ターゲットとセグメント、使い分けできていますか?
B2Bデジタルプロダクト企業のマーケティング担当者の多くが、「ターゲット」と「セグメント」という用語を日常的に使っていますが、その違いを正確に理解していないケースが見られます。「セグメント設定したけど成果が出ない」「ターゲティングが曖昧で施策の優先順位が決まらない」といった課題は、この理解不足が原因かもしれません。
この記事では、ターゲットセグメントの定義と設定方法を、B2Bマーケティングの実務視点から解説します。
この記事のポイント:
- セグメントは「分類されたグループ」、ターゲットは「選ばれたセグメント」という違い
- セグメンテーションは「市場を分ける」、ターゲティングは「分けた中から選ぶ」という作業の違い
- セグメント分類には4つの変数(地理的・人口動態・心理的・行動)を組み合わせる
- 有効なセグメントは4つのR(Rank・Realistic・Reach・Response)を満たす必要がある
- B2B向けセグメントでは企業規模・業種・課題軸での分類が効果的
1. ターゲットセグメントとは:マーケティングにおける役割
まず、ターゲットセグメントがマーケティング戦略でどのような役割を果たすのかを理解しましょう。
(1) ターゲットセグメントの定義
ターゲットセグメントとは、市場を細分化(セグメンテーション)した中から、自社がマーケティング対象として選んだ顧客層のことです。
例:
- 市場全体: 日本国内のすべてのB2B企業
- セグメント1: 従業員数50人未満の中小企業
- セグメント2: 従業員数50-500人の中堅企業
- セグメント3: 従業員数500人以上の大企業
- ターゲットセグメント: セグメント2(従業員数50-500人の中堅企業)
このように、複数のセグメントの中から自社が狙うべき層を選定したものが「ターゲットセグメント」です。
(2) マーケティング戦略における重要性
2025年現在、ユーザーニーズやアプローチ方法が多様化しており、セグメンテーションとターゲティングの重要性がますます増しています。
なぜ重要なのか:
- リソースの集中: すべての顧客層に対応するのは非効率。ターゲットを絞ることで限られたリソースを効果的に投入できる
- メッセージの最適化: ターゲットごとに訴求ポイントを変えることで、マーケティングメッセージの効果が向上
- ROIの向上: 成約率の高いターゲットに集中することで、マーケティング投資の効率が向上
IT化が進んだことで企業は顧客の興味や購買傾向を詳細に把握できるようになり、より精緻なセグメンテーションが可能になっています。
2. セグメントとターゲットの違い:よくある混同を整理
セグメントとターゲットは混同されやすい用語ですが、明確に異なります。
(1) セグメントとは(分類されたグループ)
セグメントは、特定の属性や条件で分類された顧客グループのことです。
例:
- 地域別:関東地域の企業、関西地域の企業
- 規模別:年商10億円未満、年商10-50億円、年商50億円以上
- 業種別:製造業、IT・ソフトウェア業、小売業
セグメントは「分類作業の結果」であり、この時点ではまだ自社が狙う対象は決まっていません。
(2) ターゲットとは(選ばれたセグメント)
ターゲットは、セグメントの中から自社が商品・サービスを販売したい顧客層として選んだものです。
例: 上記のセグメントの中から、「年商10-50億円の製造業」を選定した場合、これがターゲットになります。
ターゲットは「選定作業の結果」であり、マーケティング施策はこのターゲットに集中して実施されます。
(3) セグメンテーションとターゲティングの違い
この違いは作業プロセスの違いでもあります。
セグメンテーション(Segmentation):
- 市場を顧客の特性やニーズに基づいて細分化する作業
- 「市場を分ける」
ターゲティング(Targeting):
- セグメンテーションで分けた市場の中から自社が働きかける層を選定する作業
- 「分けた中から選ぶ」
STP分析(セグメンテーション→ターゲティング→ポジショニング)では、この順番を守ることが重要です。正しいセグメンテーションなしに適切なターゲティングはできません。
3. セグメンテーションの具体的手法:4つの変数と4つのR
