B2B営業で成果が伸び悩んでいませんか?
「顧客との関係構築に力を入れているのに、なぜか受注率が上がらない」「既存の営業手法に限界を感じている」——B2B企業の営業マネージャーやチームリーダーの多くが、こうした悩みを抱えています。
実は、従来の「関係構築型営業」が必ずしも高い成果につながらないことが、大規模な調査によって明らかになっています。マシュー・ディクソンとブレント・アダムソンは、4年間にわたり90社6,000人以上の営業担当者を分析し、「チャレンジャーセールスモデル」という新しい営業手法を提唱しました。
この記事では、チャレンジャーセールスモデルの概念・実践方法・導入事例を詳しく解説します。B2B営業の成果向上を目指す実務担当者の方に、具体的なヒントをお届けします。
この記事のポイント:
- チャレンジャーセールスモデルは4年間90社6,000人の大規模調査から生まれた営業手法
- 5つの営業タイプのうち、ハイパフォーマーの54%がチャレンジャータイプ
- 「指導」「適応」「支配」の3要素が商談成約の鍵を握る
- 伊藤忠テクノソリューションズでは7割の営業担当に明確な変化が見られた
- B2B複雑商材(SaaS、IT、コンサルティング等)での適用が特に有効
チャレンジャーセールスモデルとは
チャレンジャーセールスモデルは、CEB(現Gartner)のマシュー・ディクソンとブレント・アダムソンが提唱した営業手法です。従来の営業の常識を覆す、データに基づいたアプローチとして注目を集めています。
(1) 従来の営業の常識を覆した研究(4年間90社6,000人の大規模調査)
2011年に発表された原著「The Challenger Sale」は、4年間にわたり90社6,000人以上の営業担当者を分析した大規模な調査に基づいています。この調査により、従来「関係構築が最も重要」とされていた営業の常識が、必ずしも成果に直結しないことが明らかになりました。
調査の結果、営業担当者は5つのタイプに分類され、それぞれの成果に大きな差があることが判明しました。特に複雑な販売環境では、「チャレンジャー」と呼ばれるタイプが圧倒的な成果を上げていたのです。
(参考: マシュー・ディクソン、ブレント・アダムソン「チャレンジャー・セールス・モデル」(海と月社))
(2) 2025年の営業トレンド(IT進化と購買行動の複雑化)
2025年現在、IT技術の進化により顧客の購買行動はさらに複雑化しています。顧客は営業担当者と接触する前に、インターネットで多くの情報を収集するようになりました。その結果、営業担当者には「顧客自身も気づいていない課題を指摘し、交渉を有利に進める力」が求められています。
チャレンジャーセールスモデルは、このような環境変化に適した営業手法として、再び注目を集めています。情報と専門知識を感情より重視し、結果を出す自信に満ちた営業チームを作ることが、現代の営業には不可欠です。
(参考: 月刊タレンタル「ハイパフォーマーが実践するチャレンジャーセールスモデルとは?」)
(3) 原著書籍「The Challenger Sale」の概要
チャレンジャーセールスモデルは、単なる営業テクニックではなく、顧客との関係性を根本から見直す営業哲学です。原著では、「顧客がまだ気づいていない問題や課題を指摘し、より良い解決策を提案する」というアプローチが詳しく解説されています。
重要なのは、「挑戦する」とは強引に押し付ける意味ではない、という点です。顧客に新しい視点を提供し、顧客自身の考え方や行動を変容させることが、チャレンジャーの本質です。
5つの営業タイプと特徴
大規模調査により、営業担当者は以下の5つのタイプに分類されることが明らかになりました。
(1) ハードワーカー(勤勉型)
向上心が高く、圧倒的な行動量で受注を獲得する営業タイプです。常に学び、努力を惜しまない姿勢が特徴ですが、行動量だけでは複雑な商談には対応しきれない場合があります。
(2) リレーションシップビルダー(関係構築型)
顧客との関係構築を最も得意とする営業タイプです。実は、このタイプは最も広く採用されていますが、調査によると営業実績は最も低いという結果が出ています。関係構築は重要ですが、それだけでは成果につながらないのが現実です。
(参考: type「「営業」を根本から見直す!本当に成果を出す営業タイプは●●ができる」)
(3) ローンウルフ(一匹狼型)
直感的な営業で成果を上げる一匹狼タイプです。独自のやり方で結果を出しますが、そのアプローチを組織全体に展開することが難しいという課題があります。
(4) リアクティブ・プロブレムソルバー(受動的問題解決型)
