人事がマーケティングスキルを学んでも採用成果が出ない理由
採用マーケティングを自動化する体制を構築することを達成するために必要なのは、マーケティング視点を学ぶだけでなく、マーケ・IS部門と連携してMA/SFA実装まで関与し、採用マーケティングを自動化する体制を構築することで実現します。
2023年度の有効求人倍率は1.31倍で、特にIT・営業職では2倍超の需給ギャップが発生しています。このような採用難の環境下で、多くのHR Tech企業やSaaS企業の人事担当者がマーケティングスキルを学んでいます。実際、採用マーケティング人材の必要性を感じる企業は87.7%(強く感じる43.4%、やや感じる44.3%)に達しています。
しかし、専任配置は37.4%のみで兼任が主流であり、スキル習得だけでは採用成果が出ないという課題に直面しています。
よくある誤解は、人事がマーケティングスキルを学べば採用・組織力向上ができると考えることです。実際には、実際のMA/SFA実装や部門間連携(人事・マーケ・IS)を後回しにすると、結局採用活動の効率化・優秀な人材獲得に繋がらない失敗パターンに陥ります。
この記事で分かること
- 人事マーケティングとは何か、なぜ全職種でマーケティングスキルが必要なのか
- 人事に必要な具体的なマーケティングスキル(データ分析、ペルソナ設計、ブランディング)
- 採用マーケティングの具体的手法(リファラル採用、タレントプール、ダイレクトリクルーティング)
- 人事・マーケ・IS 3部門連携体制の構築方法とMA/SFA実装による自動化
- 成功企業の共通点と失敗を避けるためのチェックリスト・テンプレート
本記事では、HR Tech業界での実務経験に基づく、人事部門がマーケティング視点を持ちつつ、マーケ・ISと連携してMA/SFA実装まで関与する体制構築の具体的方法を提供します。
人事マーケティングとは|採用・組織力向上に必要なマーケティング視点
人事マーケティングとは、人事部門がマーケティング手法(ターゲット分析、ブランディング、コンテンツ配信等)を活用し、優秀な人材を獲得・定着させるアプローチです。企業幹部の約8割が「マーケティングスキルは全職種で必要」と回答し、54%が不足感を持っています。
これは、採用活動が単なる「求人広告の掲載」から「候補者との関係性構築プロセス」へと変化していることを示しています。従来の求人広告・人材紹介だけでは、IT・営業職で2倍超の需給ギャップがある市場では優秀な人材を獲得できません。
採用マーケティングとは、求人広告の最適化、SNS活用、候補者体験向上を通じて、労働市場での競争優位性を築く採用手法です。BtoB企業がリード獲得から商談化までのプロセスを設計するのと同様に、人事部門も「候補者との最初の接点から内定承諾までのプロセス」を設計・最適化する必要があります。
また、リファラル採用(既存社員からの紹介による採用手法。低コストでマッチング率が高い)、タレントプール(過去の応募者や接点があった候補者を継続的にアプローチし、将来の採用候補として育成する施策)、ダイレクトリクルーティング(ニーズ顕在層に企業側から直接アプローチする採用手法。応募転換率が高い)といった新たな採用手法が注目されています。
ジョブ型人事(職務を基準とした人事制度。政府が推奨する働き方改革の一環)との連動も進んでおり、スキルマッチングの精度向上が求められています。
人事に必要なマーケティングスキル|データ分析からペルソナ設計まで
人事に必要なマーケティングスキルは、データ分析、ペルソナ設計、ブランディング、コンテンツ配信、SMART目標設定等です。企業幹部の約8割がマーケティングスキルは全職種で必要と回答していますが、54%が不足感を持っているのが実情です。
【チェックリスト】人事マーケティングスキルチェックリスト
- データ分析スキル:応募率、内定辞退率、採用コスト等のKPIを追跡・分析できる
- 採用候補者データの収集と整理ができる(応募経路、属性、行動履歴等)
