データストアが求められる背景
B2B SaaS企業がビジネスを拡大する中で、顧客データ、取引履歴、アクセスログなど、扱うデータ量は増加の一途をたどります。「どのデータストアを選べばいいのか分からない」「既存のデータベースではパフォーマンスが出ない」といった悩みを抱えるエンジニアやシステム担当者は少なくありません。
この記事では、データストアの種類や選定基準、B2B SaaS企業での活用事例を実務視点で解説します。
この記事のポイント:
- データストアとは、データを決められた形式で永続的に保存・蓄積する機能や主体の総称
- 主な種類は、RDB、NoSQL、クラウドストレージ、データウェアハウス、ファイルシステムなど
- 選定基準は、機能要件を最優先にし、ビジネス要件・コスト・セキュリティを総合評価
- RDBは顧客管理・受注管理、NoSQLはログデータ・リアルタイム処理、DWHは分析基盤に適する
- クラウドストレージは初期投資が低く、スケーラビリティが高い
(1) データ管理の重要性とビジネスへの影響
データは現代のB2B SaaS企業にとって重要な経営資源です。顧客情報、製品利用状況、課金データなどを適切に管理することで、以下のような効果が期待できます。
- 意思決定の精度向上: データに基づいた戦略立案が可能になる
- 業務効率化: データの整合性が保たれ、重複作業や手戻りが減少
- 顧客満足度向上: 顧客行動の分析により、最適なサービス提供ができる
しかし、データ量が増えると、既存のデータ管理方法では限界が生じます。データの整合性が崩れたり、検索速度が低下したりすることで、ビジネスに悪影響を及ぼす可能性があります。
(2) データの整合性・品質維持の課題
データの整合性や品質を維持することは、企業にとって重要な課題です。
よくある課題:
- データの重複や不整合が発生し、レポート作成時に矛盾が生じる
- データが複数のシステムに分散し、統合的な分析が困難
- データのバックアップやセキュリティ対策が不十分で、データ漏洩リスクがある
これらの課題を解決するためには、用途に応じた適切なデータストアを選定し、データ管理基盤を構築することが求められます。
データストアとは:基礎知識
(1) データストアの定義
データストアとは、データを決められた形式で記憶装置に永続的に保存・蓄積する機能や主体を抽象的・総称的に表す用語です。
(出典: IT用語辞典 e-Words「データストアとは」)
データベース、ファイルシステム、クラウドストレージなど、幅広いデータ保存手段がデータストアに含まれます。
(2) データストアの役割(永続化・効率的な情報整理)
データストアの主な役割は以下の通りです。
永続化:
- データをディスクなどの記憶装置に保存し、電源を切っても消えないようにする
- システム障害時の復旧を可能にする
効率的な情報整理:
- データを構造化し、検索・集計を高速化
- データの重複を排除し、一貫性を保つ
(3) データベースとの違い
データストアとデータベースは、しばしば混同されますが、以下のような関係性があります。
- データストア: データ保存手段全般を指す広い概念
- データベース: データストアの一種で、データを管理・検索するためのソフトウェアやシステム
つまり、データベースはデータストアに含まれる概念ですが、ファイルシステムやクラウドストレージもデータストアの一種です。
データストアの種類と特徴
データストアにはさまざまな種類があり、それぞれ特徴や適した用途が異なります。
(1) リレーショナルデータベース(RDB)の特徴と用途
リレーショナルデータベース(RDB)は、データを表形式で管理し、SQL言語で操作するデータベースです。
主な特徴:
- データの整合性が高く、トランザクション処理(ACID特性)に強い
- テーブル間の関連を定義でき、複雑なクエリが可能
- 長年の実績があり、多くのエンジニアが習熟している
代表的な製品:
- PostgreSQL(オープンソース、拡張性が高い)
- MySQL(オープンソース、Webアプリケーションに広く採用)
- Oracle Database(大企業向け、高機能)
- Microsoft SQL Server(Windows環境で広く利用)
適した用途:
- 顧客管理(CRM)
- 受注管理、在庫管理
- 会計システム
(2) NoSQLデータベース(キーバリュー・ドキュメント・グラフ)の特徴と用途
NoSQLデータベースは、リレーショナルデータベース以外のデータベースの総称です。
主な種類と特徴:
キーバリューストア(Key-Value Store):
- シンプルな構造で、高速な読み書きが可能
- 代表例: Redis、Amazon DynamoDB
- 用途: セッション管理、キャッシュ
ドキュメントデータベース(Document Database):
- JSON形式などでデータを保存、柔軟なスキーマ
