IT営業とは?DX時代に注目される理由
DX(デジタルトランスフォーメーション)推進により、IT営業の需要が高まっています。経済産業省は2022-2026年の5年間で230万人のデジタル推進人材育成を目標としており、IT営業もその重要な一角を担っています。
IT営業は、ITシステムやサービスを提供することで顧客の課題を解決する営業職です。単なる製品販売ではなく、顧客の課題をヒアリングし、最適なソリューションを提案する「ソリューション営業」として、エンジニアと顧客の橋渡し役を担います。
この記事では、IT営業の定義から必要なスキル、キャリアパス、採用・育成のポイントまで、B2Bデジタルプロダクト企業の人事担当者・営業マネージャー向けに実践的に解説します。
この記事のポイント:
- IT営業はソリューション営業として顧客の課題を解決する職種
- IT基礎知識、ヒアリング力、提案力、コミュニケーション力が必要
- 平均年収は466-478万円、20代で約410万円、30代で約585万円
- 未経験者歓迎求人が多く、採用率87%以上の企業もある
- 2024年はDX推進によりIT営業の需要が拡大中
IT営業の基礎知識(定義・仕事内容・種類)
(1) IT営業の定義(ソリューション営業としての役割)
IT営業とは、ITシステムやサービスを提供することで顧客の課題を解決する営業職です。ヒアリングを通して顧客の課題を明らかにし、情報システムやサービスで解決を提案する「ソリューション営業」として機能します。
従来の営業が製品やサービスを売ることに重点を置いていたのに対し、IT営業は顧客の経営課題やビジネス課題を深く理解し、ITを活用した解決策を提示します。そのため、コンサルティングに近い課題解決能力が求められます。
(2) 主な仕事内容(ヒアリング・提案・アフターフォロー)
IT営業の主な仕事内容は以下の通りです:
契約前の商談:
- 顧客の課題ヒアリング
- 最適なソリューションの提案
- エンジニアと協力しての見積もり・提案書作成
- プレゼンテーションと契約交渉
契約後のアフターフォロー:
- 導入後のサポート
- 追加提案やアップセル・クロスセル
- 顧客との長期的な関係構築
IT営業は契約前の商談だけでなく、契約後のアフターフォローまで会社の窓口として幅広く担当します。また、エンジニアと顧客の橋渡し役として、技術的な説明をビジネスの場で分かりやすく伝えることが重要です。
(3) IT営業の種類(SIer・SaaS・ハードウェア・SES等)
IT営業は、扱う製品・サービスによって以下のように分類されます:
SIer(システムインテグレーター)営業: ハードウェアとソフトウェアを組み合わせてシステム構築を行う企業の営業。大規模なシステム構築プロジェクトを担当することが多く、長期的な提案活動が必要です。
SaaS営業: クラウド型のソフトウェアサービスを提供する営業。サブスクリプション型のビジネスモデルが中心で、顧客の継続率向上やアップセルが重要です。
ハードウェア営業: サーバー、パソコン、ネットワーク機器などのハードウェアを販売する営業。
SES(System Engineering Service)営業: システムエンジニアを顧客企業に派遣するサービスの営業。人材マッチングと継続的なフォローが主な業務です。
それぞれの領域で求められるスキルや知識は異なりますが、共通して顧客の課題解決に焦点を当てた営業活動が求められます。
IT営業に必要なスキルと適性
(1) IT基礎知識とエンジニアとの橋渡し
IT営業には、深い技術知識よりも、顧客の課題をヒアリングし、エンジニアと顧客の橋渡しができる程度の基礎知識が重要です。
必要なIT基礎知識:
- ネットワーク、サーバー、データベースなどの基本概念
- クラウド(AWS、Azure、GCP等)の概要
- セキュリティの基礎知識
- 業界特有の技術トレンド(AI、DX、IoT等)