- データの可視化(グラフ、ダッシュボード)ができる
- ペルソナ設計スキル:ターゲット人材の職種・スキル・価値観を明確化できる
- 求職者のニーズ・課題を調査・分析できる
- ペルソナに基づいた求人票・コンテンツを作成できる
- ブランディングスキル:自社の魅力を言語化し、採用ブランドを構築できる
- 企業文化・価値観を明確に伝えるメッセージを作成できる
- 採用サイト・求人票のトーン&マナーを統一できる
- コンテンツ配信スキル:人事ブログ・SNS等で継続的に情報発信できる
- 候補者の関心を引くコンテンツを企画・制作できる
- 配信タイミング・チャネルを最適化できる
- SMART目標設定:具体的・測定可能・達成可能・関連性・期限付きの目標を設定できる
- 採用KPIを適切に設定し、進捗を追跡できる
- MA/SFAツールの基本操作ができる
- 採用候補者のリードスコアリング(優先順位付け)を理解している
- マーケ・IS部門と連携し、データ共有・施策調整ができる
- 部門間のKPI設定・モニタリングに参加できる
- 採用プロセスの改善提案ができる
データ分析スキル
採用候補者データを分析し、応募率、内定辞退率、採用コスト等のKPIを追跡する能力が必要です。採用成果を上げている企業では、データKPI活用が28.1%で共通しています。
具体的には、応募経路別の応募率、面接通過率、内定辞退率等を数値で把握し、どの採用チャネルが効果的かを判断します。例えば、求人広告A経由の応募者は内定辞退率が高い一方で、リファラル採用経由の応募者は定着率が高い、といったデータに基づいて採用戦略を最適化します。
ペルソナ設計スキル
ターゲット人材のペルソナ(職種・スキル・価値観等を明確化した理想の候補者像)を設計する能力が必要です。採用成果を上げている企業では、要件定義の明確化が55.5%で共通しています。
例えば、「30代前半、SaaS営業経験3年以上、チームマネジメントに興味がある、ワークライフバランスを重視する」といった具体的なペルソナを設定し、そのペルソナに響く求人票・採用コンテンツを作成します。ペルソナが明確でないと、求人票が曖昧になり、応募者のミスマッチが発生します。
ブランディング・コンテンツ配信スキル
自社メディア・SNSを活用して、採用ブランドを構築し、継続的に情報発信する能力が必要です。サイバーエージェントでは、採用マーケティングで自社メディア「人事ブログ」とSNSを活用し、応募者数前年比150%増、内定辞退率20%低減を達成しました(2023年)。
人事ブログやX(旧Twitter)、LinkedInなどで、社員インタビュー、オフィス紹介、イベントレポート等を継続的に発信することで、候補者との接点を増やし、企業文化や働く環境を伝えます。これにより、候補者体験が向上し、内定承諾率が高まると言われています。
採用マーケティングの具体的手法|リファラル採用からタレントプールまで
採用マーケティングの具体的手法として、リファラル採用(実施率58.4%)、タレントプール施策(31.5%、検討含め63.0%)、ダイレクトリクルーティング等があります。求人広告・人材紹介以外の新たな採用手法が必要と回答した企業は87.2%に達しており、複数手法を組み合わせることが成功のポイントです。
採用成果を上げている企業では、要件定義明確が55.5%、複数手法組み合わせが37.0%、データKPI活用が28.1%で共通しています。単一の手法に依存せず、リファラル採用でマッチング率の高い候補者を獲得しつつ、タレントプールで中長期的な候補者育成を行い、ダイレクトリクルーティングでニーズ顕在層にアプローチするといった複数手法の併用が効果的です。
リファラル採用の実践方法
リファラル採用とは、既存社員からの紹介による採用手法で、低コストでマッチング率が高いことが特徴です。リファラル採用の実施率は58.4%に達しています。