- 代表例: MongoDB、Amazon DocumentDB
- 用途: コンテンツ管理、カタログ情報
グラフデータベース(Graph Database):
- データ間の関係性を重視した構造
- 代表例: Neo4j、Amazon Neptune
- 用途: ソーシャルネットワーク分析、レコメンデーション
適した用途:
- 大量のログデータ・IoTデータ
- リアルタイムデータ処理
- スキーマが頻繁に変わるデータ
(3) クラウドストレージ(Amazon S3・Google Cloud Storage・Azure Blob Storage)
クラウドストレージは、インターネット経由でアクセスできるストレージサービスです。
主な特徴:
- 初期投資が低く、使った分だけ課金される従量制
- 高いスケーラビリティ(必要に応じて容量拡張)
- 自動バックアップ・冗長化でデータ保護が強固
代表的なサービス:
- Amazon S3(AWS、高い耐久性と可用性)
- Google Cloud Storage(GCP、機械学習連携に強み)
- Azure Blob Storage(Microsoft Azure、企業向けに強い)
適した用途:
- ファイル保存(画像、動画、ドキュメント)
- バックアップ・アーカイブ
- 静的Webサイトのホスティング
(4) データウェアハウス(Snowflake・Redshift・BigQuery)
データウェアハウス(DWH)は、大量のデータを集約・分析するためのデータベースシステムです。
主な特徴:
- 大量データの高速分析が可能
- BI(ビジネスインテリジェンス)ツールとの連携が容易
- 複数のデータソースを統合して分析できる
代表的な製品:
- Snowflake(マルチクラウド対応、使いやすさに定評)
- Amazon Redshift(AWS、コストパフォーマンスが高い)
- Google BigQuery(GCP、サーバーレスで運用負荷が低い)
適した用途:
- 売上分析、顧客行動分析
- ダッシュボード作成
- データマイニング
(5) オブジェクトストレージとファイルシステム
オブジェクトストレージ:
- データをオブジェクトとして管理し、メタデータを付与
- スケーラビリティが高く、クラウドストレージで広く採用
- 代表例: Amazon S3、Google Cloud Storage
ファイルシステム:
- ディレクトリとファイルの階層構造でデータを管理
- 代表例: NFS(Network File System)、Windows共有フォルダ
- 用途: 社内ファイルサーバー、開発環境
データストアの選定基準
データストアを選定する際は、以下の観点から総合的に評価することが重要です。
(1) 機能要件を最優先に選定(製品ありきで選ばない)
データストア選定時の最も重要なポイントは、「機能要件を最優先にする」ことです。
(出典: Qiita「データストアの選択基準」)
NG例:
- 「流行っているからMongoDBを使おう」
- 「Snowflakeが有名だから導入しよう」
推奨アプローチ:
- 自社のビジネス要件を明確にする(どのようなデータをどう使うか)
- 必要な機能をリストアップする(トランザクション処理、大量データ分析など)
- 機能要件に合うデータストアを複数候補に挙げる
- コスト、運用負荷、セキュリティなどを比較して決定
(2) ビジネス要件・コスト・セキュリティの総合評価
データストアの選定には、以下の3つの観点が重要です。
(出典: TROCCO®「データストアとは?種類や導入する際のポイントを徹底解説」)
ビジネス要件:
- 必要なパフォーマンス(読み書き速度、同時接続数)
- データ量の増加見込み(スケーラビリティ)
- データの一貫性要件(トランザクション処理の必要性)
コスト:
- 初期投資(ライセンス費用、サーバー費用)
- 運用コスト(保守費用、クラウド利用料)
- 人的コスト(運用管理の工数)
セキュリティ:
- データの暗号化(保存時、転送時)
- アクセス制御(誰がどのデータにアクセスできるか)
- 監査ログ(アクセス履歴の記録)
(3) ワークロードパターン・スケール・一貫性・ガバナンスの観点
Microsoft Azureのアーキテクチャガイドでは、以下の観点でデータストアを評価することを推奨しています。
(出典: Microsoft Learn「データ ストア モデルを理解する」)
ワークロードパターン:
- 読み取りが多いか、書き込みが多いか
- バッチ処理か、リアルタイム処理か
スケール:
- データ量の増加に対応できるか
- 水平スケール(サーバー台数を増やす)が可能か
一貫性:
- トランザクション処理が必要か(ACID特性)
- 結果整合性で許容できるか(NoSQLの多くはこちら)
ガバナンス:
- データのライフサイクル管理(保管期間、削除ルール)
- コンプライアンス要件(個人情報保護、業界規制)
