なぜダッシュボードは「作ったのに使われない」のか
ダッシュボード設計を成果につなげるには、デザインの原則だけでなく、データ基盤・MA/SFA連携・運用体制まで含めた一気通貫の設計が不可欠であり、専門家と組むことで「使われるダッシュボード」を実現できる。これが本記事の結論です。
「BIツールを導入してダッシュボードを作ったのに、現場で誰も見なくなった」という声は、多くの企業で聞かれます。作成時には期待を込めて設計したはずが、なぜ使われなくなるのでしょうか。
この記事で分かること
- ダッシュボードが使われなくなる根本原因
- 設計時に押さえるべき基本原則と情報設計のポイント
- BtoBマーケ・営業向けダッシュボードの具体的な設計方法
- MA/SFA連携を前提としたデータ基盤の設計
- 自社運用と外部依頼の判断基準
BIダッシュボードとは、複数のデータソースから情報を集約し、チャートやグラフで可視化して意思決定を支援するツールです。しかし、デザイン原則だけを学んでBIツールで形だけのダッシュボードを作り、データ基盤の整備や運用設計を後回しにすると、「作ったが使われない」状態に陥ります。これはダッシュボード設計における典型的な失敗パターンです。
使われるダッシュボードを実現するには、見た目の設計だけでなく、データ基盤の整備から運用体制の構築まで、一気通貫で設計することが必要です。
ダッシュボード設計の基本原則と押さえるべき視点
ダッシュボード設計で最も重要なのは、「誰のため」「どの粒度の意思決定に使うか」「どんなアクションにつなげるか」を設計前に文書化することです。BIツールを触る前に目的を明確にすることで、情報過多や使われないダッシュボードを防げます。
KPIツリー(ROICツリー) とは、売上・単価・LTV・CACなどの指標を階層構造で紐付け、経営指標と事業KPIを連動させる設計手法です。この考え方を取り入れることで、ダッシュボードに表示する指標の優先順位が明確になります。
設計時の実践的な原則として、以下が挙げられます。
- 主要KPIは3〜5個程度に絞る(補助指標は別タブや下部に配置)
- 重要情報は左上または中央に配置し、視線の流れ(左上→右下)を意識する
- 目標達成=緑、要注意=黄、悪化=赤など、意味のあるカラールールを統一する
参考事例として、デジタル庁のJapan Dashboardでは、経済・財政・人口と暮らしに関する約700指標(2025年7月時点で691指標)を7つの大分類・62中分類に整理し、都道府県別に可視化しています。このように、情報を適切に分類・階層化することが、使いやすいダッシュボードの基盤となります。
「指標を増やすほど良いダッシュボードになる」という考え方は誤りです。情報過多は使われなくなる主な原因の一つであり、情報の取捨選択と優先順位付けが重要です。
目的別ダッシュボードの分類(戦略的・分析的・業務用)
ダッシュボードはその目的によって、設計方針が異なります。
- 戦略的ダッシュボード:経営層向け。月次・四半期単位の更新で、全社KPIや経営指標を俯瞰
- 分析的ダッシュボード:分析担当者向け。詳細なドリルダウン機能を持ち、原因分析に活用
- 業務用ダッシュボード:現場担当者向け。日次・リアルタイム更新で、日々のアクションにつなげる
自社でどのタイプのダッシュボードが必要かを最初に明確にすることで、設計の方向性が定まります。
BtoBマーケ・営業向けダッシュボードの情報設計
BtoBマーケティング・営業向けのダッシュボードでは、リード獲得から受注までのファネルを可視化することが重要です。MQL(Marketing Qualified Lead) とは、マーケティング活動で獲得し、営業に引き渡す基準を満たした見込み顧客を指します。
BtoB向けダッシュボードで見るべき主要KPIとしては、以下が挙げられます。
- リード数・MQL数
- 商談化率・受注率
- LTV(顧客生涯価値)・CAC(顧客獲得コスト)
- パイプライン金額・受注予測
ある企業では、MAツールを活用したリードスコアリングと合わせて、リード獲得数は前年比120%増加し、商談化率も1.5倍に向上した事例があります(ただし、この成果はダッシュボード単体ではなく、MAツール導入を含む複合的な施策の結果です)。
【チェックリスト】ダッシュボード設計セルフチェック
- 「誰のため」「どの粒度の意思決定」「どんなアクション」を文書化した
- 主要KPIを3〜5個に絞り込んだ
- 補助指標の配置場所を決めた