技術的な詳細はエンジニアと連携し、顧客にわかりやすく説明する能力が求められます。ITパスポートや基本情報技術者試験などの基礎的な資格取得により、IT知識を効率的に習得できます。
(2) ヒアリング力と課題解決提案力
IT営業の核となるスキルは、顧客の課題を正確に把握するヒアリング力と、最適なソリューションを提案する課題解決提案力です。
ヒアリング力:
- 顧客の現状の課題や悩みを引き出す質問力
- 表面的な要望だけでなく、本質的な課題を見極める洞察力
- 顧客の業界やビジネスモデルへの理解
課題解決提案力:
- 顧客の課題に対して最適なソリューションを設計する能力
- 複数の選択肢を提示し、メリット・デメリットを説明する能力
- ROI(投資対効果)を明確に示す能力
顧客の課題を正確に理解せずに提案すると、ミスマッチが発生し信頼を失う可能性があるため、慎重なヒアリングが不可欠です。
(3) プレゼンテーション力とコミュニケーション力
IT営業は、技術的な内容を非技術者にもわかりやすく説明するプレゼンテーション力と、多様なステークホルダーと円滑に連携するコミュニケーション力が求められます。
プレゼンテーション力:
- 技術的な専門用語を避け、ビジネス価値を中心に説明
- 図やグラフを活用した視覚的なプレゼンテーション
- 想定される質問への事前準備
コミュニケーション力:
- 社内エンジニアとの円滑な連携
- 顧客の経営層、実務担当者、IT部門など多様な相手との対話
- 長期的な信頼関係の構築
また、IT業界は技術進化が速いため、常にスキルや知識のアップデートが求められる職種であり、継続的な学習姿勢が成功の鍵となります。
IT営業のキャリアパスと年収相場
(1) 平均年収と年代別給与水準(466-478万円)
IT営業の平均年収は466-478万円(マイナビ・dodaデータ)です。年代別では以下のような傾向があります:
20代: 約410万円 30代: 約585万円
企業規模・業種・職種(SIer・SaaS・ハードウェア等)により幅があり、大手企業や外資系企業では平均を上回るケースが多い傾向があります。また、成果報酬型のインセンティブ制度がある企業では、業績により年収が大きく変動する場合もあります。
※年収データは調査時点や企業規模により変動するため、あくまで参考値として捉え、個別の求人情報で確認してください。(この記事は2024年11月時点の情報です)
(2) キャリアパス(営業マネージャー・コンサルタント・プリセールス)
IT営業のキャリアパスは多様で、以下のような選択肢があります:
営業マネージャー: 営業チームのマネジメントを担当し、目標設定・育成・戦略立案を行います。
ITコンサルタント: 顧客の経営課題に対して、ITを活用した戦略的な提案を行います。
プリセールス: 営業活動の初期段階で技術的な提案やデモンストレーションを行う職種。技術理解と営業スキルの両方が求められます。
ビジネスアーキテクト: ビジネスモデルや業務プロセスの設計を担当するDX推進人材。IPAのDX動向2024によると、ビジネスアーキテクトの不足が深刻化しています。
継続的なスキルアップと、DX推進により需要が拡大中であり、キャリアの選択肢は広がっています。
(3) 未経験からIT営業への転職(採用率87%以上の企業も)
未経験からIT営業への転職は可能です。未経験者歓迎求人が多く、採用率87%以上の企業もあるとされています。
未経験者が有利な理由:
- 営業スキルやコミュニケーション力があれば、IT知識は入社後に習得可能
- 顧客視点での提案が重視されるため、技術者出身よりも営業経験者が適している場合もある
- DX推進により人材需要が拡大しており、企業が積極的に採用を進めている
未経験からの準備:
- ITパスポートや基本情報技術者試験で基礎知識を習得
- IT業界の動向やトレンドを定期的にキャッチアップ
- 前職での営業経験やコミュニケーション力をアピール
ただし、未経験からの転職可否は企業の採用方針により異なるため、個別の求人情報で確認してください。また、求人情報で平均残業時間を確認することも重要です。
