営業組織の改革を考えているけれど、インサイドセールスと従来の営業の違いが分からない...
営業職のキャリアを検討している方や、営業組織のマネージャーの多くが、「従来型の営業とインサイドセールスはどう違うのか?」「どのように役割分担すればいいのか?」「自社の営業組織にどちらが適しているのか?」といった疑問を持っています。
この記事では、営業(フィールドセールス)とインサイドセールスの定義、主な違い、分業型営業組織のパターン、連携を成功させるポイント、メリット・デメリット、企業規模別の適性を、最新の業界トレンドと実践例を交えて解説します。
この記事のポイント:
- フィールドセールスは対面で商談・成約、インサイドセールスは非対面で見込み客育成を担当
- 両者は対立ではなく補完関係にあり、分業により専門性と効率が向上する
- THE MODELはマーケティング→インサイドセールス→フィールドセールス→カスタマーサクセスの4部門で分業する組織モデル
- トスアップフローの明確化、ツールによる情報共有、全体目標の設定が連携成功の鍵
- 中小企業では一気通貫型の方が適している場合もある
営業とインサイドセールスの違いとは:営業組織の進化
(1) 従来型営業(一気通貫型)から分業型への変化
従来型の営業組織では、営業担当者が新規開拓から商談、受注、アフターフォローまでを一貫して担当していました。この一気通貫型の営業スタイルは、以下のような特徴があります:
従来型営業(一気通貫型):
- 1人の営業担当者が初回接触から成約まですべてを担当
- 顧客との関係構築が深く、長期的な信頼関係を築きやすい
- 顧客の状況を一元的に把握できる
- 営業担当者ごとにスタイルやスキルが異なる
課題:
- 移動時間が多く、1日の商談数が限られる
- 営業活動が属人化しやすく、ノウハウの共有が難しい
- 新規開拓とアフターフォローの両方に時間を割く必要があり、どちらかが疎かになりがち
分業型営業への変化: コロナ禍後の働き方の変化や顧客の購買行動の進化(自律的な情報収集の増加)により、分業型営業組織の導入が進んでいます(2024年のトレンド)。分業型では、営業プロセスを複数の専門部門に分割し、それぞれが専門性を高めることで、営業効率と売上向上を実現します。
(2) 補完関係としての営業とインサイドセールス
重要: 営業(フィールドセールス)とインサイドセールスは対立概念ではなく、補完関係にあります。
補完関係の具体例:
- インサイドセールスが見込み客を育成し、購買意欲が高まったタイミングでフィールドセールスにバトンタッチ
- フィールドセールスは商談に集中でき、成約率が向上
- インサイドセールスは非対面営業のため、広範囲の顧客にアプローチ可能
- フィールドセールスは対面営業により、複雑な商談や高額案件に対応
分業のメリット:
- 各部門の専門性を高め、効率的な営業活動が可能になる(インプレックス調査)
- 非対面営業のため1日あたりの商談数が増え、営業効率や売上の向上が期待できる(営業ラボ調査)
それぞれの定義と役割(フィールドセールス vs インサイドセールス)
(1) フィールドセールス(外勤営業)の定義と役割
フィールドセールスとは: 顧客先を訪問して対面で商談・成約活動を行う従来型の営業スタイルです。
主な役割:
- インサイドセールスから引き継いだホットリード(購買意欲が高い見込み客)との商談
- 提案書作成・プレゼンテーション
- 見積もり提示・契約条件交渉
- 受注・契約締結
- アフターフォロー(導入支援、定期訪問等)
特徴:
- 顧客と直接対面し、その場で説得して成約へとつなげる(ハンモック調査)
- 複雑な商談や高額案件に対応しやすい
- 顧客との信頼関係を深く構築できる
- 移動時間が必要なため、1日の商談数は限られる
(2) インサイドセールス(内勤営業)の定義と役割
インサイドセールスとは: 電話やメール、オンライン商談など非対面の手法で見込み客にアプローチする営業手法です(営業ラボ調査)。
主な役割:
- マーケティング部門から引き継いだリードへの初回接触
- 電話・メールなどの非対面によるコミュニケーション(ハンモック調査)
- 時間をかけてアプローチし、見込み顧客の育成や関係構築を担う(ハンモック調査)
- 購買意欲が高まった見込み顧客をフィールドセールスに引き継ぐ
