営業体制を見直したいけれど、分業のメリットと注意点が分からない...
B2B企業の営業マネージャーの多くが、営業組織の効率化と売上向上のために、インサイドセールスとフィールドセールスの分業体制を検討しています。しかし、「どのように役割分担すればいいのか?」「連携がうまくいかないとどうなるのか?」「自社に適した体制はどれか?」といった疑問が尽きません。
この記事では、インサイドセールスとフィールドセールスの違い、役割分担のパターン、効果的な連携のポイント、導入時の注意点を、具体的な事例と最新データを交えて解説します。
この記事のポイント:
- インサイドセールスは非対面でリード育成・商談設定、フィールドセールスは対面で商談・受注を担当
- 導入企業の報告では、営業担当者1人あたりのカバー顧客数が4倍、コストは50%削減できるとされている
- SFA・CRMによる情報共有、共通KPI設定、フィードバックループが連携成功の鍵
- 役割分担の曖昧さや情報断絶が失敗の主な原因
- 企業規模・商材特性により最適な分業モデルは異なるため、段階的導入が推奨される
営業分業化の重要性と背景
(1) 従来型営業の限界(移動時間・コスト・対応件数)
従来の営業スタイルでは、営業担当者が見込み顧客の発掘から商談、受注、アフターフォローまでをすべて担当していました。しかし、この方式には以下の課題があります:
移動時間とコストの問題:
- 訪問営業には移動時間が必要で、1日の商談数が限られる
- 交通費・宿泊費などの経費が発生する
- 遠方の顧客への対応が難しく、地理的な制約がある
対応件数の限界:
- 1人の営業担当者が管理できる見込み顧客数は限定的
- リードの育成(ナーチャリング)に十分な時間を割けない
- 商談前の準備やアフターフォローが不十分になりがち
(2) 分業によるメリット(効率化・専門化・スケール)
分業体制導入により以下のメリットが得られます:
効率化:
- 移動時間や移動コスト、宿泊費などの経費が不要でコスト削減が可能(SATORI調査)
- 導入企業の報告では、営業担当者1人あたりのカバー顧客数が4倍、コストは50%削減できるとされている
- 1日の商談数を4-5件から14件以上に増加させた事例も報告されている
専門化:
- インサイドセールスはリード育成と商談設定に特化
- フィールドセールスは商談とクロージングに集中できる
- 各担当者が専門性を高めることで、成約率が向上する
スケール:
- 全国各地や世界各国の顧客にも社内で対応でき、広範囲なアプローチが実現
- リモート営業の活用により、地理的制約がなくなる
- 組織の拡大に応じて柔軟に人員配置を調整できる
(3) 2024年の営業トレンド(高成長企業の37%が採用)
2024年の調査では、営業分業化が主流になりつつあることが明らかになっています:
- **高成長企業の37%**がインサイドセールスを主要戦略として採用しており、フィールドセールス中心の27%を上回っている(Salesroom調査)
- 2024年のHubSpot調査によると、21%の営業担当者がリモート営業の方が対面営業よりも成功すると回答している
- 2024年の米国データでは、インサイドセールスの年収中央値は82,000ドル、フィールドセールスの基本給は36%高いが、OTE(目標達成時報酬)では9.2%差に縮小している
これらのデータは、インサイドセールスが営業戦略の中心として認識され始めていることを示しています。
インサイドセールスとフィールドセールスとは何か
(1) インサイドセールスの定義と特徴(非対面・リード育成・商談設定)
インサイドセールスとは: 電話・メール・Web会議等を活用した非対面営業。リードの育成から商談設定までを担当します。
主な業務内容:
- マーケティング部門から引き継いだリードへの初回接触
- 継続的なコミュニケーションによるリードの育成(ナーチャリング)
- 購買意欲が高まったホットリードのスクリーニング
- フィールドセールスへの商談設定と情報引き継ぎ
KPIの例:
- 架電件数・メール送信数
- 商談獲得率・商談設定数
- リード育成率(MQLからSQLへの転換率)
(2) フィールドセールスの定義と特徴(対面・商談・受注)
フィールドセールスとは: 顧客先への訪問やオンライン面談を通じた対面営業。商談から受注・契約までを担当します。
主な業務内容:
- インサイドセールスから引き継いだホットリードとの商談
- 提案書作成・プレゼンテーション
- 見積もり提示・契約条件交渉
- 受注・契約締結・アフターフォロー
KPIの例:
- 商談実施数・商談成約率
- 受注率・受注金額