顧客との約束を最優先し、サービス精神が旺盛な営業タイプです。顧客の要望に迅速に対応しますが、受け身の姿勢になりがちで、商談の主導権を握りにくい面があります。
(5) チャレンジャー(論客型)
社内外問わず発展的な議論を展開する論客タイプです。顧客に新しい視点や洞察を提供し、商談をリードする力に優れています。
(6) 各タイプの成果比較(ハイパフォーマーの54%がチャレンジャー)
調査の最も重要な発見は、複雑な販売環境でのハイパフォーマーの54%がチャレンジャータイプだったという点です。一方、最も広く採用されているリレーションシップビルダーは、実績が最も低いという結果でした。
チャレンジャーは景気の好不況にかかわらず安定した成果を出す傾向があり、特にB2B複雑商材の営業で圧倒的な優位性を発揮します。
(参考: Mazrica「チャレンジャーセールスモデルとは?これからの営業に求められる力」)
チャレンジャーの3つの核となる要素
チャレンジャーセールスモデルは、「指導(Teaching)」「適応(Tailoring)」「支配(Taking Control)」の3つの要素で構成されています。
(1) 指導(Teaching): 顧客に新しい視点・洞察を提供
**指導(Teaching)**とは、顧客に新しい視点や洞察を提供し、考え方や行動を変容させるスキルです。単に製品やサービスを説明するのではなく、「顧客がまだ気づいていない課題」を指摘し、より良い解決策を提案します。
例えば、顧客が「営業効率化ツールが欲しい」と考えている場合、チャレンジャーは「そもそも営業プロセスに無駄が多い可能性がある」と指摘し、プロセス改善とツール導入を組み合わせた提案を行います。
(参考: flier「チャレンジャー・セールス・モデル / 成約に直結させる「指導」「適応」「支配」」)
(2) 適応(Tailoring): ステークホルダー間のコンセンサス形成
**適応(Tailoring)**とは、顧客組織内のステークホルダー間でコンセンサスを形成するためにメッセージやアプローチをカスタマイズするスキルです。
B2B商談では、経営層・現場担当者・IT部門など、複数のステークホルダーが関与します。それぞれの関心事や優先順位は異なるため、各ステークホルダーに合わせたメッセージを伝える必要があります。
例えば、経営層には「ROI(投資対効果)」、現場担当者には「業務効率化」、IT部門には「システム連携」といった形で、それぞれの視点に合わせた価値を提示します。
(3) 支配(Taking Control): 商談の主導権を握る
**支配(Taking Control)**とは、商談の主導権を握り、複雑なB2B購買プロセスの遅延を管理するスキルです。
B2B商談では、意思決定に時間がかかるケースが多く、遅延が発生しがちです。チャレンジャーは、「いつまでに何を決めるか」を明確にし、顧客と一緒にスケジュールを管理することで、商談をスムーズに進めます。
(4) 具体的な商談シーンでの実践例
例えば、SaaS営業の商談では以下のように実践できます:
指導: 「御社の営業チームは属人化が課題では?データ共有の仕組みがあれば、チーム全体の生産性が30%向上する可能性があります」
適応: 「営業部長様にはチーム生産性向上のメリットを、現場リーダー様には日々の業務効率化のメリットを、それぞれご説明します」
支配: 「今週中にトライアル開始のご判断をいただければ、来月の営業会議に間に合います。スケジュールを一緒に確認しましょう」
(参考: 01START「成果の出る営業「チャレンジャーセールスモデル」とは?(2)商談成約に繋がる「指導」の方法を解説」)
チャレンジャーセールスの導入・実践方法
チャレンジャーセールスモデルを組織に導入するには、段階的なアプローチが必要です。
(1) 組織内のチャレンジャーを特定する
まず、自社の営業チーム内で高い成果を上げているチャレンジャータイプの担当者を特定します。彼らがどのようなアプローチで商談を進めているか、具体的な行動パターンを観察・分析します。
(2) アプローチをモデル化して全営業組織に展開
チャレンジャーの特徴は再現可能であり、平均的な営業担当者にも教えられることが分かっています。特定したチャレンジャーのアプローチをモデル化し、ワークショップ形式で全営業チームに手法を紹介します。
(参考: Challenger Inc.「What is the Challenger Sales Methodology?」)
(3) 商業変革プログラム(スキル開発・メッセージ作成・実装サポート)
導入には、以下の3つの要素を含む商業変革プログラムが有効です:
- スキル開発: 「指導」「適応」「支配」のスキルを段階的にトレーニング
- メッセージ作成: 顧客に提供する「新しい視点」を具体的に設計
- 実装サポート: 実際の商談でのフィードバックと改善を繰り返す
(参考: プログレス アンド パートナーズ「チャレンジャーセールスモデルとは? B2B営業の進化に向けた導入と実践を解説」)
(4) 導入の障壁(営業文化の変革抵抗)と対処法
従来の関係構築型営業に慣れた組織では、チャレンジャーアプローチへの移行に抵抗が生じる可能性があります。「顧客に挑戦するなんて失礼では?」という懸念を持つメンバーもいるでしょう。
対処法としては、以下が挙げられます:
- 「挑戦する」の本質(顧客の課題発見と解決策提案)を丁寧に説明する
- 小規模なパイロットプログラムで成果を示す
- 経営層が率先してチャレンジャーアプローチを支持する
成功事例と他営業手法との比較
(1) 伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の事例(7割の営業担当に変化)
伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)では、チャレンジャーセールスモデルを具体的な行動に翻訳し、営業組織全体に展開しました。その結果、7割の営業担当に明確な変化が見られたと報告されています。
CTCの成功のポイントは、チャレンジャーの抽象的な概念を「具体的な行動」に落とし込んだことです。現場の営業担当者が実践しやすい形に変換することで、行動変容を促進しました。
(参考: SalesZine「「7割の営業担当に明らかな変化」 伊藤忠テクノソリューションズのチャレンジャー・セールス・モデル実践」)
(2) Googleの営業チームのDX支援事例
Googleの営業チームは、企業のDX支援のために「チャレンジャーセール」手法を採用しています。顧客と対等に議論し、共に変革の未来を目指す能力を重視することで、複雑なDXプロジェクトの受注に成功しています。
(3) SPIN営業・ソリューションセリングとの違い
チャレンジャーセールスは、他の営業手法とどう違うのでしょうか?
SPIN営業:
- Situation(状況)、Problem(問題)、Implication(示唆)、Need-payoff(解決)の質問技法
- 顧客のニーズを引き出すことに重点を置く
- チャレンジャーは「顧客が気づいていない課題を指摘する」点で異なる
ソリューションセリング:
- 顧客の課題に対してソリューションを提案する手法
- チャレンジャーは「新しい視点の提供」により、課題そのものを再定義する
チャレンジャーセールスは、これらの手法と対立するものではなく、組み合わせることでより効果を発揮します。
(4) 適用が有効な商材(B2B複雑商材・SaaS・IT・コンサルティング等)
チャレンジャーセールスモデルは、特に以下のような商材で有効です:
- B2B複雑商材: 購買プロセスが複雑で、複数のステークホルダーが関与
- SaaS: 導入効果を示すには顧客の業務プロセス理解が必要
- IT: 技術的な専門知識を活かして顧客に新しい視点を提供できる
- コンサルティング: 顧客の課題発見と解決策提案が中核
一方、シンプルな商材や短期決済型の営業(例: 日用品の小売営業)では、他の営業手法が適している場合もあります。
まとめ:自社への適用可能性を見極めよう
チャレンジャーセールスモデルは、B2B営業の成果向上に大きな可能性を秘めた手法です。4年間90社6,000人以上の調査に基づく科学的なアプローチであり、再現性のある営業手法として注目されています。
「指導」「適応」「支配」の3要素を実践することで、複雑なB2B商談でも高い成果を上げることができます。伊藤忠テクノソリューションズやGoogleなど、多くの企業で導入実績があり、7割の営業担当に明確な変化をもたらした事例もあります。
次のアクション:
- 自社の営業チーム内で高い成果を上げているチャレンジャータイプを特定する
- 原著書籍「The Challenger Sale」を読み、概念を深く理解する
- 小規模なパイロットプログラムで効果を検証する
- 商業変革プログラム(スキル開発・メッセージ作成・実装サポート)を計画する
ただし、すべての業種・商材に適しているわけではありません。自社の商材・顧客・営業プロセスに照らし合わせて、適用可能性を慎重に見極めることが重要です。
※この記事は2025年11月時点の情報です。最新の研究成果や導入事例については、各種公式サイトをご確認ください。