特徴:
- 非対面営業のため、移動時間がなく1日あたりの商談数が増える
- 広範囲の顧客にアプローチ可能(全国・海外)
- リードナーチャリング(見込み顧客の育成)に特化
- 営業活動がデータ化されやすく、PDCAサイクルを回しやすい
(3) マーケティングとの橋渡し機能
インサイドセールスは、マーケティングとフィールドセールス(外勤営業)の橋渡し役を担います(営業ラボ調査)。
橋渡しの流れ:
マーケティング
↓ (リード獲得)
インサイドセールス
↓ (リード育成・商談化)
フィールドセールス
↓ (商談・成約)
カスタマーサクセス
↓ (顧客成功支援・継続利用促進)
マーケティングからインサイドセールスへ:
- マーケティング部門がWebサイト、広告、セミナー等でリードを獲得
- インサイドセールスに引き継ぎ、初回接触を実施
インサイドセールスからフィールドセールスへ:
- インサイドセールスが見込み顧客のフォローや醸成を担当
- 顧客の温度感が高まったところでフィールドセールスにバトンタッチ(インプレックス調査)
営業とインサイドセールスの主な違い
(1) 活動場所と手法(対面 vs 非対面)
| 項目 | フィールドセールス | インサイドセールス |
|---|---|---|
| 活動場所 | 顧客先訪問(外勤) | オフィス内(内勤) |
| 手法 | 対面(訪問、商談) | 非対面(電話、メール、Web会議) |
| 移動 | 移動時間が必要 | 移動時間なし |
| 商談数 | 1日2-5件程度 | 1日10-20件以上可能 |
| カバー範囲 | 移動圏内に限定 | 全国・海外も対応可能 |
まとめ:
- フィールドセールスは対面営業により信頼関係を深く構築
- インサイドセールスは非対面営業により効率的にアプローチ
(2) 対応フェーズ(商談・成約 vs 見込み客育成)
| 項目 | フィールドセールス | インサイドセールス |
|---|---|---|
| 対応フェーズ | 商談・成約 | 見込み客育成・商談化 |
| 顧客の状態 | 購買意欲が高い(ホットリード) | 購買意欲がこれから高まる(リード) |
| 活動期間 | 短期集中(商談から受注まで) | 長期継続(育成には数ヶ月かかる場合も) |
| 目的 | 受注・契約締結 | リードナーチャリング・商談設定 |
まとめ:
- フィールドセールスは成約フェーズに特化
- インサイドセールスは育成フェーズに特化
(3) KPI(受注数・売上 vs リード育成数・商談化率)
| 項目 | フィールドセールス | インサイドセールス |
|---|---|---|
| 主なKPI | 受注数、売上高、受注率 | リード育成数、商談化率、トスアップ数 |
| 活動指標 | 商談実施数、提案書作成数 | 架電件数、メール送信数、接触回数 |
| 成果測定 | 受注金額、平均受注単価 | MQL→SQL転換率、商談化率 |
KPI設計の注意点: 各チームが部門KPIの達成のみに注力すると、フィールドセールスは商談の質を、インサイドセールスはリードの質を指摘し合う負のループに陥る可能性があります(Libcon調査)。部門KPIだけでなく、受注や顧客成功を全体の目標とし、部門間の対立を防ぐことが重要です。
(4) 必要なスキルセット
フィールドセールスに必要なスキル:
- 対面コミュニケーション能力(プレゼンテーション、交渉力)
- 顧客との信頼関係構築スキル
- 提案書作成、見積もり作成スキル
- クロージング能力(契約締結に導く力)
- 業界・商品知識の深い理解
インサイドセールスに必要なスキル:
- 電話・メールでのコミュニケーション能力
- 短時間で顧客のニーズを引き出すヒアリング力
- リードスコアリング(見込み客の優先順位付け)
- SFA・MAツールの活用スキル
- データ分析力(活動データから改善点を見つける)
共通して必要なスキル:
- 論理的思考力
- 顧客志向(顧客の課題を理解し、解決策を提案)
- 継続的な学習意欲
分業型営業組織のパターン(THE MODEL等)
(1) THE MODELの基本構造(マーケティング→インサイドセールス→フィールドセールス→カスタマーサクセス)
THE MODELとは: マーケティングから営業、カスタマーサクセスまで専門部門に分割するプロセスモデルです(Libcon調査)。
