マーケティングの貢献度測定がいま求められている理由
マーケティングの貢献度とは何か。マーケティングの貢献度を正しく可視化するには、ROI計算式を理解するだけでなく、MA/SFAでのデータ連携とマーケ・営業間での貢献度定義の合意形成を行い、継続的に運用できる仕組みを構築することが重要です。
近年、マーケティング活動の投資対効果を数値で示すことへの要求が高まっています。海外の調査によると、マーケティングリーダーの83%がROIを最優先事項として測定を検討しており、5年前の68%から大幅に増加しています(日本企業に直接適用する場合は注意が必要です)。経営環境の変化や予算の最適化が求められる中で、「マーケティングは何に貢献しているのか」を説明する必要性が増しているのです。
この記事で分かること
- マーケティングROI・ROAS・貢献金額の違いと使い分け
- 貢献度測定がうまくいかない典型的な失敗パターン
- MA/SFAを活用した貢献度測定の具体的な実装方法
- マーケティング貢献度測定の実装チェックリスト
一方で、マーケティング担当者のうちROIを正確に測定できると回答したのは36%にとどまります。計算式を知っていることと、実際に継続的に測定・活用できることには大きな隔たりがあるのが実態です。本記事では、計算式の理解にとどまらず「自社で運用できる」状態を目指すための実践的なポイントを解説します。
マーケティング貢献度を測る主要指標の基礎知識
マーケティングROIとは、マーケティング施策から得られた利益を投資額で割って算出する投資対効果指標です。まず、貢献度を測定するうえで押さえておくべき主要な指標の違いを整理しておきましょう。
ROIとROASの違い|利益ベースと売上ベース
マーケティングROIとROAS(Return on Advertising Spend) は、どちらも投資効率を測る指標ですが、計算の基準が異なります。
- ROI:(マーケティング施策から得られた利益 − 投資額)÷ 投資額 × 100
- ROAS:広告経由売上 ÷ 広告費 × 100
ROIは利益ベース、ROASは売上ベースの指標です。ROASの目安は一般的に300〜400%が良い水準とされ、投資した広告費の3〜4倍の売上を目標とする企業が多いとされています。ただし、これはあくまで参考値であり、自社の粗利率や商材特性によって適切な水準は異なります。
注意すべき点として、ROASが高くても粗利率が低ければROIはマイナスになることがあります。 例えば、ROAS 400%(広告費100万円で売上400万円)でも、粗利率が20%であれば粗利は80万円となり、広告費100万円を下回ります。ROASだけで判断せず、ROIと併せて評価することが望ましいです。
粗利ベースROIとLTVの活用
粗利ベースROIは、売上から売上原価を引いた粗利を基準にROIを計算する方式です。製造業やSaaS企業で多く用いられています。
また、BtoB SaaS企業ではLTV(顧客生涯価値) の視点が重要です。LTVとは、1顧客が取引期間全体でもたらす累計利益を指します。サブスクリプション型のビジネスモデルでは、初期の獲得コストが高く短期的なROIが低くても、LTVで十分に回収できるケースがあります。自社のビジネスモデルに応じて、適切な指標を選択することが大切です。
マーケティング貢献度の測定がうまくいかない原因
マーケティングROIの計算式を知っていても、多くの企業で継続的な測定・活用ができていないのが実態です。調査によると、マーケティング担当者の47%が複数チャネルにわたるROI測定に苦慮しており、しっかりしたシステムを持っているのは28%にとどまります。
よくある失敗パターンとして、計算式を知っていてもMA/SFAでのデータ連携やマーケ・営業間でのアトリビューション合意がないため、一度計算しても継続的な運用ができず、結局「マーケの貢献度がわからない」状態に戻ってしまうというケースがあります。このパターンに陥らないためには、計算式の理解だけでなく、データ連携の仕組みと社内合意の両方が必要です。
【比較表】マーケティング貢献度指標比較表(ROI/ROAS/貢献金額)
| 指標 | 計算式 | ベース | 主な用途 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| マーケティングROI | (利益 − 投資額)÷ 投資額 × 100 | 利益 | 全体の投資対効果評価 | 利益の定義を社内で統一する必要あり |
| ROAS | 広告経由売上 ÷ 広告費 × 100 | 売上 | 広告施策の効率評価 | 粗利率が低いとROIがマイナスになることも |
| 粗利ベースROI | (粗利 − 投資額)÷ 投資額 × 100 | 粗利 | 製造業・SaaS企業での評価 | 売上原価の計算精度が重要 |
| 貢献金額 | マーケ経由商談の売上合計 | 売上 | 営業への貢献度説明 | アトリビューションルールの合意が必要 |
| LTV連動ROI | LTV × 獲得顧客数 ÷ 投資額 | 累計利益 | サブスク型ビジネスの評価 | 解約率の見込み精度に依存 |
複数チャネルのアトリビューション課題
アトリビューションとは、複数のマーケティングチャネルが売上にどう貢献したかを把握・配分する分析手法です。
BtoB企業の購買プロセスでは、Web広告で認知→ホワイトペーパーで興味喚起→セミナーで検討→営業が商談化、といった複数のタッチポイントを経ることが一般的です。このとき、どのタッチポイントに売上貢献を帰属させるかが問題になります。
代表的なアトリビューションモデルには以下があります:
- ファーストタッチ:最初の接点に100%の貢献を帰属
- ラストタッチ:最後の接点(商談化直前)に100%の貢献を帰属
- 線形配分:すべてのタッチポイントに均等に配分
- 時間減衰:商談に近いタッチポイントほど重み付けを高くする
どのモデルが「正解」というわけではなく、自社のビジネスモデルや測定目的に応じて選択することが重要です。
