マーケティング部門立ち上げの現状と本質的課題
多くの人が見落としがちですが、マーケ部門の立ち上げは「組織図を描く」だけでなく「MA/SFA設定とツール実装」まで完了させて初めて成果が出ます。
日本国内では、マーケティング部署を設置している企業は全体のわずか11.7%にとどまり、上場企業でも11.0%という状況です(2018年5月31日時点、Nexal調査)。この数字からも分かる通り、日本企業の多くはマーケティング部門の立ち上げ自体に着手できていないのが現状です。
さらに深刻な問題は、マーケティング部門を立ち上げた後の成果です。BtoBマーケティングで「十分な成果」を出している企業はわずか13%に過ぎません(2023年6月、Sansan調査、935社対象)。つまり、8割以上の企業が組織を作った後も課題を抱えているのです。
この背景にあるのは、「組織図を描けばリード獲得が始まる」という誤解です。実際には、マーケティング部門の立ち上げは組織体制の構築だけでなく、MA/SFAツールの設定、運用プロセスの整備、そして営業部門との連携までを一気通貫で実装しなければ、期待した成果は得られません。
この記事で分かること
- マーケティング部門の役割と成果を出すための注力項目
- 規模別・フェーズ別の組織体制の設計パターン
- 立ち上げ前の準備からKGI/KPI設定までの具体的ステップ
- MA/SFA設定とツール実装による運用定着の方法
- 組織設計とツール実装を含む実践的なチェックリスト
マーケティング部門の役割と業務内容
マーケティング部門の主要な役割は、リード獲得から育成、そして商談化までのプロセスを管理し、営業部門と連携して売上に貢献することです。具体的には、コンテンツマーケティング、広告運用、Webサイト最適化、リードナーチャリング、データ分析などが含まれます。
成果を出している企業の注力項目を見ると、戦略立案が36.8%、データ分析が35.9%、顧客データベース整備が33.3%となっています(2023年6月、Sansan調査)。これらのデータから、マーケティング部門の立ち上げでは、戦略策定とデータ基盤の構築が特に重要であることが分かります。
MA(Marketing Automation) とは、マーケティング活動を自動化するツール・システムです。リード管理、メール配信、スコアリング等を自動化することで、少人数でも効率的にリード育成が可能になります。
SFA(Sales Force Automation) は、営業支援システムを指します。営業活動の可視化、案件管理、予実管理等を支援するツールで、マーケティング部門と営業部門の連携には欠かせません。
KGI(Key Goal Indicator) とは、重要目標達成指標のことです。最終的に達成すべき目標を定量的に示す指標で、売上高や利益率などが該当します。
KPI(Key Performance Indicator) は、重要業績評価指標です。KGI達成のための中間目標を定量的に示す指標で、リード獲得数や商談化率などが含まれます。
リード獲得から商談化までのプロセス
マーケティング部門の業務フローは、大きく分けて「リード獲得」「リード育成」「商談化」の3段階に分かれます。
まず、Webサイトやオウンドメディア、広告などを通じて見込み客の情報を獲得します。次に、リードナーチャリングを実施します。リードナーチャリングとは、獲得した見込み客(リード)を育成し、購買意欲を高めて商談化につなげるマーケティング活動です。メール配信やコンテンツ提供を通じて、見込み客の検討度合いを高めていきます。
最終段階では、スコアリングによって商談化の可能性が高いリードを抽出し、営業部門に引き渡します。この引き渡し基準を明確にし、営業部門と合意しておくことが、部門間連携の成功の鍵となります。
データ基盤とツール実装の重要性
成果を出している企業の33.3%が「顧客データベース整備」に注力していることからも分かる通り、データ基盤の構築はマーケティング部門立ち上げの必須要素です。
MA/SFAの設定を後回しにすると、リード情報が散在し、営業部門との連携がうまくいかず、結果として成果が出ません。組織図を描くのと並行して、どのようなツールを導入し、どのようにデータを管理するかを設計する必要があります。
