営業組織の属人化・スキルのばらつきに悩んでいる...
B2B企業の営業責任者にとって、「エース社員に売上が集中している」「営業スキルにばらつきがある」「新人がなかなか成果を出せない」といった課題は深刻です。これらの課題を解決するために注目されているのが「Sales Enablement(セールスイネーブルメント)」です。
この記事では、SalesforceでSales Enablementを実現する具体的な方法を、機能説明から導入ステップ、他ツールとの比較まで実践的に解説します。既にSalesforceを導入している企業が、営業組織の生産性向上やスキル標準化を実現するための実用的なガイドです。
この記事のポイント:
- Sales Enablementは営業組織の強化・改善のための総括的な取り組み(研修・ツール・プロセスを統合)
- SalesforceのSales Program(旧Sales Enablement)は、KPI追跡、ガイダンスセンターでの学習管理、ロールプレイ動画スコアリングなどの機能を提供
- Sales Enablement市場は2022年度25億ドルから2030年には79億ドルに達すると予測される成長市場
- ツールは目的別に選ぶ(コンテンツ管理型、録音・文字起こし型、スキル管理型など)
- 導入ステップは「現状分析→目標設定→ツール選定→段階的ロールアウト→効果測定」の順で進める
1. Sales Enablementが注目される理由
Sales Enablementは、営業組織が継続的に成果を上げるために行われる、人材育成・改善の総括的な取り組みです。近年、多くの企業で注目されている背景には、営業組織が抱える共通の課題があります。
(1) 営業組織の課題(属人化・スキルのばらつき)
多くのB2B企業が、以下のような営業組織の課題を抱えています:
営業組織の共通課題:
- 属人化: 一部のエース社員に売上が集中し、その社員が退職すると売上が大幅に減少
- スキルのばらつき: 営業担当者ごとにスキルレベルが異なり、標準化されていない
- 育成の非効率: 新人の立ち上がりに時間がかかり、OJTに頼った育成で成果が安定しない
- ノウハウの散在: エース社員のノウハウが共有されず、組織全体に浸透しない
- プロセスの未整備: 営業プロセスが明文化されておらず、各自が自己流で営業している
これらの課題を解決するために、「データに基づく効率的な営業組織づくり」が求められています。
(2) Sales Enablement市場の成長予測(2022年25億ドル→2030年79億ドル)
起業LOG SaaSの調査によると、セールスイネーブルメント市場は急成長しており、2022年度は25億ドル、2030年までに79億ドルに達すると予測されています。この成長の背景には、以下のような要因があります:
市場成長の要因:
- デジタル化の進展: リモートワーク普及により、営業活動のデジタル化が加速
- データ活用の重視: 営業活動をデータで可視化し、改善につなげる重要性が高まっている
- 人材不足: 限られた営業リソースで成果を最大化する必要性
- 競争激化: 差別化のため、営業組織全体の質を高める取り組みが重要視されている
(3) データに基づく効率的な営業組織づくりへの期待
Sales Enablementの本質は、「エース社員に依存しない営業組織の構築」にあります。データに基づいて営業プロセスを設計・改善し、全員が一定レベル以上の成果を出せる体制を整えることが期待されています。
期待される効果:
- 営業の標準化(ベストプラクティスを全員が実践できる)
- 属人化の防止(誰が担当しても一定の成果を出せる)
- 継続的な成果創出(市場環境が変化しても対応できる組織力)
ただし、効果は企業規模・業種・営業組織の成熟度により異なります。
2. Sales Enablementとは?基本概念の整理
Sales Enablementの定義を明確にし、SFA/CRMとの違いを理解しましょう。
(1) Sales Enablementの定義
Salesforceによると、セールスイネーブルメントは「営業組織が継続的に成果を上げるために行われる、人材の育成・改善に向けた総括的な取り組み」と定義されています。
SATORIによると、「営業担当者の研修・教育、ツール開発、プロセス設計・管理を統合し、全体を最適化する取り組み」とも説明されています。
Sales Enablementの範囲:
- 研修・教育: 営業スキル研修、ロールプレイ、OJT、eラーニング等
- ツール開発: 営業資料、提案書テンプレート、CRM/SFA、コンテンツ管理ツール等
- プロセス設計・管理: 営業プロセスの標準化、KPI設計、効果測定、改善サイクル等