基本構造:
1. マーケティング
- リード獲得(Web広告、コンテンツマーケティング、セミナー等)
↓
2. インサイドセールス(SDR/BDR)
- リード育成、商談化
- ホットリードのスクリーニング
↓
3. フィールドセールス(AE: Account Executive)
- 商談、提案、受注
↓
4. カスタマーサクセス
- 顧客成功支援、継続利用促進、解約防止
THE MODELのメリット:
- 各部門に明確なKPIを設定し、営業活動を可視化してボトルネックを特定しやすくなる(Libcon調査)
- 各部門が専門性を高めることで、効率的な営業活動が可能
- プロセスごとに改善点を特定し、PDCAサイクルを回しやすい
注意点:
- 分業化の最低条件は主に大企業の無形商材やSaaSスタートアップに当てはまり、中小企業には難しい仕組みの可能性がある(Libcon調査)
- 部門間の連携が不十分だと、情報断絶や顧客体験の分断が起きる
(2) 企業規模・商材別の組織パターン
大企業・無形商材・SaaSスタートアップ:
- THE MODELのような分業体制が適している
- 高度に専門化された部門を設置できるリソースがある
- リード数が多く、分業により効率化の効果が大きい
中小企業:
- 一気通貫型(1人が初回接触から成約まで担当)の方が柔軟で効果的な場合もある
- リソースが限られており、専門部門を設置するのが難しい
- 顧客数が少ない場合、分業のメリットが小さい
有形商材・高単価商材:
- フィールドセールスの比重が大きい
- 対面での信頼構築が重要
- インサイドセールスは初期接触・アポ設定に特化
無形商材・低〜中単価商材:
- インサイドセールスのみで完結する場合もある
- 非対面営業でも十分な説明が可能
- フィールドセールスは高額案件のみ対応
(3) トスアップの基準設計
トスアップとは: インサイドセールスからフィールドセールスへ見込み顧客を引き継ぐプロセスです。
トスアップ基準の例(BANT条件):
- B(Budget): 予算が確保されている
- A(Authority): 決裁権のある担当者と接触している
- N(Needs): 明確なニーズ・課題がある
- T(Timeframe): 導入時期が具体的に見えている
トスアップのタイミング: 営業プロセスごとに役割を明確にし、インサイドセールスは見込み客の育成、フィールドセールスは商談・成約を担当する分業体制を構築します。顧客の温度感が高まったところでフィールドセールスにバトンタッチする明確な基準(トスアップフロー)を設計することが重要です(インプレックス調査)。
連携を成功させるポイント(トスアップフロー・ツール活用・KPI設計)
(1) トスアップフローの明確化
トスアップフロー設計のステップ:
- ホットリードの定義を明確にする(BANT条件等)
- トスアップのタイミングを決定(温度感が高まったタイミング)
- トスアップ時の情報共有項目を標準化(企業情報、担当者情報、課題、予算、導入時期等)
- トスアップ後のフォローアップルールを設定(フィールドセールスが○日以内に初回商談実施等)
トスアップの成功ポイント:
- インサイドセールスが十分に情報を収集し、フィールドセールスに引き継ぐ
- フィールドセールスがトスアップされたリードを迅速にフォローアップ
- トスアップ後の商談結果をインサイドセールスにフィードバック
(2) SFA・MA・オンライン商談ツールによる情報共有
効果的なツール: SFAツール、MAツール、クラウドIP電話・録音ツール、オンライン商談ツールを活用して部門間の情報共有を促進します(インプレックス調査)。
主要ツールと役割:
| ツール | 役割 | 連携における効果 |
|---|---|---|
| SFA(営業支援システム) | 営業活動の記録・管理 | 顧客情報・商談履歴の一元管理、部門間での情報共有 |
| MA(マーケティングオートメーション) | リード育成の自動化 | マーケティングからインサイドセールスへのリード引き継ぎをスムーズに |
| クラウドIP電話・録音ツール | 通話内容の記録・共有 | インサイドセールスのヒアリング内容をフィールドセールスと共有 |
