SaaSマーケティング人材の採用・育成が難しい理由
実は、SaaSマーケティング人材の成功は、マーケティング理論だけでなく、MA/SFA実装スキルと現場の業務BPRまで含む実践力を持つ人材を育成することで実現します。
SaaS企業のマーケティング責任者や人事責任者の多くが、マーケティング人材の確保と育成に苦労しています。背景には、IT人材全体の深刻な不足があります。経済産業省の委託調査によれば、日本全体のIT人材不足は2025年に約43万人、2030年には約79万人の不足に達する見込みです。
この人材不足は、成長を続けるSaaS市場においてさらに深刻です。矢野経済研究所の調査では、SaaS市場全体のCAGR(年平均成長率)は11.6%で、2029年度に3.4兆円規模に達すると予測されています。市場が急成長する一方で、それを支える人材が不足しているというギャップが広がっています。
特に深刻なのは、DX人材の不足です。DX人材とは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するために必要なデジタル技術・データ活用スキルを持つ人材を指します。ZDNetの調査では、DX推進における人材不足が48%を占めるという結果が出ています。
この記事で分かること
- SaaSマーケティングに必要な3層のスキルセット(理論・実装・業務BPR)
- 育成プログラムの失敗パターンと成功のポイント
- 未経験者を戦力化するオンボーディングプログラム設計
- 職種別のスキルマップと育成パスの具体例
- MA/SFA活用不全を解消する実践型人材の育成方法
SaaSマーケティングの特性と人材に求められるスキル
SaaSマーケティングでは、従来の広告・プロモーション人材とは異なるスキルセットが求められます。
SaaSマーケティングとは、Software as a Serviceのマーケティング活動を指し、サブスクリプションモデル特有のリード獲得・育成・継続率向上を重視します。単発の製品販売とは異なり、顧客のライフタイムバリュー(LTV)を最大化し、チャーンレート(解約率)を最小化することが求められます。
この特性から、SaaSマーケティング人材に求められるスキルは3層に整理できます。
第1層はマーケティング理論です。ペルソナ設計、カスタマージャーニー、コンテンツマーケティング、リードナーチャリングなど、マーケティングの基礎知識が土台となります。
第2層はMA/SFA実装スキルです。ツールを操作できるだけでなく、スコアリング設計、リード育成フロー設計、CRM連携など、ツールを「設定・設計できる」実装スキルが必要です。
第3層は業務BPRスキルです。マーケティング部門と営業部門の連携を設計し、業務プロセス全体を最適化できる力が求められます。このスキルがあることで、ツール導入が形骸化せず、実際の成果に繋がります。
サブスクリプションモデル特有のマーケティング課題
SaaSビジネスでは、サブスクリプションモデル特有のマーケティング課題に直面します。
矢野経済研究所の調査によれば、SaaS市場は年平均成長率11.6%で成長しており、2029年度には3.4兆円規模に達する見込みです。市場の成長に伴い、競争も激化しています。
具体的な課題としては、以下が挙げられます。
- リード獲得コストの最適化: 広告費やコンテンツ制作費を抑えつつ、質の高いリードを獲得する必要がある
- 育成期間の長期化: BtoBのSaaS商材では、リード獲得から商談化まで3ヶ月〜1年以上かかるケースがある
- 継続率の向上: サブスクリプションモデルでは、新規獲得だけでなく既存顧客の維持(チャーンレート低減)が収益に直結する
これらの課題に対応するには、マーケティング理論だけでなく、データ分析や自動化ツールを活用した実務スキルが不可欠です。
MA/SFA実装スキルの重要性
ツールを「使える」だけでは不十分で、「設定・設計できる」実装スキルが重要です。
SmartHRの調査によれば、「2025年の崖」を乗り越えた企業は7%のみで、未乗り越えの主要因は「DX人材不足」でした。大企業(2001名以上)では、SaaS・ITツール37%、AI活用40%を重視していますが、それを実装できる人材が不足している状況です。
MA/SFAツールを導入しても、以下のような理由で活用不全に陥るケースが多く見られます。
- スコアリング設定が適切でなく、ホットリードの抽出ができない
- リード育成フローが営業プロセスと連携しておらず、商談化率が低い
- データ入力の徹底ができず、分析や施策改善に活かせない
