MRRを「月次売上の集計値」で終わらせていませんか
結論から言えば、MRRは定義と計算方法を理解するだけでなく、MA/SFAによる可視化と部門横断の改善サイクルを構築することで、事業成長を加速させる経営指標として機能します。
MRR(Monthly Recurring Revenue) とは、サブスクリプション型ビジネスで毎月継続的に得られる予測可能な収益です。初期費用や一時収益を除いた月額課金ベースの売上を指します。
日本上場SaaS企業のARR(年次経常収益)を見ると、2025年2月時点でラクス約403億円、マネーフォワード約319億円となっています(First Light Capital統計)。上場SaaS企業12社がARR100億円を超え、トップ5社のCAGR(年平均成長率)は25%以上と報告されています。
しかし、MRRを単なる「月次売上の集計値」として扱い、各種MRR(New/Expansion/Downgrade/Churn)の内訳分析や改善アクションに繋げていないケースが多いのが実情です。この考え方では、MRRを経営指標として活用する機会を逃しています。
この記事で分かること
- MRRの定義と基本的な計算方法
- 4種類のMRR(New/Expansion/Downgrade/Churn)の違い
- MRRとARR・NRRの関係性
- MRRを改善するための実践アプローチ
- 部門横断でMRRを管理・改善する方法
MRRの定義と基本的な計算方法
MRRの基本計算式は「月額利用料 × 顧客数」です。サブスクリプション型ビジネスにおいて、毎月どれだけの継続収益が見込めるかを把握するための指標となります。
(例)月額5,000円のサービスを1,000人が利用している場合 MRR = 5,000円 × 1,000人 = 500万円
MRRの計算において注意すべき点は、継続課金のみを対象とすることです。初期費用、スポット収益、コンサルティング費用などの一時収益は含みません。定価ではなく、割引適用後の実際の課金金額で計算することも重要です。
年間契約の場合の計算方法
年間契約の場合は、契約金額を12で割って月額換算します。
(例)年間契約120万円の顧客が10社の場合 MRR = 120万円 ÷ 12 × 10社 = 100万円
年間契約と月額契約が混在している場合は、それぞれ計算した上で合算します。
MRRの種類と計算方法
MRRは4種類に分解して分析することで、事業の健全性や成長要因を詳細に把握できます。SaaS Quick Ratioは、MRRの増減バランスを見る指標で、(New MRR + Expansion MRR)÷(Downgrade MRR + Churn MRR)で算出されます。この値が4以上の場合、ビジネスの安定性・成長性が高いと判断されます。
【比較表】MRR 4種類比較表
| MRRの種類 | 定義 | 計算式 | 改善施策 |
|---|---|---|---|
| New MRR | 新規顧客から得た月次経常収益 | 新規顧客数 × 月額単価 | マーケティング施策強化、リード獲得チャネル拡大 |
| Expansion MRR | 既存顧客のアップグレード・追加契約による増加分 | アップグレード前後の差額の合計 | アップセル・クロスセル施策、CS部門との連携 |
| Downgrade MRR | 既存顧客のプランダウングレードによる減少分 | ダウングレード前後の差額の合計 | 価値訴求の強化、利用状況モニタリング |
| Churn MRR | 解約による減少分 | 解約顧客の月額料金の合計 | 解約予兆検知、オンボーディング改善 |
New MRRとExpansion MRR(成長要因)
New MRRは、新規顧客から得た月次経常収益です。マーケティング施策の成果を測る主要指標として活用できます。
Expansion MRRは、既存顧客がプランをアップグレードしたり、追加サービスを契約したりすることで増加する収益です。新規獲得コストがかからないため、効率的な収益拡大手段として注目されています。
Downgrade MRRとChurn MRR(減少要因)
Downgrade MRRは、既存顧客がより安価なプランにダウングレードした際の減少分です。
Churn MRRは、顧客が契約を解約したことによる減少分の収益です。解約MRRとも呼ばれます。
(例)月額10万円の顧客が月額5万円のプランにダウングレードした場合 Downgrade MRR = 10万円 - 5万円 = 5万円
MRRとARR・NRRの違い
MRRと関連する指標として、ARR(年次経常収益)とNRR(売上維持率)があります。それぞれの違いを理解し、適切に使い分けることが重要です。
ARRとの違いと使い分け
ARR(Annual Recurring Revenue) は、年次経常収益を意味し、MRR×12で算出されます。年間契約中心のサービスで重視される指標です。