データ基盤構築の具体的な内容としては、リード情報の一元管理、スコアリングルールの設定、営業部門への自動引き渡しフロー、データ分析ダッシュボードの構築などが含まれます。これらを早期に整備することで、マーケティング活動のPDCAを回せるようになります。
組織体制の設計パターン
マーケティング部門の組織体制は、企業の規模やフェーズに応じて段階的に拡大していくのが一般的です。
BtoB企業のマーケティングチーム規模を見ると、1-2名が約30%、3-5名が約40%、6-10名が約20%、11名以上が約10%となっています(2026年予測、tovira.jp調査)。つまり、約70%の企業が5名未満の小規模体制で運営しています。
CMO(Chief Marketing Officer) とは、最高マーケティング責任者のことです。マーケティング戦略の立案と実行を統括する経営層の役職で、CMO設置企業は平均4.7%の増収効果が見込まれるという調査結果もあります(「日本型CMOの現状と展望」調査)。ただし、企業規模やフェーズによってCMOが必須かどうかは異なります。
レバレジーズの事例では、事業戦略室(戦略立案/マネジメント)と機能専門(コンテンツ/データ)のハイブリッド型組織を採用し、多様なキャリア集団が一気通貫で実行することで市場変化に迅速対応しています。このように、機能軸と事業軸を組み合わせた柔軟な体制設計も効果的です。
立ち上げ初期の体制(1-2名)
立ち上げ初期は、1-2名の最小構成でスタートするのが現実的です。BtoB企業の約30%がこの規模で運営しています。
典型的な構成は、以下の通りです。
- マーケティングリーダー(1名): 戦略立案、予算管理、営業部門との連携、コンテンツディレクション
- MAオペレーター(1名): MA/SFA設定、メール配信、リード管理、データ分析
この段階では、コンテンツ制作や広告運用などの一部業務を外部パートナーに委託し、社内リソースを戦略立案とデータ基盤構築に集中させるのが効率的です。
成長フェーズの体制(3-5名以上)
事業が成長し、リード獲得数が増えてくると、3-5名体制に拡大するのが一般的です。BtoB企業の約40%がこの規模で運営しています。
3-5名体制の場合、以下のような役割分担が考えられます。
- マーケティングマネージャー(1名): 戦略立案、予算管理、部門マネジメント
- コンテンツ担当(1-2名): 記事制作、ホワイトペーパー、ウェビナー企画
- デジタルマーケティング担当(1名): 広告運用、SEO、Webサイト最適化
- MAオペレーター(1名): MA/SFA設定、リード管理、データ分析
6-10名以上の規模になると、レバレジーズのようなハイブリッド型組織が選択肢になります。事業軸(事業部ごとのマーケター)と機能軸(コンテンツ、データ、広告など専門チーム)を組み合わせることで、事業ニーズへの迅速対応と専門性の両立が可能になります。
【チェックリスト】マーケ部門立ち上げチェックリスト(組織設計編)
- マーケティング部門の目的とKGIの設定
- 初期体制(1-2名 or 3-5名)の決定
- マーケティングリーダーの採用・アサイン
- MAオペレーターの採用・アサイン
- 組織体制図の作成
- 役割分担と業務範囲の明確化
- 予算の確保(人件費、ツール費用、広告費)
- 営業部門との連携体制の構築
- 外部パートナー(制作会社、広告代理店等)の選定
- CMOまたは経営層のコミットメント確保
- 定例MTGの設定(週次、月次)
- ペルソナ構築のための顧客調査計画
立ち上げステップとKGI・KPI設定
マーケティング部門の立ち上げは、組織図を描くだけでは完了しません。KGI・KPIの設定、ペルソナ構築、営業部門との連携体制の整備まで含めた一連のステップを実行する必要があります。
BtoB企業で重視されるKPIは、新規リード獲得数が32.1%、受注率が11.1%となっています(2024年10月、190人アンケート)。これらのKPIを営業部門と共通指標として設定し、定期的に進捗を確認することが重要です。
ライオン株式会社(業務用エアコン)の事例では、1,800社アンケートでペルソナを構築し、戦略的なWebサイト刷新を実施した結果、市場シェアが9.8%から11.1%に向上しました。この事例からも、組織立ち上げ前の顧客理解がいかに重要かが分かります。
立ち上げ前の準備(ペルソナ構築と顧客理解)
組織を立ち上げる前に、自社の顧客像を明確にすることが成功の鍵です。