- 平均受注単価・リピート率
(3) 両者の違い(営業スタイル・業務範囲・KPI)
| 項目 | インサイドセールス | フィールドセールス |
|---|---|---|
| 営業スタイル | 非対面(電話・メール・Web会議) | 対面(訪問・オンライン面談) |
| 業務範囲 | リード育成→商談設定 | 商談→受注・契約 |
| 主なKPI | 架電件数・商談獲得率 | 受注率・受注金額 |
| 接触頻度 | 高頻度・短時間 | 低頻度・長時間 |
| カバー範囲 | 広範囲(全国・海外) | 限定的(移動圏内) |
| コスト | 低(移動費不要) | 高(移動費・宿泊費) |
(4) テレアポとの違い(インサイドセールスは関係構築から商談設定まで包括的)
テレアポとインサイドセールスの違い:
- テレアポ: アポイント獲得のみに特化。短期的なアプローチが中心
- インサイドセールス: 関係構築から商談設定まで包括的。長期的なリード育成を重視
インサイドセールスは、単なる「電話でアポを取る」役割ではなく、見込み顧客との信頼関係を構築し、購買意欲を高めた上でフィールドセールスにつなぐ、より戦略的な営業機能です。
役割分担のパターンと業務フロー
(1) 典型的な分業パターン(リード育成→商談設定→商談→受注)
インサイドセールスとフィールドセールスの典型的な分業パターンは以下の通りです:
1. マーケティング → インサイドセールス:
- マーケティング部門がWebサイト、広告、セミナー等でリードを獲得
- インサイドセールスに引き継ぎ
2. インサイドセールス(リード育成・スクリーニング):
- 初回接触(電話・メール)で課題・ニーズをヒアリング
- 定期的なフォローアップで関係構築
- 購買意欲が高まったホットリードを特定
- フィールドセールスに商談を設定
3. インサイドセールス → フィールドセールス:
- ホットリードの情報(課題・予算・決裁権・導入時期等)を共有
- SFA・CRMに詳細を記録して引き継ぎ
4. フィールドセールス(商談・受注):
- 商談実施(提案・プレゼンテーション)
- 見積もり提示・条件交渉
- 受注・契約締結
5. フィードバック:
- 商談結果をインサイドセールスにフィードバック
- 情報の精度や引き継ぎタイミングを改善
(2) ホットリードの定義と引き継ぎ基準
ホットリードの定義: 購買意欲が高く、商談化の可能性が高い見込み顧客。
引き継ぎ基準の例(BANT条件):
- B(Budget): 予算が確保されている
- A(Authority): 決裁権のある担当者と接触している
- N(Needs): 明確なニーズ・課題がある
- T(Timeframe): 導入時期が具体的に見えている
企業ごとにこれらの基準をカスタマイズし、リードスコアリング(点数化)を行うことで、引き継ぎタイミングを最適化できます。
(3) 企業規模・商材特性による分業モデルの違い
小規模企業(従業員50人未満):
- 営業担当者が少ない場合、兼務型が一般的
- 一部の営業担当者がインサイドセールス業務を兼務
- 段階的に専任体制へ移行
中堅企業(従業員50〜500人):
- インサイドセールスとフィールドセールスを明確に分離
- リード育成に十分なリソースを投入
- SFA・CRMを活用した情報共有が重要
大企業(従業員500人以上):
- さらに細分化された体制(SDR・BDR・AE等)
- SDR(Sales Development Representative): インバウンドリード対応
- BDR(Business Development Representative): アウトバウンド新規開拓
- AE(Account Executive): 商談・受注担当
商材特性による違い:
- 高単価商材(数百万円以上): フィールドセールスの比重が大きい
- 中単価商材(数十万円〜数百万円): インサイドセールスとフィールドセールスの連携が重要
- 低単価商材(数万円〜数十万円): インサイドセールスのみで完結する場合もある
(4) インサイドセールスとフィールドセールスのKPIの違い
インサイドセールスのKPI:
- 活動指標: 架電件数、メール送信数、接触回数
- 成果指標: 商談設定数、商談獲得率、MQL→SQL転換率
- 質的指標: 引き継いだリードの商談化率、フィールドセールスからのフィードバック評価
フィールドセールスのKPI:
- 活動指標: 商談実施数、提案書作成数
- 成果指標: 受注率、受注金額、平均受注単価
- 質的指標: 顧客満足度、リピート率、アップセル・クロスセル率
