シリーズB成功のカギは資金調達後の実行にある
シリーズB成長戦略の答えは明確で、シリーズB成功は資金調達で終わらず、調達後の成長戦略を実行する組織体制と業務BPRを整備することで初めて実現します。
シリーズBとは、シードからシリーズAを経た後の追加出資ラウンドです。市場シェア拡大と運用効率化を目的とする成長段階で、多くのスタートアップが次のステージへ進むための重要な資金調達機会となっています。
2025年上半期のスタートアップ資金調達総額は3,399億円(デット除く、前年比4%増)で、1社あたり平均調達額中央値は6,790万円となっています。市場全体では資金調達の機会が増えている一方、調達に成功した企業の中には、その後の成長が思うように進まないケースも見られます。
資金調達に成功しても成長が鈍化する主な原因は、実行体制の不十分さにあります。資金を得ただけで満足し、組織拡大に伴う業務プロセス整備・ツール活用・人材採用を怠ってしまうと、せっかくの調達資金を活かしきれません。
この記事で分かること
- シリーズBの定義と投資ラウンドにおける位置づけ
- シリーズB資金調達の具体的な方法と成功ポイント
- 調達後の成長戦略を実行するための組織体制・業務BPR・ツール活用のポイント
- 実際の成功事例と調達額・用途・成果の関係
- 成長戦略実行のための具体的なチェックリストとフローチャート
シリーズBとは?投資ラウンドの全体像
シリーズBは、スタートアップの投資ラウンドにおいて、シードやシリーズAでの製品開発・市場検証を経た後に実施される追加出資ラウンドです。この段階では、製品の市場適合性が確認され、次のステップとして市場シェア拡大と運用効率化を目指す成長段階に入ります。
投資ラウンドの全体像を理解するため、各段階の特徴を見ていきましょう。
シード段階では、アイデアの検証と初期プロダクトの開発が中心です。創業者とその周辺の少数メンバーで、製品コンセプトを形にする段階と言えます。
シリーズA段階では、製品開発と市場適合性の検証が中心となります。初期顧客を獲得し、ビジネスモデルが機能することを証明する段階です。
シリーズB段階では、市場シェア拡大と運用効率化が目的となります。調達額もシリーズAより大きくなり、組織拡大や新規事業創出に投資する段階です。確立されたビジネスモデルをスケールさせ、より多くの顧客にサービスを届けることが求められます。
シリーズC以降では、さらなる市場拡大やM&A、グローバル展開などが視野に入ります。
シリーズBで求められる要件は、シリーズAとは大きく異なります。エクイティ(株式発行による資金調達方法)による調達が中心となる点は共通ですが、投資家が重視する指標が変わってきます。
具体的には、トラクション(企業の成長指標。月次成長率、顧客獲得コスト、生涯価値などで投資家が評価)が明確に示されていることが重要です。特にSaaS企業では、ARR(Annual Recurring Revenue)(年間経常収益。SaaS企業の成長指標として重視され、シリーズBでは20-50%/月の成長率が求められる)の成長率が評価の中心となります。
また、市場シェア拡大計画の具体性も求められます。どの市場セグメントにどのように進出し、どれだけのシェアを獲得するのか、そのための戦略と実行体制が整っているかが問われる段階です。
シリーズB資金調達の方法と成功ポイント
シリーズB資金調達を成功させるには、市場規模の裏付けあるトラクションと具体的なスケールアップ計画の提示が鍵となります。VCが重視する評価ポイントを理解し、それに応える事業計画書を作成することが重要です。
2024年の1社あたり資金調達平均額は3.1億円、中央値は7,760万円となっており、シリーズBはこれを上回る傾向があります。2025年上半期のスタートアップ資金調達総額は3,399億円で、1社あたり平均調達額中央値は6,790万円と前年比で下落していますが、これは小型案件が増加したためで、シリーズBクラスの大型調達は引き続き活発に行われています。
資金調達から成長実行までの全体像を把握するため、以下のフローチャートを参考にしてください。
【フロー図】資金調達から成長実行までのプロセス
flowchart TD
A[事業計画書作成] --> B[VC選定]
B --> C[ピッチ実施]
C --> D[デューデリジェンス]
D --> E[資金調達完了]
E --> F[組織拡大計画の策定]
F --> G[採用戦略の実行]
G --> H[業務BPRの実施]
H --> I[MA/SFAツールの導入]
I --> J[成長戦略実行]
J --> K[KPI定期レビュー]
K --> L[投資家への定期報告]
VCが重視する評価ポイントは以下の通りです。
トラクションは最も重要な指標です。月次成長率が安定して伸びているか、顧客獲得コストが適切な範囲に収まっているか、顧客生涯価値が獲得コストを大きく上回っているかが評価されます。
