シリーズCは「組織の成熟度」が問われるフェーズ
結論から言えば、シリーズCは資金調達だけでなく『組織の成熟度』が問われるフェーズであり、イグジットを見据えた組織体制の整備が成功の鍵となります。
シリーズCとは、PMFが確立されスケール段階に入ったスタートアップの後期成長ラウンドです。海外展開・M&A・上場準備に資金を投下する段階を指します。
日本のユニコーン企業数は2021年の6社から2024年には8社に増加しています(経団連調べ)。シリーズC到達企業が増えている一方で、資金調達に成功しても組織課題でつまずく企業は少なくありません。
この記事で分かること
- シリーズCの定義と他ラウンドとの違い
- シリーズC企業が直面する組織課題とその対策
- イグジットに向けた組織体制整備のポイント
- シリーズC組織体制チェックリスト
シリーズCの定義と他ラウンドとの違い
シリーズCは、PMF確立後のスケール段階であり、イグジット(IPO・M&A)準備に本格的に取り組むラウンドです。資金用途は海外展開、大型採用、事業買収、上場準備費用などに充てられることが多いです。
日本のシリーズC相場感として、キャディがシリーズCエクステンションで91億円を調達し、累計エクイティ調達額は257億3,000万円に達しています(2025年3月時点)。ただし、調達額は企業規模・事業領域により大きく異なるため、あくまで参考値として捉える必要があります。
ARR(年間経常収益) とは、Annual Recurring Revenueの略で、SaaSなど定期収益モデルの年間売上を示す指標です。シリーズC段階では、ARRやユニットエコノミクス(顧客1単位あたりの収益性を示す指標)が安定していることが求められます。
シリーズC段階の企業に求められる条件
シリーズC段階では、黒字化を達成している企業もあれば、成長投資を優先して全社赤字を継続しているケースもあります。重要なのは、収益性の方向感とユニットエコノミクスの健全性です。
Carta社が4万5,000社を対象に行った調査によると、シリーズC時点で創業チームの株式保有率は平均19%となっています(2025年)。ただし、これは米国データであり、日本市場では異なる可能性があることに留意が必要です。
経営人材の充実も求められます。VP of Sales、VP of Marketing、CPO、CFOなど職能別エグゼクティブ層がほぼ出揃う段階であり、創業メンバーだけで経営を回すことは難しくなります。
シリーズC企業が直面する組織課題
シリーズC段階で最も顕在化するのが、人員急拡大に伴う組織課題です。ミドルマネジメント層の不足、ガバナンス体制の未整備、企業文化の希薄化などが典型的な問題として挙げられます。
よくある誤解として、「シリーズC=大型資金調達」というイメージだけで、組織体制の整備を後回しにしてしまうパターンがあります。これは誤りです。 資金調達とは別に、組織体制の整備を並行して進めなければ、イグジット準備段階で組織課題が噴出し、企業価値向上の足かせになります。
スタートアップの失敗要因を分析したグローバル統計によると、チーム関連の問題が約14%、ステークホルダー間の対立が約7%を占めています(ただし、グローバル統計であり日本市場単独の数値ではありません)。競合に敗れた約20%、劣ったビジネスモデル約19%と並び、組織・チームの問題は主要な失敗要因の一つです。
ミドルマネジメント層の確保と育成
創業メンバーだけでは組織が回らなくなる段階で、VP層やミドルマネジメントの確保・育成が急務となります。
具体的には以下のような人材が必要です。
- VP of Sales / VP of Marketing(事業成長を牽引)
- CPO / VPoP(プロダクト戦略の責任者)
- CFO(財務戦略・上場準備の責任者)
- CHRO / VP of HR(組織・人事戦略の責任者)
外部採用だけでなく、社内からの登用・育成も重要です。急成長フェーズでは「採用→育成」のサイクルが追いつかないことが多く、計画的な人材パイプラインの構築が求められます。
シリーズC組織体制整備の具体的アプローチ
組織体制整備は、取締役会の設置、社内規程の整備、情報セキュリティ対策など、多岐にわたります。日本のスタートアップ134社を対象とした調査によると、取締役会を設置している企業は75%、社内規程・横領防止策を「整備済み」と回答した企業は70%以上に達しています(Global Brain調査、2025年)。
