CRMとオムニチャネルの統合が求められる背景
顧客接点がメール、電話、チャット、SNS、対面と複数チャネルに分散する中、B2B企業の営業・マーケティング・カスタマーサクセス部門では「チャネル間で顧客情報が断絶している」「別のチャネルでの対応履歴が見えない」といった課題が深刻化しています。こうした状況を解決し、一貫した顧客体験を提供するために、CRMとオムニチャネル戦略の統合が注目されています。
この記事では、オムニチャネルCRMの基礎知識から導入メリット、システム構成、コスト・リスク対策まで、B2B実務担当者向けに詳しく解説します。
この記事のポイント:
- オムニチャネルCRMは全チャネルのデータを統合し、360度顧客ビューを提供
- 強力なオムニチャネル戦略を持つ企業は顧客維持率89%、年間収益成長率9.5%を達成
- CRMを中心にFAQ・CTI・IVRシステムを統合する実装パターンが効率的
- 初期投資は高額だが、スモールスタート可能なサービス(BASE、Shopify Plus、ecforce等)も存在
- 導入期間が長期化するリスクがあり、段階的導入と専門家サポートが推奨される
(1) 複数チャネルでの顧客対応が常態化
総務省「令和6年版 情報通信白書」によると、企業の顧客接点のデジタル化が加速しており、メール、電話に加え、Webチャット、SNS、ビデオ会議など多様なチャネルを併用する企業が増加しています。B2B企業でも、展示会後のフォローアップはメール、商談はビデオ会議、サポートはチャットといった具合に、顧客接点が複数チャネルに分散するのが一般的です。
(2) チャネル間の情報断絶がもたらす課題
チャネルごとに情報が分断されていると、「メールで問い合わせた内容を電話でもう一度説明しなければならない」「前回の商談内容を別の担当者が把握していない」といった事態が発生します。これは顧客満足度の低下だけでなく、対応時間の増加や営業機会の損失にもつながります。
オムニチャネルCRMの基礎知識
(1) オムニチャネルCRMとは
オムニチャネルCRM(Omnichannel CRM)とは、ウェブサイト、メール、ソーシャルメディア、電話、SMS、ライブチャット、対面など、すべてのコミュニケーションチャネルからのデータを統合し、一貫した顧客体験を提供するCRMシステムです。顧客の行動と好みの360度ビューを提供し、リアルタイムで追跡・管理が可能になります。
(2) マルチチャネルCRMとの違い
マルチチャネルCRMは複数のチャネルを提供しますが、各チャネルが独立して動作するため、情報が断絶しやすいという特徴があります。一方、オムニチャネルCRMは全チャネルが統合され、顧客が別のチャネルに切り替えても、過去のやり取りが統一されたタイムラインで管理されます。この違いにより、顧客は「どのチャネルでも同じ情報が共有されている」と感じることができ、満足度が向上します。
(3) 360度顧客ビューとリアルタイムデータ同期
オムニチャネルCRMの核となる機能が「360度顧客ビュー」と「リアルタイムデータ同期」です。360度顧客ビューは、すべてのチャネルでの顧客インタラクション(購入履歴、問い合わせ内容、Webサイト閲覧履歴等)を一元的に把握する機能です。リアルタイムデータ同期により、すべてのチャネルで顧客情報が即座に更新され、最新データが全チーム(営業、マーケ、CS)で共有されます。
オムニチャネルCRM導入のメリットと効果
(1) 顧客維持率・収益成長率の向上
Priority Software社の調査によると、強力なオムニチャネル戦略を持つ企業は顧客の89%を維持しているのに対し、持たない企業は33%のみの維持率にとどまります。また、強力なオムニチャネルシステムを持つ企業の年間収益成長率は9.5%に達する一方、弱い戦略の企業は3.4%にとどまります。この差は、一貫した顧客体験が顧客ロイヤルティと継続的な取引を促進することを示しています。
(2) 対応効率の改善と業務負荷の軽減
統合エージェントワークスペースを活用することで、すべての顧客インタラクション(通話、メール、チャット、ソーシャルメディアメッセージ)を一つの画面で管理できます。これにより、担当者が複数のシステムを行き来する必要がなくなり、対応時間が短縮されます。JAC Recruitment社の事例では、FastHelp CRM導入により、マルチチャネル対応(電話、メール、チャット、SMS)でオペレーター効率が向上し、面接率が20%アップしました。
(3) パーソナライズされた顧客体験の提供