これらの問題は、ツール操作を学ぶだけでは解決しません。ツールの設定・設計ができ、営業部門との連携フローまで構築できる実装スキルを持つ人材が必要です。
SaaSマーケティング人材育成でよくある失敗パターン
マーケティング理論やツールの使い方を学ぶだけで、MA/SFA導入後の運用体制構築や業務BPRまで関与できないと、ツールが形骸化し、成果に繋がりません。育成プログラムが座学中心で、実際の業務プロセス改善や部門間連携の経験を積めないと、現場で活躍できる人材は育ちません。
2025年の調査では、SaaS企業のマーケティング職で「育成や教育体制が整っている」と回答した企業は58.1%に達しています(インサイドセールスは31.2%)。しかし、育成体制が「整っている」ことと、実際に成果が出る人材を育成できていることは別の問題です。
SmartHRの調査によれば、「2025年の崖」を乗り越えた企業は7%のみで、未乗り越えの主要因は「DX人材不足」でした。育成体制を整えても、育成の中身が適切でなければ、実践力のある人材は育ちません。
座学中心の育成プログラムの限界
理論学習だけでは、実務で活躍できる人材は育ちません。
マーケティング理論(4P、STP、カスタマージャーニーなど)やMA/SFAツールの操作研修を受けても、実際の業務で成果を出せない人材が多く見られます。理由は以下の通りです。
- 理論と実務のギャップ: 教科書的なマーケティング理論は、自社の商材特性や市場環境に合わせてカスタマイズする必要がある
- ツール操作と設計の違い: ツールの「使い方」を学んでも、「どう設定すれば成果が出るか」の設計スキルは身につかない
- 部門間連携の経験不足: マーケティングと営業の連携フロー構築や、業務プロセス改善の経験がないと、ツールを導入しても活用されない
育成プログラムには、理論学習だけでなく、実際の業務プロセス改善や部門間連携のプロジェクトに参画する機会を組み込む必要があります。
ツール活用不全に陥る構造的要因
MA/SFA導入後に活用不全に陥る主要因は、人材のスキル不足と業務BPRの未実施です。
SmartHRの調査では、「2025年の崖」を乗り越えた企業が7%のみで、未乗り越えの主要因が「DX人材不足」であることが明らかになっています。DX人材が不足していると、以下のような問題が発生します。
- ツール設定はできても、営業プロセスとの連携設計ができない: MAツールでリードスコアリングを設定しても、営業部門がどのスコア帯のリードをどのタイミングでフォローするかのプロセスが定義されていないと、ホットリードが放置される
- データ入力の徹底ができず、分析に活かせない: SFAツールに営業活動を記録するルールが定着せず、データの欠損や不整合が発生し、分析や施策改善に活かせない
- 業務BPRが実施されず、ツールが既存業務に上乗せされる: ツール導入前の業務プロセスを見直さずにツールを導入すると、既存の手作業に加えてツール入力が増え、現場の負担が増すだけになる
ツール活用を成功させるには、ツール設定スキルだけでなく、営業プロセス全体を見直し、業務BPRまで実施できる人材が必要です。
実践力を持つSaaSマーケティング人材の育成方法
未経験者を含む採用戦略と、オンボーディング・育成プログラムの設計が、実践力のある人材育成の鍵となります。
2025年のPRIZMA調査によれば、約9割(87.0%)のSaaS企業が業界未経験者の中途採用を強化しています(n=1,007)。経験者の採用が困難な中、未経験者を育成して戦力化する戦略が主流となっています。
また、2025年のSaaS企業における営業・マーケティング職の採用計画では、メンバー採用を積極的に予定している企業が43.9%、メンバー・リーダー・マネジャー層の双方を積極採用予定が34.4%となっており、各層で育成ニーズがあることが分かります。
SaaS企業のマーケティング職では、「育成や教育体制が整っている」と回答した企業が58.1%に達しています(2025年調査)。育成体制を整備し、未経験者を戦力化する取り組みが広がっています。
オンボーディングとは、新入社員や中途採用者が組織に適応し、早期に戦力化するための教育・サポートプログラムを指します。SaaSマーケティングでは、タレントマネジメント(人材の配置・育成・評価を最適化し、組織全体のパフォーマンスを向上させる人事戦略)の一環として、オンボーディングを体系的に設計することが重要です。
未経験者を戦力化するオンボーディングプログラム