Sales Enablementは、これらを個別に実施するのではなく、統合的に最適化することが重要です。
(2) 研修・教育、ツール開発、プロセス設計・管理の統合
Sales Enablementが従来の営業研修と異なるのは、「研修だけ」「ツールだけ」ではなく、以下の3つを統合的に実施する点です:
1. 研修・教育:
- 営業スキル研修(ヒアリング、提案、クロージング等)
- ロールプレイ(実践的な練習)
- 継続的なコーチング(マネージャーによるフィードバック)
2. ツール開発:
- CRM/SFAの整備(顧客情報・商談情報の一元管理)
- 営業資料・提案書のテンプレート化(属人化の防止)
- コンテンツ管理ツール(必要な資料をすぐ取り出せる)
3. プロセス設計・管理:
- 営業プロセスの標準化(初回接触→ヒアリング→提案→クロージングのステップ定義)
- KPI設計(商談化率、受注率、平均受注額等)
- 効果測定と改善(PDCAサイクルの実施)
これらを統合することで、研修で学んだスキルが実際の営業活動で活用され、その結果がデータで可視化され、継続的に改善されるサイクルが生まれます。
(3) エース社員に依存しない営業組織の構築
ナレッジワークの記事によると、Sales Enablementの本質は「みんなが売れる営業になること」、つまり「エース社員に依存しない営業組織の構築」にあります。
エース社員依存の問題:
- エース社員が退職すると、売上が大幅に減少
- エース社員のノウハウが属人化し、他のメンバーに伝わらない
- エース社員への業務集中により、組織全体の成長が鈍化
Sales Enablementによる解決:
- エース社員のノウハウをテンプレート化・標準化
- 全員が同じプロセス・ツールを使い、一定レベル以上の成果を出せる
- データに基づいて弱点を特定し、ピンポイントで改善
(4) SFAやCRMとの違い
| 項目 | SFA(営業支援システム) | CRM(顧客関係管理) | Sales Enablement |
|---|---|---|---|
| 主な目的 | 商談管理、案件管理 | 顧客情報の一元管理 | 営業組織全体の強化・改善 |
| 対象 | 商談・案件データ | 顧客データ | 営業担当者のスキル・プロセス |
| 活動範囲 | 営業活動の記録・管理 | 顧客とのやり取りの記録 | 研修・ツール・プロセスの統合 |
| 主な機能 | 商談管理、見積作成、レポート | 顧客情報管理、履歴管理 | KPI追跡、学習管理、コーチング |
SFAやCRMは「ツール」であり、Sales Enablementは「営業組織全体の強化・改善のための取り組み」です。SFAやCRMをSales Enablementの一部として活用するケースが多いです。
3. SalesforceのSales Enablement機能(Sales Program)
Salesforceは、Sales Cloud上でSales Enablement機能を提供しています。
(1) Sales Program(旧Sales Enablement)の概要
SalesforceのSales Enablement機能は、2024年2月にSales Programに改称されました。機能は継続して提供されており、以下のような特徴があります:
Sales Programの特徴:
- Sales Cloud上で動作し、既存のCRMデータと統合
- KPI追跡、学習コンテンツ提供、ガイダンスセンターでの進捗管理
- 営業ベストプラクティステンプレート、ロールプレイ動画スコアリング機能
(2) ガイダンスセンターでの目標・進捗・学習管理
ガイダンスセンターは、Sales Programの中核機能です。営業担当者が以下の情報を一元管理できます:
ガイダンスセンターの機能:
- 目標設定: 月間・四半期の売上目標、商談化件数目標等
- 進捗管理: 目標に対する達成率をリアルタイムで可視化
- 学習タスク: 必要な研修コンテンツやeラーニング教材を配信
- コーチングメモ: マネージャーからのフィードバックを記録
営業担当者は、ガイダンスセンターを開くことで「今日何をすべきか」「どのスキルを強化すべきか」を一目で把握できます。
(3) KPI追跡機能
Sales Programでは、営業活動のKPIをリアルタイムで追跡できます。
追跡可能な主なKPI:
- 商談化率(リード数に対する商談化件数の割合)
- 受注率(商談数に対する受注件数の割合)
- 平均受注額
- 営業サイクルタイム(初回接触から受注までの期間)
- 営業活動量(訪問件数、架電件数、メール送信件数等)