共通KPIの重要性: 組織全体のKGI(売上高、利益率等)から逆算し、両部門が協力して達成する共通KPIを設定することが、連携強化の鍵となります。
効果的な連携のポイント
(1) 役割の明確化と顧客対応フローの作成
役割を明確化し顧客対応フローを作成することで連携が成功しやすくなります(Ferret One調査)。
役割明確化のステップ:
- インサイドセールスとフィールドセールスの業務範囲を文書化
- ホットリードの定義と引き継ぎ基準を明確に設定
- 各フェーズでの責任者を明示(リード対応、商談設定、商談実施等)
- エスカレーションルールを策定(問題発生時の対応手順)
顧客対応フローの例:
[マーケ] リード獲得
↓
[IS] 初回接触(電話・メール)
↓
[IS] ヒアリング・ニーズ把握
↓
[IS] リード育成(定期フォロー)
↓
[IS] ホットリード判定(BANT確認)
↓
[IS→FS] 商談設定・情報共有
↓
[FS] 商談実施(提案・プレゼン)
↓
[FS] 見積もり・条件交渉
↓
[FS] 受注・契約
↓
[FS→IS] フィードバック
(2) SFA・CRMによる情報共有とリアルタイム連携
SFAやCRMを活用し、顧客情報や案件状況をリアルタイムで共有することで、スムーズな引き継ぎが可能になります(Ferret One調査)。
SFA・CRM活用のポイント:
- 顧客情報の一元管理: 接触履歴、ヒアリング内容、課題、予算、決裁権者等を記録
- リアルタイム更新: インサイドセールスが情報を更新すると、フィールドセールスがすぐに確認できる
- 案件ステージ管理: リード→MQL→SQL→商談→受注のステージを可視化
- 通知機能: ホットリードが発生したら自動通知
情報共有の項目例:
- 企業情報(業種、規模、所在地等)
- 担当者情報(氏名、役職、連絡先等)
- 課題・ニーズ(現状の課題、求めている解決策)
- 予算・決裁権(予算規模、決裁プロセス、キーパーソン)
- 導入時期(希望導入時期、検討スケジュール)
- 競合状況(他社検討状況、比較ポイント)
(3) 共通KPIと連携KPIの設定(組織全体のKGIからブレイクダウン)
共通KPIと連携KPIを設定し、組織全体のKGIからブレイクダウンすることで、両部門の連携が強化されます。
KGI(重要目標達成指標)の例:
- 年間売上目標: 10億円
- 粗利率: 40%
- 新規顧客獲得数: 200社
共通KPIの例:
- 商談化率(インサイドセールスからフィールドセールスへの引き継ぎ成功率)
- 受注までのリードタイム(初回接触から受注までの期間)
- 顧客獲得コスト(CAC: Customer Acquisition Cost)
連携KPIの例:
- インサイドセールスが設定した商談のうち、フィールドセールスが実施した割合
- フィールドセールスが受注した案件のうち、インサイドセールス経由の割合
- インサイドセールスからフィールドセールスへの引き継ぎ情報の充足度(フィールドセールスによる評価)
KPI設計のポイント:
- 組織全体のKGIから逆算してKPIを設定
- インサイドセールスとフィールドセールスが対立しないよう、共通目標を強調
- 定期的にKPIを見直し、市場環境や組織状況に応じて調整
(4) フィードバックループの構築(商談後の報告と改善)
商談終了後のフィードバックループを構築し、インサイドセールスへの報告と事前情報の精度確認を行うことで継続的改善が実現します。
フィードバックループの流れ:
商談後の報告: フィールドセールスが商談結果をインサイドセールスに報告
- 商談の成否(受注・失注・継続検討)
- 失注理由(予算・タイミング・機能・競合等)
- 事前情報と実態の差異(課題、予算、決裁権等)
情報精度の確認: インサイドセールスが引き継いだ情報の精度を検証
- どの情報が正確だったか
- どの情報が不足していたか
- どの情報が誤っていたか
改善アクション: ヒアリング項目やリードスコアリング基準を改善
- ヒアリング項目の追加・修正
- ホットリード判定基準の見直し
- 引き継ぎタイミングの最適化
定期ミーティング: 両部門で定期的に振り返りを実施
- 週次または月次でミーティング
- 成功事例と失敗事例の共有
- ベストプラクティスの横展開
導入時の注意点と成功事例
(1) よくある失敗パターン(役割分担の曖昧さ・情報断絶・部門対立)
失敗パターン1: 役割分担の曖昧さ
- インサイドセールスとフィールドセールスの業務範囲が不明確
- 顧客対応の重複や漏れが発生し、顧客体験が悪化する
- 「誰が対応すべきか」で混乱が生じる
