フィールドセールスとは:定義と注目される背景
「営業組織の分業化を進めたいが、フィールドセールスの役割が曖昧」「インサイドセールスとの連携がうまくいかず、商談の質が下がっている」──そんな課題を抱えるB2B企業の営業企画・営業マネージャーは少なくありません。
営業分業化が進む中、フィールドセールスは「対面での信頼関係構築」と「複雑な提案対応」という強みを活かし、商談を受注につなげる重要な役割を担っています。2024年現在、データドリブンなフィールドセールスの手法も登場しており、効率化と成果向上の両立が求められています。
この記事では、フィールドセールスの定義・役割・業務内容と、インサイドセールスとの違い・連携方法・KPI設定を実践的に解説します。営業組織の分業化を検討している方、フィールドセールスの評価基準に課題を抱えている方は、ぜひ参考にしてください。
この記事のポイント:
- フィールドセールスは対面で商談・提案・受注を担う営業手法
- インサイドセールスとの違いは「対面 vs 非対面」「受注 vs 商談創出」「KPI設定」
- The Modelでは、マーケティング・IS・FS・CSの4部門で分業し、FSは商談管理と受注を担当
- 連携成功には「BANT情報と温度感の共有」「SFA・CRM活用」「商談後のフィードバック」が不可欠
- 主要KPIは商談化率・受注率・商談数・受注金額。平均受注率10%、トップセールスは30%超
(1) フィールドセールスの定義:対面での提案・商談・受注
フィールドセールスとは、顧客を直接訪問して商品やサービスを提案・販売する営業手法です。訪問型営業、外勤営業とも呼ばれます。
フィールドセールスの特徴:
- 対面でのコミュニケーションを重視
- 顧客のニーズや課題を深く理解
- 商談のプロセスを進め、導入までの意思決定を促す
- 契約クロージングと受注を担当
対面営業の強み:
- 信頼関係の構築が容易(顔を合わせることで安心感を与える)
- 複雑な提案や交渉がしやすい(ホワイトボードや資料を使った説明)
- 顧客の反応をリアルタイムで把握し、柔軟に対応できる
(参考: フィールドセールスとは?戦略から成功事例・実践の手順や成功のコツを解説 - Sansan、2024年)
(2) 注目される背景:営業分業化とデータドリブン化
フィールドセールスが注目されている背景には、営業分業化とデータドリブン化の2つの潮流があります。
① 営業分業化(The Model):
- セールスフォースが提唱した営業体制モデル
- マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスの4部門で分業
- 各部門が専門性を発揮し、営業効率と受注率の向上を目指す
② データドリブン化:
- 2024年12月、TOPPANがデータに基づく効率的なフィールドセールスサービスの提供を開始
- 人流分析データと来店・購買傾向データを組み合わせ、AIで最適な人員配置を実現
- 営業活動の効率化と成果向上を両立
(出典: TOPPAN、データに基づく効率的なフィールドセールスサービスの提供開始 - TOPPANホールディングス、2024年12月)
デジタル化が進む中でも、対面での信頼関係構築はフィールドセールスの強みとして重要視されており、オンライン商談と対面営業を使い分けるハイブリッド型の営業モデルが主流になっています。
フィールドセールスの役割と業務内容
(1) 主な役割:マーケとISが育成したリードを成約に導く
フィールドセールスの主な役割は、マーケティング部門が獲得し、インサイドセールスが育成したリードを成約に導くことです。
営業プロセス全体での位置づけ:
- マーケティング: リード獲得(Web広告・展示会・ウェビナー等)
- インサイドセールス: リード育成・商談化(電話・メール・オンライン会議)
- フィールドセールス: 商談・提案・受注(訪問 or オンライン商談)
- カスタマーサクセス: 導入支援・継続利用促進・アップセル
フィールドセールスの役割:
- インサイドセールスから引き継いだ商談を深堀り
- 顧客の課題に合わせた提案・デモンストレーション
- 見積作成・条件交渉・契約クロージング
- 受注後のカスタマーサクセスへの引き継ぎ
(2) 具体的な業務内容:商談・提案・クロージング・契約