ARR成長率も重視されます。特にSaaS企業では、20-50%/月の成長率が一つの目安となることが多いですが、業種や市場環境によって異なるため、自社での検証が重要です。
市場規模の分析も欠かせません。参入市場がどれだけの規模を持ち、今後どの程度成長する見込みがあるのか、具体的なデータに基づいた説明が求められます。
競合優位性の明確化も重要です。競合他社と比較して、自社がどのような優位性を持っているのか、それが持続可能なものかを示す必要があります。
経営チームの実行力も評価対象です。これまでの実績や業界での経験、チームの強みを具体的に示すことが求められます。
事業計画書の作成では、以下のポイントを押さえましょう。
市場分析では、参入市場の規模・成長率・トレンドを具体的なデータとともに示します。自社のターゲット顧客がどのセグメントに属し、どれだけの潜在顧客が存在するかを明確にすることが重要です。
成長戦略では、調達資金をどのように活用して市場シェアを拡大するのか、具体的な施策とタイムラインを示します。組織拡大計画、マーケティング戦略、プロダクト開発計画などを包括的に提示することが求められます。
財務計画では、今後の売上予測、コスト構造、損益分岐点までの道筋を示します。調達資金がどの程度の期間で成果を生み出し、次のマイルストーンに到達できるかを明確にすることが重要です。
KPI設定では、成長を測定するための具体的な指標を定義します。売上成長率、顧客獲得数、ARR、チャーンレートなど、ビジネスモデルに応じた適切なKPIを設定し、定期的なモニタリング体制を示すことが求められます。
シリーズB成功事例:調達額・用途・成果
シリーズBの具体的なイメージを掴むため、実際の成功事例を見ていきましょう。調達額、資金の用途、そして得られた成果を確認することで、自社の戦略立案に役立てることができます。
以下の表は、主要な成功事例をまとめたものです。
| 企業名 | 調達額 | 主な用途 | 成果 |
|---|---|---|---|
| cynaps | 3億円 | 製品開発・実証実験 | 電力消費量最大50%削減(アパホテル・東京都大田区での実証実験)、累計調達額5.9億円到達 |
| EFポリマー | 26.3億円 | グローバル展開・製品販売拡大 | 6地域で製品販売、20カ国以上で概念実証実施中、新規・既存投資家14社が参加 |
| DIGGLE | 17.5億円 | 採用拡大・新規事業創出・カスタマーサクセス強化 | 採用を104名から160名に拡大(約1.5倍) |
| ウタイテ | 77億円 | M&A加速・グローバル展開 | テンセント・SBVAなど海外投資家を活用したM&A戦略の成功 |
cynaps社はシリーズBで3億円を調達し、累計調達額は約5.9億円に到達しました。同社のBA CLOUDはアパホテルや東京都大田区での実証実験で電力消費量を最大50%削減する成果を示し、製品の有効性を証明しています。
EFポリマー社はシリーズBで総額26億3,000万円を調達し、新規・既存投資家14社が参加する大型調達となりました。現在6地域で製品を販売し、20カ国以上で概念実証を実施中と、グローバル展開を着実に進めています。
DIGGLE社はシリーズBで17.5億円を調達し(2025年6月)、採用を104名から160名に拡大しました。用途は新規事業創出とカスタマーサクセス強化で、組織規模を約1.5倍に拡大することで成長基盤を強化しています。
ウタイテ社はシリーズBで77億円を調達(2025年5月)し、テンセント、SBVAなど海外投資家を活用したM&A加速戦略を成功させました。大型調達とグローバル投資家の参画により、M&Aを通じた急速な事業拡大を実現しています。
これらの事例から学べるポイントは以下の通りです。
海外投資家の活用は、グローバル展開やM&A戦略を進める上で有効です。ウタイテ社やEFポリマー社のように、海外投資家のネットワークや知見を活用することで、国内だけでは難しい大型調達や海外展開が可能になるケースがあります。
M&A戦略は、急速な事業拡大の手段として注目されています。オーガニックな成長に加えて、M&Aを通じて技術やマーケットシェアを獲得する戦略が、シリーズB調達の目的として増加中です。
採用拡大は、多くの企業が調達資金の主要な用途としています。DIGGLE社の事例では、調達後1年で約1.5倍の人員増を実現しており、これが一つの相場感となっています。ただし、企業規模や業界により異なるため、自社での検証が重要です。
カスタマーサクセス強化も重要な投資先です。既存顧客の満足度を高め、チャーンレートを下げることは、持続的な成長に不可欠な要素となっています。
なお、これらの個別企業の成功事例は業種・企業規模により再現性が異なるため、自社状況との比較が必要です。調達額や成長率をそのまま自社の目標とするのではなく、市場環境や自社の強みを踏まえた計画を立てることが重要です。
シリーズB後の成長戦略実行:組織・BPR・ツール活用
