LTVとCACを理解する前に知っておくべきこと
先に答えを言うと、LTV/CACは計算式を知っているだけでは意味がなく、MA/SFAの設定を整えてマーケティング・セールスデータを連携させ、継続的にモニタリングできる仕組みを構築することで初めて投資判断に活用できます。
「LTV/CACの計算式は知っている」という企業は多いですが、実際に正しく計測できている企業は少数派です。BtoBセールス&マーケティングに関する実態調査 2025年度版によると、マーケ施策の投資対効果として「受注金額まで追っている」企業は30.2%にとどまります。つまり、7割近くの企業はLTV/CACを正確に計測できていない可能性があります。
一方で、コロナ前と比べて「マーケ投資に関するコスト意識が高くなった」と約85%が回答しており(2025年調査)、投資対効果指標の重要性は高まっています。
この記事で分かること
- LTV・CAC・ユニットエコノミクスの定義と計算式
- LTV/CAC比率の目安と正しい解釈方法
- LTV向上・CAC削減の具体的な改善方法
- MA/SFAでLTV/CACを計測・可視化する仕組みの作り方
- 自社の計測状況を診断するチェックリスト
LTV・CAC・ユニットエコノミクスの基本
LTV(Life Time Value・顧客生涯価値) とは、1社の顧客が取引開始から終了までにもたらす累計の利益です。CAC(Customer Acquisition Cost・顧客獲得コスト) は、新規1社を獲得するために要したマーケティング+営業コストの合計を獲得社数で割ったものを指します。そして ユニットエコノミクス は、1顧客あたりの採算性を測る指標で、LTV÷CACで算出します。
ユニットエコノミクスの目安として、LTV/CAC比率が3:1以上であれば事業は健全とされ、1.5〜3は成長可能な水準、1.5未満はCAC削減かLTV向上が必要とされています。ただし、これは業界慣行的な水準であり、公的統計による平均値ではない点に注意が必要です。
【計算式】LTV/CAC計算式まとめ
LTV(顧客生涯価値)の計算式:
計算式A: LTV = 月次粗利 × 平均継続月数
計算式B: LTV = 平均顧客単価 ÷ チャーンレート(月次解約率)
変数の説明:
- 月次粗利: 月額売上から変動費を差し引いた金額
- 平均継続月数: 顧客が継続して利用する平均期間
- 平均顧客単価: 1顧客あたりの月額売上
- チャーンレート: 月次の解約率(例: 2%なら0.02)
CAC(顧客獲得コスト)の計算式:
計算式: CAC = (マーケティングコスト + 営業コスト)÷ 新規獲得顧客数
変数の説明:
- マーケティングコスト: 広告費、コンテンツ制作費、ツール費用、マーケ人件費など
- 営業コスト: 営業人件費、出張費、展示会費用など
- 新規獲得顧客数: 計測期間中に獲得した新規顧客数
ユニットエコノミクスの計算式:
計算式: ユニットエコノミクス = LTV ÷ CAC
判定基準:
- 3以上: 健全な水準
- 1.5〜3: 成長可能な水準
- 1.5未満: 改善が必要
LTVの計算式と考え方
LTVを計算する際によくある誤りは、粗利ではなく売上を使ってしまうことです。売上でLTVを計算すると、実際の収益性を過大評価してしまいます。
(例)月額10万円のSaaSサービスで粗利率70%、平均継続24ヶ月の場合
- 売上ベース(誤り): 10万円 × 24ヶ月 = 240万円
- 粗利ベース(正しい): 10万円 × 70% × 24ヶ月 = 168万円 ※実際の収益性は粗利ベースで評価する必要があります
CACの種類と使い分け
CACには以下の種類があり、目的に応じて使い分けることが重要です。
Organic CAC は、広告などのコストをかけずに自然増で獲得した顧客に対するCACです。Paid CAC は、有料チャネル(広告等)経由で獲得した顧客に対するCACを指します。Blended CAC は、営業+マーケすべてのコストを含めた総合的なCACです。
CACを計算する際によくある誤りは、広告費だけで計算してしまうことです。BtoBでは営業人件費・出張費・展示会費用などが大きく、これらを含めないと実際の獲得コストを過小評価してしまいます。
LTV/CAC比率の目安と注意点
LTV/CAC比率の目安として、3:1以上が健全とされていますが、この数値だけを見て安心してしまうのは危険です。
CAC回収期間については、SaaS/BtoBでは6〜12ヶ月が一般的な目安とされています(グローバル統計に基づく目安であり、日本市場への適用には注意が必要です)。日本市場やエンタープライズBtoBでは18〜24ヶ月になるケースもあります。
