バーティカルSaaSとは?基本概念と注目される背景
SaaS事業の方向性を検討する際、「バーティカルSaaS」と「ホリゾンタルSaaS」の違いを理解することは重要です。「業界特化型と汎用型、どちらのアプローチが自社に適しているのか」「バーティカルSaaSはなぜ今注目されているのか」といった疑問を持つ担当者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、バーティカルSaaSの基本概念から、ホリゾンタルSaaSとの違い、メリット・デメリット、業界別事例、選定ポイントまでを解説します。
この記事のポイント:
- バーティカルSaaSは業界・業種に特化したSaaSで、業界特有の課題解決を可能にする
- ホリゾンタルSaaSは業界横断型、バーティカルSaaSは業界特化型という違いがある
- 競合が少なく市場を独占しやすい一方、市場規模は限定的
- 2024年問題(運輸・建設・医療の時間外労働規制)により、バーティカルSaaSの必要性が高まっている
- 業界課題とツール機能のフィット度、既存システムとの連携可否が選定のポイント
(1) バーティカルSaaSの定義と語源
バーティカルSaaS(Vertical SaaS)とは、「Vertical(垂直の)」という言葉が示すように、特定の業界・業種に「垂直方向に」深掘りして特化したSaaSを指します。
具体的には、医療・介護、建設、不動産、小売、飲食、製造など、特定の業界が抱える固有の課題や業務プロセスに最適化されたソフトウェアサービスです。
対して、チャットツールや会計ソフトなど、業界を問わず幅広く利用できるSaaSは「ホリゾンタルSaaS(Horizontal SaaS)」と呼ばれます。
(2) なぜ今バーティカルSaaSが注目されるのか
市場の急成長: 国内バーティカルSaaS企業の時価総額合計は、2015年の約0.9兆円から2023年には約30兆円まで拡大したとの推計があります。
2024年問題の影響: 働き方改革関連法により、2024年4月から運輸・建設・医療業界で時間外労働の上限規制が適用されました。これにより、労働力不足への対応が急務となり、業界特化の効率化ツールが「あると便利」から「必須」の存在へと変化しています。
業界別の成長: One Capitalの2024年版カオスマップによると、医療・介護分野が33サービスで最多、製造業は前年比80%増で急成長しているとされています。
バーティカルSaaSとホリゾンタルSaaSの違い
SaaS事業を検討する際には、バーティカルSaaSとホリゾンタルSaaSの特性を理解することが重要です。
(1) 対象範囲と市場規模の違い
| 比較項目 | バーティカルSaaS | ホリゾンタルSaaS |
|---|---|---|
| 対象範囲 | 特定業界・業種に限定 | 業界横断で汎用的 |
| 市場規模 | 限定的(業界内) | 大きい(全業界) |
| 例 | カイポケ(介護)、SPIDERPLUS(建設) | Slack(チャット)、freee(会計) |
バーティカルSaaS: 特定業界の課題に深く対応するため、市場規模は限定的ですが、その業界内では高いシェアを獲得しやすい傾向があります。
ホリゾンタルSaaS: 業界を問わず利用できるため市場規模は大きいですが、競合も多く、差別化が課題となりやすいです。
(2) 競合状況と参入障壁の違い
バーティカルSaaS:
- 競合が少なく、市場を独占しやすい
- 業界特有の知識・ノウハウが必要なため、参入障壁が高い
- 上場企業数はまだ8社程度(2024年時点)
ホリゾンタルSaaS:
- 競合が多く、レッドオーシャン化しやすい
- 汎用的な機能のため、参入障壁は比較的低い
- 上場企業は24社以上(2024年時点)
バーティカルSaaSのメリット・デメリット
導入を検討する際には、メリットとデメリットの両面を理解しておくことが重要です。
(1) 導入企業側のメリット(業界特化の専門機能)
業界特有の課題に最適化:
- その業界でしか発生しない業務フローや帳票に対応
- 法規制・業界ルールへの準拠機能が組み込まれている
- 導入後のカスタマイズが少なくて済む
専門性の高いサポート:
- 業界経験のあるサポートスタッフが対応
