成熟期マーケティングの課題と本質的な解決策
成熟期のマーケティング戦略は、理論理解だけでなく、MA/SFA設定と運用体制整備を通じて実行可能な状態にすることで初めて成果に繋がります。
この記事で分かること
- プロダクトライフサイクルにおける成熟期の定義と特徴
- 成熟期で取るべき基本戦略(リーダー企業と下位企業の違い)
- MA/SFA設定と運用体制整備で成熟期戦略を実行する方法
- 既存顧客維持とアップセル・クロスセルの具体的な施策
BtoB企業のマーケティング担当者が直面する課題は、人手不足と予算不足です。2025年度版BtoBセールス&マーケティング調査では、マーケティング課題1位が人手不足34.3%、2位が予算不足26.1%となりました。成熟期の製品・サービスを抱える企業では、市場成長が鈍化し競争が激化する中で、限られたリソースでシェア維持や差別化を実現する必要があります。
よくある誤解は、成熟期の基本戦略(シェア維持、コスト削減、差別化など)を理解すれば自動的に成果が出ると考えてしまうことです。しかし、戦略を理解しても、MA/SFA設定や既存顧客データの活用、部門間連携などの運用体制整備を後回しにしてしまうと、実際の成果には繋がりません。本記事では、成熟期マーケティングの基礎知識から、MA/SFA設定と運用体制整備で実行可能な状態にする方法まで、一気通貫で解説します。
プロダクトライフサイクル(PLC)と成熟期の基礎知識
プロダクトライフサイクル(PLC) とは、製品の市場導入から衰退までのライフステージを時間軸で分析するマーケティングの基礎理論です。導入期・成長期・成熟期・衰退期の4段階に分けられ、各段階で適切なマーケティング戦略が異なります。
成熟期に入った製品・サービスでは、市場成長が鈍化し競争が激化します。企業同士のシェア争いが中心となり、コスト削減や差別化が重要な戦略となるのが特徴です。ただし、成熟期でも市場全体が縮小するとは限りません。国内Webマーケティング市場は2025年度に前年比15.3%増の2兆8,500億円規模に達し、さらに3兆5,000億円への成長が見込まれるという調査結果もあります。成熟期であっても、デジタルシフトやDX投資により市場が拡大する可能性があることを理解しておくことが重要です。
導入期とは
導入期は、製品を市場に投入したばかりの段階です。製品認知を広げ市場開拓することが主な目的となります。販売量は低く、赤字覚悟で広告投資を行い、製品の存在を知ってもらうことが中心となるのが一般的です。
成長期とは
成長期は、製品が市場に受け入れられ販売が急増する段階です。利益率が向上し、企業にとって最も収益性が高い時期となることが多いと言われています。一方で、競合他社も市場参入し差別化競争が激化するため、プロモーション強化が必要になります。
成熟期とは
成熟期とは、プロダクトライフサイクルにおいて市場成長が停滞し、競争が激化する段階です。販売がピークに達し市場が飽和状態になるため、企業同士のシェア争いが中心となります。価格競争が激しくなり、既存顧客の維持が鍵となる時期です。
BtoB企業では、新規顧客獲得よりもリピート・アップセルを重視し、デジタルツールを活用して差別化を図ることが成果に繋がるとされています。前述の通り、国内Webマーケティング市場は2025年度に2兆8,500億円規模で成長を続けており、成熟期でもデジタルマーケティング投資により成長の余地があることが分かります。
衰退期とは
衰退期は、販売が減少し市場が縮小する段階です。製品からの撤退を検討するか、リニューアルや新市場開拓で再成長を目指すかの判断が必要になります。
成熟期における基本戦略とリーダー企業・下位企業の違い
成熟期では、企業の市場ポジション(リーダー企業か下位企業か)によって取るべき戦略が異なります。リーダー企業はシェア維持・拡大を目標にコスト優位性を活かし、下位企業は特定ターゲットをねらったニッチ戦略で生き残りを図ることが有効です。
