KPIが求められる背景
B2B SaaS企業がビジネスを成長させる中で、「どの指標を追いかければいいのか分からない」「目標設定が曖昧で、成果が出ているか判断できない」といった悩みを抱える担当者は少なくありません。
この記事では、KPIの作り方を設定手順から部門別の具体例、運用のコツまで実務視点で解説します。
この記事のポイント:
- KPIは最終目標(KGI)達成のための中間指標を数値化したもの
- 設定にはSMARTの法則(Specific・Measurable・Achievable・Relevant・Time-bound)を活用
- KPIツリーを作成することで、KGI達成に必要なKPIを洗い出し、今すべきことを明確化
- マーケ・営業・CS・開発など、部門の役割に応じた指標を設定
- KPIを設定しすぎると業務の柔軟性が失われ、モチベーションが低下する(5-10個程度に厳選)
(1) データドリブン経営の重要性
データドリブン経営とは、データに基づいて意思決定を行う経営スタイルです。勘や経験だけに頼らず、定量的な指標を用いることで、以下のような効果が期待できます。
- 意思決定の精度向上: 客観的なデータに基づき、合理的な判断が可能
- 成果の可視化: 施策の効果を数値で把握でき、改善点が明確になる
- 組織全体の目標共有: 数値目標を共有することで、各メンバーが何を目指すべきか理解しやすくなる
しかし、やみくもにデータを集めても、適切な指標を設定しなければ成果につながりません。KPIは、データドリブン経営を実現するための重要な要素です。
(2) 目標管理と進捗の可視化
KPIを設定することで、目標達成までの進捗を可視化できます。
KPIがない場合:
- 目標が曖昧で、メンバーが何を優先すべきか分からない
- 施策の効果が見えず、改善すべき点が不明確
- 期末になって初めて目標未達が判明し、手遅れになる
KPIがある場合:
- 週次・月次で進捗を確認でき、早期に軌道修正が可能
- 達成すべき数値が明確で、メンバーの行動が具体化される
- データに基づいた振り返りができ、次のアクションが決めやすい
KPIとは:基礎知識
(1) KPIの定義:重要業績評価指標
KPI(Key Performance Indicator)は、重要業績評価指標と訳され、最終目標(KGI)達成のための中間指標を数値化したものです。
KPIの特徴:
- 最終目標に向けた進捗を測定できる
- 定量的(数値)で表現される
- 定期的に測定・評価される
(2) KGI(最終目標)とKPI(中間指標)の違い
KGIとKPIは、しばしば混同されますが、以下のような関係性があります。
KGI(Key Goal Indicator):
- 組織の最終目標を数値化したもの
- 例:年間売上高1億円、年間新規契約件数100件
KPI(Key Performance Indicator):
- KGI達成のための中間指標
- 例:月間リード獲得数500件、商談化率20%、受注率30%
設定の順序:
- まずKGI(最終目標)を決定する
- KGI達成に必要な中間指標(KPI)を洗い出す
- KPI同士の関係性を整理し、優先順位をつける
いきなりKPIを決めず、KGIから逆算することが重要です。
(3) KPIツリーとは何か
KPIツリーとは、KGIを頂点に、それを達成するために必要なKPIを階層構造で整理したものです。
KPIツリーの例(B2B SaaS企業の売上目標):
KGI: 年間売上高1億円
├─ KPI: 年間新規契約件数100件
│ ├─ KPI: 月間リード獲得数500件
│ │ ├─ KPI: Webサイト訪問者数10,000人
│ │ └─ KPI: コンバージョン率5%
│ └─ KPI: 商談化率20%
│ └─ KPI: 受注率30%
└─ KPI: 平均契約単価100万円
KPIツリーを作成することで、KGI達成のために「今すべきこと」が明確になります。
KPIの作り方:5つのステップ
KPIを効果的に設定するには、以下の5つのステップを踏むことが推奨されます。
(1) ステップ1:KGI(最終目標)を明確に設定する
最初のステップは、組織の最終目標(KGI)を明確にすることです。
KGI設定のポイント:
- 経営戦略と連動した目標にする
- 具体的な数値で表現する(曖昧な表現を避ける)
- 達成期限を明確にする(1年後、3年後など)
例:
- NG:「売上を増やす」
- OK:「2025年12月末までに年間売上高1億円を達成する」
(2) ステップ2:KPIツリーを作成してKPIを洗い出す
KGIを達成するために必要な要素を分解し、KPIツリーを作成します。
作成手順:
KGI達成に必要な要素を分解する