よくある失敗パターンとして、LTV/CAC比率が3倍以上という目安だけを見て安心し、実際のデータ計測ができていないままマーケティング投資を続けてしまうケースがあります。これは誤りです。目安の数値を満たしているかどうかよりも、自社のLTV/CACを正しく計測できる体制が整っているかどうかが重要です。
LTV/CAC比率の目安は業界慣行的な水準であり、業種・ビジネスモデル・顧客セグメントによって最適な比率は異なります。自社の状況に合わせて判断することが必要です。
LTV向上・CAC削減の改善方法
LTVを向上させる主な方法として、解約率の低減、アップセル/クロスセルの推進、顧客単価の向上が挙げられます。CACを削減する方法としては、チャネル効率化、リファラル強化、コンテンツマーケティングの活用などがあります。
LTV向上の事例として、カゴメ株式会社は購入後のフォローコール・フォローDMを強化し、半年でLTVが28%増加したと報告されています。また、フォローを実施しなかった顧客と比べ、解約率に50%の差が生じたとのことです。
ただし、このカゴメの事例はBtoC(消費者向け)事業であり、BtoB事業への直接適用には注意が必要です。BtoBでは顧客数が少なく単価が高いため、個別対応の重要性がより高まる傾向があります。
MA/SFAでLTV/CACを計測する仕組みの作り方
LTV/CACを正しく計測するには、MA(マーケティングオートメーション)とSFA(営業支援システム)を連携させ、マーケ・セールス・CSの3部門のデータを統合する必要があります。
前述の調査で「受注金額まで追っている」企業が30.2%にとどまる現状を踏まえると、多くの企業ではこの計測体制が整っていません。また、マーケティング目標を達成するために「十分な予算がある」企業は18.8%という調査結果もあり(2025年調査)、限られた予算を有効活用するためにも計測・可視化の仕組み構築が重要です。
計測のポイントとして、チャネル別にCACを分解(Organic/Paid/Blended)して計測することで、効率の良い獲得チャネルを特定できます。また、案件化以降のプロセスを十分にトラッキングできていない企業が多いため、受注・継続・解約までの一連のデータを追える体制を整えることが必要です。
【チェックリスト】LTV/CAC計測・運用チェックリスト
- LTVの計算式を定義している(粗利ベースで計算)
- CACの計算式を定義している(人件費を含む全コストで計算)
- 計測に必要なデータがMA/SFAに入力されている
- マーケ→セールス→CS間でデータが連携されている
- チャネル別のCAC(Organic/Paid/Blended)を分解して計測できる
- 新規獲得顧客数を月次で把握できている
- 解約率(チャーンレート)を月次で計測している
- 平均継続月数のデータを蓄積している
- LTV/CAC比率を定期的(月次または四半期)に算出している
- CAC回収期間を計測している
- 計測結果をダッシュボード化して可視化している
- 計測結果に基づいて改善施策を検討する会議体がある
- LTV/CACの目標値を設定している
- 目標と実績の乖離を分析する体制がある
- 計測ルールが文書化されており、担当者間で共有されている
まとめ|LTV/CACは計算式より計測・運用体制が成功の鍵
LTV/CACは、SaaS・サブスクリプション事業の収益性を評価する上で欠かせない指標です。しかし、マーケ施策の投資対効果として「受注金額まで追っている」企業が30.2%にとどまる現状では、多くの企業がこの指標を正しく活用できていません。
本記事で解説したポイントをまとめます。
- LTV/CAC比率3:1以上という目安は業界慣行的な水準であり、自社の状況に合わせて判断が必要
- LTV計算には粗利を使い、CAC計算には人件費を含めた全コストを含める
- チャネル別にCACを分解して計測することで、効率の良いチャネルを特定できる
- 計測のためにはMA/SFA/CSのデータ連携が前提となる
LTV/CACは計算式を知っているだけでは意味がなく、MA/SFAの設定を整えてデータ連携させ、継続的にモニタリングできる仕組みを構築することで初めて投資判断に活用できます。本記事のチェックリストを活用し、自社の計測体制を確認してみてください。計測体制の構築に課題がある場合は、データ連携の設計から実装まで支援できる専門家への相談も有効な選択肢です。