フィールドセールスの具体的な業務内容は以下の通りです。
① 商談準備:
- インサイドセールスからBANT情報(予算・決裁者・ニーズ・タイミング)と顧客の温度感を確認
- 顧客の課題を仮説立て、提案内容を事前準備
- 過去の商談履歴・競合情報を確認(SFA・CRM活用)
② 商談・提案:
- 顧客を訪問し、課題をヒアリング
- 自社製品・サービスの提案(デモンストレーション、資料説明)
- 競合との差別化ポイントを訴求
③ クロージング・契約:
- 見積書の作成・提示
- 契約条件の交渉(価格、導入時期、サポート内容等)
- 契約締結
④ 受注後の引き継ぎ:
- カスタマーサクセスへの情報共有(顧客の期待値、導入目的等)
- 継続的なフォロー(必要に応じて)
(参考: フィールドセールスとは?インサイドセールスとの違いや役割・メリットについて解説 - マイナビエージェント、2024年)
(3) 対面営業の強み:信頼関係構築と複雑な提案対応
フィールドセールスの最大の強みは、対面営業による「信頼関係構築」と「複雑な提案対応」です。
信頼関係構築:
- 顔を合わせることで、顧客に安心感を与える
- 営業担当者の人柄・誠実さが伝わりやすい
- 長期的な関係構築が容易(リピート受注・紹介につながる)
複雑な提案対応:
- ホワイトボードや資料を使った視覚的な説明が可能
- 顧客の反応をリアルタイムで把握し、提案内容を柔軟に調整
- 高額商材・複雑な商材(カスタマイズが必要な製品等)に適している
デジタル化が進む中でも、対面営業の価値は重要視されており、「初回ヒアリングはオンラインで効率化、提案・クロージングは対面で信頼関係構築」といったハイブリッド型の営業モデルが広がっています。
インサイドセールスとの違いとThe Model
(1) フィールドセールスとインサイドセールスの違い
フィールドセールスとインサイドセールスの主な違いは以下の通りです。
| 項目 | フィールドセールス | インサイドセールス |
|---|---|---|
| アプローチ方法 | 対面(顧客訪問) + オンライン会議 | 非対面(電話・メール・オンライン会議) |
| 主な役割 | 商談・提案・クロージング・受注 | リード育成・商談創出 |
| 業務内容 | 提案書作成・デモ・見積・交渉・契約 | 初回接触・ヒアリング・BANT情報確認 |
| 主要KPI | 商談化率・受注率・受注金額 | 架電件数・商談獲得率・トスアップ数 |
| 必要なスキル | プレゼン力・交渉力・信頼関係構築 | 電話・メール対応力・データ入力の正確性 |
役割分担の例:
- インサイドセールス: 見込み客(リード)を育成し、受注確度が高まったタイミングでフィールドセールスに引き継ぐ(商談トスアップ)
- フィールドセールス: 引き継いだ商談を深堀りし、提案・クロージングを行い、受注を獲得
(参考: インサイドセールスとフィールドセールスの連携ポイント! それぞれの違いや分業メリットを徹底解説 - Salesforce、2024年)
(2) The Modelにおける4部門の役割分担
The Model(ザ・モデル)とは、セールスフォースが提唱した営業体制モデルで、マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスの4部門で分業します。
The Modelの4部門:
- マーケティング: リード獲得(Web広告・展示会・ウェビナー等)
- インサイドセールス(IS): リード育成・商談化(電話・メール・オンライン会議)
- フィールドセールス(FS): 商談管理・受注(訪問 or オンライン商談)
- カスタマーサクセス(CS): 導入支援・継続利用促進・アップセル
フィールドセールスの位置づけ:
- マーケティングとインサイドセールスが獲得・育成したリードを受け取る
- 商談を深堀りし、提案・クロージングを行い、受注を獲得
- 受注後、カスタマーサクセスに引き継ぎ、継続的な顧客価値提供を支援
(参考: 営業の分業化「The Model(ザ・モデル)」をPMMが解説。各部門の役割から運用のポイントまで - GIG、2024年)
(3) 分業化のメリットと注意すべき副作用(部分最適)
分業化のメリット:
- 各部門が専門性を発揮し、営業効率が向上
- 役割が明確なため、新人育成が容易
- KPIが明確化され、成果を定量的に評価できる
- 移動時間削減(インサイドセールスが初回接触を担当)
注意すべき副作用(部分最適):
- 各部門が自分のKPIにのみ注力し、組織全体の最適化がおろそかになる
- インサイドセールスが「商談数だけを追う」結果、質の低いリードをフィールドセールスに回してしまう
- フィールドセールスが「受注率だけを追う」結果、難易度の高い案件を避け、簡単な案件だけを受注しようとする
- 部門間のコミュニケーション不足により、顧客体験が分断される
部分最適を避けるためのポイント:
- 自分のKPIだけでなく、事業全体のKPIを意識する
- 定期的にIS・FS合同ミーティングを実施し、情報共有を行う
- トスアップ基準を明確化し、定期的に見直す
(参考: 今再考する「THE MODEL」の本質-営業組織の分業化と注意すべき副作用とは - Libcon、2024年)
フィールドセールスとインサイドセールスの連携方法
(1) トスアップの具体的なフロー:BANT情報と温度感の共有
インサイドセールスからフィールドセールスへのリード引き継ぎ(トスアップ)を円滑にするには、BANT情報と顧客の温度感を共有することが重要です。
BANT情報:
- Budget(予算): 導入予算はあるか、いくらか
- Authority(決裁者): 誰が意思決定するか(担当者・上司・経営層)
- Needs(ニーズ): どのような課題を抱えているか、自社製品が解決できるか
- Timing(タイミング): いつまでに導入したいか
顧客の温度感:
- 検討フェーズ(情報収集中 / 比較検討中 / 導入決定間近)
- 競合検討状況(他社製品も検討しているか)
- 顧客の性格・コミュニケーションスタイル(メール好き / 電話好き等)
トスアップフローの例:
- インサイドセールスがBANT情報を収集し、SFA・CRMに入力
- 受注確度が高まったタイミングで、フィールドセールスにトスアップ
- フィールドセールスがBANT情報と温度感を確認し、商談準備を実施
- 商談実施
- 商談終了後、インサイドセールスへフィードバック(詳細は後述)
(参考: インサイドセールスとフィールドセールスの連携強化!トスアップフローの具体的な設計方法を6ステップで解説 - Creative Hope、2024年)
(2) SFA・CRMを活用したリアルタイム情報共有
分業体制では、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理システム)を活用したリアルタイム情報共有が不可欠です。
SFA・CRMの主な機能:
- リード情報・商談情報の一元管理
- 営業活動履歴の記録(架電・メール・訪問)
- 商談進捗の可視化(パイプライン管理)
- KPIダッシュボード(商談化率・受注率等)
リアルタイム情報共有のメリット:
- インサイドセールスとフィールドセールスが同じ情報を共有できる
- トスアップ時に、顧客情報・検討状況が即座に引き継がれる
- マネージャーが営業活動を可視化し、ボトルネックを早期発見できる
有効商談供給数(SQL)の追跡:
- SQL(Sales Qualified Lead): 営業が対応すべき質の高い見込み顧客
- インサイドセールスからフィールドセールスへの有効商談供給数を追跡することで、連携の質を評価
(参考: インサイドセールスとフィールドセールスの違い|連携のポイントも解説 - HubSpot、2024年)
(3) 商談後のフィードバック:ISへの詳細報告と改善提案
商談終了後、フィールドセールスからインサイドセールスへのフィードバックは、連携の質を高めるために重要です。
フィードバックすべき内容:
- 商談の詳細と成果(受注 / 失注 / 継続検討)
- BANT情報や顧客のニーズ、温度感が商談でどの程度役立ったか
- インサイドセールスの事前ヒアリングで不足していた情報
- 顧客の反応・課題(インサイドセールスが今後のリード育成に活かせる情報)
フィードバックのメリット:
- インサイドセールスが「どんなリードが受注しやすいか」を学習し、リード育成の質が向上
- トスアップ基準を見直し、受注率を改善