ペルソナとは、自社の製品・サービスの典型的な顧客像を詳細に設定したものです。属性、課題、行動パターン等を具体化することで、マーケティング施策の精度が高まります。
ライオンの事例のように、数百社規模の顧客アンケートを実施することで、顧客の課題や購買プロセスを深く理解できます。具体的な方法としては、既存顧客へのインタビュー、アンケート調査、営業担当者へのヒアリングなどが有効です。
ペルソナ構築で明確にすべき項目は、以下の通りです。
- 企業属性(業種、従業員数、売上規模)
- 担当者属性(役職、年齢、経験年数)
- 抱えている課題
- 情報収集の方法
- 意思決定プロセス
- 購買に至るまでの期間
これらの情報をもとに、コンテンツ制作やリード育成のシナリオを設計します。
KGI・KPIの設定と営業部門との連携
KGI・KPIの設定は、マーケティング部門の成果を測定し、改善を続けるために不可欠です。
KGIは、最終的に達成すべき目標を定量的に示す指標です。BtoB企業の場合、売上高、新規契約数、売上貢献額などが設定されます。
KPIは、KGI達成のための中間目標です。BtoB企業で重視されるKPIとしては、新規リード獲得数(32.1%)、受注率(11.1%)が挙げられます。その他、Webサイト訪問数、資料ダウンロード数、商談化率、成約率なども重要な指標となります。
営業部門との連携では、以下の点を明確にする必要があります。
- どのような状態のリードを営業に引き渡すか(MQL/SQLの定義)
- 引き渡し後の営業フォロー体制
- 商談化率・成約率のフィードバック方法
- 定例MTGの頻度と議題
営業部門と共通のKPIを設定することで、部門間の対立を避け、共通のゴールに向かって協力できる体制を構築できます。
【フロー図】マーケ部門立ち上げロードマップ(6ヶ月)
flowchart TD
A[Month 1: 準備フェーズ] --> B[顧客調査・ペルソナ構築]
B --> C[KGI・KPI設定]
C --> D[組織体制決定・採用開始]
D --> E[Month 2: 基盤構築フェーズ]
E --> F[MA/SFAツール選定]
F --> G[初期設定・データ移行]
G --> H[営業部門との連携ルール策定]
H --> I[Month 3-4: 実装フェーズ]
I --> J[リードスコアリング設定]
J --> K[ナーチャリングシナリオ構築]
K --> L[コンテンツ制作開始]
L --> M[Webサイト最適化]
M --> N[Month 5-6: 運用・改善フェーズ]
N --> O[リード獲得施策の実施]
O --> P[データ分析・KPI測定]
P --> Q[営業フィードバック収集]
Q --> R[PDCA実施・改善]
MA/SFA設定とツール実装による運用定着
組織図を描き、KPIを設定しても、MA/SFAの設定とツール実装を完了させなければ成果は出ません。BtoBマーケティングで「十分な成果」を出している企業がわずか13%である背景には、ツール実装が不十分なまま運用を開始してしまうケースが多いことがあります。
中小BtoB企業では、ウェブ経由の新規受注が「ほとんどない」企業が7割超という状況も報告されています(2016年、日本政策金融公庫調査)。これは、Webサイトを作るだけでツールを活用した仕組み化ができていないことが原因と考えられます。
MA/SFA設定とツール実装のステップとしては、以下が含まれます。
- リード情報の一元管理設定
- リードスコアリングルールの設計
- 自動メール配信シナリオの構築
- 営業部門へのリード自動引き渡しフロー
- ダッシュボードの構築
- データ分析レポートの自動化
これらの設定を完了させることで、少人数でも効率的にマーケティング活動を運営できるようになります。
カスタムツール開発が必要なケースとしては、既存のMA/SFAツールでは対応できない独自の業務フローがある場合や、複数システムとの連携が必要な場合が挙げられます。ただし、まずは既存ツールでできることを最大限活用し、本当に必要な部分だけをカスタマイズするのが現実的です。
MA/SFA連携の設定ポイント
MA/SFA連携を成功させるためには、以下のポイントを押さえる必要があります。
