マーケティング戦略におけるターゲット設定の重要性
B2Bデジタルプロダクト企業のマーケティング担当者にとって、「どの顧客層に働きかけるべきか」という問いは常に重要な課題です。限られたリソースで最大の成果を出すには、市場を適切に細分化し、自社に最適な顧客層を選定する必要があります。
しかし、「セグメント」と「ターゲット」という用語を混同していたり、設定方法が曖昧なまま施策を進めている企業も少なくありません。本記事では、ターゲットセグメントの基礎知識から設定方法、B2Bマーケティングでの活用事例まで、実務に役立つ情報を体系的に解説します。
この記事のポイント:
- セグメントは「市場区分」、ターゲットは「選定した顧客層」と明確に区別される
- セグメンテーションには4つの変数(地理的・人口動態・心理的・行動)があり、B2Bでは企業特性を重視
- ターゲティングは6R評価(市場規模・成長性・競合・到達可能性・測定可能性・自社適合性)で絞り込む
- STP戦略(Segmentation→Targeting→Positioning)の順で進め、適切でなければ前段階に戻る
- ターゲット設定は四半期〜半年ごとに見直し、市場環境の変化に応じて柔軟に対応
セグメントとターゲットの基礎知識
(1) セグメントとは:市場を区分けした消費者層
セグメント(Segment)とは、市場のなかで一定の基準によって区分けされた消費者層を指します。例えば、「30代のマーケティング担当者」「従業員100名以上のIT企業」といった形で市場を細分化したグループです。
セグメンテーション(Segmentation)は、この市場細分化を行うプロセス全体を指します。複雑で多様な市場を理解しやすい単位に分割し、それぞれの特性を把握することが目的です。
(2) ターゲットとは:セグメントから選定した想定顧客層
ターゲット(Target)とは、細分化したセグメントのなかから、自社の商品・サービスの顧客層として選定した想定顧客層を指します。すべてのセグメントに働きかけるのではなく、自社の強みや資源を考慮して絞り込んだ対象です。
ターゲティング(Targeting)は、この選定プロセスを指します。各セグメントの魅力度や自社との適合性を評価し、優先順位を付けて最適なセグメントを選びます。
(3) セグメンテーションとターゲティングの違い
セグメンテーションとターゲティングは、マーケティング戦略において連続したステップです:
- セグメンテーション: 市場全体を複数のグループに分類する(広げるプロセス)
- ターゲティング: 分類したグループから自社が働きかけるべき対象を選ぶ(絞り込むプロセス)
この2つを混同すると、戦略が曖昧になり、施策の効果が低下します。まずは市場全体を俯瞰的に分類し、その後に優先順位を付けて絞り込むという順序が重要です。
(4) STP戦略におけるセグメント・ターゲットの位置づけ
STP戦略とは、以下の3つのステップで構成されるマーケティング戦略のフレームワークです:
- Segmentation(市場細分化): 市場を複数のセグメントに分類
- Targeting(標的市場選定): 自社が働きかけるセグメントを選定
- Positioning(自社の位置づけ): 選定したターゲットに対して自社の独自価値を訴求
ターゲティングが適切でないと判断した場合は、セグメンテーションに戻って再検討することが推奨されます。一方通行ではなく、柔軟に前段階に戻ることで精度を高めることができます。
(出典: SATORI「セグメンテーションとは?やり方と活用事例、ターゲティングとの違い」、Material Digital「ターゲットとセグメントの定義・違い・STPマーケティングでの分析方法を基本から解説」)
セグメンテーションの4つの変数と分類手法
セグメンテーションを行う際、一般的に使われる4つの変数があります。B2Bマーケティングでは、これらに加えて企業特性を重視した変数も活用します。
(1) 地理的変数(都道府県・気候・人口密度)
地理的変数は、地域・気候・人口密度などの地理的特性で市場を分類します。
B2Bでの活用例:
- 首都圏の企業(対面営業が可能)
- 地方企業(オンライン商談中心)
- 海外展開企業(グローバル対応が必要)
地理的変数は営業体制やサポート体制の設計にも影響するため、実務上重要な分類軸です。
(2) 人口動態変数(年齢・性別・所得・職業)