これらのKPIをダッシュボードで可視化し、営業担当者ごと・チームごとに比較することで、強み・弱みを特定できます。
(4) ロールプレイ動画スコアリング機能
ロールプレイ動画スコアリングは、営業担当者が実践的なスキルを習得するための機能です。
利用の流れ:
- 営業担当者が商談ロールプレイの動画を撮影してアップロード
- マネージャーや同僚が動画を視聴し、スコアリング(評価)
- フィードバックコメントを入力
- 営業担当者が評価を確認し、改善点を把握
この機能により、座学だけでなく実践的な練習とフィードバックが可能になります。
(5) 営業ベストプラクティステンプレート
Sales Programには、営業ベストプラクティスを組み込んだテンプレートが用意されています。
主なテンプレート:
- 初回訪問時のヒアリングシート
- 提案書のテンプレート
- クロージングのトークスクリプト
- 商談後のフォローアップメールテンプレート
これらのテンプレートを使うことで、エース社員のノウハウを標準化し、全員が一定レベル以上の営業活動を行えます。
(6) 必要なライセンスと料金
Sales ProgramはSalesforce Sales Cloud上で動作します。詳細なライセンス体系や料金は、執筆時点(2024-2025年)の情報として以下の通りです:
- Sales Cloudのライセンスが必要(Essentials、Professional、Enterprise、Unlimited等)
- Sales Program機能は、プランにより利用可否が異なる場合があります
※最新の料金・プラン情報はSalesforce公式サイトでご確認ください。
4. Sales Enablementツールの比較とSalesforceの位置づけ
Sales Enablementツールは多様化しており、目的別に選ぶことが重要です。
(1) ツールのカテゴリ(コンテンツ管理型・録音文字起こし型・スキル管理型)
ASPIC Japanの記事によると、Sales Enablementツールは以下のカテゴリに分類されます:
1. コンテンツ管理型:
- 営業資料、提案書、プレゼン資料を一元管理
- 営業担当者が必要な資料をすぐに取り出せる
- 例: Knowledge Work、Highspot、Seismic
2. 録音・文字起こし型:
- 商談内容を録音し、自動で文字起こし・分析
- 商談の振り返りやコーチングに活用
- 例: ailead、Gong、Chorus
3. スキル管理型:
- 営業担当者のスキルを可視化し、研修・コーチングに活用
- ロールプレイ、eラーニング機能
- 例: Salesforce Sales Program、Brainshark
4. 統合型:
- 上記の機能を組み合わせて提供
- 例: Salesforce Sales Program(スキル管理+KPI追跡+コンテンツ管理)
(2) 主要ツールの比較(Salesforce Sales Program、ailead、Knowledge Workなど)
| ツール | カテゴリ | 主な機能 | 適している企業 |
|---|---|---|---|
| Salesforce Sales Program | 統合型(スキル管理+KPI追跡) | ガイダンスセンター、KPI追跡、ロールプレイ動画スコアリング | Salesforce導入済み企業、統合的な管理を重視 |
| ailead | 録音・文字起こし型 | 商談録音、自動文字起こし、AI分析 | 商談内容の振り返り・分析を重視 |
| Knowledge Work | コンテンツ管理型 | 営業資料の一元管理、検索機能 | 営業資料の整理・共有を重視 |
| Highspot | コンテンツ管理型 | 営業資料管理、顧客エンゲージメント追跡 | グローバル展開企業、高度なコンテンツ管理 |
| Gong | 録音・文字起こし型 | 商談録音、AIによる商談分析、トレンド把握 | データドリブンな営業改善を重視 |
※料金・機能は変更される可能性があるため、最新情報は各ベンダーの公式サイトでご確認ください。
(3) Salesforceの強みと弱み
Salesforceの強み:
- 既存のSales CloudとシームレスにM合(CRMデータとの連携がスムーズ)
- 統合的な機能(スキル管理+KPI追跡+コンテンツ管理)
- 世界的に導入実績が豊富
Salesforceの弱み:
- 高度な商談録音・文字起こし機能は、ailead・Gong等の専門ツールに劣る場合がある
- Sales Cloudのライセンスが必要(コスト面での検討が必要)
- 日本市場特化の機能は、国内ベンダー(Knowledge Work等)に劣る場合がある
