市場セグメントとは?顧客ニーズの多様化に対応する市場細分化
新規事業や市場参入を検討する際、「誰にどう売るか」が明確でないと戦略が定まりません。市場セグメントは、不特定多数の顧客を特定の基準でグループ分けし、自社のターゲット顧客を絞り込むための基礎となる考え方です。
この記事では、市場セグメンテーションの定義・分類方法から、STP分析での活用、実践的なステップまで解説します。
この記事のポイント:
- 市場セグメントは市場を特定の基準で分類した際に出現する顧客グループのこと
- セグメンテーション→ターゲティング→ポジショニングの順でSTP分析を実施する
- 4つの変数(地理的・人口統計的・心理的・行動的)を組み合わせて市場を細分化する
- セグメント評価には「4Rの原則」(優先順位・規模の有効性・到達可能性・測定可能性)を活用する
- 過度に細分化すると費用対効果が低下するため、2〜5セグメント程度が目安
(1) 市場セグメントの定義と重要性
**市場セグメント(Market Segment)**とは、市場を特定の基準で分類した際に出現する顧客グループやまとまりのことです。**セグメンテーション(市場細分化)**は、不特定多数の顧客を様々な切り口で分類し、細分化された市場のグループを作る作業を指します。
セグメンテーションを行う主な目的は以下の通りです:
- ターゲット顧客の明確化: 自社が注力すべき顧客層を絞り込める
- マーケティング施策の最適化: 各グループに最適なメッセージやチャネルを設計できる
- リソースの集中投下: 限られた予算・人員を効果的に配分できる
- 競合との差別化: ニッチ市場で独自のポジションを確立できる
(2) 市場セグメンテーションが注目される背景
顧客ニーズの多様化により、セグメンテーションの重要性が増しています。マクロミルの調査によると、「顧客の特性やニーズに応じた分類を行い、最も効果的なセグメントを選定する」ことが現代マーケティングの鍵とされています(出典: マクロミル「市場をセグメントに分ける重要性とは?」)。
また、マーケティングリサーチ市場は2024年に272.5億円(前年比5.1%増)と成長しており、ソーシャルメディアマーケティング市場は2024年に1.2兆円(前年比113%)に達しています(出典: 日本経済新聞「リサーチ・調査業界 市場規模・動向」、サイバー・バズ「2024年のソーシャルメディアマーケティング市場」)。デジタルデータ活用により、行動変数(購入履歴・サイト訪問パターン)でのセグメンテーションが高度化している点も注目です。
セグメンテーションの基礎知識:STP分析における位置づけ
(1) STP分析の全体像(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)
STP分析は、Segmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング)の頭文字をとったマーケティング戦略の基本フレームワークです。
STP分析の流れ:
- Segmentation(セグメンテーション): 市場を複数のグループに分類する
- Targeting(ターゲティング): セグメントの中でどの層を対象にするか決定する
- Positioning(ポジショニング): 市場における自社の立ち位置を把握し、競合との差別化ポイントを明確にする
セグメンテーションが適切でないと、ターゲティングとポジショニングも誤った方向に進むため、STP分析の最初のステップとして重要です。
(参考: 東芝テック「セグメンテーションとは?ポジショニングマップ・ターゲティングとの違い」)
(2) セグメンテーションとターゲティングの違い
| 項目 | セグメンテーション | ターゲティング |
|---|---|---|
| 目的 | 市場を複数のグループに分類する | その中から対象顧客を選定する |
| 作業内容 | 4つの変数を使って市場を細分化 | 4Rの原則で最適なセグメントを選ぶ |
| 実施順序 | STP分析の第1ステップ | STP分析の第2ステップ |
| 成果物 | 複数の顧客グループ(セグメント) | 自社が注力するターゲット顧客層 |
セグメンテーションは「市場を分ける」作業、ターゲティングは「どこに注力するか決める」作業です。