IT営業の採用と育成のポイント
(1) 採用基準(IT知識 vs 営業スキルのバランス)
IT営業の採用では、IT知識と営業スキルのバランスをどう考えるかが重要です。
IT知識重視の場合: 技術的な理解が深い候補者を採用し、営業スキルは入社後に育成する方針。技術的な信頼性が求められる領域(SIer、インフラ営業等)で有効です。
営業スキル重視の場合: 営業経験やコミュニケーション力を重視し、IT知識は入社後に習得させる方針。顧客との関係構築が重視される領域(SaaS、ソリューション営業等)で有効です。
多くの企業では、営業スキル重視で採用し、IT知識は研修や実務を通じて習得させる方針を取っています。文系出身者でも、営業スキルやコミュニケーション力があれば、IT営業として活躍できる環境が整いつつあります。
(2) 育成プログラムと継続的学習の重要性
IT営業の育成では、以下のようなプログラムが効果的です:
IT基礎知識の習得:
- 社内研修でネットワーク、サーバー、クラウドなどの基礎を学ぶ
- ITパスポートや基本情報技術者試験の取得を推奨
- エンジニアとの合同勉強会やシャドーイング
営業スキルの向上:
- ヒアリング力を高めるロールプレイング
- 提案書作成やプレゼンテーションのトレーニング
- 先輩営業との同行営業
継続的学習の文化: IT業界は技術進化が速いため、継続的な学習を怠ると顧客への提案力が低下するリスクがあります。定期的な勉強会や外部セミナー参加を奨励し、学習を習慣化する文化を醸成することが重要です。
(3) 有効な資格(ITパスポート・基本情報技術者試験)
IT営業の育成において、以下の資格取得が有効です:
ITパスポート: 経済産業省が認定する情報処理技術者試験の入門レベル資格。IT基礎知識を体系的に学べます。
基本情報技術者試験: ITエンジニアの登竜門とされる国家資格。より深い技術理解が求められる領域で有効です。
これらの資格は、IT知識を効率的に習得するための指標として活用できます。資格取得を推奨する一方で、資格がなくても実務を通じて学べる環境を整えることが重要です。
まとめ:2024年のIT営業市場動向とDX推進
IT営業は、ITシステムやサービスを提供することで顧客の課題を解決する営業職です。ソリューション営業として、エンジニアと顧客の橋渡し役を担い、IT基礎知識、ヒアリング力、提案力、コミュニケーション力が求められます。
2024年のIT営業市場は、DX推進により需要が拡大しています:
市場動向:
- 経済産業省は2022-2026年の5年間で230万人のデジタル推進人材育成を目標
- IPAのDX動向2024によると、特にビジネスアーキテクトとデータサイエンティストの不足が深刻化
- 2024年もDX推進により求人数が増加中
キャリアの魅力:
- 平均年収466-478万円、20代で約410万円、30代で約585万円
- 営業マネージャー、コンサルタント、プリセールス、ビジネスアーキテクトなど多様なキャリアパス
- 未経験者歓迎求人が多く、採用率87%以上の企業もある
採用・育成のポイント:
- 営業スキル重視で採用し、IT知識は入社後に習得させる方針が一般的
- IT基礎知識の研修、営業スキル向上のトレーニング、継続的学習の文化が重要
- ITパスポートや基本情報技術者試験で効率的に知識を習得
IT営業は、DX時代に不可欠な職種として、今後も需要が拡大すると予測されます。人事担当者・営業マネージャーの方は、採用基準の明確化と体系的な育成プログラムの構築により、優秀なIT営業人材を確保・育成しましょう。
次のアクション:
- 自社のIT営業に求めるスキルセットを明確化する
- IT知識と営業スキルのバランスを考慮した採用基準を設定する
- IT基礎知識の研修プログラムを構築する
- 継続的学習を奨励する文化を醸成する
- ITパスポートや基本情報技術者試験の取得を支援する
IT営業の採用・育成を戦略的に進め、DX推進に貢献する人材を育てましょう。