まず、リードスコアリングの設計です。リードの行動(資料ダウンロード、ページ閲覧、メール開封など)に応じてスコアを付与し、一定スコア以上のリードを営業に引き渡します。スコアリングルールは、営業部門と協議して決定し、定期的に見直すことが重要です。
次に、自動メール配信シナリオの構築です。リードの興味関心や検討段階に応じて、適切なタイミングで適切なコンテンツを配信します。ステップメールやトリガーメールを活用することで、手動対応を減らしながら効果的にリード育成ができます。
最後に、営業部門との連携設定です。MAで一定スコアに達したリードを、SFAに自動的に引き渡す仕組みを構築します。引き渡し時には、リードの属性情報、行動履歴、スコアなどを営業担当者が確認できるようにすることで、初回接触の質を高められます。
運用定着と段階的な改善目標の設定
ツールを導入しただけでは、運用は定着しません。PDCAサイクルを回し、段階的に改善を続けることが重要です。
PDCAサイクルの具体的な進め方としては、以下のステップがあります。
- Plan(計画): 月次のKPI目標を設定し、施策を計画する
- Do(実行): リード獲得施策、ナーチャリング施策を実行する
- Check(評価): KPIの実績を測定し、営業部門からフィードバックを収集する
- Action(改善): 課題を特定し、スコアリングルールやシナリオを改善する
段階的な改善目標を設定することで、短期的な成果を確認しながら運用改善を進められます。目標設定の際には、企業規模や業種、商材の特性によって適切な目標値は異なるため、自社の状況に応じた現実的な目標を設定することが重要です。
運用定着のためには、定例MTGでKPI進捗を共有し、課題を早期に発見して対処する体制が不可欠です。
【チェックリスト】マーケ部門立ち上げチェックリスト(ツール実装編)
- MA/SFAツールの選定完了
- ツールのアカウント開設・初期設定
- 既存顧客データの移行
- リード情報管理のフィールド設計
- リードスコアリングルールの設計・設定
- 営業部門とのMQL/SQL定義の合意
- 自動メール配信シナリオの構築
- ステップメールの作成(最低3パターン)
- トリガーメールの設定
- フォーム・ランディングページの作成
- MA→SFA自動連携の設定
- ダッシュボードの構築
- データ分析レポートの自動化
- 営業担当者へのツール操作トレーニング
- 運用マニュアルの作成
- 定例MTGでのKPI進捗共有体制の確立
- 初回PDCAサイクルの実施
まとめ:成果が出るマーケティング部門立ち上げのポイント
マーケティング部門の立ち上げは、組織図を描くだけでは不十分です。成果を出すためには、以下のポイントを押さえる必要があります。
1. 組織設計とツール実装を一気通貫で実行する
組織体制の構築とMA/SFA設定を並行して進めることで、立ち上げ後すぐにリード獲得・育成を開始できます。組織図だけ作ってツール実装を後回しにすると、成果が出るまでに時間がかかり、投資対効果が見えにくくなります。
2. データ基盤構築を優先する
成果企業の33.3%が「顧客データベース整備」に注力していることからも分かる通り、データ基盤の構築は最優先事項です。リード情報の一元管理、スコアリング、自動化フローを早期に整備することで、少人数でも効率的に運営できます。
3. 営業部門と共通のKPIを設定する
マーケティング部門と営業部門が別々のKPIで動くと、部門間の対立が生まれます。新規リード獲得数、商談化率、成約率などの共通指標を設定し、定例MTGで進捗を共有することで、協力体制を構築できます。
4. 段階的に体制を拡大する
BtoB企業の約70%が5名未満の小規模体制で運営しています。立ち上げ初期は1-2名でスタートし、成果が出てきたら3-5名に拡大するのが現実的です。無理に大規模な組織を作るのではなく、事業フェーズに応じた適切な規模で運営しましょう。
5. PDCAサイクルを回し続ける
ツールを導入しただけでは成果は出ません。KPIを定期的に測定し、営業部門からフィードバックを収集し、改善を続けることが重要です。段階的な改善目標を設定し、短期的な成果を確認しながら運用を定着させましょう。
マーケ部門の立ち上げは「組織図を描く」だけでなく「MA/SFA設定とツール実装」まで完了させて初めて成果が出ます。組織設計、KPI設定、ツール実装を一気通貫で進めることで、リード獲得・育成が機能するマーケティング部門を構築できます。