人口動態変数は、年齢・性別・所得・職業・学歴などの人口統計的特性で分類します。
B2Bでの活用例:
- 決裁権を持つ役職(部長以上)
- 実務担当者(マーケティング・営業・開発)
- 経験年数(2-5年の若手 vs 10年以上のベテラン)
B2Bでは意思決定プロセスが複雑なため、役職や部門ごとに異なるアプローチが求められます。
(3) 心理的変数(価値観・性格・ライフスタイル)
心理的変数は、価値観・性格・ライフスタイル・購買動機などの心理的特性で分類します。
B2Bでの活用例:
- イノベーター(最新ツールを積極的に試す)
- 保守派(実績重視、リスク回避)
- コスト重視(ROI・費用対効果を最優先)
心理的変数は定量化が難しいですが、顧客インタビューや行動データの分析から推測することが可能です。
(4) 行動変数(購買頻度・製品知識・使用状況)
行動変数は、購買頻度・製品知識・使用状況・ロイヤルティなどの行動的特性で分類します。
B2Bでの活用例:
- 既存顧客(リピート購入・アップセル対象)
- 見込み顧客(情報収集段階)
- 休眠顧客(再活性化が必要)
行動変数は既存顧客データから分析できるため、データドリブンなセグメンテーションに適しています。
(5) B2B特有の変数(企業規模・業種・役職・意思決定権限)
B2Bマーケティングでは、企業特性を中心としたセグメンテーションが重要です:
企業規模:
- 小規模企業(従業員50人未満)
- 中堅企業(従業員50〜500人)
- 大企業(従業員500人以上)
業種:
- IT・ソフトウェア
- 製造業
- 金融・保険
- 小売・流通
意思決定プロセス:
- トップダウン型(経営層の判断が重視)
- ボトムアップ型(現場の意見が重視)
- 稟議型(複数部門の承認が必要)
B2BとB2Cでセグメンテーション手法が大きく異なるのは、B2Bでは組織としての意思決定プロセスや企業特性が購買行動に強く影響するためです。
(出典: MicroAd「BtoBにおけるセグメントとターゲットの違いと設定方法」、Medix「BtoBにおけるセグメンテーションとは?STP分析と方法、例を用いて解説」)
ターゲティングの設定ステップ
セグメンテーションで市場を細分化した後、どのセグメントをターゲットとして選定するかを決定します。以下の4ステップで進めます。
(1) セグメント候補の洗い出し
まず、前段階のセグメンテーションで分類したすべてのセグメントをリストアップします。
例:
- セグメントA: 従業員100名以上のIT企業のマーケティング担当者
- セグメントB: 従業員50名未満のスタートアップのCXO
- セグメントC: 従業員500名以上の製造業の営業部長
この段階では絞り込まず、可能性のあるセグメントをすべて洗い出すことが重要です。
(2) 6R評価(市場規模・成長性・競合・到達可能性・測定可能性・自社適合性)
6Rフレームワークは、ターゲット候補を評価するための6つの基準です:
- Realistic Scale(市場規模): そのセグメントの市場規模は十分か
- Rate of Growth(成長性): 今後成長が見込めるか
- Rival(競合状況): 競合が少ないか、差別化できるか
- Reach(到達可能性): 自社のリソースで到達できるか
- Response(測定可能性): 施策の効果を測定できるか
- Rank(自社適合性): 自社の強み・資源と合致するか
各セグメントを6Rで評価し、スコアリングすることで優先順位を明確にできます。
(3) 優先順位付けとターゲット選定
6R評価の結果をもとに、優先順位を付けてターゲットを選定します。
選定の基準:
- 市場規模と成長性が高いセグメントを優先
- 競合が少なく、自社の強みを活かせるセグメントを選ぶ
- リソースが限られる場合は1〜2セグメントに集中
セグメントが細かすぎると実行が困難になり、リソース分散のリスクがあります。実行可能性を重視して絞り込むことが重要です。
(4) データ収集と検証
ターゲットを選定したら、実際にデータを収集して仮説を検証します。
検証方法:
- 顧客インタビュー(課題・ニーズの深掘り)
- アンケート調査(定量的な検証)
- 既存顧客データの分析(共通項の抽出)
- 小規模な施策テスト(反応率の測定)
ターゲティングが適切でない場合は、セグメンテーションに戻って再検討することが推奨されます。柔軟に前段階に戻ることで精度を高めることができます。
