クラウドサービスが企業で普及している背景
「クラウドサービス」という言葉を日常的に耳にするようになりました。GmailやMicrosoft 365、Salesforceなど、多くの企業がクラウドサービスを業務に活用しています。
総務省の調査によると、日本企業のクラウドサービス利用率は約68.7%(2021年調査、前年比4.0ポイント増)に達しています。また、87.1%の企業がクラウドサービスの導入効果を「非常に効果があった」または「ある程度効果があった」と回答しており、企業のクラウド活用は着実に進んでいます。
しかし、「クラウドサービスとは具体的に何なのか」「SaaS、PaaS、IaaSの違いがわからない」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。この記事では、クラウドサービスの基礎知識から種類の違い、メリット・デメリット、選定ポイントまで解説します。
この記事のポイント:
- クラウドサービスは、コンピューティングリソースやソフトウェアをインターネット経由で利用するサービスの総称
- IaaS・PaaS・SaaSの3種類があり、自由度と管理負担のバランスが異なる
- メリットは初期投資軽減・拡張性・運用負荷軽減、デメリットはカスタマイズ性の制約やセキュリティリスク
- オンプレミスとの比較、ハイブリッドクラウドの選択肢も検討すべき
- 企業規模・セキュリティ要件・コストに応じた選定が重要
クラウドサービスの基礎知識(定義と仕組み)
(1) クラウドサービスとは何か
総務省の定義によると、クラウドサービス(クラウド・コンピューティング)とは、「従来は利用者が手元のコンピュータで利用していたデータやソフトウェアを、ネットワーク経由でサービスとして提供するもの」です。
クラウドサービスの特徴:
- インターネットに接続すれば、どこからでも利用可能
- サーバーやネットワーク機器を自社で用意する必要がない
- 必要な分だけリソースを利用し、使った分だけ料金を支払う
- サービス提供者がインフラの運用・保守を担当する
代表的なクラウドサービス:
- Gmail(メールサービス)
- Microsoft 365(オフィスソフト)
- Salesforce(CRM/SFA)
- AWS、Azure、Google Cloud(クラウドインフラ)
(2) オンプレミスとの違い
「オンプレミス」とは、自社でサーバーやネットワーク機器を保有し、システムを運用する形態です。クラウドサービスとの違いを比較します:
| 項目 | クラウドサービス | オンプレミス |
|---|---|---|
| 初期投資 | 少ない(月額課金) | 大きい(サーバー購入) |
| 拡張性 | 柔軟(必要に応じて増減可能) | 制限あり(ハードウェア依存) |
| 運用負荷 | 軽い(事業者が管理) | 重い(自社で管理) |
| カスタマイズ性 | 制限あり | 高い |
| データ管理 | 事業者側で保管 | 自社で完全管理 |
(3) パブリッククラウドとプライベートクラウド
クラウドサービスは、利用形態によって以下のように分類されます:
パブリッククラウド:
- 不特定多数の企業・ユーザーが共有して利用
- AWS、Azure、Google Cloudなどが代表例
- コスト効率が良く、拡張性が高い
プライベートクラウド:
- 特定の企業・組織専用のクラウド環境
- セキュリティ要件が厳しい業種で採用されることが多い
- 初期投資は大きいが、管理の自由度が高い
ハイブリッドクラウド:
- パブリッククラウドとプライベートクラウド(またはオンプレミス)を組み合わせて利用
- 機密データはプライベート環境、一般業務はパブリック環境という使い分けが可能
クラウドサービスの種類(IaaS・PaaS・SaaS)
クラウドサービスは、提供される機能の範囲によってIaaS、PaaS、SaaSの3つに分類されます。
(1) IaaS(インフラ提供)の特徴と利用シーン
IaaS(Infrastructure as a Service)は、サーバー、ストレージ、ネットワークなどのインフラをクラウドで提供するサービスです。
特徴:
- 自由度が最も高い
- OS、ミドルウェア、アプリケーションは自社で構築・管理
- インフラ部分のみ事業者が管理
代表的なサービス:
- AWS EC2
- Azure Virtual Machines
- Google Compute Engine
利用シーン:
- 独自のシステム環境を構築したい場合
- 既存システムのクラウド移行
- 開発・テスト環境の構築
(2) PaaS(開発環境提供)の特徴と利用シーン
PaaS(Platform as a Service)は、アプリケーション開発に必要なプラットフォーム(OS、ミドルウェア、開発環境)を提供するサービスです。
特徴:
- インフラ+OS+ミドルウェアまで事業者が管理
- アプリケーション開発に集中できる
- IaaSより自由度は下がるが、管理負担も軽減
代表的なサービス:
- AWS Elastic Beanstalk
- Azure App Service
- Google App Engine
- Heroku
利用シーン:
- Webアプリケーションの開発・運用
- 開発スピードを重視したいプロジェクト
- インフラ管理のリソースが限られている場合