(3) マーケティングリサーチ市場の成長とセグメンテーション
マーケティングリサーチ市場の成長は、企業がデータに基づくセグメンテーションを重視している証拠です。インサイト産業全体では479.8億円(前年比6.7%増)と拡大しており、顧客理解を深める投資が増加しています(出典: 日本経済新聞「リサーチ・調査業界 市場規模・動向」)。
セグメント化の4つの変数と具体的な分類基準
セグメンテーションでは、以下の4つの変数を組み合わせて市場を細分化します。
(1) 地理的変数(ジオグラフィック変数)
地理的条件でセグメント化する変数です。
具体例:
- 国(日本、米国、中国など)
- 地域(関東、関西、東北など)
- 気候(寒冷地、温暖地)
- 人口密度(都市部、郊外、地方)
活用例:
- 寒冷地向けに暖房器具を重点販売
- 地方都市では車必須のため、駐車場付き店舗を展開
(2) 人口統計的変数(デモグラフィック変数)
客観的な属性でセグメント化する変数です。最も基本的で広く使われています。
具体例:
- 年齢(10代、20代、30代、40代以上)
- 性別(男性、女性、その他)
- 学歴(高卒、大卒、大学院卒)
- 職業(会社員、自営業、学生、主婦)
- 年収(300万円未満、300〜500万円、500〜1000万円、1000万円以上)
- 家族構成(単身、夫婦のみ、子育て世帯、シニア世帯)
活用例:
- 20〜30代女性向けにスキンケア商品を展開
- 年収500万円以上の会社員向けに高級腕時計を訴求
(3) 心理的変数(サイコグラフィック変数)
心理的特性でセグメント化する変数です。価値観やライフスタイルが重視されます。
具体例:
- 価値観(健康志向、環境志向、コスパ重視、ブランド志向)
- ライフスタイル(アウトドア派、インドア派、旅行好き)
- 性格(保守的、革新的、冒険好き)
- 興味(スポーツ、音楽、読書、ファッション)
活用例:
- 健康志向の顧客向けにオーガニック食品を展開
- 環境志向の顧客向けにエコ商品を訴求
(4) 行動変数(ビヘイビアル変数)
行動パターンでセグメント化する変数です。デジタルデータ活用により高度化しています。
具体例:
- 購入頻度(週1回、月1回、年数回)
- 使用時間帯(朝、昼、夜)
- 購入履歴(リピーター、新規顧客)
- サイト訪問パターン(検索流入、SNS流入、直接流入)
- ロイヤルティ(ファン、一般顧客、休眠顧客)
活用例:
- リピーター向けに会員限定セールを実施
- 休眠顧客向けに復帰キャンペーンを展開
(参考: SATORI「セグメンテーションとは?やり方と活用事例」)
セグメント評価の4Rの原則:効果的なセグメント選定のために
セグメント化した後は、どのセグメントに注力するか評価する必要があります。4Rの原則は、セグメント評価の基準として広く使われています。
(1) Rank(優先順位):自社の強みと市場魅力度
**自社の強みが活かせるセグメントか?**を評価します。
- 自社の技術・ノウハウが競合優位性を持つか
- 既存顧客との親和性が高いか
- 市場の成長性・魅力度が高いか
具体例:
- 自社がSaaS開発に強い場合、IT企業向けセグメントを優先
- 既存顧客が製造業中心なら、製造業向けセグメントを優先
(2) Realistic(規模の有効性):市場規模と収益性
**十分な市場規模と収益性があるか?**を評価します。
- 市場規模が小さすぎないか(ROIが見込めるか)
- 成長率が高いか(将来性があるか)
- 収益性が高いか(利益率が確保できるか)
具体例:
- 市場規模が10億円未満のニッチ市場は大企業には小さすぎる
- 成長率が年10%以上のセグメントを優先
(3) Reach(到達可能性):アクセス可能性とチャネル
**セグメントに効果的にアクセスできるか?**を評価します。
- マーケティングチャネル(広告、SNS、展示会など)でリーチできるか
- 販売チャネル(直販、代理店、ECなど)が確立できるか
- 地理的にアクセス可能か
具体例:
- 地方企業向けセグメントは直販体制が必要
- SNS活用が多い20代向けセグメントはInstagram広告が有効
(4) Response(測定可能性):効果測定とKPI設定
**セグメントの効果を測定できるか?**を評価します。
- コンバージョン率、LTV(顧客生涯価値)、ROIを追跡できるか