(出典: MicroAd「BtoBにおけるセグメントとターゲットの違いと設定方法」)
B2Bマーケティングでの活用とSTP戦略
(1) STP戦略の全体像(Segmentation → Targeting → Positioning)
STP戦略は、マーケティング戦略の基本フレームワークです:
- Segmentation: 市場を細分化(4つの変数 + B2B特有の変数)
- Targeting: 自社が働きかけるセグメントを選定(6R評価)
- Positioning: 選定したターゲットに対して自社の独自価値を訴求
この順序で進めることで、戦略の一貫性が保たれます。
(2) B2Bセグメンテーションの実践例
事例: MAツールベンダー
セグメンテーション:
- 企業規模: 小規模(50人未満)、中堅(50〜500人)、大企業(500人以上)
- 業種: IT、製造業、金融、小売
- 課題: リード獲得、育成、営業連携
ターゲティング(6R評価後):
- 中堅IT企業(従業員50〜500人)
- 課題: リード育成とスコアリング
- 理由: 市場規模大、成長性高、自社の強みと合致
ポジショニング:
- 「中堅IT企業向けの使いやすいMAツール」
- 「初期設定サポートが充実、導入3ヶ月で成果」
このように、セグメンテーション→ターゲティング→ポジショニングの順で戦略を組み立てることで、一貫性のあるマーケティングが可能になります。
(3) ABM(アカウントベースドマーケティング)との関係
ABM(Account-Based Marketing)は、特定の企業アカウントに絞り込んで集中的にアプローチする手法です。ターゲティングをさらに絞り込んだ戦略と言えます。
従来のターゲティングとABMの違い:
- 従来型: セグメント単位でアプローチ(例: 中堅IT企業全体)
- ABM: 特定企業単位でアプローチ(例: A社、B社、C社の3社に集中)
ABMは、大口顧客の獲得を目指すB2B企業で効果的とされています。ターゲティングの精度を極限まで高めた戦略と言えます。
(4) ターゲティング後の見直しと再設定
ターゲット設定は一度決めたら終わりではなく、定期的な見直しが必要です。
見直しの頻度:
- 四半期〜半年ごとが目安
- 市場環境の大きな変化があった場合は即座に見直し
- 施策の効果が低い場合は早期に再検討
見直しのポイント:
- 市場規模や成長性に変化はないか
- 競合の動向(新規参入・価格変更等)
- 自社のリソース・強みの変化
2025年はMETA広告で複数要素を組み合わせた精緻なセグメント分割が一般化し、アルゴリズムによる自動最適化機能も大幅に進化しています。データドリブンなセグメンテーション・ターゲティングが主流になりつつあります。
(出典: Ferret One「セグメンテーションとは?BtoBにおけるやり方や具体例を解説」、Latrus「【2025年最新版】META広告ターゲティング一覧と効果的な活用法」)
※2025年11月時点の情報です。最新の手法やツールの仕様は変更される可能性があるため、公式サイト等で確認してください。
まとめ:効果的なターゲット設定のポイント
ターゲットセグメントの設定は、B2Bマーケティングの基盤となる重要なプロセスです。セグメントとターゲットの違いを明確に理解し、適切な手法で市場を細分化・選定することで、限られたリソースで最大の成果を出すことができます。
重要なポイント:
- セグメントは「市場区分」、ターゲットは「選定した顧客層」と明確に区別
- セグメンテーションは4つの変数(地理的・人口動態・心理的・行動)+ B2B特有の変数を活用
- ターゲティングは6R評価で優先順位を付ける
- STP戦略の順序(Segmentation→Targeting→Positioning)を守る
- 定期的な見直しで市場環境の変化に対応
次のアクション:
- 自社の既存顧客データを分析し、共通項を抽出する
- 4つの変数 + B2B特有の変数でセグメント候補を洗い出す
- 6R評価で各セグメントをスコアリングし、優先順位を付ける
- 小規模な施策テストで仮説を検証する
- 四半期ごとに見直しを行い、精度を高める
ターゲット設定が曖昧なまま施策を進めると、リソースが分散し、効果が低下します。まずはセグメンテーションで市場を俯瞰的に理解し、その後ターゲティングで絞り込むという順序を守ることが成功の鍵です。
