しかし、アカウント選定だけで実装・MA/SFA設定・自動化を後回しにすると、ターゲットアカウント管理が属人化し、個別アプローチの負荷で運用が破綻します。 ABMの成功には、MA/SFA連携によるターゲットアカウント管理とアプローチ自動化まで実装を完了させることが不可欠です。
ABM導入企業の実装施策として、ターゲットに特化したコンテンツ作成(58.4%)、業界特化のウェビナー/セミナー開催(51.7%)が主流となっています。この2つを優先的に実施することが推奨されます。
ABM市場は2025年に10億3,000万米ドルと推定され、2030年には18億3,000万米ドルに達する見通しで、予測期間(2025〜2030年)の年平均成長率は12.1%と予測されています(グローバル市場規模の予測値であり、米ドル換算のため為替変動の影響を受けます。日本市場の規模とは異なる点に注意が必要です)。この成長トレンドは、ABM実装ツールとノウハウの重要性が高まっていることを示しています。
以下に、ABM導入から実装完了までのチェックリストを示します。
【チェックリスト】ABM導入・実装チェックリスト
- ターゲットアカウント選定基準の策定(ICP:理想的な顧客プロファイルの定義)
- 既存顧客データ分析(売上貢献度、成長可能性、業界、企業規模の評価)
- ターゲットアカウントリスト作成(優先順位付け)
- 営業とマーケティングの連携体制構築(共通KPI設定、定例ミーティング)
- アカウントプラン策定(個社ごとの攻略戦略)
- ターゲット企業の意思決定者マッピング(役職、影響力、関心事の整理)
- パーソナライズドコンテンツ企画(業界特化、課題特化)
- ターゲット特化コンテンツ作成(ホワイトペーパー、事例、ブログ等)
- 業界特化ウェビナー/セミナー企画・開催
- MA/SFAツールでのアカウント管理設定
- アカウントスコアリングルール設計(エンゲージメント評価)
- MA/SFA連携によるデータ統合(マーケティング×インサイドセールス×営業)
- パーソナライズドコンテンツ配信の自動化設定
- ターゲットアカウントへのアプローチ実施(メール、広告、イベント招待)
- エンゲージメント測定(開封率、クリック率、イベント参加率)
- 営業へのホットアカウント引き渡しルール設定
- アカウント別受注率・案件単価の測定
- ABM ROI測定(投資対効果の評価)
- 定期的なアカウントリスト見直し(四半期ごと等)
- 改善PDCAサイクル確立(成果分析→施策改善)
ターゲットアカウント選定の方法
ターゲットアカウント選定では、ICP(理想的な顧客プロファイル)を基準にターゲットを選定します。ICPとは、自社にとって最も価値のある顧客の特徴を定義したもので、業界、企業規模、売上、成長性、課題などの要素で構成されます。
具体的な選定基準としては、以下が挙げられます。
- 既存顧客データに基づく売上貢献度(LTV:顧客生涯価値)
- 成長可能性(業界の成長性、企業の拡大計画)
- 自社ソリューションとのフィット度(課題と解決策の一致度)
SAPジャパンの事例では、4万社のターゲットを2,000社まで削減して効率化を実現しました。適切な絞り込みにより、リソースを重要アカウントに集中投下し、高いROIを達成できます。
MA/SFA連携による自動化とデータ統合
MA/SFA連携により、ターゲットアカウントのデータを統合管理し、アプローチを自動化することができます。
MA/SFAツールでターゲットアカウントのエンゲージメント(Webサイト訪問、コンテンツダウンロード、ウェビナー参加等)を自動的にスコアリングし、一定のスコアを超えたアカウントを営業に自動引き渡しする仕組みを構築します。
パーソナライズドコンテンツ配信の自動化では、ターゲットアカウントの業界や課題に特化したコンテンツを自動的にメール配信したり、Web広告でリターゲティングしたりすることで、効率的なアプローチが可能になります。
マーケティング×インサイドセールス×営業のデータ統合により、アカウント全体での活動履歴を一元管理し、部門間の連携をスムーズにすることが、ABM成功の鍵です。
営業とマーケティングが共通のアカウントに対して同じ目標を持って協働する体制が不可欠であり、部門間の情報共有体制整備がABM成功の前提条件となります。
特定ツールの推奨は避けますが、一般的な実装方針としては、既存のMA/SFAツールの機能を最大限活用し、不足する機能がある場合はカスタム開発を検討することが推奨されます。
まとめ|ABM成功のために今すぐ始めるべきこと
ABMの成功には、以下の要点を押さえることが重要です。
ABMとリードベースドの違いを理解する: 企業単位・質重視のABMと、個人単位・量重視のリードベースドマーケティングは、適用ビジネスモデルが異なります。自社の営業スタイルに応じた選択が必要です。
成果データを正しく理解する: ABM導入企業の76.4%が成果実感、成約率30%増加の傾向がありますが、これらは個別企業の実績であり、業界全体の平均値ではありません。自社での検証が必要です。
向き・不向きを見極める: 顧客が限定的で複雑な購買プロセスを持つBtoBエンタープライズ営業には極めて効果的ですが、大量営業型には適していません。
実装まで完了させる: ターゲット選定だけでなく、MA/SFA連携によるアカウント管理とアプローチ自動化まで実装を完了させることが成果につながります。
営業とマーケティングの連携体制を構築する: 部門間の情報共有と共通KPI設定が、ABM成功の前提条件です。
ABMの成功は、概念理解だけでなく、MA/SFA連携によるターゲットアカウント管理とアプローチ自動化まで実装を完了させることで実現します。 アカウント選定だけで満足せず、データ基盤整備とツール実装まで一気通貫で進めることが、ABMを成功させる鍵です。
今すぐ始めるべきアクションとして、以下を推奨します。
- 上記のチェックリストを使って自社のABM導入状況を確認する
- ICP(理想的な顧客プロファイル)を定義し、ターゲットアカウントリストを作成する
- 営業とマーケティングの連携体制を構築し、共通KPIを設定する
- MA/SFA連携によるアカウント管理とアプローチ自動化の実装計画を立てる
- ターゲット特化コンテンツと業界特化ウェビナーの企画を開始する
ABM導入が形骸化しないための重要ポイントは、「ABMツールを導入すれば自動的に成果が出る」という誤解を捨て、営業とマーケティングの連携体制、データ基盤整備、ターゲット選定の精度向上に継続的に取り組むことです。
