大企業のマーケティング部門でBPRが必要になる背景
最も重要なのは、大企業のマーケティングBPRは「戦略レポート」ではなく「MA/SFAを軸とした業務フローの再設計と実装」まで行うことで、属人化を解消し継続的な成果につながることです。
従業員300名以上の大企業では、MA/SFAを導入したものの業務が属人化・複雑化し、「誰がどの業務を担当しているのか分からない」「担当者が異動すると引き継ぎが困難」という課題を抱えているケースが多くなっています。
BPR(Business Process Reengineering) とは、業務プロセスを根本から見直し再設計することで、大幅な効率化・成果向上を目指す手法です。
デジタルマーケティングの複雑化に伴い、BPO(業務プロセスのアウトソーシング)市場は2023年度で前年度比3.9%増の約4兆8849億円に達しています(矢野経済研究所調査)。この背景には、大企業でもマーケティング業務の外部活用が増加していることがあります。
**「2025年の崖」**とは、経済産業省が警告するDX未対応による経済損失リスクです。2018年の予測では、DX未対応の場合に2025年以降年間最大12兆円の経済損失の可能性が指摘されました(経済産業省レポート)。この予測は数年前のものですが、マーケティング部門においてもDX対応の必要性は依然として高い状況です。
この記事で分かること
- マーケティングBPRの基本概念と従来のBPRとの違い
- 「レポートで終わるBPR」を避けるための現状診断ポイント
- MA/SFAを軸としたマーケティングBPRの実践プロセス
- 内製と外部支援の使い分け判断基準
マーケティングBPRの基本概念と従来のBPRとの違い
マーケティングBPRは、MA/SFA運用を含むマーケティング部門の業務プロセスを対象とし、データを活用した業務再設計を行う手法です。
1990年代のBPRは「リストラ」のイメージが強く残っていますが、現在のBPRは異なるアプローチを取っています。当時は大規模な組織再編を伴うケースが多く、失敗事例も多かったとされています。しかし、現在は段階的な移行とデータ活用を軸とした手法が主流となっています。
2025年の調査では、企業全体の約6割が生成AIを導入済みとなっています(2025年生成AI利用実態調査)。サービス業では人員削減意向が83.7%(「とてもある」37.8%+「ややある」45.9%)に達しており、AI活用を前提とした業務プロセス再設計の必要性が高まっています。
BPO(Business Process Outsourcing) とは、業務プロセスを外部に委託するサービスです。マーケティングBPOも含まれ、BPRと組み合わせた外部設計・運用を活用する企業も増えています。
従来のBPRとデータドリブンBPRの違い
データドリブンBPRとは、従来のプロセスドリブン型BPRから進化し、データ分析を基軸に業務プロセスを再設計する手法です。
従来のプロセスドリブン型BPRは、業務フローの可視化と効率化に焦点を当てていました。一方、データドリブンBPRでは、MA/SFAに蓄積されたデータを分析し、どの業務がボトルネックになっているかを数値で把握した上で再設計を行います。
マーケティング部門では、リード獲得から商談化までのファネルデータ、メール開封率やクリック率などの行動データ、売上への貢献度など、多様なデータが蓄積されています。これらのデータを活用することで、属人的な判断ではなく、根拠に基づいた業務プロセスの再設計が可能になります。
「レポートで終わるBPR」を避けるために
BPRを成功させるには、戦略立案だけでなく、実際の業務フロー変更とツール設定まで完遂することが重要です。
よくある失敗パターンとして、BPRコンサルに戦略立案を依頼し、綺麗なレポートは納品されるが、実際の業務フロー変更やツール設定は自社対応となり、結局何も変わらないまま終わるケースがあります。 これは避けるべきパターンです。
日本能率協会の調査によると、対象企業の約7割がBPRに取り組んでおり、業界上位企業は目標達成率が高い傾向にあります(2021年調査)。この結果は、BPRに取り組む企業は多いものの、成果を出せている企業とそうでない企業に差があることを示唆しています。
戦略だけで終わらせず、RPA・AI・MAツールなどの導入設定まで含めた実装ベースのアプローチが成果につながります。
BPR着手前に確認すべき現状診断ポイント
BPRを開始する前に、現状の業務フローを可視化し、ボトルネックを特定することが第一歩です。以下のチェックリストを活用して、自社の現状を診断してください。
【チェックリスト】マーケティングBPR着手前の現状診断チェックリスト
- マーケティング部門の全業務フローが文書化されている
- 各業務の担当者と役割分担が明確になっている
- 業務の属人化が起きている箇所を把握している
- MA/SFAの活用状況(機能の利用率)を把握している
- リード獲得から商談化までのファネルデータが可視化されている
- 手作業で行っている定型業務を洗い出している
- 部門間の情報連携で発生しているボトルネックを特定している
- 現在の業務フローにおけるリードタイムを計測している