- ダッシュボードのタイプ(戦略的・分析的・業務用)を明確にした
- KPIの定義と計算ロジックを統一した
- データソース(MA/SFA/CRM等)の連携方針を決めた
- データの更新頻度を定めた
- 閲覧権限・編集権限を設計した
- カラールール・視覚化ルールを統一した
- 運用担当者をアサインした
- 定期レビュー・改善のサイクルを決めた
- 利用者へのトレーニング計画を立てた
MA/SFA連携を前提としたデータ基盤設計
ダッシュボードの品質は、その背後にあるデータ基盤の品質に依存します。CDP(顧客データプラットフォーム) とは、SFA、CRM、MAなど複数のシステムに分散する顧客データを統合・一元化するプラットフォームです。
近年は、CDPを導入してSFA/CRM/MAのデータを統合した上でダッシュボード化する流れが加速しています。これにより、マーケティングから営業、カスタマーサクセスまで一気通貫でデータを追跡できるようになります。
実際の導入効果として、以下のような事例が報告されています。
- 効果測定用ダッシュボード設計により、月間リード数が100件以上増加した事例がある
- ダッシュボード導入と合わせて月のリード数が1件から60件に増加し、インバウンド経由の売上が約5倍に増加した事例がある(ただし、これらはダッシュボード単体の効果ではなく、MA/SFA連携やコンテンツマーケティングなど複合的な施策の結果です)
データ基盤設計では、日次バッチ連携で前日データが自動反映される仕組みを導入することで、データ鮮度とコストのバランスを取ることが一般的です。
データ連携のよくある課題と解決策
データ基盤を整備する際によく発生する課題と、その解決策を整理します。
データの分散 複数システムに同じ顧客情報が存在し、整合性が取れていない状態。名寄せルールを策定し、マスターデータを一元管理することで解決します。
更新頻度の不一致 システムごとにデータ更新のタイミングが異なり、ダッシュボード上で矛盾が生じる状態。更新タイミングを統一するか、最終更新日時を明示することで混乱を防ぎます。
定義の不統一 「リード」「商談」などの定義が部門ごとに異なる状態。全社共通の定義を文書化し、計算ロジックを統一することが重要です。
ダッシュボード設計を自社で行うか外部に依頼するかの判断基準
ダッシュボード設計を自社で行うか、外部の専門家に依頼するかは、多くの企業が悩むポイントです。判断にあたっては、社内リソースの有無、データ基盤の成熟度、スピードの優先度、継続的な改善体制の構築可能性を考慮する必要があります。
専門家に依頼するメリットとしては、以下が挙げられます。
- データ基盤設計から運用定着まで一気通貫で対応できる
- 「作ったが使われない」リスクを事前に回避できる
- 社内にノウハウを蓄積しながら伴走してもらえる
一方で、社内にデータエンジニアやBIツールの経験者がいる場合は、自社運用の方がコストを抑えられるケースもあります。
【比較表】自社運用 vs 外部依頼
| 比較項目 | 自社運用 | 外部依頼 |
|---|---|---|
| 初期コスト | 低(人件費のみ) | 高(コンサル費用発生) |
| 導入スピード | 遅い(学習コストあり) | 速い(専門知識あり) |
| 設計品質 | 担当者のスキルに依存 | 一定品質を担保 |
| 運用定着 | 自走しやすい | 伴走で定着支援 |
| 改善サイクル | 内製で柔軟に対応 | 追加費用が発生する場合あり |
| 推奨ケース | 社内にBI経験者がいる場合 | 短期間で成果を出したい場合 |
まとめ:使われるダッシュボードを実現するために
本記事では、ダッシュボード設計の基本原則から、BtoBマーケ・営業向けの情報設計、MA/SFA連携を前提としたデータ基盤設計、そして自社運用か外部依頼かの判断基準まで解説しました。
使われるダッシュボードを実現するためのポイントを整理します。
- 設計前に「誰のため」「どの粒度の意思決定」「どんなアクション」を文書化する
- 主要KPIは3〜5個に絞り、情報過多を避ける
- デザインだけでなく、データ基盤・運用体制まで一気通貫で設計する
- 定期的なレビューと改善サイクルを回す
ダッシュボード設計を成果につなげるには、デザインの原則だけでなく、データ基盤・MA/SFA連携・運用体制まで含めた一気通貫の設計が不可欠です。専門家と組むことで、「作ったが使われない」リスクを回避し、意思決定や行動につながる「使われるダッシュボード」を実現できます。