PwCの2025年2月調査(売上高500億円超企業280名対象)によると、マーケティング成熟度の高い企業は新しいテクノロジー投資(AI・データ活用)で成長をリードしています。成熟期でも新技術投資により競合との差別化を図ることが可能であり、データ駆動型マーケティングが主流化していると言えます。
リテールメディアとは、小売事業者が保有する顧客データを活用した広告メディア事業です。成熟期の差別化戦略として注目されており、セブン-イレブン・ジャパンはリテールメディアで広告出稿金額を3年で20倍超に拡大し、2025年9月に組織格上げで経営直下化しました。小売業の事例ですが、成熟期でも新しいビジネスモデルで大きく成長できる可能性を示しています。
【比較表】成熟期の戦略オプション比較表(リーダー企業 vs 下位企業)
| 企業ポジション | 基本戦略 | 主要施策 | 成功のポイント |
|---|---|---|---|
| リーダー企業 | シェア維持・拡大 | 新技術投資(AI・データ活用)、コスト優位性の活用、顧客維持プログラム強化 | マーケティング成熟度を高め、データ駆動で継続的に改善する |
| 下位企業 | ニッチ戦略 | ABM(特定ターゲットへの個別最適化)、差別化ポジショニング、専門特化 | 特定セグメントで深い関係を構築し、リーダー企業が対応しにくい領域で勝つ |
| 中堅企業 | 差別化戦略 | 新サービス開発、顧客体験向上、デジタルツール活用 | 既存顧客のLTV最大化とアップセル・クロスセルで売上を伸ばす |
| 全ポジション共通 | コスト削減 | 業務プロセス効率化、MA/SFA活用、外注活用 | 人手不足・予算不足の中で、少人数運用と外注併用で成果を出す |
リーダー企業の戦略(シェア維持・拡大)
リーダー企業は、シェア維持・拡大を目標にコスト優位性を活かす戦略が一般的です。PwCの2025年2月調査によると、マーケティング成熟度の高い企業は新しいテクノロジー投資(AI・データ活用)で成長をリードしています。データ分析基盤の構築、MA/SFAツールの高度活用、AIを活用した顧客セグメント最適化などが具体的な施策として挙げられます。
ただし、業種や企業規模によって適切な施策は異なるため、自社の状況に合わせて戦略を選択することが重要です。
下位企業の戦略(ニッチ戦略)
下位企業は、特定ターゲットをねらったニッチ戦略で生き残りを図る方法が有効です。ABM(アカウントベースドマーケティング) とは、特定のターゲット企業(アカウント)に対して、個別最適化されたマーケティング施策を展開する手法です。BtoB企業の成熟期戦略として有効であり、リーダー企業が対応しにくい専門領域や特定業種に集中することで差別化できます。
ABMでは、ターゲット企業リストの作成、企業ごとのパーソナライズドコンテンツ配信、営業とマーケティングの連携強化などが具体的な実行内容となります。
成熟期で既存顧客を維持しアップセル・クロスセルを実現する方法
成熟期では、新規顧客獲得よりも既存顧客のLTV(顧客生涯価値)を最大化することが重要です。CRM(顧客関係管理) とは、顧客データを一元管理し、顧客との関係を強化するためのシステムや戦略です。成熟期における既存顧客維持とLTV最大化に不可欠なツールとなります。
2025年BtoB企業経営者調査では、リード獲得課題解決策としてデータ分析の強化が22.1%で2位となりました。また、2025年BtoBマーケティング運用体制実態調査(330名対象)によると、成果組織の共通点はデータ駆動の運用体制です。これらのデータから、CRMデータを活用した顧客分析と、データに基づく施策実行が成熟期の成果に直結することが分かります。
LTV(顧客生涯価値) とは、1人の顧客が生涯にわたって企業にもたらす利益の総額です。成熟期では新規顧客獲得コストが高騰するため、既存顧客のLTV最大化が経営上の優先事項となります。
CRM強化と顧客データ活用の具体的な方法