- データ入力・転記作業にかかっている工数を把握している
- 過去に導入したツールで活用されていないものを把握している
- 担当者異動時の引き継ぎにかかる期間を把握している
- 定例レポート作成にかかっている工数を把握している
- 経営層・営業部門への報告頻度と内容が定義されている
- BPR後の理想的な業務フローのイメージがある
- BPRの推進責任者がアサインされている
マーケティングBPRの実践プロセス
マーケティングBPRは、業務フローの可視化から新プロセスの定着まで、段階的に進めることが成功の鍵です。
参考事例として、東京電力パワーグリッドの購買管理BPRでは、購買1件あたりの作業時間を1/3に削減したと報告されています(ただし、これはマーケティング部門ではなく購買管理の事例であり、マーケティング部門への直接適用は条件が異なる点に注意が必要です)。
BPRは急激な変更ではなく、段階的に実施することが成功につながります。業務フローの可視化から新プロセスの定着まで、一定期間をかけて移行することが推奨されています。
【フロー図】マーケティングBPRの基本プロセスフロー
flowchart TD
A[現状分析] --> B[業務フロー可視化]
B --> C[ボトルネック特定]
C --> D[新プロセス設計]
D --> E[MA/SFA設定変更]
E --> F[パイロット運用]
F --> G{効果検証}
G -->|改善必要| H[プロセス調整]
H --> F
G -->|問題なし| I[本格展開]
I --> J[定着化・継続改善]
業務フロー可視化からボトルネック特定まで
BPRの初期フェーズでは、現状の業務フローを可視化し、どこに問題があるかを特定します。
業務フローチャートを作成する際は、以下の観点で整理することが有効です。
- インプット: 各業務に必要な情報・データは何か
- プロセス: どのような作業・判断が行われているか
- アウトプット: 各業務の成果物は何か
- 担当者: 誰がその業務を担当しているか
- 所要時間: どのくらいの時間がかかっているか
ボトルネックの特定では、「手作業が多い箇所」「担当者が限定されている箇所」「待ち時間が発生している箇所」を重点的に分析します。
MA/SFAを軸とした新業務フローの設計
新プロセス設計では、MA/SFAの機能を最大限活用し、手作業を自動化する方向で設計します。
設計時のポイントは以下の通りです。
- 自動化可能な業務の洗い出し: リードスコアリング、メール配信、レポート生成など
- データ連携の設計: MA/SFA間、他システムとのデータ連携方法
- 権限設計: 誰がどの機能を使用するかの明確化
- 運用ルールの策定: 入力ルール、命名規則、対応フローの標準化
重要なのは、戦略レポートの作成で終わらせず、MA/SFAの設定変更まで含めた実装を行うことです。設定変更を自社で行うことが難しい場合は、実装まで支援できる外部パートナーの活用も選択肢となります。
内製と外部支援の使い分け
BPRを内製で進めるか外部支援を活用するかは、社内のリソースと専門性によって判断します。
前述の通り、BPO市場は2023年度で約4兆8849億円と拡大しており、マーケティング領域でも外部支援を活用する企業が増えています(矢野経済研究所調査)。
内製で進める場合は、BPRの推進責任者をアサインし、部門横断でプロジェクトを進める体制が必要です。MA/SFAの設定変更には専門知識が求められるため、社内にスキルを持つ人材がいるかどうかが判断ポイントとなります。
外部支援を活用する場合は、戦略立案だけでなく実装まで支援できるパートナーを選ぶことが重要です。「綺麗なレポートは納品されるが、実際の業務フロー変更は自社対応」というパターンを避けるため、支援範囲を事前に確認することが推奨されます。特定のコンサル会社を推奨するものではありませんが、MA/SFA設定から運用定着まで伴走できる支援体制かどうかが選定基準の一つとなります。
まとめ:実装まで完遂するマーケティングBPR
本記事では、大企業のマーケティング部門におけるBPRの進め方を、実装視点で解説しました。
本記事のポイント:
- BPO市場は2023年度で約4兆8849億円と拡大し、マーケティング領域でも外部活用が増加
- 対象企業の約7割がBPRに取り組んでいるが、成果を出せている企業とそうでない企業に差がある
- 「戦略レポートで終わるBPR」を避け、MA/SFA設定変更まで含む実装ベースのアプローチが重要
- 段階的な移行とデータドリブンな業務再設計が成功の鍵
経済産業省の「2025年の崖」レポート(2018年予測)では、DX未対応の場合に年間最大12兆円の経済損失の可能性が指摘されました。この予測から時間は経過していますが、マーケティング部門におけるDX対応・業務効率化の必要性は依然として高い状況です。
本記事で紹介したマーケティングBPR着手前の現状診断チェックリストと基本プロセスフローを活用して、自社のBPR計画を検討してみてください。
大企業のマーケティングBPRは「戦略レポート」ではなく「MA/SFAを軸とした業務フローの再設計と実装」まで行うことで、属人化を解消し継続的な成果につながります。