複数のデータソースを統合することで、顧客の属性・行動履歴・好みに基づいたパーソナライズされたアプローチが可能になります。コメ兵の事例では、8種類のデータソース(オンライン顧客/購入データ、店舗会員/購入データ、買取データ等)をCRMシステム「カスタマーリングス」で統合し、セグメンテーションとパーソナライズされたアプローチを実現しています。
導入時のシステム構成と連携パターン
(1) CRMを中心とした統合アーキテクチャ
オムニチャネル実装では、CRMシステムを中心に、FAQシステム、CTI(Computer Telephony Integration)システム、IVR(Interactive Voice Response)システム、Visual IVRシステムなどを統合するアーキテクチャが一般的です。この構成により、電話・メール・チャット・FAQ・IVRなどのチャネルが一元管理され、効率的な顧客対応が可能になります。
(2) 統合エージェントワークスペースの活用
統合エージェントワークスペースは、すべての顧客インタラクションを一つの画面で管理できるインターフェースです。たとえば、顧客が電話で問い合わせた後、メールでフォローアップし、その後チャットで追加質問をした場合でも、全てのやり取りが時系列で一つの画面に表示されます。これにより、担当者は顧客の状況を即座に把握でき、迅速かつ的確な対応が可能になります。
(3) 国内企業の導入事例(JAC Recruitment、コメ兵、ヒラキ等)
JAC Recruitment社: FastHelp CRM導入により、マルチチャネル対応(電話、メール、チャット、SMS)でオペレーター効率向上、面接率20%アップを達成。
第一生命保険: CRMシステム「FastHelp」とWebチャット連携でスマートセンターを構築。全国の営業職員がチャットと電話の対応履歴を一元管理できるようになった。
ヒラキ株式会社: メールとLINEを組み合わせた最適チャネルコミュニケーションを実装。カート放棄メールやカタログ開封促進により、メールチャネル経由で前年比2倍の売上を達成。
※これらの事例は企業規模・業種・既存システム環境により結果が異なります。導入効果は個別の状況に依存します。
導入コスト・リスクと対策
(1) 初期投資と運用コストの目安
在庫管理システムやCRMツールの導入には高額な初期投資が必要で、中小企業には負担となる可能性があります。一方、BASE、Shopify Plus、ecforceなどのサービスでは、チャネル統合・在庫管理・顧客対応・売上分析といった機能を一体化して提供し、スモールスタートからのスケール拡張が可能です。初期費用や月額料金は各サービスで異なるため、公式サイトで最新の料金プランを確認することが推奨されます。
※料金プランは変更される可能性があります。導入前に公式サイトで最新情報をご確認ください。(2025年12月時点)
(2) システム統合の複雑さと導入期間
システム統合の複雑さにより、導入期間が長期化し、従業員と顧客が新しいシステムに適応するまで時間がかかる傾向があります。段階的な導入とトレーニングを実施し、専門家のサポートを受けることで、導入リスクを軽減できます。
(3) データ同期不良やセキュリティリスクへの対応
チャネル間でのデータ同期が不完全な場合、顧客体験が損なわれ、かえって顧客満足度が低下するリスクがあります。また、複数システムの統合によりセキュリティリスクが増加し、顧客データ保護の対策が必要です。導入前にデータ同期のテストを十分に行い、セキュリティポリシーを整備することが重要です。
まとめ:企業規模別の導入アプローチ
オムニチャネルCRMは、複数の顧客接点を統合し、一貫した顧客体験を提供することで、顧客維持率・収益成長率の向上と対応効率の改善を実現します。導入にあたっては、企業規模・予算・既存システム環境に応じた適切なアプローチを選択することが重要です。
小規模企業: BASE、Shopify Plus、ecforceなど、スモールスタートからスケール拡張可能なサービスを検討しましょう。
中堅企業: Zoho CRM、HubSpotなど、中堅企業向けの機能と料金プランを持つCRMプラットフォームを検討しましょう。
大企業: Salesforce、Microsoft Dynamics 365など、高度なオムニチャネル機能と統合エージェントワークスペースを提供するエンタープライズ向けCRMを検討しましょう。
次のアクション:
- 自社の顧客接点(メール、電話、チャット、SNS等)を整理する
- 現在のチャネル間情報断絶の課題を洗い出す
- 企業規模・予算に合ったCRMベンダーの公式サイトで最新機能・料金を確認する
- 無料トライアルや導入支援サービスを活用し、段階的に導入を進める
自社に合ったオムニチャネルCRMで、顧客体験の向上と業務効率化を実現しましょう。