日本上場SaaS企業のARRを見ると、ラクス約403億円、マネーフォワード約319億円と報告されています(First Light Capital統計、2025年2月)。上場SaaS企業12社がARR100億円を超えており、トップ5社のCAGR(年平均成長率)は25%以上となっています。
月次での変動を細かく追いたい場合はMRR、年間の事業計画策定や投資家向け報告にはARRを使用することが一般的です。
NRR(売上維持率)との違い
NRR(Net Revenue Retention) は、売上維持率を意味し、既存顧客の収益増減率を示す指標です。100%を超えると「ネガティブチャーン」を達成していることになります。これは、解約やダウングレードによる減少を、アップセルやクロスセルによる増加が上回っている状態です。
GRR(総収入維持率) の相場は、中小企業向けSaaSで80%、大企業向けSaaSで90%とされています。NRR100%超を達成することで、既存顧客だけで収益が拡大していく好循環を生み出せます。
新規獲得だけに注力していては持続的な成長は困難です。既存顧客の維持と拡大が重要であることを示す指標がNRRです。
MRRを改善する実践アプローチ
MRRを改善するためには、4種類のMRRそれぞれに対応した施策を、部門横断で実行することが重要です。MRRを単なる集計値として扱うのではなく、改善サイクルを回す経営指標として活用することで、事業成長を加速させることができます。
freee社の事例では、売上高CAGRの見通しが+25-30%(FY26-27)、MidセグメントのARPU期待が最大6倍と報告されています(freee IR資料)。このような成長を実現するためには、MRRの各要素を可視化し、改善施策を継続的に実行することが不可欠です。
【チェックリスト】MRR改善チェックリスト
- MRRを4種類(New/Expansion/Downgrade/Churn)に分解して計測している
- SaaS Quick Ratioを算出し、定期的にモニタリングしている
- New MRRに対するマーケティング施策の貢献度を可視化している
- リード獲得から成約までのファネルをCRM/SFAで管理している
- Expansion MRRを増やすアップセル施策を実施している
- 既存顧客の利用状況をモニタリングする仕組みがある
- CS部門がダウングレード・解約の予兆を検知できる体制がある
- 解約理由を分析し、プロダクト改善に反映している
- マーケ・営業・CS部門がMRRデータを共有している
- 部門横断でMRR改善のPDCAを回す会議体がある
- NRR(売上維持率)を計測している
- GRR(総収入維持率)の目標値を設定している
- 月次でMRRの増減要因を分析している
- MRR改善のKPIが各部門に割り当てられている
- 経営層がMRRを事業判断の指標として活用している
New MRRを増やす施策
New MRRを増やすためには、マーケティング施策の強化が基本となります。リード獲得から成約までのプロセスをMA/SFAで可視化し、どの施策が新規獲得に貢献しているかを分析することで、効果的な投資配分が可能になります。
Expansion MRRを増やす施策
Expansion MRRを増やすためには、既存顧客へのアップセル・クロスセル施策が有効です。顧客の利用状況をモニタリングし、アップグレードのタイミングを逃さない体制構築が重要です。
freee社の事例では、MidセグメントのARPU(顧客単価)が最大6倍になる見込みとされています(freee IR資料)。このような成長は、既存顧客への価値提供を継続的に強化することで実現できます。
Churn MRRを抑える施策
Churn MRRを抑えるためには、解約の予兆を早期に検知し、対策を打つことが重要です。GRRの相場は中小企業向けSaaSで80%、大企業向けSaaSで90%とされています。この水準を維持できているかを定期的に確認しましょう。
CS部門と営業部門が連携し、利用頻度の低下や問い合わせ内容の変化などの予兆を検知できる体制を構築することが効果的です。
MRRを事業成長の経営指標として活用するために
本記事では、MRRの定義から4種類の分類、ARR・NRRとの違い、改善施策まで解説しました。
重要なポイント:
- MRRはサブスクリプション型ビジネスの継続収益を示す指標
- 4種類(New/Expansion/Downgrade/Churn)に分解して分析する
- SaaS Quick Ratio 4以上がビジネスの安定性・成長性の目安
- ARRは年間予測、NRRは既存顧客維持の指標として使い分ける
- 部門横断でMRR改善のPDCAを回すことが成長の鍵
SaaS Quick Ratioが4以上であれば、ビジネスの安定性・成長性が高いと判断されます。まずは自社のMRRを4種類に分解し、どの要素に課題があるかを把握することから始めてください。
MRRは定義と計算方法を理解するだけでなく、MA/SFAによる可視化と部門横断の改善サイクルを構築することで、事業成長を加速させる経営指標として機能します。MRRを「月次売上の集計値」で終わらせず、改善のための経営指標として活用してください。