シリーズB後の成長を実現するには、資金調達で満足するのではなく、調達後の実行体制を整えることが不可欠です。資金調達に成功しても、その後の実行体制が不十分で成長が鈍化するケースは少なくありません。資金を得ただけで満足し、組織拡大に伴う業務プロセス整備・ツール活用・人材採用を怠る状態は、シリーズB後の典型的な失敗パターンです。
この失敗パターンを避けるため、以下のチェックリストを活用して成長戦略の実行準備を確認しましょう。
【チェックリスト】シリーズB後の成長戦略実行チェックリスト
- 組織拡大計画の策定(調達後1年での目標人員数・組織構成を明確化)
- 採用戦略の実行(職種別の採用計画・選考プロセスの整備)
- オンボーディングプロセスの構築(新入社員の早期立ち上がりを支援)
- 業務BPRの実施(現行プロセスの可視化・ボトルネックの特定)
- 業務プロセスの標準化(属人化している業務の文書化・マニュアル化)
- 業務の自動化検討(反復作業の自動化・効率化ツールの導入)
- MA/SFAツールの選定(自社の営業プロセスに合ったツールの評価)
- MA/SFAツールの導入・設定(カスタマイズ・データ移行の実施)
- MA/SFAツールの運用ルール整備(入力項目・更新頻度の定義)
- リード獲得・育成プロセスの自動化(マーケティングオートメーションの活用)
- 営業プロセスの可視化(商談ステージ・進捗状況のダッシュボード化)
- カスタマーサクセス体制の強化(専任チームの設置・KPI設定)
- 既存顧客のエンゲージメント向上施策(定期的なフォローアップ・活用支援)
- チャーンレート低減施策(解約理由の分析・改善アクションの実施)
- 新規事業創出のプロセス整備(アイデア収集・検証・予算配分の仕組み化)
- KPI設定(売上成長率・ARR・顧客獲得数など主要指標の定義)
- KPI定期レビューの仕組み化(週次・月次でのモニタリング体制構築)
- 投資家への定期報告体制(四半期ごとの報告資料・ミーティング設定)
- 財務管理体制の強化(予算実績管理・キャッシュフロー予測の精度向上)
- リスク管理体制の構築(事業リスクの洗い出し・対策の策定)
組織拡大のポイントとして、DIGGLE社の事例では採用を104名から160名に拡大し、用途は新規事業創出とカスタマーサクセス強化でした。調達後1年で1.5倍人員増が相場感となることが多いですが、企業規模や業界により異なるため、自社での検証が重要です。
業務BPRのポイントは、業務プロセスの標準化、自動化、効率化です。組織が拡大すると、これまで暗黙知として共有されていた業務のやり方が通用しなくなります。プロセスを可視化し、文書化することで、新しいメンバーでも同じ品質で業務を遂行できる体制を整えることが重要です。
MA/SFAツール活用のポイントは、リード獲得・育成の自動化と営業プロセスの可視化です。マーケティングオートメーション(MA)ツールを活用することで、リードの獲得から育成までを効率化できます。また、SFA(Sales Force Automation)ツールによって営業プロセスを可視化することで、商談の進捗状況や成功パターンを把握しやすくなります。
調達資金の用途は採用拡大、新規事業創出、カスタマーサクセス強化が主流です。これらの投資を成果につなげるには、ツールの導入だけでなく、運用ルールの整備やKPIの設定が欠かせません。
まとめ:シリーズB成功は調達後の実行で決まる
シリーズB成功は資金調達で終わらず、調達後の成長戦略を実行する組織体制と業務BPRを整備することで初めて実現します。
記事の要点まとめ
- シリーズBは市場シェア拡大と運用効率化を目的とする成長段階で、シードやシリーズAを経た後の追加出資ラウンドである
- 資金調達ではトラクション、ARR成長率、市場規模、競合優位性、経営チームが評価され、具体的なスケールアップ計画の提示が成功の鍵となる
- 成功事例では3億円から77億円まで幅広い調達額があり、海外投資家活用、M&A戦略、採用拡大、カスタマーサクセス強化が主要な用途となっている
- 調達後の実行では組織拡大計画、業務BPR、MA/SFAツール活用、カスタマーサクセス強化、KPI設定と定期レビューが重要である
- 資金調達に成功しても実行体制が不十分だと成長が鈍化するため、調達後の実行こそが成功の分かれ目となる
次のアクション
- 本記事で紹介したフローチャートで資金調達から成長実行までの全体像を把握する
- チェックリストを使って自社の実行準備状況を確認し、不足している項目を洗い出す
- 優先度の高い項目から段階的に実装を開始し、定期的にレビューしながら改善を続ける
シリーズBでの資金調達は、企業の成長にとって重要なマイルストーンです。しかし、調達そのものがゴールではなく、調達後にどのように成長戦略を実行するかが真の成功を左右します。本記事で紹介した事例やチェックリストを参考に、自社に合った実行計画を立て、持続的な成長を実現してください。
