IT組織が「守り」から「攻め」への変革を迫られる背景
IT組織の価値は「守り」の業務遂行だけでなく、マーケ・営業・インサイドセールスとの連携による「事業貢献」にあり、この視点で組織設計を見直すことが変革の出発点となります。これが本記事の結論です。
多くのIT部門は、システムの保守運用やヘルプデスク対応など「守り」の業務に追われているのが実情です。一方で、DX推進や事業貢献への期待は高まる一方で、そのギャップに悩む企業も増えています。
その背景には、IT人材不足の深刻化があります。IPA「IT人材白書2023」によれば、日本のIT人材は約144万人で、労働人口約6,838万人の約2.1%に過ぎません(2022年時点)。また、経済産業省「2025年の崖」では、2025年までにIT人材の不足が約43万人に拡大すると予測されていました(2018年時点の予測であり、現在の実態とは異なる可能性があります)。
限られたIT人材で、保守運用と事業貢献の両方を実現するには、組織設計そのものを見直す必要があります。
この記事で分かること
- IT組織構造の種類(職能別・事業部制・マトリクス)と特徴
- DX時代に求められるIT組織の変革ポイント
- IT部門が陥りやすい失敗パターンと回避方法
- マーケ・営業・ISとの連携設計とIT組織変革チェックリスト
IT組織構造の種類と特徴
IT組織構造には、職能別組織・事業部制組織・マトリクス組織の3種類が代表的です。それぞれの特徴を理解することで、自社に適した組織設計の方向性が見えてきます。
【比較表】IT組織構造の比較
| 組織構造 | 特徴 | メリット | デメリット | 適した企業規模 |
|---|---|---|---|---|
| 職能別組織 | 機能単位で部門を分ける | 専門性を高めやすい | 縦割り化しやすい | 中小〜中堅 |
| 事業部制組織 | 事業ごとにP/Lを持つ | 事業判断が速い | 全社最適が難しい | 中堅〜大企業 |
| マトリクス組織 | 機能軸と事業軸の2軸管理 | 柔軟性が高い | 指揮命令が複雑化 | 大企業 |
| ハイブリッド型 | 上記を組み合わせる | 目的に応じた設計が可能 | 設計難度が高い | 企業規模問わず |
| プロジェクト型 | プロジェクト単位で編成 | 目的達成に集中できる | 組織の継続性が低い | プロジェクト中心企業 |
※IT組織構造の割合に関する公的統計は存在しないため、上記は一般的な傾向を示したものです。
職能別組織(機能別組織) とは、営業・開発・運用など機能単位で部門を分ける組織構造です。専門性を高めやすい一方、縦割り化しやすい特徴があります。
事業部制組織とは、製品別・サービス別・顧客業種別に事業部を分け、それぞれがP/Lを持つ組織構造です。事業ごとの判断が速い一方、全社としてデータ・技術が分断されるリスクがあります。
マトリクス組織とは、機能軸と事業・プロジェクト軸の2軸で人と組織を管理する構造です。柔軟性が高い一方、指揮命令が複雑化しやすい特徴があります。
職能別組織と縦割りの課題
日本企業では職能別組織が多いとされていますが、この構造はIT部門の縦割り化を招きやすい点に注意が必要です。
経済産業省DXレポート(2018年)では、日本企業の約8割にレガシーシステムが存在すると指摘されています。レガシーシステムとは、老朽化・ブラックボックス化した既存の基幹システムで、維持運用にコストがかかり、DX推進の障壁となるものです。
職能別組織では、IT部門が「システムの保守運用担当」として位置づけられやすく、事業部門との連携が後回しになりがちです。この構造がレガシーシステムの温存と、IT部門の「守り」への固定化を招いている側面があります。
DX時代のIT組織に求められる変革
DXへの取り組みは進んでいる一方、成果を出せている企業は限定的です。IPA「DX動向2025」によると、組織横断・全体の業務・製造プロセスのデジタル化に9割以上の日本企業が取り組んでいる一方、成果創出の割合は36.4%にとどまります。
また、JIPDEC「企業IT利活用動向調査2025」によると、IT活用の目的の第1位は「業務プロセスの効率化」で55.0%となっています。同調査では、業務のデジタル化・自動化で52.1%の企業が成果を出しているとされています。
これらの調査から見えてくるのは、「内向きDX」(社内業務の効率化)は進んでいるものの、「外向きDX」(顧客価値創出や事業変革)で成果を出すことが課題だということです。
内製化とは、システム開発・運用を外部委託せず、自社内のリソースで実施することです。DX成果企業ほど内製化率が高い傾向にあるとされていますが、人材確保が難しい中でどう進めるかが課題になります。
IT部門が陥りやすい失敗パターン