(3) SaaS(アプリケーション提供)の特徴と利用シーン
SaaS(Software as a Service)は、完成されたソフトウェアをクラウド上で提供するサービスです。
特徴:
- インフラからアプリケーションまで事業者が管理
- 利用者はアプリケーションを使うだけ
- 自由度は最も低いが、管理負担も最小
代表的なサービス:
- Gmail(メール)
- Microsoft 365(オフィスソフト)
- Salesforce(CRM/SFA)
- Slack(コミュニケーション)
- freee、マネーフォワード(会計)
利用シーン:
- 汎用的な業務アプリケーションの利用
- すぐに導入して使い始めたい場合
- IT人材が限られている企業
3つの違いの比較:
| 項目 | IaaS | PaaS | SaaS |
|---|---|---|---|
| 提供範囲 | インフラのみ | インフラ+開発環境 | アプリケーションまで |
| 自由度 | 高い | 中程度 | 低い |
| 管理負担 | 大きい | 中程度 | 小さい |
| 技術力要件 | 高い | 中程度 | 低い |
クラウドサービスのメリット・デメリット
(1) メリット(初期投資軽減・拡張性・運用負荷軽減)
初期投資の軽減:
- サーバーやネットワーク機器を購入する必要がない
- 月額課金のため、必要な分だけ費用が発生
- 導入までの期間が短縮できる
拡張性の高さ:
- ビジネスの成長に合わせてリソースを増減できる
- 繁忙期だけリソースを増やすといった柔軟な対応が可能
- 新しいサービスの追加が容易
運用負荷の軽減:
- インフラの運用・保守はサービス提供者が担当
- セキュリティアップデートやバックアップが自動化されている場合が多い
- 自社のIT人材をより付加価値の高い業務に集中させられる
導入効果(総務省調査より):
- 最も利用されているクラウドサービスは「ファイル保管・データ共有」(59.4%)
- 次いで「電子メール」(50.3%)
- 87.1%の企業が「効果があった」と回答
(2) デメリット(カスタマイズ性・セキュリティ・ベンダーロックイン)
カスタマイズ性の制約:
- クラウド事業者が提供するサービスの範囲内での利用となる
- 自社独自の要件を満たせない場合がある
- 特にSaaSは柔軟性が低い
セキュリティリスク:
- インターネット上のサービスはサイバー攻撃の標的になりやすい
- データが自社外に保管されることへの懸念
- 通信障害が発生するとサービスが利用できなくなる
ベンダーロックインのリスク:
- 特定のクラウド事業者に依存すると、他のサービスへの移行が困難になる
- 事業者がサービスを終了した場合の影響
- 長期的なコスト増加の可能性
クラウドサービスの選定ポイント
(1) セキュリティ・コンプライアンス要件
自社が扱うデータの性質や業界の規制に応じて、セキュリティ要件を確認します:
確認すべき項目:
- データの保管場所(国内/国外)
- 暗号化の方式(通信時・保管時)
- アクセス管理機能(多要素認証など)
- セキュリティ認証の取得状況(ISO 27001、SOC 2など)
- 業界固有の規制への対応(金融、医療、個人情報保護など)
大手ベンダーのセキュリティ: AWS、Azure、Google Cloudなどの大手クラウドベンダーは、高水準のセキュリティ対策を実施しています。ただし、クラウドサービスのセキュリティは「責任共有モデル」に基づいており、利用者側でもアクセス管理やデータ保護の対策が必要です。
(2) コストと拡張性のバランス
クラウドサービスの料金体系は複雑な場合があり、適切なプランを選定することが重要です:
コスト検討のポイント:
- 初期費用と月額費用のバランス
- 従量課金と定額課金の選択
- 成長に伴うコスト増加の見積もり
- 長期契約による割引の検討
拡張性の検討:
- ビジネスの成長に合わせたスケールアップが可能か
- 繁忙期・閑散期に応じたリソース調整ができるか
- 他のクラウドサービスとの連携が可能か
まとめ:自社に適したクラウドサービスの選び方
クラウドサービスは、企業のIT活用を効率化する有効な選択肢です。ただし、すべてをクラウド化すればよいわけではなく、自社の要件に応じた選定が重要です。
選定の判断基準:
| 要件 | 推奨される選択肢 |
|---|---|
| 初期投資を抑えたい | クラウドサービス(SaaS優先) |
| カスタマイズ性を重視 | IaaSまたはオンプレミス |
| 開発に集中したい | PaaS |
| 機密データを扱う | プライベートクラウドまたはハイブリッド |
| 柔軟な拡張性が必要 | パブリッククラウド |
次のアクション:
- 自社が利用しているクラウドサービスを棚卸しする
- クラウド化したい業務・システムの要件を整理する
- セキュリティ・コンプライアンス要件を確認する
- 複数のサービスを比較検討し、トライアルで検証する
クラウドサービスの導入は、単にコスト削減だけでなく、ビジネスの俊敏性を高め、競争力の向上につながります。自社の状況に合った選択を検討してみてください。
※この記事は2025年時点の情報です。各サービスの仕様・料金は変更される可能性があるため、最新情報は公式サイトでご確認ください。統計データは総務省「情報通信白書」等の公表値に基づいています。