マーケ・営業間での定義の不一致
貢献度測定が継続しない大きな原因の一つが、マーケティング部門と営業部門の間で「貢献」の定義が合意されていないことです。
例えば、マーケティング部門が「リードを獲得した」と主張しても、営業部門からは「そのリードは質が低く商談化しなかった」と認識されるケースがあります。逆に、営業が自力で獲得したと考えている商談が、実はマーケティング施策で接点を持っていた顧客だったというケースもあります。
このような認識のズレを放置すると、貢献度の数値を出しても「その数字は信用できない」と言われてしまい、測定の意味がなくなります。測定を始める前に、どのタッチポイントを誰の貢献とするかのルールを関係者間で合意することが不可欠です。
MA/SFAを活用した貢献度測定の実装方法
貢献度を継続的に測定するには、MA(マーケティングオートメーション)やSFA(営業支援システム)でのデータ連携が有効です。調査によると、2025年までに約30%の企業がAI主導の分析ツールを使用して複数チャネルのROI測定を改善する予定とされています。
以下では、特定のツールに依存しない汎用的な実装ポイントを解説します。
リード情報とタッチポイントの紐付け設計
貢献度を測定するためには、リード(見込み顧客)情報と各タッチポイントの履歴を紐付けて記録する必要があります。具体的には以下のようなデータ項目を設計します:
- リード発生源:最初にリードを獲得したチャネル(広告、オーガニック検索、セミナーなど)
- タッチポイント履歴:その後に接触した施策の一覧と日時
- 商談化タイミング:いつ、どのような経緯で商談に移行したか
- 受注金額:商談が成約した場合の売上金額
これらのデータを一元管理できる状態を作ることで、後から「どの施策が売上にどれだけ貢献したか」を分析できるようになります。
貢献度ルールの社内合意と運用設計
データ連携の仕組みを整えても、貢献度の「ルール」が曖昧では運用が定着しません。以下のような項目について、マーケティング部門と営業部門で事前に合意を取ることが重要です:
- アトリビューションモデル(ファーストタッチ、ラストタッチ、線形配分など)
- 貢献とみなすタッチポイントの範囲(例:商談化の90日前までの接触を対象とする)
- 貢献度レポートの作成頻度と報告先
- 数値の解釈に関する前提条件
完璧なルールを追求しすぎると運用が始まりません。まずは「不完全でも回せる」ルールを決め、運用しながら改善していく姿勢が現実的です。
マーケティング貢献度測定の実装チェックリスト
自社で貢献度測定を仕組み化するためのチェックリストを用意しました。調査によると、87%のマーケターがコンテンツマーケティングは需要やリードを生み出すと回答しており(2023年から11ポイント増加)、マーケティング活動への期待は高まっています。その期待に応えるためにも、貢献度を可視化する仕組みの構築が求められています。
【チェックリスト】マーケティング貢献度測定 実装チェックリスト
導入準備フェーズ
- マーケティングROIの計算式と定義を社内で統一した
- 利益の定義(粗利ベース・営業利益ベースなど)を決定した
- アトリビューションモデル(ファーストタッチ/ラストタッチ/線形配分など)を選定した
- マーケティング部門と営業部門で貢献度の定義について合意した
- 貢献とみなすタッチポイントの範囲(期間・チャネル)を定義した
- MA/SFAでリード発生源を記録するフィールドを設計した
- タッチポイント履歴を記録する仕組みを整備した
- MA/SFA間のデータ連携方法を決定した
- 商談・受注情報との紐付けルールを設計した
- 貢献度レポートのフォーマットを作成した
運用・改善フェーズ
- 貢献度レポートの作成頻度(月次・四半期など)を決定した
- レポートの報告先と承認フローを明確にした
- データ入力ルールを関係者に周知した
- 初回の貢献度レポートを作成・レビューした
- 経営層・営業部門への報告を実施した
- フィードバックをもとにルールや計算方法を改善した
- 定期的なレビュー会議を設定した
- 異常値や欠損データのチェック体制を整備した
導入準備フェーズのチェック項目
導入準備フェーズでは、測定の「土台」を整えることが目的です。特に重要なのは、指標の定義を社内で統一することと、マーケ・営業間で貢献度のルールについて合意を取ることです。ここが曖昧なまま測定を始めると、後から「この数字は意味がない」と言われてしまうリスクがあります。
運用・改善フェーズのチェック項目
測定を開始した後は、継続的に運用できる体制を整えることが重要です。レポートの作成頻度を決め、関係者への報告を定例化することで、貢献度測定が「一度きり」で終わることを防ぎます。また、運用しながらルールの不備や改善点が見つかることも多いため、定期的なレビューと改善のサイクルを回すことが大切です。
マーケティング貢献度の可視化で経営層・営業への説明力を高める
マーケティングの貢献度を数値で示せるようになると、経営層への予算説明や営業部門との連携がスムーズになります。海外調査ではマーケティングリーダーの83%がROIを最優先事項として測定を検討しており(5年前の68%から増加)、投資対効果の可視化は経営課題として認識されつつあります(日本企業に直接適用する場合は注意が必要です)。
まずは小さく始めることをおすすめします。完璧な測定を目指すのではなく、「利益の定義を社内で統一する」「主要なチャネルの貢献度だけでも可視化する」といったステップから着手し、徐々に精度を高めていくアプローチが現実的です。
マーケティングの貢献度を正しく可視化するには、ROI計算式を理解するだけでなく、MA/SFAでのデータ連携とマーケ・営業間での貢献度定義の合意形成を行い、継続的に運用できる仕組みを構築することが重要です。本記事で紹介したチェックリストを参考に、自社に合った貢献度測定の仕組みづくりを進めてみてください。
