人材業界のマーケティングが難しい理由と市場環境
求人企業の獲得が属人的な営業頼みになっている状況を解決したいなら、人材業界のマーケティングは、求職者向け(BtoC)だけでなく求人企業向け(BtoB)の両面が必要であり、特にBtoB領域ではMA/SFAを活用したリードナーチャリングとマーケ・営業連携の仕組みを構築することで、属人的な営業から脱却し安定した求人企業獲得が可能になります。
人材ビジネス主要3業界(派遣・紹介・再就職支援)の市場規模は2024年度9兆7,962億円(前年度比+3.4%)、2025年度は10兆955億円(+3.1%)見込みとされています。2025年9月の有効求人倍率は1.20倍(季節調整値)と売り手市場が継続しており、帝国データバンク調査では2024年10月時点で51.7%の企業が正社員不足と回答しています。
このような環境下で、人材会社は求職者を集めるだけでなく、採用に悩む求人企業を効率的に獲得することが事業成長の鍵となります。
この記事で分かること
- 人材業界マーケティングのBtoB・BtoC両面の違いと基本構造
- 主要なマーケティング施策の比較と選び方
- 求職者集客だけに注力する失敗パターンとその問題点
- MA/SFAを活用した求人企業向けマーケティングの実装方法
- マーケティング部門と営業部門の連携ルール
人材業界マーケティングの基本構造|BtoBとBtoCの違い
人材業界のマーケティングは、求人企業向け(BtoB)と求職者向け(BtoC)の両面で異なるアプローチとKPI管理が必要です。この両面性を理解することが、効果的なマーケティング戦略の第一歩となります。
ホワイトカラー職種の人材紹介市場は2024年度4,490億円(前年度比+12.0%)と高成長領域であり、派遣社員数は2025年1月159万人(前月比+6万人、前年同月比+9万人)と増加傾向にあります。市場が拡大する中で、両面のマーケティングを体系化している企業とそうでない企業の差が開きつつあると言われています。
LTV(Life Time Value) とは、1顧客が取引期間全体で企業にもたらす収益の総額です。人材紹介では1社の年間採用決定数×1件あたり粗利×継続年数で算出されます。
CPA(Cost per Acquisition) とは、1件の成果(応募、決定等)を獲得するためにかかった費用です。許容CPAはLTVと粗利から逆算して設定することが一般的です。
求人企業向け(BtoB)マーケティングの特徴
求人企業向けのBtoBマーケティングでは、リード獲得→ナーチャリング→商談化という流れでプロセスを設計します。
MQL(Marketing Qualified Lead) とは、マーケティング活動で獲得したリードのうち、行動履歴・属性・スコアに基づき営業に渡す価値があると判定した有望リードを指します。
法人向けマーケティングでは、ターゲット企業の課題に合わせたコンテンツ提供やセミナー開催、リスティング広告などを通じてリードを獲得し、営業部門と連携して商談化を目指します。
求職者向け(BtoC)マーケティングの特徴
求職者向けのBtoCマーケティングでは、応募数だけでなく決定までの歩留まり管理が重要です。
CVR(Conversion Rate) とは、コンバージョン率のことで、Webマーケティングではセッション→応募、応募→面談など各ステップの転換率を指します。
求職者集客では、応募→面談→紹介→内定→入社という一連の歩留まりと、1件あたりの粗利を含めたROI管理が必要です。応募数を追うだけでは不十分であり、最終的な決定につながる質の高い求職者を獲得できているかが重要な指標となります。
人材業界で効果的なマーケティング施策|BtoB・BtoC別の比較
人材業界のマーケティング施策は、BtoB(求人企業向け)とBtoC(求職者向け)で目的とKPIが異なります。自社の課題に応じて適切な施策を選択することが重要です。
【比較表】人材業界マーケティング施策比較表(BtoB・BtoC別)
| 施策カテゴリ | BtoB(求人企業向け) | BtoC(求職者向け) | 主なKPI |
|---|---|---|---|
| リスティング広告 | 課題解決系キーワード(人材紹介 比較、採用代行 費用など) | 職種名・業界名キーワード(営業 転職、エンジニア 求人など) | CPA、CVR、商談化率 |
| ディスプレイ広告 | 採用担当者向けメディアへの出稿 | 転職サイト・求人媒体への出稿 | インプレッション、クリック率 |
| SEO・コンテンツ | 採用ノウハウ、人材活用事例 | 転職ノウハウ、業界情報 | オーガニック流入、リード獲得数 |
| SNS | LinkedIn、Facebook(ビジネス向け) | X、Instagram(ターゲット層に応じて) | フォロワー数、エンゲージメント |
| メールマーケティング | ホワイトペーパー配信、セミナー案内 | 求人情報配信、キャリア情報 | 開封率、クリック率、MQL転換率 |
| セミナー・ウェビナー | 採用戦略セミナー、成功事例紹介 | 業界研究セミナー、面接対策 | 参加数、商談化率 |
広告施策の選び方とKPI設計