- 組織全体として営業プロセスが最適化される
フィードバックの実施方法:
- 商談終了後、SFA・CRMに商談内容を詳細に記録
- 週次・月次でIS・FS合同ミーティングを実施し、事例共有
KPI設定と必要なスキル
(1) 主要KPI:商談化率・受注率・商談数・受注金額
フィールドセールスの主要KPIは以下の通りです。
① 商談化率:
- 訪問・アポイント数に対する商談数の割合
- 例: 10件訪問して8件が商談化した場合、商談化率は80%
② 受注率:
- 商談数に対する受注数の割合
- 例: 10件商談して1件受注した場合、受注率は10%
③ 商談数:
- 月間・四半期の商談件数
- 目安: 1人あたり月間10-20件が適正
④ 受注金額:
- 月間・四半期の受注金額(売上)
- 平均受注単価も合わせて確認
⑤ 商談期間:
- 商談開始から受注までの期間
- 短縮することで営業効率が向上
(参考: 「フィールドセールスのKPI設定」10ステップ - 才流、2024年)
(2) 業界平均とトップセールスの数値(受注率10% vs 30%超)
業界平均の受注率:
- BtoB営業の平均受注率は10%程度
- 業種・商材・単価により大きく異なる(高単価商材は受注率が低い傾向)
トップセールスの受注率:
- トップセールスの受注率は30%超
- トップセールスの特徴:
- 商談前から見込み客の課題の仮説を持っている
- 潜在ニーズを顕在ニーズに昇華させる事前準備をしている
- 顧客の期待値を適切に管理し、過度な期待を持たせない
KPI設定のポイント:
- 自社の過去データと比較し、改善を図る(他社の数値は参考程度)
- トップセールスの行動を分析し、ベストプラクティスを共有
- 受注率だけでなく、受注金額・商談期間も合わせて評価
(参考: BtoB/SaaS企業必見!フィールドセールスに設定するべきKPIとは? - Zenforce、2024年)
(3) 必要なスキル:コミュニケーション能力・傾聴力・交渉力・製品知識
フィールドセールスに必要なスキルは以下の通りです。
① コミュニケーション能力:
- 顧客との信頼関係を構築する力
- 分かりやすく説明する力(プレゼンテーション力)
② 傾聴力:
- 顧客の課題・ニーズを引き出す力
- 顧客の話を遮らず、最後まで聞く姿勢
③ 交渉力:
- 契約条件(価格・納期・サポート内容等)を調整する力
- Win-Winの関係を構築する力
④ 製品知識:
- 自社製品・サービスの特徴を深く理解
- 競合との差別化ポイントを明確に説明
⑤ データ分析力:
- 営業データ(商談化率・受注率等)を分析し、改善策を導く力
- SFA・CRMを活用し、営業活動を可視化
⑥ 事前準備力(トップセールスの特徴):
- 商談前から見込み客の課題の仮説を持つ
- 潜在ニーズを顕在ニーズに昇華させる事前準備
まとめ:フィールドセールス成功のポイント
フィールドセールスは、顧客を直接訪問して商談・提案・受注を担う営業手法です。対面での信頼関係構築と複雑な提案対応が強みであり、営業分業化(The Model)において重要な役割を果たしています。
次のアクション:
- インサイドセールスとの役割分担を明確にする(商談創出 vs 受注)
- トスアップ時にBANT情報と温度感を共有する仕組みを構築
- SFA・CRMを導入し、リアルタイムで情報共有
- 商談後のフィードバックを必須化(IS・FS合同ミーティングを週次で実施)
- KPIを設定し、定量的に評価(商談化率・受注率・商談数・受注金額)
- トップセールスの行動を分析し、ベストプラクティスを共有
成功のポイントは、「インサイドセールスとの円滑な連携」と「自分のKPIだけでなく事業全体のKPIを意識すること」です。部分最適に陥らず、組織全体の最適化を目指しましょう。
2024年現在、データドリブンなフィールドセールスの手法も登場しており、効率化と成果向上の両立が求められています。対面営業の強みを活かしつつ、オンライン商談も活用するハイブリッド型の営業モデルで、営業効率と受注率の向上を目指しましょう。
※この記事は2025年12月時点の情報です。業界平均の受注率やKPIは業種・商材・企業規模により異なりますので、自社のデータと比較して改善を図ってください。