セグメンテーションを実践する際の具体的な手法を解説します。
(1) 4つのセグメント変数(地理的・人口動態・心理的・行動)
セグメント分類には、以下の4つの変数を組み合わせて使用します。
1. 地理的変数(ジオグラフィック変数)
- 国、地域、都市、人口密度、気候など
- 例:東京23区内のオフィス、地方都市の営業所
2. 人口動態変数(デモグラフィック変数)
- 年齢、性別、収入、職業、家族構成など
- B2Bの場合:従業員数、年商、設立年数、業種
3. 心理的変数(サイコグラフィック変数)
- 嗜好、性格、ライフスタイル、価値観
- 例:イノベーター(新技術を積極的に導入)、保守的(実績重視)
4. 行動変数(ビヘイビアラル変数)
- 購買頻度、使用時間帯、使用場面、知識の有無
- 例:既存ツールへの不満度、情報収集段階
これらの変数を組み合わせることで、より精緻なセグメント分類が可能になります。
(2) 4つのRの原則(Rank・Realistic・Reach・Response)
セグメントが有効かどうかを評価する際、以下の「4つのR」の原則を適用します。
1. Rank(優先順位)
- そのセグメントは自社にとって優先度が高いか
- 成約率や利益率が期待できるか
2. Realistic(規模の有効性)
- そのセグメントの市場規模は十分か
- 細分化しすぎて売上が確保できない規模になっていないか
3. Reach(到達可能性)
- そのセグメントに実際にアプローチできるか
- 広告配信やイベント出展などの手段で到達可能か
4. Response(測定可能性)
- そのセグメントの反応を測定できるか
- 成果を数値で把握できる仕組みがあるか
注意: 測定不可能や到達不可能なセグメントは、どれだけ魅力的でも実務で使えません。4つのRを満たすセグメントを設定することが重要です。
(3) セグメント分類の実践例
B2B SaaSツールを提供する企業の例を見てみましょう。
変数の組み合わせ:
- 地理的変数:日本国内(東京・大阪の主要都市を優先)
- 人口動態変数:従業員数50-500人、年商10-50億円
- 心理的変数:業務効率化に積極的、DX推進中
- 行動変数:既存ツールへの不満あり、情報収集中
4つのRで評価:
- Rank: 成約率が高い層(過去の導入実績から)
- Realistic: 日本国内に約5万社存在(十分な市場規模)
- Reach: Web広告・展示会で到達可能
- Response: MA・CRMで行動を測定可能
このセグメントは4つのRを満たしているため、有効なターゲットセグメント候補と言えます。
4. ターゲティングの実践手順:STP分析の流れ
セグメンテーションとターゲティングを実践する際は、STP分析のフレームワークを活用します。
(1) STP分析とは
STP分析は、以下の3つのステップで構成されるマーケティングフレームワークです。
- Segmentation(セグメンテーション): 市場を細分化
- Targeting(ターゲティング): 狙うべき市場を選定
- Positioning(ポジショニング): 競合との差別化ポイントを明確化
この順番を守ることで、戦略的なマーケティング施策が実現できます。
(2) セグメンテーションの実施
ステップ1: 市場全体の把握
- 自社の製品・サービスが対象とする市場全体を定義
- 例:「国内のB2Bデジタルプロダクト企業」
ステップ2: セグメント変数の選定
- 4つの変数(地理的・人口動態・心理的・行動)から関連する変数を選定
- 例:企業規模(従業員数・年商)、業種、DX推進状況
ステップ3: セグメントの作成
- 選定した変数を組み合わせてセグメントを作成
- 例:「従業員数50-500人の製造業でDX推進中」「従業員数500人以上のIT業で業務効率化に課題」
(3) ターゲティングとポジショニング
ステップ4: セグメントの評価(4つのR)
- 各セグメントを4つのRの原則で評価
- 自社のリソースと強みに合ったセグメントを特定
ステップ5: ターゲットの選定
- 評価結果に基づいて、優先的に狙うセグメントを選定
- これが「ターゲット」になる
ステップ6: ポジショニングの設定
- ターゲット顧客の心の中で、自社製品を競合と差別化して位置づける
- 例:「中堅製造業向けの使いやすさNo.1のMAツール」