未経験者を戦力化するには、段階的な育成プログラム設計が重要です。
約9割(87.0%)のSaaS企業が業界未経験者の中途採用を強化している事実から、オンボーディングの重要性が高まっています。
以下は、未経験者を戦力化する育成ステップの一例です。
(例)未経験者の育成ステップ(期間は企業により異なります)
フェーズ1: 基礎知識習得(1-2ヶ月目安)
- SaaSビジネスモデルとマーケティング理論の学習
- 自社の商材特性、ターゲット顧客、競合環境の理解
- MA/SFAツールの基本操作研修
フェーズ2: 実務OJT(2-4ヶ月目安)
- 先輩社員のサポートのもと、実際のマーケティング施策を担当
- リード獲得施策(コンテンツ作成、広告運用)の実施
- データ分析と施策改善のサイクルを経験
フェーズ3: 実装スキル習得(3-6ヶ月目安)
- MA/SFAツールの設定・設計業務に参画
- スコアリング設計、リード育成フロー設計の実務経験
- 営業部門との連携会議への参加
フェーズ4: 業務BPR参画(6ヶ月以降)
- マーケティング・営業プロセス改善プロジェクトへの参画
- 部門間連携フローの設計・運用
- 新規施策の企画・実装を主導
※ 実際の育成期間や到達レベルは、個人のスキルや企業の体制により大きく変動します
このように、理論学習→ツール操作→実装スキル→業務BPRという段階を経ることで、実践力のある人材を育成できます。
SaaSマーケティング人材育成チェックリスト
育成プログラムに必要な要素をチェックリスト形式で整理します。
【チェックリスト】SaaSマーケティング人材育成チェックリスト
理論学習カテゴリ
- SaaSビジネスモデル(サブスクリプション、LTV、チャーンレート)の理解
- マーケティング基礎理論(STP、4P、カスタマージャーニー)の習得
- リードジェネレーション・リードナーチャリングの理論学習
- デジタルマーケティング(SEO、コンテンツマーケティング、広告運用)の基礎知識
- 自社の商材特性、ターゲット顧客、競合環境の理解
ツール実装カテゴリ
- MA/SFAツールの基本操作スキルの習得
- スコアリング設計の実務経験(どの行動に何点を付けるか設計できる)
- リード育成フロー設計の実務経験(ステージ別のコンテンツ配信設計)
- CRM/SFA連携設定の理解(データ同期、項目マッピング)
- レポート・ダッシュボード作成スキル(KPI可視化)
- A/Bテスト設計と効果測定の実務経験
業務BPRカテゴリ
- マーケティング・営業プロセスの可視化と課題抽出
- 営業部門とのMQL/SQL基準合意プロセスへの参画
- リードフォローフローの設計(どのスコア帯をいつ誰がフォローするか)
- 業務プロセス改善プロジェクトの企画・実施経験
- データ入力ルールの策定と定着化施策の実施
部門連携カテゴリ
- 営業部門との定例会議での情報共有・課題解決
- 他部門(製品、カスタマーサクセス等)との連携経験
- 部門間の目標設定・KPI設計への参画
- ステークホルダーマネジメント(社内調整・合意形成)のスキル習得
このチェックリストを活用し、育成プログラムで各要素をカバーできているか確認することで、実践力のある人材を体系的に育成できます。
MA/SFA実装スキルを持つ実践型人材の育成パス
職種別のスキルマップと育成パスを設計することで、体系的な人材育成が可能になります。
SaaS企業のマーケティング職では、「育成や教育体制が整っている」と回答した企業が58.1%に達しています(2025年調査)。これらの企業では、職種別に求められるスキルを明確にし、育成パスを設計している事例が多く見られます。
体系的な育成パスを設計することで、各職種で「基礎→応用→実装→BPR」のステップを明示し、どのスキルをいつまでに習得すべきかが明確になります。
職種別に求められるスキルセット
SaaSマーケティング組織では、職種ごとに求められるスキルセットが異なります。
マーケター(デジタルマーケティング担当)
- コンテンツマーケティング(SEO記事、ホワイトペーパー作成)
- 広告運用(Google広告、SNS広告のプランニング・運用)
- MAツール設定(スコアリング、リード育成フロー設計)
- データ分析(Google Analytics、MAツールのレポート分析)
インサイドセールス
- リードフォロースキル(電話・メールでのアプローチ)
- SFAツール活用(商談管理、活動記録の徹底)
- ヒアリングスキル(顧客課題の引き出し、ニーズ把握)