失敗パターン2: 情報断絶
- SFA・CRMが整備されていない、または活用されていない
- 引き継ぎ時に重要な情報が欠落し、商談の質が低下する
- フィールドセールスが「インサイドセールスが集めた情報が不十分」と不満を持つ
失敗パターン3: 部門対立
- KPI設定が不適切で、責任の押し付け合いが発生する
- インサイドセールスが「せっかく商談を設定したのにフィールドセールスが受注しない」と不満
- フィールドセールスが「インサイドセールスが送ってくるリードの質が低い」と不満
- 両部門間で信頼関係が損なわれる
(2) 導入時の注意点(段階的導入・ツール整備・教育体制)
注意点1: 段階的導入
- いきなり全面的な分業体制に移行せず、小さく始めて成功を積み重ねる(パナソニック事例)
- まずは一部の営業担当者にインサイドセールス業務を兼務させる
- 成功事例を作ってから専任体制へ移行
注意点2: ツール整備
- SFA・CRMを導入し、情報共有の仕組みを構築
- 両部門が使いやすいUI・UXを重視
- データ入力ルールを明確化し、情報の質を担保
注意点3: 教育体制
- インサイドセールスとフィールドセールスの役割を明確に伝える
- ヒアリングスキル、リードスコアリング手法、SFA・CRM活用方法を教育
- 定期的なトレーニングとスキルアップ機会を提供
注意点4: 経営層のコミットメント
- 経営層が分業体制の重要性を理解し、リソースを投入
- 短期的な成果を求めず、中長期的な視点で評価
- 両部門の協力を促進する文化を醸成
(3) 成功事例(パナソニック・福祉サービス事業者等)
事例1: パナソニック
- メールキャンペーンから開始し、小さく始めて成功を積み重ねる方式で導入(HubSpot事例)
- 段階的に体制を拡大し、インサイドセールスとフィールドセールスの連携を強化
- 営業効率の向上と売上拡大を実現
事例2: 福祉サービス事業者
- 1日の商談数を4-5件から14件以上に増加(HubSpot事例)
- インサイドセールスがリード育成と商談設定を担当することで、フィールドセールスが商談に集中できる体制を構築
- 商談数の大幅増加により、受注機会が拡大
事例3: その他の成功企業
- LISKUL記事によると、インサイドセールス導入により受注数が3倍になった事例が報告されている
- 導入企業の報告では、営業担当者1人あたりのカバー顧客数が4倍、コストは50%削減できるとされている
(4) 導入効果の測定(カバー顧客数4倍、コスト50%削減、商談数増加等)
定量的な効果:
- カバー顧客数: 導入企業の報告では、営業担当者1人あたりのカバー可能な見込み顧客数が4倍になるとされている
- コスト削減: 移動費・宿泊費の削減により、営業コストが50%削減できるとされている
- 商談数増加: 1日の商談数が4-5件から14件以上に増加
- 受注数向上: インサイドセールス導入により受注数が3倍になった事例も
定性的な効果:
- 営業担当者が専門性を高めることで、顧客満足度が向上
- リード育成が充実し、商談時の購買意欲が高まる
- 地理的制約がなくなり、全国・海外の顧客にもアプローチ可能
効果測定のポイント:
- 導入前後でKPIを比較し、定量的な効果を測定
- 顧客満足度や営業担当者の満足度も定性的に評価
- 短期的な成果だけでなく、中長期的な効果(リピート率、LTV等)も追跡
※導入効果は企業規模や業種、商材の特性により異なります。自社での検証が必要です。
まとめ:分業体制で営業効率を最大化するために
インサイドセールスとフィールドセールスの分業体制は、営業効率を大幅に向上させる有効な戦略です。しかし、成功のためには役割の明確化、SFA・CRMによる情報共有、共通KPI設定、フィードバックループの構築が不可欠です。
この記事のまとめ:
- インサイドセールスは非対面でリード育成・商談設定、フィールドセールスは対面で商談・受注を担当
- 導入企業の報告では、カバー顧客数4倍、コスト50%削減、商談数増加などの効果が報告されている
- 役割分担の曖昧さ、情報断絶、部門対立が失敗の主な原因
- 段階的導入、ツール整備、教育体制が成功の鍵
- 企業規模・商材特性により最適な分業モデルは異なる
次のアクション:
- 自社の営業プロセスと課題を整理する
- インサイドセールスとフィールドセールスの役割分担を検討する
- SFA・CRMの導入または活用強化を計画する
- 小規模なパイロット導入から始め、成功事例を作る
- 定期的にKPIを測定し、継続的に改善する
自社に合った分業体制を構築し、営業効率の最大化と売上拡大を実現しましょう。