- 同業他社の導入事例やノウハウを共有してもらえることもある
導入効果の実感:
- 汎用ツールでは対応できない業務が効率化される
- 業界特有のKPIや指標でレポートが出力される
(2) 導入企業側のデメリット(選択肢の少なさ・スケール制約)
選択肢が限られる:
- ホリゾンタルSaaSと比較してサービスの選択肢が少ない
- ベンダーロックインのリスクがある
他業界への展開が難しい:
- 事業拡大で異業種に進出する場合、別のSaaSが必要になることがある
- マルチ業界対応の企業には不向きな場合がある
一般的な知名度が低い:
- 業界外での認知度が低く、情報収集が難しいことがある
- ユーザーコミュニティが小規模な場合がある
業界別バーティカルSaaS事例(医療・建設・小売など)
代表的なバーティカルSaaSの事例を業界別に紹介します。各サービスの機能や料金は変更される可能性があるため、最新情報は公式サイトでご確認ください。
(1) 医療・介護業界の事例(カイポケなど)
カイポケ(介護業界):
- 介護保険請求をデジタル化し、国保連への請求データを自動作成
- 介護記録、勤怠管理、請求業務を一元管理
- 介護事業所特有の複雑な請求ルールに対応
医療・介護分野は2024年版カオスマップで33サービスと最多であり、高齢化社会を背景に市場が拡大しています。
(2) 建設業界の事例(SPIDERPLUSなど)
SPIDERPLUS(建設業界):
- 建築図面・現場管理をアプリで効率化
- 図面への書き込み、写真管理、検査記録をクラウドで共有
- 2021年にIPO(新規株式公開)を達成
建設業界では2024年問題により、労働時間管理や業務効率化のニーズが高まっています。Andpad(アンドパッド)も評価額300億円超と報じられるなど、有力企業が台頭しています。
(3) 小売・飲食業界の事例(スマレジなど)
スマレジ(小売業界):
- iPhoneやiPadで利用できるクラウドPOSシステム
- レジ機能だけでなく、在庫管理、売上分析、顧客管理まで対応
- 小売店舗特有の業務フローに最適化
飲食業界では、予約管理、オーダー管理、在庫管理などを統合したバーティカルSaaSが増加しています。
バーティカルSaaS選定のポイントと導入判断基準
自社に適したバーティカルSaaSを選定するためのポイントを解説します。
(1) 業界課題とツール機能のフィット度
確認すべきポイント:
- 自社が抱える業界特有の課題を解決できる機能があるか
- 法規制や業界ルールへの対応が十分か
- 同業他社での導入実績があるか
選定のステップ:
- 自社の業界特有の課題・非効率をリストアップ
- 複数のバーティカルSaaSを機能比較
- 無料トライアルやデモで実際の操作性を確認
- 同規模・同業種の導入事例を確認
(2) 既存システムとの連携可否
連携確認のポイント:
- 既存の会計ソフト(ホリゾンタルSaaS)との連携は可能か
- API連携やデータエクスポート機能があるか
- 基幹システムとのデータ連携に追加コストがかかるか
バーティカルSaaSとホリゾンタルSaaSを併用するケースは一般的です。基幹業務(会計・チャット等)にはホリゾンタルSaaS、業界特有業務にはバーティカルSaaSと使い分けることで、それぞれの強みを活かせます。
まとめ:自社に適したSaaS選びの考え方
バーティカルSaaSは業界特化型のSaaSとして、業界固有の課題解決に強みを持っています。一方で、市場規模の限定性や選択肢の少なさといったデメリットもあります。
選定の判断基準:
- 業界特有の課題が大きい → バーティカルSaaSが有効
- 汎用的な業務効率化が目的 → ホリゾンタルSaaSが適切
- 両方のニーズがある → 併用を検討
次のアクション:
- 自社の業界課題を整理する
- バーティカルSaaSとホリゾンタルSaaSの使い分けを検討
- 複数のサービスを比較し、無料トライアルで試す
- 同業他社の導入事例を参考にする
2024年問題に代表されるように、業界特化の効率化ツールの重要性は今後も高まっていくと考えられています。自社の状況に合わせて、適切なSaaS選定を進めてみてはいかがでしょうか。
※本記事のデータは2025年1月時点の情報です。最新の市場動向やサービス内容は各公式サイトでご確認ください。