- 営業プロセス設計(リードからアポ、商談化までのフロー最適化)
データアナリスト(マーケティングオペレーション)
- データ分析・可視化(SQL、BIツール活用)
- MA/SFA連携設定(API連携、データ同期設計)
- スコアリングモデル設計(統計的手法を用いた精度向上)
- 施策効果測定(アトリビューション分析、ROI算出)
共通スキル(全職種必須)
- 業務BPRスキル(プロセス可視化、課題抽出、改善提案)
- 部門連携スキル(営業部門との合意形成、ステークホルダーマネジメント)
- プロジェクトマネジメント(施策の企画・実施・振り返り)
職種固有スキルと共通スキルを区別し、育成プログラムで両方をカバーすることが重要です。
職種別スキルマップと育成パス
以下は、職種別のスキルマップと育成パスをCSV形式で整理した例です。
【比較表】職種別スキルマップと育成パス
職種,スキルカテゴリ,習得時期目安,習得方法,到達基準
マーケター,マーケティング基礎理論,入社1-2ヶ月,座学・eラーニング,STP/4P/カスタマージャーニーを説明できる
マーケター,コンテンツマーケティング,入社2-4ヶ月,OJT・記事作成実務,SEO記事を月5本以上作成できる
マーケター,MAツール基本操作,入社2-3ヶ月,ツール研修・操作実習,キャンペーン設定・メール配信ができる
マーケター,スコアリング設計,入社4-6ヶ月,プロジェクト参画,行動スコア・属性スコアを設計できる
マーケター,業務BPR,入社6-12ヶ月,改善PJ参画,マーケ・営業プロセスの課題を抽出し改善提案できる
インサイドセールス,営業基礎スキル,入社1-2ヶ月,ロープレ・OJT,電話・メールでリードにアプローチできる
インサイドセールス,SFAツール活用,入社1-2ヶ月,ツール研修・実務,商談管理・活動記録を正確に入力できる
インサイドセールス,ヒアリングスキル,入社2-4ヶ月,ロープレ・商談同席,顧客課題を引き出し、ニーズを把握できる
インサイドセールス,営業プロセス設計,入社6-12ヶ月,プロセス改善PJ参画,リードからアポ・商談化フローを最適化できる
データアナリスト,データ分析基礎,入社1-2ヶ月,座学・SQL学習,SQLでデータ抽出・集計ができる
データアナリスト,BIツール活用,入社2-4ヶ月,ツール研修・実務,ダッシュボードを作成し、KPIを可視化できる
データアナリスト,MA/SFA連携設定,入社4-6ヶ月,連携PJ参画,API連携設定・データ同期設計ができる
データアナリスト,スコアリングモデル設計,入社6-12ヶ月,分析PJ参画,統計的手法でスコアリング精度を向上できる
このスキルマップを参考に、各職種の育成パスを設計し、個人ごとの進捗を管理することで、計画的な人材育成が可能になります。
まとめ|SaaSマーケティング人材育成は実装スキルと業務BPRまで含めた設計で実現する
SaaSマーケティング人材の成功は、マーケティング理論だけでなく、MA/SFA実装スキルと現場の業務BPRまで含む実践力を持つ人材を育成することで実現します。
本文で示した通り、座学中心の育成プログラムでは、理論やツール操作を学んでも、実務で成果を出せる人材は育ちません。実際の業務プロセス改善や部門間連携の経験を積むことで、初めて現場で活躍できる実践力が身につきます。
育成プログラム設計のポイントを以下に整理します。
未経験者を含む採用戦略
- 約9割のSaaS企業が未経験者採用を強化しており、育成前提の採用が主流
- 育成体制を整備し、オンボーディングプログラムを体系化することで、未経験者を戦力化できる
段階的な育成ステップ
- 理論学習→ツール操作→実装スキル→業務BPRという段階を経る
- 各段階でOJTやプロジェクト参画の機会を設け、実務経験を積ませる
職種別スキルマップと育成パス
- 職種ごとに求められるスキルを明確にし、習得時期目安・習得方法・到達基準を設定
- 共通スキル(業務BPR、部門連携)と職種固有スキルの両方をカバーする
MA/SFA活用不全の解消
- ツール設定スキルだけでなく、営業プロセス全体を見直し、業務BPRまで実施できる人材を育成
- 営業部門とのMQL/SQL基準合意、リードフォローフロー設計など、部門間連携の実務経験を積ませる
本記事で紹介したSaaSマーケティング人材育成チェックリストと職種別スキルマップを活用し、自社の育成プログラム設計を開始してください。実装スキルと業務BPRまで担える実践型人材を育成することで、MA/SFA活用不全を解消し、マーケティング成果の最大化を実現できます。