法人リード獲得では、課題解決系キーワード(「○○システム 比較」「人材紹介 費用」など)を狙ったリスティング広告が効果的とされています。
許容CPAはLTVから逆算して設定します。一般的には粗利の20〜30%程度をマーケティング投資の上限として設定するケースが多いですが、業種や商材によって異なります。
なお、広告KPIのベンチマーク(CPC、CVR、CPA等)には公的統計が存在しないため、各社の事例やツールベンダーのレポートを参考に自社の標準値を作る必要があります。
よくある失敗パターン|求職者集客だけに注力する問題
人材業界のマーケティングを「求職者集客」だけと捉え、広告やSNSで求職者を集めることに注力する一方、求人企業の獲得は営業担当者の属人的なアプローチに任せきりにしてしまう——この考え方は誤りです。
企業のマーケティング部門担当者300名調査では、62%が「自社にマーケティング人材が不足」と回答しています(2025年9月調査)。マーケティング人材の不足が慢性化する中、BtoB領域のマーケティングが後回しになりやすい状況があります。
一方、人材紹介大手3社の2024年度の転職紹介実績は136千人で、10年間で3倍以上に増加しています。市場が拡大し競争が激化する中で、属人的な営業に依存していては安定した求人企業獲得は難しくなっています。
属人的営業の問題点:
- 営業担当者の退職・異動でクライアント関係が途切れる
- 営業成果が個人のスキルや人脈に左右される
- マーケティングで獲得したリードが有効活用されない
- 組織としてのナレッジが蓄積されない
MA/SFAを活用した求人企業向けマーケティングの実装
MA/SFAを活用することで、求人企業向けのリード獲得からナーチャリング、商談化までのプロセスを可視化・自動化できます。マーケティングと営業の連携を仕組み化することで、属人的な営業から脱却することが可能です。
【チェックリスト】人材業界BtoBマーケティング実装チェックリスト
- ターゲット企業の定義(業種・規模・採用課題)を明文化している
- リード獲得チャネル(広告・SEO・セミナー等)を設計している
- MQL(営業に渡すリード)の定義を営業部門と合意している
- リードスコアリングの基準を設定している
- MAツールでリード情報を一元管理している
- ナーチャリング用のメールシナリオを設計している
- SFAで商談進捗を管理している
- マーケ→営業のリード引き渡しルールを決めている
- 定期的なパイプラインレビューを実施している
- 商談化率・受注率などのKPIを計測している
- マーケティングROI(投資対効果)を算出できている
- 失注理由を分析し、マーケティング施策に反映している
- 営業からのフィードバックをマーケティングに活かす仕組みがある
- リード獲得からの成約事例をナレッジ化している
- マーケと営業の定例ミーティングを実施している
リード獲得からナーチャリング、商談化までの設計
MQL定義を営業部門と合意することが、効果的な連携の第一歩です。MQL定義が曖昧なままだと、「マーケから来るリードの質が低い」「営業がリードをフォローしない」という相互不信が生まれがちです。
(例)MQL判定のスコアリング基準
- 企業規模: 従業員100名以上 → +20点
- 採用ページ閲覧: 2回以上 → +15点
- 資料ダウンロード: あり → +30点
- セミナー参加: あり → +25点
- 合計60点以上でMQL判定 ※実際のスコアリング基準は自社の商談データを分析して設定してください
マーケティング部門と営業部門の連携ルール
リード引き渡しのタイミングとルールを明確にすることが、部門間連携の基盤となります。
連携ルールの設計ポイント:
- MQL判定後、営業への引き渡しは24時間以内など期限を設定する
- 営業は引き渡されたリードに対して一定期間内にアプローチする
- アプローチ結果(商談化/継続ナーチャリング/対象外)を必ずフィードバックする
- 週次または隔週でパイプラインレビューを実施し、リードの質や商談化率を確認する
まとめ|BtoB・BtoC両面のマーケティングで安定した求人企業獲得を
本記事では、人材業界のマーケティングについて、BtoB・BtoC両面の違いからMA/SFAを活用した実装方法まで解説しました。
重要なポイント:
- 人材業界のマーケティングは求職者向け(BtoC)と求人企業向け(BtoB)の両面で設計する
- BtoBとBtoCで異なるKPI管理が必要
- 求職者集客だけに注力し、求人企業獲得を営業任せにする失敗パターンを避ける
- MA/SFAを活用してリード獲得からナーチャリング、商談化までのプロセスを可視化・自動化する
- MQL定義を営業と合意し、部門間連携のルールを設計する
まずは本記事で紹介したチェックリストを活用して、自社の現状を確認してみてください。チェックが少ない項目から優先的に取り組むことで、属人的な営業から脱却する第一歩を踏み出せます。
人材業界のマーケティングは、求職者向け(BtoC)だけでなく求人企業向け(BtoB)の両面が必要であり、特にBtoB領域ではMA/SFAを活用したリードナーチャリングとマーケ・営業連携の仕組みを構築することで、属人的な営業から脱却し安定した求人企業獲得が可能になります。