(4) 目的別の選び方
| 目的 | 推奨ツール |
|---|---|
| Salesforce導入済み、統合的な管理を重視 | Salesforce Sales Program |
| 商談内容の録音・分析を重視 | ailead、Gong |
| 営業資料の整理・共有を重視 | Knowledge Work、Highspot |
| 低コストで導入したい | 無料プランがあるツール、または機能を絞った専門ツール |
複数のツールを組み合わせて使うことも可能です(例: Salesforce Sales Program + ailead)。
5. Sales Enablement導入のステップと成功のポイント
Sales Enablementを成功させるには、段階的な導入と継続的な改善が重要です。
(1) 現状の営業プロセスと課題の洗い出し
まず、現状の営業プロセスを可視化し、課題を特定します。
現状分析のステップ:
- 営業プロセスの可視化(初回接触→ヒアリング→提案→クロージング→フォローアップ)
- 各ステップでの課題特定(どこでつまずいているか)
- 営業担当者へのヒアリング(困っていること、改善したいこと)
- データ分析(商談化率、受注率、営業サイクルタイム等)
(2) 目標設定とKPI定義
現状分析を踏まえ、Sales Enablementで達成したい目標を設定します。
目標設定の例:
- 商談化率を現状15%から20%に向上(6ヶ月後)
- 新人の立ち上がり期間を6ヶ月から3ヶ月に短縮
- 営業担当者のスキルレベルを標準化し、全員が月間目標を達成できる状態を実現
KPIの例:
- 商談化率、受注率、平均受注額
- 営業サイクルタイム
- 営業活動量(訪問件数、架電件数等)
- 研修受講率、ロールプレイ実施回数
(3) ツール選定と初期設定
目標に応じて、最適なツールを選定します。
ツール選定の観点:
- 機能: 目標達成に必要な機能があるか
- 既存ツールとの連携: 現在使っているCRM/SFAと連携できるか
- コスト: 導入費用・月額費用が予算内か
- サポート: 導入支援・日本語サポートがあるか
初期設定では、営業プロセスの標準化、KPIの設定、テンプレートの作成などを行います。
(4) 段階的なロールアウトと継続的な改善
いきなり全社展開するのではなく、パイロット部門で試験導入し、効果を確認してから全社展開します。
段階的ロールアウトの流れ:
- パイロット部門で試験導入(1-2ヶ月)
- 効果測定とフィードバック収集
- 改善点の洗い出しと対応
- 全社展開
(5) 効果測定と組織への定着
導入後は、定期的に効果測定を行い、継続的に改善します。
効果測定のポイント:
- 定量的な効果(KPIの改善度合い)
- 定性的な効果(営業担当者の満足度、マネージャーの評価)
- 組織への定着度(ツール利用率、研修受講率等)
組織への定着には、マネージャーのコミットメントと継続的なコーチングが重要です。
6. まとめ:SalesforceでSales Enablementを実現するために
Sales Enablementは、営業組織全体の強化・改善のための総括的な取り組みです。Salesforceを既に導入している企業は、Sales Program(旧Sales Enablement)を活用することで、統合的な営業組織の強化を実現できます。
この記事で解説した内容:
- Sales Enablementは研修・ツール・プロセスを統合的に最適化する取り組み
- SalesforceのSales Programは、ガイダンスセンター、KPI追跡、ロールプレイ動画スコアリング機能を提供
- ツールは目的別に選ぶ(コンテンツ管理型、録音・文字起こし型、スキル管理型など)
- 導入ステップは「現状分析→目標設定→ツール選定→段階的ロールアウト→効果測定」
- 効果は企業規模・業種・営業組織の成熟度により異なる
次のアクション:
- 自社の営業プロセスと課題を洗い出す
- Sales Enablementで達成したい目標を明確化する
- Salesforce Sales Programおよび他社ツールの資料を取り寄せて比較検討する
- パイロット部門で試験導入し、効果を測定する
- 継続的な改善サイクルを回し、組織全体に定着させる
Sales Enablementは、ツール導入だけでなく、組織・プロセス面での取り組みも重要です。段階的に導入し、継続的に改善することで、エース社員に依存しない営業組織を構築しましょう。
※この記事は2025年時点の情報です。最新の機能・料金については、Salesforce公式サイトおよび各ツールベンダーの公式サイトでご確認ください。