- 例:年間売上高1億円 = 新規契約件数 × 平均契約単価
各要素をさらに細分化する
- 例:新規契約件数 = リード獲得数 × 商談化率 × 受注率
KPI同士が四則演算で計算できる関係にあることを確認する
- これにより、成果の検証や軌道修正がしやすくなる
(3) ステップ3:SMARTの法則でKPIを設計する
SMARTの法則は、KPI設定時の5つの要素を表す原則です。
SMARTの5要素:
- S(Specific:具体的): 曖昧さを排除し、誰が見ても理解できる表現にする
- M(Measurable:測定可能): 数値で測定できる指標にする
- A(Achievable:達成可能): 現実的に達成できる目標にする(高すぎず低すぎず)
- R(Relevant:関連性がある): KGIや組織目標と関連性のある指標にする
- T(Time-bound:期限が明確): いつまでに達成するか期限を設定する
SMART適用例:
- NG:「Webからのリード獲得を増やす」
- OK:「Webサイトからの月間リード獲得数を3ヶ月以内に500件達成する」
(4) ステップ4:過去データを参考に達成可能な数値を設定
KPIの数値は、過去のデータを参考にしながら設定することが重要です。
設定の考え方:
- 過去の実績を分析し、「達成できるか否かのラインの少し上」を目指す
- 高すぎる目標はメンバーのモチベーション低下につながる
- 低すぎる目標は成長の機会を逃す
例(月間リード獲得数):
- 過去3ヶ月の実績:350件、380件、420件
- 平均:約380件
- KPI設定:月間500件(約130%の成長を目指す)
(5) ステップ5:KPI未達時の回復策と運用ルールを決定
KPIを設定したら、未達時の対応策と運用ルールを事前に決めておくことが重要です。
決めておくべきこと:
- KPI未達時にどのような対応を取るか(軌道修正の基準)
- KPIの見直しタイミング(月次、四半期ごとなど)
- KPI達成状況の共有方法(週次ミーティング、ダッシュボードなど)
部門別KPI設定の具体例
B2B SaaS企業では、部門の役割に応じてKPIを設定することが一般的です。
(1) マーケティング部門のKPI(リード獲得数・コンバージョン率・CPAなど)
マーケティング部門は、営業部門にリードを提供する役割を担います。
代表的なKPI:
- 月間リード獲得数(Webサイト、広告、ウェビナーなど)
- コンバージョン率(Webサイト訪問者のうち、リード化した割合)
- CPA(Cost Per Acquisition):1件のリード獲得にかかったコスト
- MQL(Marketing Qualified Lead):営業に引き渡す質の高いリード数
具体例:
- KGI:年間新規契約件数100件
- KPI:月間MQL数200件、商談化率20%(= 月間商談数40件)
(2) 営業部門のKPI(受注件数・ARR・商談化率など)
営業部門は、マーケティングから引き渡されたリードを商談化し、受注する役割を担います。
代表的なKPI:
- 月間受注件数
- ARR(Annual Recurring Revenue):年間経常収益
- 商談化率(リードのうち、商談に進んだ割合)
- 受注率(商談のうち、受注に至った割合)
- 平均商談期間(リードから受注までの期間)
具体例:
- KGI:年間ARR 1億円達成
- KPI:月間受注件数10件、平均契約単価100万円、受注率30%
(3) カスタマーサクセス部門のKPI(チャーンレート・NPS・LTVなど)
カスタマーサクセス部門は、顧客の成功を支援し、契約継続率を高める役割を担います。
代表的なKPI:
- チャーンレート(解約率):月次または年次の解約率
- NPS(Net Promoter Score):顧客推奨度
- LTV(Life Time Value):顧客生涯価値
- オンボーディング完了率(導入支援を完了した顧客の割合)
- アップセル・クロスセル率(既存顧客からの追加受注)
具体例:
- KGI:年間チャーンレート5%以下
- KPI:月次チャーンレート0.5%以下、NPS 50以上、オンボーディング完了率90%
(4) 開発部門のKPI(リリース頻度・バグ発見率・開発速度など)
開発部門は、プロダクトの品質向上と開発速度の最適化を担います。
代表的なKPI:
- リリース頻度(週次、月次のリリース回数)
- バグ発見率(リリース後のバグ件数)
- 開発速度(ストーリーポイント、ベロシティなど)
- コードカバレッジ(テストコードがカバーする範囲)
- リードタイム(機能追加の要求から本番環境リリースまでの期間)
具体例:
- KGI:顧客満足度向上、プロダクト品質改善
