事業部制で営業組織がうまく機能しない理由
事業部ごとに営業が分断され、顧客情報の共有や全社横断での営業活動の最適化ができていない状況を解決したいなら、各事業部の独立性を保ちつつ、顧客情報・商談情報を全社で共有する仕組みを整備することが鍵となります。
事業部制とは、事業ごとに独立した事業部を設置し、営業・製造・経理等の機能を内包して自己完結的に運営する組織形態です。この組織形態を採用する企業の多くが、営業組織に関して以下のような課題を抱えています。
- 事業部間で顧客情報が共有されず、同じ顧客に複数の事業部が別々にアプローチしてしまう
- 事業部ごとに営業KPIが異なり、全社としての営業成果が見えにくい
- ある事業部で得た顧客ニーズが、他事業部の提案機会に活かされない
本記事では、こうした課題を解決し、事業部制の強みを活かしながら営業組織を機能させるための具体的な施策を解説します。
この記事で分かること
- 事業部制組織における営業部門の基本的な位置づけ
- 事業部制営業のメリット・デメリットとその対策
- 職能別組織・カンパニー制との違いと選び方
- 事業部間の情報共有を実現するための仕組みづくり
- 全社KPIと事業部KPIを整合させる設計方法
事業部制組織の基本と営業部門の位置づけ
事業部制は、各事業部が営業・製造・経理などの機能を内包し、自己完結的に運営できる組織形態です。営業部門は各事業部内に配置され、その事業に特化した営業活動を行います。
事業部制の定義と歴史
事業部制組織は、本社部門の下に事業ごとに独立した事業部を配置し、各事業部が営業・製造・経理などの機能を内包して自己完結的に運営する形態です。
日本では1933年に松下電器産業(現パナソニック)が事業部制を初めて導入しました。以来、多くの上場企業がこの組織形態を採用しており、特に複数の事業を展開する企業において有効な組織設計として定着しています。
独立採算制とは、各事業部が独自に収益と費用を管理し、利益責任を明確化する経営方式です。事業部制と組み合わせることで、各事業部の責任者が自らの事業の損益を管理し、迅速な意思決定を行えるようになります。
事業部内に営業を配置する構造
事業部制における営業組織は、本社の営業部門ではなく、各事業部内に配置されることが一般的です。これにより、以下のような構造になります。
- 各事業部が独自の営業チームを持つ
- 営業担当者はその事業部の製品・サービスに特化した知識を深められる
- 事業部長の指揮下で、営業から製造・納品まで一貫した意思決定ができる
この構造のメリットは、市場や顧客のニーズに対して事業部単位で迅速に対応できることです。一方で、事業部間の連携が課題になりやすい構造でもあります。
事業部制営業のメリットとデメリット
事業部制で営業組織を設計することには明確なメリットがありますが、同時にデメリットも存在します。重要なのは、デメリットを認識した上で対策を講じることです。
営業観点でのメリット
事業部制は製品別、地域別、顧客別の3つの分類パターンがあり、BtoB企業では顧客セグメント別の営業戦略を迅速に実行できる点が大きなメリットです。
意思決定の迅速化: 営業部門が事業部内にあることで、価格交渉や提案内容の調整などを本社の承認を待たずに進められるケースが多いです。
市場への適応力: 各事業部が独自の営業戦略を策定できるため、担当する市場や顧客セグメントの特性に合わせた柔軟な対応が可能です。
責任の明確化: 事業部単位で売上・利益の責任が明確になるため、営業組織のモチベーション向上につながることがあります。
営業観点でのデメリット
事業部制を導入すれば営業が自律的に動くと考え、事業部間の情報共有や全社KPIの設計を怠ると、顧客への重複アプローチや機会損失が発生します。これはよくある失敗パターンです。
情報のサイロ化: 事業部間で顧客情報や商談情報が共有されないと、同じ顧客に複数の事業部が別々にアプローチする「重複営業」が発生します。これは顧客からの信頼低下につながるリスクがあります。
重複投資: 各事業部が独自に営業ツールやシステムを導入すると、全社で見たときにコストが増大する可能性があります。
部門間連携の難しさ: ある事業部の顧客が別事業部の製品・サービスにも興味を持っていても、その情報が共有されず、クロスセルの機会を逃すことがあります。
事業部制・職能別組織・カンパニー制の営業観点比較
組織形態の選択は、自社の事業特性や成長段階によって最適解が異なります。ここでは、代表的な3つの組織形態を営業の観点から比較します。
職能別組織とは、営業・人事・経理などの機能ごとに部門を分け、意思決定権を本社に集中させる組織形態です。
カンパニー制とは、事業部制を発展させ、各事業部を社内分社化して人事・投資・財務等の全経営権を独立委譲する組織形態です。カンパニー制は事業部制を進化させたもので、人事・投資・財務などの全経営権を各カンパニーに独立委譲する点が事業部制との違いです。
【比較表】事業部制・職能別組織・カンパニー制の営業観点比較
| 観点 | 事業部制 | 職能別組織 | カンパニー制 |