ESGマテリアリティとは、環境・社会・ガバナンスの観点で企業にとって重要な課題を特定・優先順位付けしたものです。シリーズC以降は、ESGマテリアリティを早期に特定し、非財務面から企業価値を高めることも求められます。
以下のチェックリストを活用して、自社の組織体制整備状況を確認してください。
【チェックリスト】シリーズC組織体制チェックリスト
- 取締役会が設置され、定期的に開催されている
- 社外取締役が就任している(独立性の確保)
- 社内規程(就業規則、経理規程、稟議規程等)が整備されている
- 横領防止策(職務分掌、承認フロー等)が整備されている
- 情報セキュリティポリシーが策定されている
- リモートワーク時の情報漏えい防止ルールが整備されている
- CFOまたは財務責任者が在籍している
- CHROまたは人事責任者が在籍している
- VP層(Sales/Marketing/Product等)が充足している
- ミドルマネジメント層の採用・育成計画がある
- 人事評価制度が運用されている
- 報酬制度(ストックオプション含む)が設計されている
- コンプライアンス研修が実施されている
- 内部通報制度が整備されている
- ESGマテリアリティが特定されている
- 監査法人との契約が完了している(IPO準備の場合)
- 主幹事証券会社の選定が完了している(IPO準備の場合)
- 株主構成・資本政策が整理されている
- 創業者間契約・株主間契約が最新化されている
- BCP(事業継続計画)が策定されている
ガバナンス体制とコンプライアンスの整備
上場準備を見据えたガバナンス整備は、シリーズC段階から本格化します。取締役会の設置・運営、社外取締役の招聘、監査役会または監査等委員会の設置など、機関設計を固めていく必要があります。
前述の調査では、社内規程・横領防止策を「整備済み」と回答した企業が70%以上でしたが、裏を返せば3割程度の企業は未整備の状態です。また、リモートワーク時の情報漏えい防止ルール整備率はシリーズDで85%に達するという調査結果もあり、早めの対応が求められます。
イグジットに向けた組織強化のポイント
IPO・M&Aに向けた組織体制整備では、財務・法務・人事の各領域で上場企業水準のガバナンスを構築する必要があります。
シリーズC以降は、大企業・CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)・銀行系VCの参画が増える傾向があります。CVCとは、事業会社が戦略目的で設立したベンチャー投資部門または子会社を指します。こうした投資家からの出資を受けることで、ガバナンス・信用力の強化が進みやすくなります。
キャディの事例(シリーズCエクステンションで91億円調達、累計257億円超)に見られるように、大型調達を実現する企業は組織体制の整備も着実に進めています。
CFO・CxO人材の確保と経営チーム強化
イグジット準備においては、CFOの存在が特に重要です。財務戦略の策定、投資家・金融機関との折衝、上場審査対応など、専門性の高い業務を統括する必要があるためです。
中小企業白書でも「売上100億円の壁を超えるには、経営者と共に組織を支える経営人材・DX人材の確保・育成が必要」と指摘されています。シリーズC段階では、この「経営人材の確保・育成」が成長の成否を分けるポイントとなります。
経営チーム強化の方法としては、以下のアプローチがあります。
- エグゼクティブサーチを活用した外部採用
- 社内からのプロモーション(育成)
- パートタイムCxO・顧問の活用
- VCネットワークを通じた人材紹介
まとめ:シリーズC成功は組織体制の整備が鍵
本記事では、シリーズC段階の組織課題と体制整備のポイントを解説しました。
主なポイントを整理すると以下の通りです。
- シリーズCはPMF確立後のスケール段階であり、イグジット準備が本格化するフェーズ
- 日本のスタートアップで取締役会設置は75%、社内規程整備済みは70%以上
- スタートアップ失敗要因のうち、チーム関連の問題は約14%を占める
- VP層・ミドルマネジメント層の確保・育成が急務
- ESGマテリアリティの早期特定も重要になりつつある
「大型調達すれば組織課題は解決する」という考え方は誤りです。資金調達と組織体制整備は別軸で進める必要があり、むしろ組織の成熟度が資金調達の成否にも影響します。
シリーズCは資金調達だけでなく『組織の成熟度』が問われるフェーズであり、イグジットを見据えた組織体制の整備が成功の鍵です。本記事のチェックリストを活用し、自社の組織体制整備状況を確認してみてください。専門家への相談も有効なアプローチです。