実践方法としては、社員紹介制度の設計(紹介者へのインセンティブ設定)、社員への説明会実施(どのような人材を求めているかを明確化)、紹介プロセスの簡素化(専用フォーム・ツールの導入)等が挙げられます。
成功のポイントは、社員が「この人を紹介したい」と思える企業文化・職場環境を構築することです。社員満足度が低い状態でリファラル採用を推進しても、紹介は集まりません。まずはエンゲージメント向上施策を並行して実施することが推奨されます。
タレントプール施策の実践方法
タレントプールとは、過去の応募者や接点があった候補者を継続的にアプローチし、将来の採用候補として育成する施策です。タレントプール施策の実施率は31.5%(検討含め63.0%)です。
実践方法としては、過去の応募者データの整理(CRMやMA/SFAツールへの登録)、定期的なメール配信(会社の最新情報、イベント案内等)、セミナー・交流会の開催(候補者との関係性構築)等が挙げられます。
重要なのは、「今すぐ採用につながらなくても、将来の候補者として関係性を維持する」という長期的視点です。求職者の転職タイミングは予測できないため、継続的な接点を持つことで、転職意欲が高まったタイミングで自社を想起してもらえる可能性が高まります。
ダイレクトリクルーティングの実践方法
ダイレクトリクルーティングとは、ニーズ顕在層に企業側から直接アプローチする採用手法で、応募転換率が高いことが特徴です。
実践方法としては、スカウトサービス(ビズリーチ、LinkedIn等)の活用、候補者へのパーソナライズドメッセージ送信、スキルマッチングの精度向上等が挙げられます。
リクルートでは、ジョブ型人事と連動したマーケティングでスキルマッチングツール導入後、採用サイクル30%短縮、定着率85%超を達成しました(2024年)。スキル要件を明確化し、そのスキルを持つ候補者に的確にアプローチすることで、マッチング率が向上すると言われています。
人事・マーケ・IS 3部門連携体制とMA/SFA実装による採用マーケティング自動化
人事がマーケティングスキルを学んでも、実際のMA/SFA実装や部門間連携(人事・マーケ・IS)を後回しにすると、採用活動の効率化・優秀な人材獲得に繋がりません。人事変革失敗の共通点として「プロフェッショナルリーダー不在」が指摘されています(Workday調査、n=517、2025年5-6月)。
人事部門がマーケティング視点を持つだけでなく、マーケティング部門やインサイドセールス部門と連携し、MA/SFAツールを活用して採用候補者のリードナーチャリング、スコアリング等を自動化することで、採用プロセスの効率化と優秀な人材の継続的獲得が実現できます。
【テンプレート】人事・マーケ・IS 3部門連携体制テンプレート
部門: 人事部門 主な役割:
- 採用要件定義(ペルソナ設計、スキル要件明確化)
- 候補者体験設計(面接プロセス、オンボーディング)
- 最終選考・オファー提示 連携フロー:
- マーケ部門から採用ブランディング支援を受ける
- IS部門と候補者リストを共有し、優先順位付けを依頼
- MA/SFAツールで候補者データを管理 MA/SFA実装設定項目:
- 候補者データのフィールド設定(応募経路、スキル、行動履歴等)
- ステータス管理(応募→書類選考→面接→オファー→承諾/辞退)
- リマインドメール自動配信設定
部門: マーケティング部門 主な役割:
- 採用ブランディング戦略立案
- コンテンツ制作(人事ブログ、SNS、採用サイト)
- 候補者獲得施策(広告運用、SEO、イベント企画) 連携フロー:
- 人事部門から採用要件・ペルソナを受け取る
- IS部門とコンテンツ・キャンペーンのKPIを共有
- MA/SFAツールで候補者の行動データを分析 MA/SFA実装設定項目:
- コンテンツトラッキング(どのページを閲覧したか)
- キャンペーン効果測定(広告経由の応募率等)
- リードスコアリングルール設定
部門: インサイドセールス部門 主な役割:
- 候補者リストの優先順位付け(リードスコアリング)