|---|---|---|---|
| 営業部門の配置 | 各事業部内に配置 | 本社の営業部門に集約 | 各カンパニー内に配置 |
| 意思決定の速さ | 比較的速い | 本社承認が必要で遅め | 最も速い |
| 市場適応力 | 事業ごとに柔軟 | 全社統一的 | 事業ごとに最も柔軟 |
| 営業ノウハウの共有 | 事業部間で共有しにくい | 全社で共有しやすい | カンパニー間で共有しにくい |
| 顧客情報の一元管理 | 工夫が必要 | 管理しやすい | 工夫が必要 |
| 適した企業規模 | 複数事業を持つ中堅〜大企業 | 単一事業または小規模企業 | 大企業で事業の独立性が高い場合 |
| 本社の関与度 | 中程度(予算・人事は本社) | 高い | 低い(各カンパニーに委譲) |
事業部制は、職能別組織よりも意思決定が速く、カンパニー制よりも本社のコントロールが効きやすい、中間的な位置づけと言えます。複数事業を展開しつつも、全社としての統制を保ちたい企業に適しています。
事業部制営業で情報共有を実現する仕組みづくり
事業部制の弱点である情報のサイロ化を防ぐためには、意図的に情報共有の仕組みを構築する必要があります。経済産業省の資料によると、日本企業に事業部制は浸透したものの、事業部横断でのコントローラー制(経営管理制度)は定着しなかったとされています。これは、事業部間の連携が日本企業にとって長年の課題であることを示唆しています。
マトリックス組織とは、事業部制と職能別組織を組み合わせ、従業員が複数の上司にレポートする組織形態です。事業部制のデメリットを緩和する手法として、マトリックス組織との併用も検討に値します。
全社KPIと事業部KPIの設計
事業部ごとのKPI設定を強化することは重要ですが、それだけでは全社としての最適化ができません。全社KPIと事業部KPIを連動させる設計が必要です。
全社KPIの例:
- 全社売上高・利益率
- 顧客満足度(全社共通の指標)
- クロスセル率(事業部横断での販売実績)
事業部KPIの例:
- 事業部別売上高・利益率
- 新規顧客獲得数
- 担当市場でのシェア
全社KPIに「クロスセル率」や「顧客情報の共有率」を含めることで、事業部間の連携を促進するインセンティブが生まれます。
顧客・商談情報の共有ルール
事業部横断でのデータ連携・顧客情報共有がDX推進の文脈で重要視されています。具体的には、以下のような仕組みを整備することが効果的です。
全社共通の顧客マスタ: 顧客の基本情報を全社で一元管理し、どの事業部の担当者でも参照できるようにします。
商談情報の登録ルール: 商談開始時に全社システムへ登録することを義務化し、他事業部が同じ顧客にアプローチしようとした際に気づける仕組みを作ります。
定期的な情報共有会議: 月次や四半期ごとに、事業部横断で主要顧客の状況を共有する会議を設けることも有効です。
【チェックリスト】事業部制営業組織の連携チェックリスト
- 全社共通の顧客マスタが整備されている
- 顧客マスタを全事業部の営業担当者が参照できる
- 商談開始時に全社システムへ登録するルールがある
- 同一顧客への重複アプローチを検知する仕組みがある
- 全社KPIに事業部横断の指標(クロスセル率等)が含まれている
- 事業部KPIが全社KPIと連動している
- 事業部間で顧客情報を共有する定期会議がある
- 他事業部の製品・サービスを営業担当者が理解している
- クロスセル時のインセンティブ設計ができている
- 顧客からのフィードバックを全社で共有する仕組みがある
- 営業プロセス(提案書作成、見積作成等)が全社で標準化されている
- 事業部横断での営業案件レビューの場がある
- 顧客のLTV(顧客生涯価値)を全社視点で把握している
- 事業部間の引き継ぎルール(担当変更時等)が明確になっている
- 全社の営業責任者が事業部横断で状況を把握できるレポートがある
まとめ:事業部制営業を成功させるポイント
事業部制における営業組織の設計と運用において、押さえるべきポイントを整理します。
基本を理解する: 事業部制は各事業部が営業機能を内包し、自己完結的に運営できる組織形態です。日本では1933年から導入されており、多くの企業が採用しています。
メリットを活かす: 意思決定の迅速化、市場への適応力、責任の明確化といったメリットを最大限活用できるよう、事業部ごとのKPI設定と権限委譲を進めます。
デメリットに対策する: 情報のサイロ化、重複投資、部門間連携の難しさといったデメリットは、全社共通の顧客マスタ、商談情報の共有ルール、事業部横断のKPI設計によって緩和できます。
組織形態を見極める: 職能別組織、事業部制、カンパニー制にはそれぞれ特徴があり、自社の事業特性や成長段階に応じて選択することが重要です。
最後に改めて強調しますが、事業部制で営業組織を機能させるには、各事業部の独立性を保ちつつ、顧客情報・商談情報を全社で共有する仕組みを整備することが鍵となります。本記事で紹介したチェックリストを活用し、自社の営業組織の現状を点検してみてください。