- セグメント間の比較が可能か
- データ収集の仕組みがあるか
具体例:
- Web経由の顧客はGA4でトラッキング可能
- オフライン販売はPOSデータで効果測定
(参考: Mission Driven Brand「セグメンテーションとは|市場細分化戦略のやり方と具体事例」)
市場セグメンテーションの実践ステップと活用事例
(1) セグメンテーションの5つのステップ
ステップ1: 目的と仮説の設定
- セグメンテーションの目的を明確にする(新規顧客獲得、既存顧客深掘りなど)
- どの変数を使うか仮説を立てる(デモグラフィック、行動変数など)
ステップ2: データ収集
- 顧客アンケート、購入履歴、Webアクセスログなどを収集
- 必要に応じて市場調査を実施
ステップ3: セグメント化
- 4つの変数を組み合わせて市場を分類
- 2〜5セグメント程度に絞り込む
ステップ4: セグメント評価(4Rの原則)
- 各セグメントをRank・Realistic・Reach・Responseで評価
- 優先順位をつける
ステップ5: ターゲティングとポジショニング
- 最も効果的なセグメントを選定(ターゲティング)
- 競合との差別化ポイントを明確にする(ポジショニング)
(2) BtoB企業における市場セグメンテーション事例
BtoB企業でもセグメンテーションは有効です。以下の基準でセグメント化できます:
企業規模(ファーモグラフィック変数):
- 従業員数(10人未満、10〜50人、50〜300人、300人以上)
- 売上規模(1億円未満、1〜10億円、10〜100億円、100億円以上)
業種:
- 製造業、IT・通信業、小売業、金融業、医療・福祉など
導入目的:
- 業務効率化、コスト削減、売上拡大、リスク管理
意思決定プロセス:
- トップダウン型(経営層が決定)、ボトムアップ型(現場主導)
具体例:
- SaaS企業が「従業員50〜300人のIT企業、業務効率化目的」をターゲットセグメントに設定
- コンサルティング企業が「売上10億円以上の製造業、経営層がトップダウン決定」をターゲットに設定
(3) セグメンテーション実施時の注意点とよくある失敗
注意点1: 過度に細分化しない
- セグメント数が多すぎると各セグメントの市場規模が小さくなり、費用対効果が低下
- 目安: 2〜5セグメント程度
注意点2: セグメント間の境界を明確にする
- 境界が曖昧だとメッセージングやチャネル選定が不明瞭になる
- 各セグメントの特徴を明文化する
注意点3: 定期的に見直す
- 顧客ニーズは変化するため、6ヶ月〜1年ごとにセグメント定義を見直す
- 効果測定データを基に調整する
よくある失敗:
- データ不足で主観的なセグメント化をしてしまう
- 4Rの原則で評価せず、直感で選んだセグメントに注力してしまう
- セグメンテーション後、ターゲティング・ポジショニングまで実行しない
(参考: E-Sales「セグメンテーションとは?分析に役立つ具体的な方法と手順」)
まとめ:成功する市場セグメンテーションのポイント
市場セグメンテーションは、STP分析の第1ステップとして、ターゲット顧客を明確にし、マーケティング施策を最適化するための基礎です。
この記事のポイント再掲:
- 4つの変数(地理的・人口統計的・心理的・行動的)を組み合わせて市場を細分化する
- セグメント評価には「4Rの原則」(優先順位・規模の有効性・到達可能性・測定可能性)を活用する
- 過度に細分化すると費用対効果が低下するため、2〜5セグメント程度が目安
- セグメンテーション→ターゲティング→ポジショニングの順でSTP分析を実施する
- 顧客ニーズは変化するため、定期的な見直しが必要
次のアクション:
- 自社の目的と仮説を設定し、どの変数を使うか決定する
- 顧客データを収集し、4つの変数でセグメント化する
- 4Rの原則で各セグメントを評価し、優先順位をつける
- 最も効果的なセグメントを選定し、ターゲティング・ポジショニングを実施する
市場セグメンテーションで顧客理解を深め、効果的なマーケティング戦略を構築しましょう。
※この記事は2024年時点の情報です。セグメンテーションの手法やトレンドは変化するため、最新情報は各種マーケティング調査レポートや専門メディアをご確認ください。