セグメンテーションが正しく行われなければ、その後のターゲティングやポジショニングも誤った方向に進むため、最初のステップが最も重要です。
5. B2Bデジタルプロダクトでの活用例と注意点
B2B向けセグメント設定には、BtoC的な属性セグメントとは異なるアプローチが必要です。
(1) B2B向けセグメント変数(企業規模・業種・課題)
B2Bデジタルプロダクトでは、以下の変数が特に重要です。
1. 企業規模
- 従業員数:50人未満、50-500人、500人以上
- 年商:10億円未満、10-50億円、50億円以上
- 予算規模:ツール導入予算の目安
2. 業種
- 製造業、IT・ソフトウェア業、小売業、サービス業など
- 業種特有の課題や規制への対応が必要
3. 課題軸
- 業務効率化、リード獲得、カスタマーサクセス、データ活用など
- 顧客が抱えている具体的な課題で分類
4. 導入フェーズ
- 検討初期(情報収集中)
- 比較検討中(複数ツールを比較)
- 導入直前(最終判断段階)
これらの変数を組み合わせることで、B2Bに適したセグメント設定が可能になります。
(2) 具体的な活用例
ケース1: MAツール提供企業
セグメント1: 従業員数50-200人の製造業、リード獲得に課題
- 訴求ポイント:展示会・ウェビナー連携機能
- チャネル:製造業向けメディア、展示会
セグメント2: 従業員数500人以上のIT企業、既存顧客育成に課題
- 訴求ポイント:高度なスコアリング・セグメント機能
- チャネル:ウェビナー、ホワイトペーパー
ターゲット選定: セグメント1を優先(自社の強みとマッチ、成約率が高い実績)
ケース2: プロジェクト管理ツール提供企業
セグメント1: IT・ソフトウェア業、リモートワークでのコミュニケーション課題
- 訴求ポイント:チャット連携、タスク可視化
セグメント2: 製造業、複数拠点での進捗管理に課題
- 訴求ポイント:ガントチャート、工程管理機能
ターゲット選定: 両方に対応(セグメントごとにLPと訴求ポイントを変える)
(3) よくある失敗パターンと対策
失敗1: セグメントの細分化しすぎ
- 問題:市場規模が小さくなりすぎて、十分な売上が得られない
- 対策:4つのRの「Realistic(規模の有効性)」で評価し、最小限の市場規模を確保
失敗2: 測定不可能なセグメント設定
- 問題:「業務効率化に関心がある企業」といった抽象的なセグメントは測定不可能
- 対策:MA・CRMで測定可能な行動ベースの変数(ホワイトペーパーDL、ウェビナー参加など)を使用
失敗3: セグメンテーションなしにターゲティング
- 問題:市場を分析せずに「なんとなく中堅企業」といったターゲット設定
- 対策:STP分析の順番を守り、必ずセグメンテーションから始める
失敗4: セグメントとターゲットの混同
- 問題:「セグメントを設定した」つもりが、実際にはターゲットを選んでいない(すべてのセグメントに中途半端に対応)
- 対策:セグメント作成後、4つのRで評価し、明確にターゲットを選定
6. まとめ:効果的なターゲットセグメント設定のポイント
ターゲットセグメントは、マーケティング戦略の基盤となる重要な要素です。
重要なポイント:
- セグメントは「分類されたグループ」、ターゲットは「選ばれたセグメント」
- セグメンテーション(市場を分ける)→ターゲティング(分けた中から選ぶ)の順番を守る
- 4つの変数(地理的・人口動態・心理的・行動)を組み合わせてセグメント分類
- 4つのR(Rank・Realistic・Reach・Response)でセグメントを評価
- B2Bでは企業規模・業種・課題軸でのセグメント設定が効果的
次のアクション:
- 自社の市場全体を定義し、セグメント変数を選定する
- 4つの変数を組み合わせて複数のセグメントを作成する
- 4つのRの原則で各セグメントを評価する
- 最も優先度の高いセグメントをターゲットとして選定する
- ターゲットごとに訴求ポイントとマーケティングチャネルを最適化する
正しいセグメンテーションとターゲティングで、B2Bマーケティングの効率とROIを最大化しましょう。
※この記事は2025年11月時点の情報です。セグメント分類の具体的な基準値は企業の戦略により異なりますので、自社の状況に合わせて調整してください。