- KPI:月次リリース回数4回、本番環境バグ件数5件以下、リードタイム2週間以内
(5) 経営企画部門のKPI(売上高・営業利益率・ROIなど)
経営企画部門は、全社の財務目標や経営戦略の達成を管理します。
代表的なKPI:
- 月間売上高、年間売上高
- 営業利益率(売上高に対する営業利益の割合)
- ROI(Return On Investment):投資対効果
- キャッシュフロー(営業CF、投資CF、財務CF)
- 従業員1人あたりの売上高
具体例:
- KGI:年間売上高1億円、営業利益率20%
- KPI:月間売上高833万円、営業利益率18%以上、ROI 150%以上
KPI運用のコツとよくある失敗
KPIを設定しただけでは成果につながりません。運用のコツと、よくある失敗例を知っておくことが重要です。
(1) よくある失敗例1:KPIを設定しすぎる(カルビー3,000個KPI設定の失敗)
KPIを設定しすぎると、管理負荷が増大し、本質的な成果に集中できなくなります。
カルビーの事例:
- 3,000個のKPIを設定した結果、業務の柔軟性が失われた
- メンバーのモチベーションが低下し、KPI達成が目的化してしまった
推奨される対応:
- KPIは「重要な」指標に絞り、5-10個程度に厳選する
- 部門ごとに最も重要な2-3個のKPIに集中する
(2) よくある失敗例2:パーセンテージをKPIに設定し母数が減少
コンバージョン率や解約率などのパーセンテージをKPIに設定すると、母数が減少してもKPI達成となり、KGI未達となる可能性があります。
問題の例:
- KPI:コンバージョン率5%
- 前月:Webサイト訪問者10,000人 × 5% = リード500件
- 当月:Webサイト訪問者8,000人 × 5% = リード400件
- → コンバージョン率は達成しているが、リード数は減少
推奨される対応:
- パーセンテージだけでなく、絶対数(リード獲得数)もKPIに設定する
- 母数(Webサイト訪問者数)も併せて管理する
(3) よくある失敗例3:部門ごとの部分最適に陥る
部門ごとにKPIを設定すると、全体最適を損ない、組織全体として成果が出ない状況に陥ることがあります。
問題の例:
- マーケ部門:リード獲得数を増やすため、質より量を重視
- 営業部門:質の低いリードが増え、商談化率が低下
- → 全体として受注件数が伸びない
推奨される対応:
- 部門間でKPIの連動性を確認する
- 全体のKGI達成に向けて、部門間で協力する仕組みを作る
(4) よくある失敗例4:KPI未達時の回復策がない
KPI未達時の対応策を事前に決めていないと、問題発生時に適切な対応ができません。
推奨される対応:
- KPI未達時の回復策を事前に決めておく
- 週次・月次で進捗を確認し、早期に軌道修正する
- KPIツリーを使い、どの要素がボトルネックかを特定する
(5) 運用のコツ:定期的な見直しと柔軟な調整
KPIは一度設定したら終わりではなく、定期的に見直し、柔軟に調整することが重要です。
見直しのタイミング:
- 月次:進捗確認、軌道修正
- 四半期ごと:KPIの妥当性評価、数値の見直し
- 年次:KGI達成状況の振り返り、次年度のKPI設計
見直しの観点:
- 市場環境の変化(競合の動向、顧客ニーズの変化)
- 組織の成長段階(スタートアップ期、成長期、成熟期)
- KPI達成状況(達成しやすすぎる、難しすぎる)
まとめ:KPIでビジネスの成果を最大化
KPIの作り方を理解し、適切に設定・運用することで、ビジネスの成果を最大化できます。
この記事のまとめ:
- KPIは最終目標(KGI)達成のための中間指標を数値化したもの
- いきなりKPIを決めず、KGIを決定してから逆算する
- KPIツリーを作成し、KGI達成に必要なKPIを洗い出す
- SMARTの法則(Specific・Measurable・Achievable・Relevant・Time-bound)で設計
- マーケ・営業・CS・開発など、部門の役割に応じた指標を設定
- KPIを設定しすぎず、5-10個程度に厳選する
- 定期的に見直し、柔軟に調整する
次のアクション:
- 自社のKGI(最終目標)を明確にする
- KPIツリーを作成し、必要なKPIを洗い出す
- SMARTの法則でKPIを設計し、過去データを参考に数値を設定
- KPI未達時の回復策と運用ルールを決定する
- 週次・月次で進捗を確認し、早期に軌道修正する
適切なKPI設定と運用で、データドリブン経営を実現し、ビジネスの成果を最大化しましょう。
※この記事は2024年11月時点の情報です。KPIの目標値は業界や企業規模、市場環境により異なるため、自社の状況に応じて設定してください。