- 候補者への初回アプローチ(メール、電話)
- 候補者との関係性構築(ナーチャリング) 連携フロー:
- 人事部門から候補者リストを受け取る
- マーケ部門とコンテンツ・キャンペーン連携
- MA/SFAツールで候補者の行動データをリアルタイム追跡 MA/SFA実装設定項目:
- リードスコアリング自動化(行動・属性による点数付け)
- ナーチャリングシナリオ設定(メール配信、セミナー案内等)
- 候補者ステータス自動更新
連携会議:
- 週次: 3部門合同ミーティング(進捗共有、課題共有、施策調整)
- 月次: KPIレビュー(応募率、内定辞退率、採用コスト等)
- 四半期: 戦略見直し(ペルソナ更新、新施策検討)
データ共有の仕組み:
- MA/SFAツールで候補者データを一元管理
- ダッシュボードでリアルタイムKPI可視化
- 各部門がアクセス権限を持ち、データ更新・閲覧可能
差し込み変数:
- {{部門名}}: 各部門の名称
- {{役割}}: 各部門の主な役割
- {{連携フロー}}: 部門間連携の具体的な流れ
- {{MA/SFA設定項目}}: ツール実装で設定する項目
3部門連携体制の構築方法
人事・マーケ・IS 3部門の連携体制を構築するには、各部門の役割分担と連携フローを明確化する必要があります。
人事部門は、採用要件定義(ペルソナ設計、スキル要件明確化)と候補者体験設計(面接プロセス、オンボーディング)を担当します。マーケティング部門は、採用ブランディング戦略立案とコンテンツ制作(人事ブログ、SNS、採用サイト)を担当します。インサイドセールス部門は、候補者リストの優先順位付け(リードスコアリング)と候補者への初回アプローチを担当します。
定期的な連携会議(週次・月次・四半期)を設定し、進捗共有、課題共有、KPIレビューを行います。データ共有の仕組みとして、MA/SFAツールで候補者データを一元管理し、ダッシュボードでリアルタイムKPI可視化を実現します。
MA/SFA実装による採用候補者のリードナーチャリング
MA/SFAツールを活用して、採用候補者のリードナーチャリング、スコアリング等を自動化します。具体的には、リードスコアリング(候補者の行動・属性による優先順位付け)を実装し、メール配信、セミナー案内等を自動化します。
例えば、採用サイトを複数回訪問し、特定の職種ページを閲覧した候補者には高スコアを付与し、IS部門が優先的にアプローチします。一方、サイト訪問が1回のみの候補者には、まずメールでコンテンツを配信し、関心を高めてからアプローチします。
このような候補者の行動データに基づく自動化により、人事・マーケ・IS部門の作業効率が向上し、優秀な人材を逃さずに採用できる体制が構築できます。
まとめ|人事マーケティングはマーケ・IS連携とMA/SFA実装まで含めて成果が出る
HR Tech企業の人事が成果を出すには、マーケティング視点を学ぶだけでなく、マーケ・IS部門と連携してMA/SFA実装まで関与し、採用マーケティングを自動化する体制を構築することで実現します。
スキル習得だけで終わる失敗パターンを避けるために、本記事で紹介したチェックリストとテンプレートを活用し、以下の3ステップで実装を進めてください:
- マーケティングスキルの習得:データ分析、ペルソナ設計、ブランディング、コンテンツ配信、SMART目標設定等のスキルを身につける
- 3部門連携体制の構築:人事・マーケ・IS部門の役割分担と連携フローを明確化し、定期的な連携会議を設定する
- MA/SFA実装:候補者データを一元管理し、リードスコアリング、ナーチャリングシナリオを自動化する
採用マーケティング人材の必要性を感じる企業は87.7%に達していますが、専任配置は37.4%のみという現状を打破するには、人事がマーケティングスキルを習得するだけでなく、部門間連携とMA/SFA実装まで含めた体制構築が不可欠です。
自社の人事マーケティングを見直し、3部門連携体制とMA/SFA実装を検討してみてください。