CRM強化の具体的な実装方法として、以下のようなアプローチが有効です。
- 顧客データの一元管理: 営業・マーケティング・カスタマーサクセスの各部門で保有する顧客データをCRMに集約し、顧客の全体像を把握できる状態にします。
- 行動履歴の追跡: Webサイト訪問履歴、メール開封率、資料ダウンロード履歴などの行動データを記録し、顧客の関心度を可視化します。
- パーソナライズ施策: 顧客の属性や行動に基づいて、個別最適化されたコンテンツやオファーを提供します。
2025年BtoB企業経営者調査では、データ分析の強化が課題解決策の2位(22.1%)となっており、また2025年BtoBマーケティング運用体制実態調査(330名対象)によると、成果組織の共通点はデータ駆動の運用体制です。これらの調査結果から、データ分析強化とデータ駆動の運用体制が成熟期の成果に繋がることが示されています。
アップセル・クロスセル施策の具体例
LTV最大化を目的として、既存顧客への追加提案や上位プラン提案を体系的に行うことが重要です。
- 利用状況に基づく上位プラン提案: CRMデータから利用頻度が高い顧客を抽出し、上位プランへのアップグレードを提案します。
- 関連サービスのクロスセル: 既存顧客の業種や課題に合わせて、関連性の高い別サービスを提案します。
- 契約更新時のアップセル: 契約更新のタイミングで、追加機能やオプションを提案し、契約単価を引き上げます。
これらの施策を実行する際は、特定のツール・サービスに依存せず、自社の状況に合ったアプローチを選択することが重要です。
MA/SFA設定と運用体制整備で成熟期戦略を実行する
成熟期の基本戦略(シェア維持、差別化等)を理解しても、実行体制がなければ成果は出ません。よくある失敗パターンは、成熟期の戦略を理解すれば自動的に成果が出ると考え、MA/SFA設定や既存顧客データの活用、部門間連携などの運用体制整備を後回しにしてしまうことです。
2025年BtoBマーケティング運用体制実態調査(330名対象)によると、成果組織の共通点はデータ駆動の運用体制です。MA/SFA設定でKPIを自動収集・可視化し、部門間連携で全体最適を図ることで、初めて戦略が機能します。
【チェックリスト】成熟期マーケティング実行準備チェックリスト
- 自社製品・サービスのPLC段階(導入期・成長期・成熟期・衰退期)を判定した
- 市場成長率と競合状況を過去3年分のデータで確認した
- 自社の市場ポジション(リーダー企業・中堅企業・下位企業)を明確にした
- 成熟期の基本戦略(シェア維持・拡大、ニッチ戦略、差別化等)から自社に適した戦略を選択した
- MA/SFAツールを導入済みである
- MA/SFAで追跡すべきKPI(リード獲得数、商談化率、受注率、LTV等)を定義した
- KPI自動収集の仕組みを構築した(手動集計に依存していない)
- ダッシュボードでKPIをリアルタイム可視化できる状態にした
- CRMに顧客データ(基本情報・行動履歴・取引履歴)が一元管理されている
- 既存顧客のセグメント分類(利用頻度・契約金額・エンゲージメント等)ができている
- アップセル・クロスセル対象顧客を自動抽出できる仕組みがある
- マーケティング・営業・カスタマーサクセスの部門間でKPIを統一した
- 部門間でのデータ連携が自動化されている(手動でのデータ受け渡しに依存していない)
- マーケティング・営業・カスタマーサクセスの定例会議体制を構築した(週次または月次)
- データ分析担当者をアサインした(専任または兼任)
- 外部パートナー(コンサル・制作会社等)との連携体制を整備した
- 成熟期戦略の実行計画(3ヶ月・6ヶ月・1年)を策定した
- 予算配分(新規獲得 vs 既存顧客維持)を成熟期に合わせて見直した
- 人手不足・予算不足の制約下でも実行可能な施策に絞り込んだ
- 戦略実行の進捗を月次でレビューする体制を構築した
MA/SFA設定の具体的な実装方法