IT組織変革で最も多い失敗パターンは、IT部門を「システムの保守運用担当」として位置づけ、マーケ・営業との連携やデータ活用を後回しにしてしまうことです。この考え方は誤りです。
よくある誤解として、「ツール導入やシステム刷新をすればDXが進む」と考えて、組織体制の見直しを後回しにするケースがあります。しかし、ツール導入だけではDX成果は出ません。組織体制・人材育成と一体で進める必要があります。
具体的な失敗パターンを整理します。
IT部門を「情報システム部門」として1機能に押し込める: IT部門が保守運用だけを担当し、事業戦略やデータ活用の議論から外されてしまうケースです。この状態では、DX推進の足かせになりやすいです。
事業部制で各部門がシステムを抱え込む: 事業部ごとにシステムを導入した結果、全社としてデータ・技術が分断され、横断的な活用ができなくなるケースです。
レガシーシステムの維持にリソースを取られる: 既存システムの保守運用に人員を割かれ、新規の取り組みに着手できないケースです。前述のとおり、日本企業の約8割にレガシーシステムが存在するとされています(2018年時点の調査)。
これらの失敗を避けるには、IT組織を「事業貢献するパートナー」として再定義し、事業部門との連携体制を構築することが重要です。
IT組織変革の進め方と他部門連携のポイント
IT組織を事業貢献型に変革するためには、組織体制・人材・プロセスを一体で見直す必要があります。
IPA「DX動向2025」によると、DXで成果を上げている企業では、DX推進の専門部署設置・CDO設置・内製化・アジャイル導入などを5割以上が実施しています。ただし、これは相関分析であり、これらを実施すれば必ず成果が出るという因果関係を示すものではない点に注意が必要です。
成果企業の特徴を参考にしながら、自社の状況に合った形で変革を進めることが重要です。
マーケ・営業・ISとの連携設計
IT部門を「コストセンター」から「ビジネスパートナー」へ転換するには、事業部門との協働体制構築が第一歩です。
マーケ・営業・インサイドセールスとの連携では、以下の点が重要になります。
共通KPIの設定: IT部門単独のKPI(システム稼働率など)だけでなく、事業部門と共通のKPI(商談化率、顧客獲得コストなど)を持つことで、同じゴールに向かって協働できます。
定期的な振り返り: IT部門と事業部門の定例会議を設定し、課題の共有と改善のサイクルを回します。週次または隔週での開催が一般的です。
データ連携の設計: MA・SFA・CRMなどのシステム間でデータが分断されないよう、IT部門が全体設計を担います。
【チェックリスト】IT組織変革チェックリスト
以下のチェックリストで、自社のIT組織の現状と変革の方向性を確認してください。
- IT部門のミッション・役割が明文化されている
- IT部門が経営会議や事業戦略の議論に参加している
- IT部門と事業部門の定期的な連携会議が設定されている
- IT部門と事業部門で共通のKPIを持っている
- DX推進の専門部署またはCDO(Chief Digital Officer)が設置されている
- 内製化の方針と対象領域が決まっている
- アジャイル開発の導入・検討を進めている
- レガシーシステムの刷新計画がある
- IT人材の育成・採用計画がある
- 運用業務の効率化・自動化が進んでいる
- 運用業務のアウトソーシングを検討・実施している
- MA・SFA・CRMなどのシステム間でデータが連携されている
- IT部門がデータ活用の全体設計を担っている
- IT部門の業績評価にビジネス成果の指標が含まれている
- IT部門のメンバーが事業部門の業務を理解している
すべてにチェックが入らなくても問題ありません。チェックが付かない項目が変革のポイントであり、できるところから着手していくことが重要です。
まとめ:IT組織の価値は事業貢献にある
IT組織の変革は、一朝一夕には進みません。しかし、「守り」の業務に追われる現状を変え、事業貢献できる組織へと転換することは、DX推進の前提条件です。
本記事で解説したポイントを振り返ります。
- IT組織構造には職能別・事業部制・マトリクスの3種類があり、それぞれ特徴と課題がある
- DXに9割以上の企業が取り組むが成果は36.4%にとどまり、組織体制の見直しが課題
- IT部門を「システムの保守運用担当」として位置づける失敗パターンを避ける
- DX成果企業では専門部署設置・CDO設置・内製化・アジャイル導入などを実施している傾向がある(相関であり因果ではない)
- マーケ・営業・ISとの連携では共通KPIの設定と定期的な振り返りが重要
まずは上記のチェックリストで自社の現状を確認し、変革のポイントを特定してください。IT組織の価値は「守り」の業務遂行だけでなく、マーケ・営業・インサイドセールスとの連携による「事業貢献」にあり、この視点で組織設計を見直すことが変革の出発点となります。