| オンライン商談ツール | Web会議による商談 | インサイドセールスとフィールドセールスの両方で活用、顧客体験を一貫化 |
情報共有のポイント:
- 顧客情報をリアルタイムで更新し、部門間で共有
- 商談履歴、ヒアリング内容、顧客の課題をすべて記録
- データの入力ルールを標準化し、情報の質を担保
(3) 全体目標(受注・顧客成功)と部門KPIのバランス
全体目標の設定: 部門ごとのKPIを設定するだけでなく、受注や顧客成功を全体の目標とし、部門間の対立を防ぐことが重要です。
KPI設計の原則:
全体目標(KGI: Key Goal Indicator):
- 年間売上目標
- 新規顧客獲得数
- 顧客継続率(リテンション率)
部門KPI:
- インサイドセールス: リード育成数、商談化率、トスアップ数
- フィールドセールス: 受注数、受注率、平均受注単価
連携KPI(部門間の協力を評価):
- トスアップされたリードの商談化率
- トスアップされたリードの受注率
- インサイドセールスからフィールドセールスへの引き継ぎ情報の充足度
バランスの取り方:
- 部門KPIだけでなく、全体目標を共有し、組織全体で成果を追求
- 部門間の対立を防ぐため、共通の成功指標を設定
- 定期的にKPIを見直し、市場環境や組織状況に応じて調整
(4) 部門間コミュニケーションの促進
定期ミーティングの実施:
- 週次または月次で部門間ミーティングを開催
- 成功事例と失敗事例を共有
- トスアップのタイミングや情報共有の課題を議論
フィードバックループの構築:
- フィールドセールスが商談結果をインサイドセールスにフィードバック
- インサイドセールスがヒアリング項目やトスアップ基準を改善
- 両部門が協力して営業プロセスを継続的に改善
組織文化の醸成:
- 部門間の対立ではなく、協力を促進する文化を構築
- 経営層が分業体制の重要性を理解し、リソースを投入
- 両部門の貢献を公平に評価
まとめ:分業のメリット・デメリットと企業規模別の適性
営業(フィールドセールス)とインサイドセールスの分業体制は、営業効率を大幅に向上させる有効な戦略です。しかし、成功のためにはトスアップフローの明確化、ツールによる情報共有、全体目標の設定、部門間コミュニケーションの促進が不可欠です。
分業のメリット:
- 各部門の専門性を高め、効率的な営業活動が可能
- 営業活動を可視化し、ボトルネックを特定しやすい
- 非対面営業により1日あたりの商談数が増え、営業効率が向上
- 広範囲の顧客にアプローチ可能
分業のデメリット:
- 情報断絶リスク(部門間で情報が共有されない)
- 顧客体験の分断(複数の担当者が関わることで一貫性が失われる)
- 部門間の対立(KPI設計が不適切な場合)
- 中小企業では導入が難しい場合がある
企業規模別の適性:
大企業・無形商材・SaaSスタートアップ:
- THE MODELのような分業体制が適している
- リード数が多く、分業により効率化の効果が大きい
- 専門部門を設置できるリソースがある
中小企業:
- 一気通貫型(1人が初回接触から成約まで担当)の方が柔軟で効果的な場合もある
- リソースが限られており、専門部門を設置するのが難しい
- 商材特性と営業リソースで判断
この記事のまとめ:
- フィールドセールスは対面で商談・成約、インサイドセールスは非対面で見込み客育成を担当
- 両者は対立ではなく補完関係にあり、分業により専門性と効率が向上
- THE MODELはマーケティング→インサイドセールス→フィールドセールス→カスタマーサクセスの4部門で分業
- トスアップフローの明確化、ツールによる情報共有、全体目標の設定が連携成功の鍵
- 中小企業では一気通貫型の方が適している場合もある
次のアクション:
- 自社の営業プロセスと課題を整理する
- 企業規模・商材特性から、分業型と一気通貫型のどちらが適しているか判断する
- 分業型を導入する場合、トスアップ基準を明確に設計する
- SFA・MAツールを導入し、部門間の情報共有を強化する
- 定期的なミーティングで部門間の連携を促進する
自社に合った営業組織を設計し、営業効率の最大化と売上拡大を実現しましょう。
※この記事は2025年11月時点の情報です。営業組織の設計は企業規模・商材・業種により最適解が異なるため、自社の状況に応じて検討してください。