MA/SFAツールでのKPI自動収集・ダッシュボード構築の方法として、以下のようなアプローチが有効です。
- KPI自動収集の設定: リード獲得数、商談化率、受注率、既存顧客の契約更新率、アップセル成功率などのKPIを、MA/SFAツールで自動的に集計できるように設定します。手動集計に依存すると、データ更新が遅れ意思決定が遅くなるため、自動化が不可欠です。
- ダッシュボード構築: 経営層・マーケティング・営業それぞれの役割に応じたダッシュボードを構築し、KPIをリアルタイムで可視化します。
- データ可視化: グラフやチャートでトレンドを把握しやすくし、異常値や改善ポイントを早期に発見できるようにします。
特定のツール・サービスに依存せず、標準的なMA/SFAツールで実現可能な範囲で実装することが、長期的な運用において重要です。
部門間連携(マーケ・営業・CS)の構築方法
マーケティング・営業・カスタマーサクセス間でのデータ連携とKPI統一が、成熟期戦略の実行において重要です。2025年BtoBマーケティング運用体制実態調査(330名対象)によると、成果組織の共通点はデータ駆動の運用体制であり、部門間で全体最適を図ることが成果に繋がります。
- KPIの統一: マーケティングは「MQL(Marketing Qualified Lead)数」、営業は「商談化率・受注率」、カスタマーサクセスは「契約更新率・アップセル率」というように、各部門のKPIを定義し、全体で追跡します。
- データ連携の自動化: MA/SFA/CRMツール間でデータを自動連携し、手動でのデータ受け渡しをなくします。
- 定例会議体制: 週次または月次で、マーケティング・営業・カスタマーサクセスが集まり、KPIのレビューと施策の調整を行います。
部門間で情報がサイロ化していると、顧客体験が分断され成果が出にくくなるため、全体最適の視点で運用体制を構築することが重要です。
まとめ:成熟期マーケティングは理論理解と実行体制整備をセットで進める
成熟期のマーケティング戦略は、理論理解だけでなく、MA/SFA設定と運用体制整備を通じて実行可能な状態にすることで初めて成果に繋がります。
プロダクトライフサイクル(PLC)の4段階を理解し、自社製品・サービスが成熟期に入っているかを判定することが第一歩です。成熟期では市場成長が鈍化し競争が激化するため、企業のポジション(リーダー企業・下位企業)に応じた戦略選択が必要です。リーダー企業はシェア維持・拡大を目標に新技術投資(AI・データ活用)で成長をリードし、下位企業はABMなどのニッチ戦略で特定ターゲットに集中します。
成熟期では新規顧客獲得よりも既存顧客のLTV最大化が重要であり、CRM強化と顧客データ活用によるアップセル・クロスセル施策が成果に直結します。2025年BtoB企業経営者調査では、データ分析の強化が課題解決策の2位(22.1%)となっており、データ駆動の運用体制が成果組織の共通点であることが示されています。
しかし、戦略を理解するだけでは成果は出ません。MA/SFA設定でKPIを自動収集・可視化し、マーケティング・営業・カスタマーサクセスの部門間連携で全体最適を図ることが、実行体制整備の核となります。人手不足34.3%、予算不足26.1%という制約の中で、少人数運用と外注併用により実行可能な施策に絞り込むことも重要です。
次のアクションとして、以下のステップを推奨します。
- 自社のPLC段階を判定し、成熟期に入っているか確認する
- 自社の市場ポジションを明確にし、適切な基本戦略を選択する
- 本記事の「成熟期マーケティング実行準備チェックリスト」で現状を確認する
- MA/SFA設定の見直しと、KPI自動収集・ダッシュボード構築を実施する
- 部門間連携体制を構築し、データ駆動の運用を開始する
成熟期マーケティングは、理論理解と実行体制整備をセットで進めることで、限られたリソースの中でも成果を最大化できます。
