年間予算の立て方|B2B企業の予算策定プロセスと管理手法

著者: B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部公開日: 2025/12/16

来期の予算、どのように策定・管理していますか?

「予算策定に時間がかかりすぎて、肝心の実行に手が回らない」 「予算を立てても、四半期ごとに大きく乖離してしまう」

B2B企業の経営企画・財務担当者にとって、年間予算の策定と管理は重要かつ負担の大きい業務です。しかし、適切な予算策定プロセスと管理手法を確立することで、組織全体の目標達成と資源配分の最適化が可能になります。

この記事では、年間予算の基礎知識から、策定プロセス、部門別予算の考え方、予算管理のポイントまで、B2B SaaS企業の実務で活用できる形で解説します。

この記事のポイント:

  • 年間予算は1年間の売上・費用・利益の目標値を設定した経営計画
  • 策定方式はトップダウンとボトムアップの併用が効果的
  • 大企業は決算月の5-6か月前から策定を開始するのが一般的
  • 月次での予実管理と差異分析が予算達成の鍵
  • 市場環境の変化に応じた四半期見直しの仕組みが重要

1. なぜ年間予算が企業経営に重要なのか

年間予算は単なる「数字の計画」ではなく、企業経営における重要な役割を担っています。

目標の明確化と共有: 年間予算を策定することで、組織全体で達成すべき目標が明確になります。各部門が同じ方向を向いて活動するための共通言語として機能します。

資源配分の最適化: 限られた経営資源(人・モノ・カネ)をどこに配分するかの判断基準になります。売上成長に投資するのか、コスト削減に注力するのかなど、戦略的な意思決定を数字で裏付けます。

計画と実績の比較基準: 予算があることで、「計画通りに進んでいるか」「どこに問題があるか」を定量的に評価できます。問題の早期発見と対策につながります。

財務健全性の維持: 収入と支出のバランスを事前に計画することで、資金ショートを防ぎ、健全な財務状態を維持できます。

外部との信頼構築: 投資家や金融機関に対して、計画的な経営を行っていることを示す材料になります。

2. 年間予算の基礎知識:定義と種類

(1) 年間予算とは何か(売上予算・経費予算・利益予算)

年間予算とは、企業が1年間の事業活動について、売上高や費用、利益などの目標値を設定した計画です。1会計年度(通常12か月)を対象とします。

年間予算の主な構成要素:

売上予算: 年間の売上目標を設定します。B2B SaaS企業の場合、ARR(年間経常収益)やMRR(月間経常収益)を基準にすることが多いです。

経費予算: 売上を達成するために必要な費用を計画します。

  • 人件費(給与、賞与、採用費など)
  • マーケティング費(広告、イベント、コンテンツ制作など)
  • 開発費(システム開発、外注費など)
  • 一般管理費(オフィス賃料、通信費など)

利益予算: 売上高から費用を差し引いた利益の目標値です。

  • 粗利益(売上高 - 売上原価)
  • 営業利益(粗利益 - 販管費)
  • 経常利益(営業利益 + 営業外収益 - 営業外費用)

(2) 予算策定と予算編成の違い

「予算策定」と「予算編成」は似た言葉ですが、意味が異なります。

予算策定: 年間の利益目標から、売上予算と経費予算を決めるプロセスです。「何を達成するか」の目標設定に焦点があります。

予算編成: 売上予算や経費予算など、複数の予算を事業計画にまとめあげるプロセスの総称です。「どう組み上げるか」の作業全体を指します。

関連用語:

  • 予算管理: 月次での予算計画と実績の追跡・分析
  • 予実管理: 予算と実績を比較管理すること(予算管理とほぼ同義)

3. 予算策定プロセス:トップダウンとボトムアップの使い分け

(1) トップダウン方式の特徴と適用場面

トップダウン方式は、経営層が利益目標を決定し、各部門がその目標に基づいて予算を検討する方式です。

メリット:

  • 経営戦略との整合性が取りやすい
  • 全社的な視点で資源配分を最適化できる
  • 策定スピードが速い

デメリット:

  • 現場の実態と乖離する可能性がある
  • 現場のモチベーションが下がりやすい
  • 細部の見落としが生じる可能性がある

適用場面:

  • 大きな戦略転換が必要な時期
  • 経営環境が急変し、迅速な対応が必要な場合
  • 組織が小規模で、経営層が現場を把握している場合

(2) ボトムアップ方式の特徴と適用場面

ボトムアップ方式は、現場レベルから予算案を積み上げる方式です。

メリット:

  • 現場の実態に即した現実的な予算になりやすい
  • 現場のコミットメントが得られやすい
  • 詳細な計画が立てられる

デメリット:

  • 全社最適より部門最適に偏りやすい
  • 策定に時間がかかる
  • 保守的な予算になりがち

適用場面:

  • 組織規模が大きく、経営層が現場の詳細を把握しにくい場合
  • 現場の専門性が高い事業領域
  • 現場のモチベーションを重視する場合

(3) 両方式の併用アプローチ

実務では、トップダウンとボトムアップを併用するアプローチが効果的とされています。

併用アプローチの進め方:

  1. 経営層がガイドラインを提示(トップダウン)

    • 全社の利益目標、成長率目標
    • 重点投資領域、コスト削減方針
    • 各部門への大枠の配分方針
  2. 各部門が具体的な予算案を作成(ボトムアップ)

    • 部門目標の設定
    • 必要な施策と費用の積み上げ
    • 人員計画、投資計画の検討
  3. すり合わせと調整

    • 経営層と各部門の認識合わせ
    • 全体最適の視点での調整
    • 合意形成と最終決定

予算策定のタイムライン: 大企業は決算月の5-6か月前から予算策定を開始し、決算月の前月中に予算を決定するのが一般的です。中小企業でも3-4か月前から着手することが推奨されます。

4. 部門別予算の考え方と配分のポイント

(1) マーケティング予算(CAC・LTV連動)

B2B SaaS企業のマーケティング予算は、CAC(顧客獲得コスト)とLTV(顧客生涯価値)を基準に設計することが一般的です。

マーケティング予算の考え方:

  • 目標ARR(年間経常収益)から逆算
  • 必要な新規顧客数を算出
  • 目標CACを設定
  • 必要なマーケティング投資額を決定

主な予算項目:

  • 広告費(リスティング、ディスプレイ、SNSなど)
  • コンテンツマーケティング費(記事制作、動画制作など)
  • イベント費(展示会、ウェビナーなど)
  • ツール費(MAツール、分析ツールなど)
  • 人件費(マーケティング部門の人件費)

成長フェーズによる違い:

  • アーリーステージ: 売上の20-30%をマーケティングに投資するケースも
  • 成長期: 売上の10-20%程度が目安
  • 成熟期: 売上の5-10%程度が目安

※上記は一般的な傾向であり、業種や競争環境によって異なります。

(2) 営業予算・開発予算の配分基準

営業予算: 営業予算は、売上目標から必要な商談数・営業人員を逆算して設計します。

  • 営業人件費(基本給、インセンティブ)
  • 営業活動費(交通費、接待費など)
  • SFA/CRMツール費
  • 研修・トレーニング費

開発予算: 開発予算は、プロダクトロードマップに基づいて設計します。

  • 開発人件費(エンジニア、デザイナーなど)
  • インフラ費(サーバー、クラウドサービスなど)
  • 外注・業務委託費
  • ツール・ライセンス費

配分のポイント:

  • 経営戦略(成長重視 vs 収益性重視)との整合性
  • 過去の実績と効果検証の結果
  • 市場環境と競争状況
  • 組織のキャパシティ(採用可能性など)

5. 予算管理と四半期見直しの進め方

(1) 月次での予実管理と差異分析

予算を策定しただけでは意味がありません。**月次での予実管理(予算と実績の比較分析)**が重要です。

予実管理の進め方:

  1. 月次での実績収集

    • 売上実績、経費実績を締め日に集計
    • できるだけ早く(月末から5-10営業日以内に)
  2. 予算との差異分析

    • 予算と実績の差額を算出
    • 差異の原因を分析(外部要因 vs 内部要因)
    • 一時的な要因 vs 構造的な要因を区別
  3. 対策の検討と実行

    • 差異が大きい項目について対策を検討
    • 改善施策の実行と効果検証

差異分析のポイント:

  • 金額だけでなく、比率(対予算比、前年同月比)も確認
  • 「なぜそうなったか」の原因追求を重視
  • 良い差異(予算超過)も分析し、成功要因を把握

(2) 市場環境変化への柔軟な対応

年間予算は策定時点での前提に基づいていますが、市場環境は常に変化します。柔軟に対応するための仕組みが必要です。

四半期見直しの進め方:

  1. 四半期ごとの振り返り

    • 第1四半期終了時点で、予算の前提が変わっていないか確認
    • 市場環境、競争環境、自社の状況を再評価
  2. 見通しの修正(フォーキャスト)

    • 残り期間の着地見込みを更新
    • 必要に応じて施策の優先順位を見直し
  3. 予算修正の判断

    • 大きな環境変化がある場合は予算自体を修正
    • 安易な下方修正は避け、達成に向けた努力を優先

予算管理ツールの活用: Excelベースの予算管理は、部門数が多い場合や予算項目が複雑な場合、入力ミスや集計ミスが発生しやすくなります。予算管理システムを導入することで、以下のメリットが得られます。

  • 入力ミスの防止
  • 集計・分析の自動化
  • リアルタイムでの進捗確認
  • 複数部門間の連携強化

※システム導入にはコストがかかるため、自社の規模や予算管理の複雑度に応じて検討してください。

6. まとめ:予算策定・管理成功のチェックリスト

年間予算の策定と管理は、企業経営において重要な役割を担っています。経営戦略との整合性を保ちながら、現場の実態を反映した予算を策定し、月次で進捗を管理することが成功の鍵です。

予算策定・管理チェックリスト:

  • 経営戦略と連動した利益目標を設定しているか
  • トップダウンとボトムアップを併用しているか
  • 予算策定のタイムラインを明確にしているか(5-6か月前から開始)
  • 部門別予算の配分根拠が明確か(CAC/LTV連動など)
  • 月次での予実管理の仕組みがあるか
  • 差異分析と原因追求を行っているか
  • 四半期ごとの見直しタイミングを設けているか
  • 市場環境変化に応じた柔軟な対応ができているか

次のアクション:

  • 来期の予算策定スケジュールを設定する
  • 経営層と各部門で目標のすり合わせを行う
  • 月次予実管理の運用ルールを整備する
  • 四半期見直しのタイミングをカレンダーに入れる

予算策定は時間と労力がかかる作業ですが、組織の方向性を揃え、限られた資源を有効活用するために欠かせないプロセスです。計画と実績を継続的に見比べながら、PDCAサイクルを回していきましょう。

よくある質問

Q1予算策定はいつから始めればよいですか?

A1大企業は決算月の5-6か月前から開始し、決算月の前月中に決定するのが一般的です。中小企業でも3-4か月前から着手することが推奨されます。

Q2トップダウンとボトムアップ、どちらを選ぶべきですか?

A2両方の併用が効果的です。経営層が利益目標やガイドラインを示し、現場が実現可能な予算案を積み上げ、すり合わせを行うアプローチが推奨されます。

Q3Excelでの予算管理から移行すべきですか?

A3部門数が多い場合や予算項目が複雑な場合は、予算管理システムの導入を検討してください。入力ミス防止、集計・分析の自動化、時間コスト削減などのメリットがあります。

Q4予算と実績の乖離が大きい場合どうすべきですか?

A4月次で差異分析を行い、原因を特定します。市場環境の変化が原因なら予算修正を検討し、実行の問題が原因なら施策を改善します。安易な下方修正は避け、まずは達成に向けた努力を優先しましょう。

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B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部

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