(4) クラウドストレージ vs オンプレミスの判断基準
クラウドストレージとオンプレミスのデータストア、どちらを選ぶかは、企業の状況により異なります。
クラウドストレージのメリット:
- 初期投資が低い(サーバー購入不要)
- スケーラビリティが高い(容量を柔軟に拡張)
- 運用管理負荷が小さい(ベンダーが管理)
オンプレミスのメリット:
- データの物理的管理が可能(セキュリティポリシーが厳格な業界向け)
- カスタマイズ性が高い(自社要件に合わせた構築)
中小〜中堅B2B SaaS企業の場合:
- コスト効率とスケーラビリティから、クラウドストレージが推奨される
- セキュリティ要件が厳格な場合は、ハイブリッド構成(重要データはオンプレミス、その他はクラウド)を検討
B2B SaaS企業でのデータストア活用事例
B2B SaaS企業では、用途に応じて複数のデータストアを使い分けるケースが一般的です。
(1) RDB:トランザクションデータ管理(顧客管理・受注管理)
活用例:
- 顧客情報管理(CRM): 顧客の基本情報、契約情報、問い合わせ履歴をRDBで管理
- 受注管理: 注文情報、請求情報をトランザクション処理で正確に記録
選定理由:
- データの整合性が重要(二重課金、データ不整合の防止)
- 複数のテーブルを関連付けた検索が必要(顧客ごとの受注履歴など)
(2) NoSQL:大量ログデータ・リアルタイムデータ処理
活用例:
- アプリケーションログ: ユーザーの操作ログ、エラーログをMongoDBやDynamoDBに保存
- リアルタイム分析: ユーザーの行動データをRedisでキャッシュし、高速に集計
選定理由:
- 大量データの書き込みが発生する
- スキーマが頻繁に変わる可能性がある
- 高速な読み書きが求められる
(3) クラウドストレージ:ファイル保存・バックアップ
活用例:
- ユーザーアップロードファイル: 顧客が作成したドキュメント、画像をAmazon S3に保存
- バックアップ: データベースのバックアップをクラウドストレージに定期保存
選定理由:
- 大容量ファイルの保存に適している
- 高い耐久性(99.999999999%の耐久性を保証)
- コストパフォーマンスが高い
(4) DWH:ビジネスインテリジェンス・分析基盤
活用例:
- 売上分析: 複数のデータソース(CRM、課金システム、Webアクセスログ)を統合し、Snowflakeで分析
- ダッシュボード作成: BIツール(Tableau、Lookerなど)と連携し、経営指標を可視化
選定理由:
- 大量データの集計・分析が必要
- 複数のデータソースを統合したい
- BIツールとの連携が容易
(5) 用途別の使い分けパターン
B2B SaaS企業の典型的な構成例:
パターン1(小規模スタートアップ):
- PostgreSQL(顧客管理、受注管理)
- Amazon S3(ファイル保存)
- 分析はPostgreSQLから直接抽出(データ量が少ないうちは十分)
パターン2(成長期の中堅企業):
- PostgreSQL(顧客管理、受注管理)
- MongoDB(ログデータ、セッション管理)
- Amazon S3(ファイル保存、バックアップ)
- Snowflake(データウェアハウス、分析基盤)
パターン3(大規模企業):
- PostgreSQL(トランザクション処理)
- DynamoDB(リアルタイム処理、高トラフィック対応)
- Amazon S3(ファイル保存、データレイク)
- Redshift(データウェアハウス)
- ElasticSearch(全文検索)
まとめ:適切なデータストア選定でデータ管理基盤を構築
データストアの選定は、B2B SaaS企業がビジネスを拡大する上で重要な意思決定です。機能要件を最優先に選定し、ビジネス要件・コスト・セキュリティを総合的に評価することが求められます。
この記事のまとめ:
- データストアには、RDB、NoSQL、クラウドストレージ、データウェアハウスなど、多様な種類がある
- RDBは顧客管理・受注管理、NoSQLはログデータ・リアルタイム処理に適する
- クラウドストレージは初期投資が低く、スケーラビリティが高い
- データウェアハウスは大量データの分析基盤として有用
- 用途に応じて複数のデータストアを使い分けることが一般的
次のアクション:
- 自社のデータ管理課題を整理する(どのデータをどう使いたいか)
- 機能要件をリストアップする(トランザクション処理、分析、ファイル保存など)
- 複数のデータストアの公式サイトで最新の料金・機能を確認する
- 小規模から試行し、段階的に拡大するアプローチを検討する
適切なデータストアを選定し、データ管理基盤を構築することで、ビジネスの成長を支える強固な土台を築きましょう。
※この記事は2024年11月時点の情報です。最新の料金・機能は各サービスの公式サイトをご確認ください。
